↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/89

ニヤと銀子

寒い日々が続きます。

先日、加湿器の良いの購入しました。

潤ってはじめて、部屋がすごく乾燥していたのだと気付かされました。

感染したくないなぁ。


 暖かな、日向のような匂いに包まれながら目を覚ました。

「…ん?」

 懐かしく暖かくて柔らかい、夢心地の感触に頭部が覆われてる。

「おやおや、やっと目を覚ましたかい」

 眼前にふたつの丸いたわわな乳房の向こうに、赤髪のキツネ耳と見慣れた顔。

「おわぁ!キツネのねーちゃん!?」

 反射的に起き上がる。

 辺りを見渡す。


 どうやら、ゲート前の店に設置してあるベンチに銀子の膝枕プラス、九尾のお布団で介抱されていたようだ。 

 あれだけ集まっていた野次馬や、例の絡んで来たパーティの連中の姿はない。

「えっ!あっ!剣は!?」

 きっと盗まれてしまっただろう、六界のソード・ケースを半分諦めた気持ちで見渡す。

「ふん、やっぱり、コレは君の物だったかい?」

 銀子はそう言うと、背後にあった六界のケースをニヤに見えるように尻尾で持ち上げる。

「おおー良かった!てっきり盗られたと思ったよ!」

 ケースに飛びつこうとしたら、ひょいと銀子はケースを持ったままニヤから距離を取る。


「なっ何するんだよ!」

「減点5!まずはお礼だろ?助けてもらった分、介抱してもらった分、んで、コレを取り返してもらった分、女に飛びつく前にすることあるんじゃないかね!」

 腰に両手を当てて銀子はご立腹の様子だ。


 あっ…。そうか全部キツネのねーちゃんが…。


「この度は危ないところ、色々助けていただき誠にありがとうございます…」

 素直に三つ指ついて御礼をした。

 銀子はその様子を見て、満足そうに頷く。

「へぇ〜君、素直じゃないかい、よし!そういう謙虚な態度ってのは気持ちがいいね、特別に減点は無しにしといてやろう」

 満面の笑みで銀子は、ほれっとケースを軽々と投げた。

「おっわっと!」

 慌ててソード・ケースを抱える様に受け取る。

「でも、ハイ・ポーションは一個貸しだかんな!君!結構酷い傷だったんだぞ!」

「ええぇー!マジっすか?」

 ハイ・ポーション…なるほど道理で、あれだけボロボロにされたのに傷一つ残って無いはずだ。

「その剣にお前のその眼帯!教えてくれるならポーションの貸しはチャラでもいいぞ?…内容次第じゃ私が君の随伴者《ガイド》になってあげようじゃないか、入りたいんだろ中に?」

 ほらゲートに入りたいんだろ?しゃっべっちまえよと妖艶な笑みを見せてくる。


 うーん、コレはまたとないチャンスなのでは?

 少し考えて、このまま彼女に全てを委ねることにした。


「えっと……ミカドさ、ほらエンペラーとか言われてるヤツ…知ってる?」

「ああ、赤星帝な。六界のトップだろ?そのミカドがどうしたんだい?」

「あのさ、アレ…俺のオヤジなんだ…よね」

「はっ?...えっ!親父ぃぃぃぃ⁈」

 口をパクパクさせたまま、しばらく表情がフリーズ。

「マジか…… ミカドって結婚してたんか?……」

 言葉尻を飲み込み、話の腰を折ってしまわないように慌てて平静を繕う。

「そう、でっ、それとコレはまぁ入学祝い的なヤツでさ…」

 ケースを開いて双剣と、眼帯の下の、充血して目の周りが爛れている魔眼を見せる。

「まぁ入学祝いって言っても、俺は妾の子なんだけどね…」

 銀子は目をまん丸に見開き、ワナワナと驚きを隠せない様子だ。


「ちょっと!待て待て待て!ヤバい情報盛り込みすぎだろ!」

 キツネのねーちゃんでも、こんなに混乱したりするんだ?なんか可愛いなぁ。

「君がミカドの息子で、妾の子って?はぁ?入学祝いが魔眼と双剣ってどういうことっ?」

「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ、ちゃんと説明しますから…」


 こうして、入院前の一連の話を銀子に打ち明けたのだった…。



 …。



「ふん、なるほどね…」

 ゆっくりと瞼を閉じて、銀子は呟く。

「皇帝様の息子ってのも驚いたが、まさか母親があの勝利の女神《ニーケ》だったってのが一番の驚きだよ!ミカドの寝込み襲うなんて普通の女じゃ到底無理だ。と言うかそんな事考えもしないよ。で、君が進化学園の首席ってのも当たり前って感じだな」

