第12話『明るさの義務』村瀬 涼
スポットライトの裏にある不安。
彼は、痛みを隠して笑ってる。
「ナイス! 村瀬うまっ!」「さすがー!」
声が飛ぶ。
村瀬涼は笑って手を振った。
ボールを蹴った足に少しだけ鈍い痛みが走る。
でも、顔には出さない。
(このくらい、大丈夫だって)
レギュラー。エース。期待の星。
その“役”を引き受けた日から、もう誰にも「痛い」と言っていない。
「おっ、今日は誰推し〜? 三崎さん? 羽山くん?」
冗談混じりに女子をからかい、教室を盛り上げる。
あの空気が好きだった。
でも、たまに思う。
みんなが笑ってくれるのは、“元気な村瀬”だからだ。
じゃあ、“元気じゃなくなった自分”には――
誰も、気づいてくれないのかもしれない。
「足、大丈夫?」
三崎いろはが、ふいに声をかけてきた。
「え? 全然平気! ってか見てた? 俺の華麗なシュート」
軽く返したけど、
そのとき彼女が一瞬だけ、真剣な目で見ていたのを、忘れられなかった。
帰宅後、風呂場で足首を見た。
軽く腫れていた。少し色も変わっている。
(……やっぱやばいかも)
でも、誰にも言えない。
言ったら最後、ベンチに下げられる。
練習から外される。試合に出られない。
「大丈夫です」
そう言っておけば、誰も疑わない。
だって、自分は“そういうキャラ”だから。
人より走れるわけじゃない。
特別うまいわけでもない。
でも、“明るくて、全力で、頼れる奴”って思われるのが嬉しくて、
いつの間にか、それが「義務」になっていた。
笑わないと、終わってしまいそうで。
元気じゃないと、自分の価値がなくなる気がして。
翌日の放課後。
図書室の前で、またいろはに会った。
「……ほんとに、無理しないでね。村瀬くん、たまに“平気なふり”しすぎだから」
その言葉が、冗談でも、優しさでもなく――
“ちゃんと見てた目”で言われた気がした。
「……俺、そんな風に見える?」
「うん。……ちょっとだけね」
笑って返した彼女に、笑い返した。
けど、その笑いは、ほんの少しだけ震えていた。
笑うことが、こんなにしんどいなんて――
俺、気づかないふりしてたんだ。
光の裏にある影。
その姿も、見逃さないでください。




