弁護士と教師
久しぶりの更新です。年を跨いでしまいましたが…新作を引っ提げての本編更新です。
Episode0共々、楽しんでもらえたら嬉しいです。
「だから、どうして、うちのアリスが拘束されなくちゃいけないんですか!」
サラ・マイヤーは机を叩いた。乾いた破裂音が保安局の接見室に響く。
アメリカ合衆国連邦ステアーズ委員会専属弁護士。ステアーズSランク保持者。
その肩書きにふさわしい威圧感を纏ったまま、彼女は真正面に座る男を睨み据えていた。
机の向こうには「真島」と刻まれたネームプレート。保安課長――この島の治安を預かる責任者の一人だ。
「そう言われましてもね……」
真島は頭を掻いた。面倒事を押し付けられた時の典型的な仕草だった。
「無抵抗の女性を襲撃した容疑者ですから。あなたもステアーズ法はご存じでしょう? タワーとアリーナ以外でのギフト使用は、原則禁止です」
「はぁ?」
サラは鼻で笑った。
「この島のどこに、SSSランカーを襲撃するバカがいるのよ? 相手はあの赤星茜よ?」
世界で最も有名なランカーの一人。
そして間違いなく、最強格。
命を投げ捨てる覚悟でもなければ、襲撃など考えもしない相手だ。
「現場に急行したノーマン氏と赤星氏が確保したのは――アリス・リデルさん、ただ一人です」
真島はわずかに口角を上げた。
「いわゆる、現行犯というやつですね」
サラの視線が鋭くなる。
「あなたの言う“バカ”が、アリス・リデルさんだった――そういうことになります」
「しかし、アリスは証言しています!」
サラは身を乗り出した。
「彼女以外に襲撃者がいたと。彼女は赤星茜さんを助けるために控え室へ飛び込んだだけです!」
だが、その言葉は自分でも弱いと分かっていた。
アリスは襲撃者の顔を説明できなかった。
名前も、特徴も、確信を伴う情報が何一つない。
「進化学園の制服を着ていた――とは証言していますがね」
真島は淡々と続ける。
「名前も国籍も不明。学年もクラスも分からない。
それでは、“そんな人物がいた”という証言自体、証拠能力に乏しいと言わざるを得ません」
事実だった。
監視カメラの映像には、赤星茜の後に控え室へ入った人物がはっきりと映っている。
――アリス・リデル、ただ一人。
しかも、施錠された扉を破壊して侵入していた。
「あなたも分かっているはずです」
真島は指を組んだ。
「SSSランカーを襲う進化学園の生徒など、常識的に考えて存在しない」
わずかな間。
そして、決定的な一言。
「ですが――アリス・リデルさんには、動機がある」
「……」
サラは言葉を失った。
「彼女と懇意にしていたクラスメイト三名が、オーバー40の塔登メンバーに選出された。
嫉妬、劣等感、あるいは自己顕示欲――」
真島の声は冷静だった。
「我々保安部は、その線を有力と見ています」
サラは答えなかった。
代わりに、壁のモニターへ視線を向ける。
そこに映っているのは――アリスだった。
勾留室。
机に固定された手錠。
俯いたまま、拘束された自分の手首を見つめ続けている少女。
普段は誰よりも真っ直ぐ前を見る子が、今は顔を上げられないでいる。
(……必ず、助ける)
そう誓った瞬間だった。
コンコン――
接見室のドアがノックされた。
返事を待たず、ドアが開く。
入ってきたのは、白髪混じりの中年男性だった。アジア系の顔立ち。スポーツウェア姿。
男は室内を見渡し、真島で視線を止める。
「あなたが真島保安官ですか?」
遠慮のない口調だった。
「ウチの生徒――アリス・リデルが勾留されてると聞いた。今すぐ釈放してほしい。あいつは無実です」
真島の眉がわずかに動く。
「……失礼ですが、あなたは?」
男は「あぁ」と短く声を漏らし、頭を掻いた。
「申し遅れました。進化学園講師、李小龍です」
担任教師――
サラはすぐに理解した。
「生徒を引き取りに来ました」
サラは立ち上がり、名刺を差し出す。
「ステアーズ委員会専属弁護士、サラ・マイヤーです」
「ああ、どうも」
シャオロンは少し照れたように笑った。
「すいません、名刺とか持ち歩かない性分で」
だが、次の瞬間――
真島が口を開く。
「無実と断言されましたが。証拠は?」
空気が張り詰めた。
シャオロンは懐からモバイル端末を取り出す。
「オリジナルは、すでに捜査部へ提出済みです。確認が終われば釈放されるでしょう」
端末を起動する。
「これはコピーですが――十分です」
画面が再生される。
進化学園の実技授業の映像。
一人の男子生徒がスタートラインに立っている。
だが――
「……顔が見えない?」
サラは思わず呟いた。
男子生徒の顔だけが、黒く滲んでいる。
ピントの問題ではない。意図的に“認識できない”。
「ええ」
シャオロンの声は低かった。
「全校生徒の顔と名前、能力を記憶している私でも――彼が誰なのか分からない」
背筋が冷える。
「記憶から、抜け落ちているんです」
「……それって」
サラの脳裏に、アリスの証言が蘇る。
――顔が思い出せない。
「アリスの証言は正しかった」
シャオロンは断言した。
「この生徒は実在します」
映像の中で、男子生徒が動いた。
肉体が変形し、加速する。
「キメラ系……?」
真島が呟く。
「次の映像を」
切り替わる。
アリーナ外縁の監視カメラ。
同じ制服の男子生徒が周囲を警戒している。
そして――
身体が溶けた。
黒いジェル状の物質へと変化し、排水溝の隙間へ流れ込んでいく。
室内の誰もが言葉を失った。
「排水路から控え室へ侵入したと考えられます」
シャオロンの目は充血していた。
眠っていないのは明らかだった。
「調査の結果――一人だけ、“存在していたはずなのに記憶されていない生徒”を特定しました」
画面に表示される学生データ。
名前。
「チューニ・G・ラスプーチン」
国籍:ロシア。
ギフト:
操影術
「彼の狙いは――」
シャオロンは静かに言った。
「赤星茜のギフトの強奪です」
「ギフトの……強奪?」
サラの声が震える。
「そんなことが――」
真島も、言葉を失っていた。
「可能なのですか……?」
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