 銀子は一気に捲し立てるように言った後、ふん、と一息ついて、同情する様な瞳で見つめる。


「で、その瞳もミカドからの入学祝いなんだね?」

 眼帯で覆われた左目を指差す。

「そうなのかな?…いや、たぶんそうだと思う。結局普段の力も出せなくなって、スッゲェ迷惑してるんだけどさ」

「最近、トップチームを抱えてる企業が躍起になってダブルギフトってのの実験を繰り返してるって耳にしたことはある。君のソレも六界の人体実験になるんだろうな?」

 片目を閉じて、眼帯の方の瞳を指す。

「…にしても、親子で神眼魔眼の交換なんて、下手すれば本来持ってる力も失うかもしれないってのに、何の確信があってこんな実験まがいな事を自身と息子に施すかね?…まったく何考えてんだか…私ゃ理解に苦しむよ」


 まぁ、あんまり興味無いけどさ。と呟きながら銀子はゲートカウンターに向かう。

「ボット!進化学園一年猫柳二夜の随伴者として私をエントリーして頂戴」

 カウンターのIDセンサーに手を置いて、ガイドとしての登録を済ます。

「ほら、君!上に行くんだろ?チンタラしてると減点だぞ!」

「うそ!いいの?」

 ソードケースを抱えて立ち上がる。


 その時、コンビニ前の商品CMやキャンペーンがエンドレスで流れてるモニターから、聴き慣れた声が聞こえてきた。

『皆さーん、こんばんは!フォックスのリーダー玉藻銀子です!今回私たちフォックスの3枚目のアルバム《ナインテイル3》が発売することになりましたーーーー今回はロー◯ンとスペシャルコラボで私たちのグッズがいっぱい販売されます〜是非是非ご購入宜しくお願いしますー!』

 そこには銀子を先頭に、キツネの面を側頭部につけたキツネ耳の5人組アイドルのキャンペーンPV映像が流れる。銀子の背後には刹那やいづなの姿も見える。

「おっえっ!えっ?えぇぇっ!」

 思わず映像の銀子と目の前の銀子を何度も見比べる。


「やめなさい!恥ずかしいだろ」

「グッズ販売してるんすか?俺ちょっと買って…っ痛てててててててっ!」

 店に引き返そうとしたところを、耳を引っ張られて店の前から無理やり引き剥がされる。

「だって!俺の知ってるキツネのねーちゃんとキャラが全然違うじゃん!もっと観たいよー!グッズ欲しい!」

「あぁ!鬱陶しい!減点2だ!」

 時間も夜中から早朝へと変わり、フロア1から上がってきた上位パーティが驚いた表情でこっちのやり取りを見つめる。

 騒ぎを聞きつけたフロア2に入っているテナントからも、何事だと人々が顔を出す。

 その視線に耐えきれなくなった銀子は、耳を摘んでいた指を離す。

「…あっそ、別に君だけ観てれば良いさ、私は先に行くよ、暇じゃ無いんでね。バイバイキーン!」

 頬を真っ赤にして自分達が映るモニターを一瞬見つめた後、はしゃぐ眼帯小僧を置いて、恥ずかしそうに俯いて早歩きで真っ直ぐゲートに向かう。


 ウソ?マジで照れてんじゃん。

 バイバイキーンってナニ?

