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襲撃者

 

 正直言って、すごかった。


 数ヶ月前、進化学園の入試試験で模擬戦を戦った頃とはまるで別人のような成長ぶりだった。

「ホント…3人とも、やってくれたわね…」

 怒りにも似た嫉妬心が沸々と湧いてくる。

 まさか後衛系ギフトというだけで、この私、アリス・リデルが第二席を追われるなんてね。


「ふざけんなっ…ての」


 行き場のない感情を地面に転がる石にぶつける。

 蹴った石が前を歩く大会スタッフの後頭部に直撃してしまった。

「いっ…てぇぇぇぇ! 」と声を上げたので、慌てて物陰に隠れてしまった。

 それにしても…。


 このままでは、絶対に終わらせたりしないんだから。

 嫉妬を闘志に必死に変換する。


 ざらついた感情が、試合を終えた3人に労いの言葉すらかけることを拒んだ。

「みっともないったらないわ」

 頭では理解しているのだ。

 あの3人が学生という立場であるにも関わらず、オーバー40に補欠とはいえ、正隊員として選ばれた理由を…。

「んなもん、私にだって嫌でもわかるわよ」

 それは、倒されても立ち上がり、勝てなくても戦い続けられる圧倒的なタフさ…。

 

 今の私には持ち合わせていないモノね。

 大げさに両手を広げて青空を見上げた。


 過去のデータでは、30階層踏破まで、Sランクパーティ6名編成でどんなに急いでも最低三日間の時間が必要になる。

 さらに10階層上となると30人のアイアランスでも三日から四日は必要となる。

 更に、上層の探索となると一週間コースの長旅になるのは必須で、ここで必要とされるのが持久力なわけよ。


「私に1番足りてないヤツね…っと…」

 考え事しながら歩いていたら、選手控え室の方に来ちゃったみたい。

「えっと…出口は?」

 改めてあたりを見渡す。

 既に会場の観客たちが退場を進めている中、出場選手たちは既に退場済みなのだろう、静かなものだ。

 

 静まり返った廊下を見つめていた矢先、選手控え室から女性の悲鳴が静寂を引き裂いた。

「いやぁぁぁぁぁっ!! 」

 

「はっ?…」

 考える前に、身体が声の出どころに向かって走り出していた。  


 おそらく悲鳴が上がったと思われる控室の前にたどり着くと、ドアに手を掛ける。


 ガチャガチャ


 内側から鍵がかかってる。

 室内には確かに複数の人の気配がした。


 「おい! バカッ! やめろ!」

 ガタンガタンと揉み合うような音と抵抗する女性の声。

 明らかに女性が何者かに襲われている様子。


 

 私は躊躇わず、更衣室のドアロックを小規模の爆破で破砕させて、ドアを蹴破った。

 更衣室に飛び込み周囲を見渡す。

 

 私の視線から逃れる様に黒い物体が控え室の奥に逃げる。

 その黒い物体を追う。


「っ!? 」


 そこには半裸の赤星茜がいて、漆黒のスライム状の物体に身体が半分以上飲み込まれている状態だった。

「た…すけて…」

 目が合ったS Sランカーの赤星茜が、一学生の私に助けを求めてる。


「はっ?…赤星茜さん!? どうゆうこと?」


 あの赤星茜が襲撃されている!

 状況は理解した。


 彼女の能力も回復能力もさっきの試合を見て十分理解している。

 だから…相手が何かわからないけど…


「取り敢えず全力で燃やしますわっ!! 」

 

 私如きの炎で彼女を傷つけることなんて出来ないのは重々承知。

 圧縮した可燃性ガスと酸素に引火。

 爆炎が轟音と四方に弾ける。

 控室全体に爆破の衝撃が広がり、黒い物体は四散しながら炎に包まれた。

 

 業火でジュワジュワと表皮が泡立ち、髪の毛が焦げたような臭いが立ち込める。


 火災報知器のベルがけたたましく鳴り響き、天井のスプリンクラーから消化水が散布される。

 水蒸気を上げながら冷めて水飴の様に固まった黒褐色のゲル状の物体、そこから伸びた手を掴み、飲み込まれた赤星茜の救出を試みる。

 

「ぬぐぅぅぅ!! これは一体何なのよっ!? 」

 誰かがエボタワーで黒いスライムを捕獲して、ここで放した…とか?

 誰かのギフトでテイム(召喚)したモンスター? それとも変身能力?