「冗談ですって、キツネのねーちゃん待ってよ!」

 先を行く銀子の後ろ姿を追いかけてゲートを潜る。


 ピンポン


 通行の許可を示す電子音とグリーンのライトが点滅するのを横目に走り過ぎる。

 随伴者に銀子の名前とランク表示がされている。

 なんだかんだ言っても、その辺はキッチリやってくれる銀子の人柄が見える。

「待って下さいよー!ちょっと!歩くの早過ぎません?」

「うっさい!もう!ついて来んな!眼帯小僧!」

「ひっでぇなぁ、僕も好きで眼帯小僧やってないっすよー」

 フロア3へ続く長い階段を、銀子の後ろ姿を追いかけて登る。

 前回は天満たちと一緒に登ったこの階段。

「くー、いよいよ来ちゃったぜ!二度目のエボ!」

 2度目のエボ・タワーの入場に身震いがする。

 ギフトもろくに使えない、こんな無防備の自分に戸惑いながらも、何かを期待している。

 無策ながら、それでも一歩前進した様な気分だ。


 病院を無断で抜け出し、誰にも行き先告げずに来た手前、意地でも何らかの成果を出さないと、皆に合わす顔が無い。

 まぁ、絶対にシャオロンには怒られるのは決定なんだろうけど…。


「いいかい?今から私らが向かうのは未公開エリアだから絶対に口外しないようにね!…ってちょっと聞いてる?」


 学校休んでいる間、きっとみんな力を付けて、技に磨きがかかってるはずだから…負けてられないよ。


「おーい眼帯小僧!どうした目が血走ってるぞ!」


 あのチビ小僧の姿になったミカドだってやれたことなんだ!

 絶対に帰るまでに、この両眼使いこなせるようになる!

 

 そう心の中で意気込んだ瞬間。

 バンっと、銀子に背中を叩かれた。

「へっ?」

 肺の空気と一緒に、間抜けな声が漏れた。

「ちょっと君、目が怖い!考え事なら他所でやんなよね、逸るのは、まぁわかるけど早死するよ」

「……。」

 心を読んだのか?っと、一瞬思ってしまった。

「えっと…、そんなに僕…逸ってましたか?」

 まるで心の内を見透かされたタイミングだったから、正直驚いた。

「誰が見ても…ね。今の君は焦ってるし、凄く気負ってる。生き急いだところで良い事なんてないよ…そうだね獣界門で渡辺安綱と殺り合った時の、この私みたいかな」

 シティに戻ってから、めちゃくちゃシャオロンに怒られたわ、と恥ずかしそうに頭をわしゃわしゃと掻く。

「2回死んでましたもんね?」

「1回よ!最初は致命傷を負っただけよ!」

 可愛らしくムキになって言い返してくる彼女の表情は確かに、あの時の交戦的で野生的なイメージとはだいぶかけ離れて見える。


 今日の銀子はとても穏やかで冷静だ。


「ホラ!まだ目が血走ってる!ギラギラに気負ってるって感じ。いわゆる死亡フラグみたいな?エボ(ここ)は無理しない、イキがらない、冒険しないってのが鉄則だからね、死にたくなければ覚えときなさいな」

 鼻頭をパチンと指で弾いて、ポニーテールをなびかせながら狭い通路を進んでいく。

「敵はガーディアンだけじゃないんだよ!少年。さっき身をもって経験したろ」

「同じステアーズに襲われるんですか?」

「そうさ、ここには法なんて無いからね。バレなきゃ何してもいいのさ」

「無法地帯じゃないっすか?」

「あははは、サバンナの動物たちに法律が無いのと同じだよ。自分の身は自分で守る!弱いものは群れで身を守るってのが鉄則!まっ、そんなサバンナでも私は頂点の方に君臨いてる狐だけどね」

 王者の風格で堂々と歩く銀子の後ろ姿を眺めながら、フロア3の通路を進んでいく。

 このフロアからガーディアンと呼ばれる武装した敵が現れるのだが、一向に敵の気配すら無い。

 銀子はまるで無警戒に、街中を散歩するような軽快さで進んでいく。


「昔さ、テレビのバカな企画でさ、アイドルにエボを登らせてみようってのがあって、5人組のアイドルが遊び半分でエボに登ったわけ」

「そのアイドルって…まさか?」

「そっ!うちらフォックスがメジャーデビューしたての頃の話な、当時は《ふぉっくす・ている》ってグループだったんだけど、アイドルなんて山ほど居るだろ?だから、差別化みたいな軽いノリでさ、本物の猫耳のアイドルって当時は居なかったからなぁ」

 銀子が目を細め、遠くを見ながら呟く。

「えっと…ステアーズになる前はアイドルだったの?」

「今もアイドルな!だからアイドルの方が素の性格で、ギフト《ナイン・テイル》の影響を受けやすい戦闘時の交戦的な性格はギフトに引っ張られた結果なの!エボでの私しか知らな奴は誰も信じないけどねぇ」

 確かに、セレモニーや入学の儀式の時と、かなり印象が柔らかく感じる。

「格闘技はおろか、ケンカすらした事ないアイドルがおっかなびっくり護衛付きでフロア10まで登って、獣界門で貰ったギフトが当時のグループ名そのままの《ナイン・テイル》だったって事」

「みんな狐系のギフトだったんですね」

「そっ、ウチラが誰一人欠けず今までエボで生き残れてこれた理由が、私らはアイドルが目的で、エボで野心も功名心も無かったからってのが大きいと思う。先人に言われたことを言われた通り吸収して経験してきたから《今》があるの」


「無理しない、イキがらない、冒険しないでしたっけ?」

「そうね、まぁ今日は少し無理させるし、冒険させたげるから覚悟しなさいな」

「って、どっちなんですか!?」

 

 そして、例のスナイパーが待ち構える1000メートルの通路に差し掛かる手前で、銀子は右に曲がる。

「あれ?スナイパーのルートじゃないんですか?」

 そう言えば、彼女が何が目的で単身エボに来たのか聞いていない事に気がつく。

「ん?あぁ、あっちのルートは護衛しやすいルートな、んで今日は少人数で上がってくる狭い通路のルートで登ってくから」

 確かに、かろうじて大人が3人並んで歩ける程の狭い通路をズンズンと進んでいく銀子。

「敵は目的のヤツ以外は出てこないから、そんなに緊張しなくていいよ」

 交差路や曲がり角が来る度に警戒する姿を見て、銀子は笑顔で諭す。

「このフロアって武装したボットが出てくるよね?誰か先行してるの?」

 足元にボットの残骸を見つける。攻撃されたばかりらしくブスブスと白煙を上げながら機能停止している。

「ちゃんと網は張ってあるから、問題ないって」

 そう言うと、手の平から野球の球程の火の玉を、手品の様に出して見せる。

「おおー、火の玉!」

「コレ、狐火ってんだけどさ、自動で索敵と攻撃するのよ。で、ソレを半径20メートルに二十四発全方位に展開してるから、雑魚が私らの前に現れる事は無いから心配ご無用ってことよ」

「おおー!サーチ&デストロイっすか?キツネのねーちゃんスッゲー!そんな便利なの欲しいなぁ」

「あら、君の瞳の方が便利で最強じゃない?あの皇帝の瞳に自前の神眼まで持ってるんだ…まぁ使えたらって前提だけどねぇ〜」

 そこまで言って、何かを思い出した様な表情でコッチを覗き込むんで、プイッと正面を向く。

「あと!キツネのねーちゃんはいい加減やめて頂戴な!私だってちゃんとした名前があるんだよ」

「えぇーだって!キツネのねーちゃんじゃん」

 口を尖らせて、銀子の背中に向かって呟く。

「だっても、ヘチマもねぇーんだよ!キツネのねーちゃんは他にもいるでしょう?」

 再び振り返り、耳を摘んで持ち上げる。

「痛だだだだだ!」

 耳を摘まれて持ち上げられるのって、地味に激しく痛いのだ。

「だ・か・ら、私のことは銀子さん!オッケー?私も君のことは今からニヤと呼ばせてもらうわ」


 こんなやり取りをしている間に、俺達は敵にまったく遭遇することなくフロア4に向かう階段にたどり着いた。


「本当に敵に会いませんでしたね」

「そうよ、言ったでしょ」

 階段を見上げる僕に銀子は微笑みながら、そう言ったのだった。

 


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマークお願いします。

広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、何卒よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。