 何物かわからない物体に飲まれ、意識を失った成人女性を引っ張るのに悪戦苦闘していると、熱で黒いゲル状に固まった物体はもったりと再び流動を始め始めた。

 そして、次の瞬間…

「やれやれ、誰かと思ったら…君ですか? アリス・リデルさん」 

 黒い塊から進化学園の制服を着た男子の上半身が現れた。

「って、誰!? 」


 見覚えのない学生に名前を呼ばれ、つい突っ込んでしまった。

「…」

 男は一瞬固まった後、作り笑いを浮かべバツが悪そうに言う。

「はっ! 僕のことをご存じない…まぁ、いいでしょう…そうですね私は余り目立つタイプではなにですから…」

 誤魔化すように垂れた前髪を手で整える。

「ですが、私の食事の邪魔をしないでいただきたい…」


「はっ? 食事ってどういう事なのよ? 」


 私の問いには答える事なく、赤星茜を飲み込もうと黒い塊が再び蠢き始める。

 

「邪魔するなって…はい、そーですか? って引くわけないでしょう!」

 無視されてムカっとしてしまった私は、両手を突き出し至近距離で可燃性ガスを精製…。


 圧縮から着火。

 

 一瞬の閃光の後、轟音と共に爆発。


 至近距離で放たれた手榴弾と同等の火力で、黒い塊から飛び出た男の上半身を爆散させた。

 鈍い破裂音と共に、男の肉片と鮮血が壁にへばり付く。


「これで、終わりってわけじゃないわよね…? 」


 動かなくなった黒い塊を見つめながら、この程度で終わる様な相手では無いと本能が告げる。

 「気を抜くな…」と最大限に警戒する。

 ニヤ君と天満君、そして安綱の3人を相手にあれだけの戦いを見せた赤星帝の娘、茜を完全に封じ込めに成功している強者が相手なのだ。


 火災報知器とこの爆音なら、おそらく会場警備の警備員ではなく、高ランクのステアーズが必ず駆けつけるだろう。


 私はそれまでの時間稼ぎで構わない。


「ふふふ、一撃でも貰えばアウトなのに、大した勇気ですね? それとも安っぽい正義感がなせる技ですか? アリスさん」


 爆散した上半身を黒々した蠢くタールが高速で修復を始めている。

 肉体を再構築しながら、完全に再生し終える前に男は不敵に微笑む。


「うげ…気持ち悪る! 」

 私ったら、筋繊維や骨丸出しのあまりのグロテスクさに「うげっ」なんてはしたない言葉を吐露してしまいました。

 

 しかし、この男は赤星茜の拉致、または殺害が目的 だとしたら、こうして私と対峙してもなお、逃げようともしないのは《確実に逃げれる策を持っている》という自信の表れと考えられるわよね。

 それに、さっき言っていた「食事」って言葉…、本当に彼女を食べる? のが目的だとしたら、食事が終わるまでここから動けないって事なのかしら…。

 かと言って、救出に攻撃にこれ以上火力を上げても、2人の不死性を鑑みたらあまり効果がないのは明白で、それに建物の損壊の方が大いに問題になってくる。

 爆撃のような攻撃は、この施設全体にダメージを与えてしまう。


 この手の不死者を相手にするなら、肉片を一片も残さず燃やし尽くすしか方法はない。

 かと言って、2人とも殺してしまっては元も子もない。

 

 

 スプリンクラーから放出される消火水で髪と制服のシャツは肌に張り付き不快極まりない。

「あぁ、イライラする! 」

 自分の不甲斐なさばかりが浮き彫りになる。

 安綱なら剣術で、天満君ならあの牙や爪で、そしてニヤ君なら瞳術で簡単になんとかしちゃうんでしょうね。


 眼の前で助けを求めている人を助けられない。

 そんな時、タイミング良く助けの声が響いた。

 

「おい! お前たち何やってやがる! 」


 爆発で歪んだドアを力づくでこじ開けて、ノーマンが入ってくる。

 その手には巨大な戦斧が握られていた。


「って、おい! こりゃどういう状況だ!? 」


 ノーマンは爆発と炎で変わり果てた控え室を見渡し、その中で私と黒いスライムにハマった男と交互に見る。

 「えっと…」

 私が説明しようと口を開いた瞬間。

 ノーマンの後に入ってきた少年の言葉で、全てが停止する。


「全員! 動くな! 」


  



この作品を見つけてくれてありがとうございます。

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