双剣の価値
最近月イチペースだったのですが、
年内になんとかもう一話投稿できました。
急に寒くなって、冬本番ですが、暖かくして執筆活動していきたいと思います。
「あなたのライセンスでは入場できません」
スッゲェ流暢な日本語で、入場を拒否された。
目の前のカウンターの中には、エボの入場を管理している複数のガードボットが無機質な顔?でこっちを見つめてくる。
出来ればカタカナ表記の「アナタノ、ライセンスデハ——」みたいな感じで話しかけて欲しかった。
実に残念だ。
「あなたが提示したライセンスはDランクです。Aランク以上の随伴者の登録が必要です」
Aランク以上のガイドって、そんな人居ないし。
まぁいいじゃんってな感じで、無視無視って感じでゲートを強引に通ろうとしたら、けたたましいサイレンと真っ赤な警告灯が回転し始めたした。
「わかった!わかったって!」
慌てて踵を返してゲートから離れる。
無理にでも通ろうとしたら、多分完全武装して飛んできそうな雰囲気だ。
時間は深夜3時を回ったところで、エボのフロア2の入場ゲート前には自分以外人影も無く、ゲート横の24時間営業のコンビニ以外の店舗はシャッターが降りて静かなものだ。
深夜の駅になにか雰囲気が似ている。
ミカドに威勢良く啖呵切った手前、何としても3日で神眼魔眼の両方を使える様にならなくてはならない。
コレは決定事項。
じゃあ、実践で特訓しようと無計画で病院を飛び出してきたものの、この有体だ。
かと言って、今更学生寮に戻ったところで天満たちと顔を合わすのも、なんか気まずい。
「そっか…前に来た時はシャオロンたちがいたから普通に入れたんだ…」
途方に暮れた時、ゲートに5人組の獣人系の男女が現れた。
こういうのって渡に船って言うんだっけ?嬉しくなってパーティに駆け寄り、声をかけた。
「すみません!この中でAランクの人いますか?」
「あぁ?なんだテメーいきなり?」
パーティのリーダーらしき丸い耳を頭部に付けた無精髭の中年の男が、怪訝そうな顔で聞き返してきた。
「あっ…しまった」
あわよくばパーティに便乗させてもらおうと思って声掛けたが、ちゃんと相手のことを見てなかったことに気がつく。
「何が、《あっ、しまった》だぁ?」
装備を見ればステアーズのランクってのは、大体わかるものなのだ。
男3人はメーカーが違うチグハグな防具を身に付け、簡素の布を巻いただけの抜き身の刀や槍を装備。
女は片方だけ剃り上げたピンクの髪に耳やら顔やらにジャラジャラとピアスだらけで年齢不詳。
おまけに全員ギズ痕とタトゥーだらけの身体…このパンクでメタルなパーティに、当然Aランクは居るわけがない。
Aランクって、例外なくみんなお金持ちなんだよね。
プレイヤーとして成り立っていると言うか、成功者の部類に入る人たちなんだ。
だからエボで傷を負ったって最先端の再生医療も余裕で受けれるわけで、ギズ痕なんて残さず治療するのか当たり前なのだ。って天満の受け売りなんだけどさ。
「あは、すみません。居ませんよね」
「んだテメーは、進化の学生か!眼帯なんてしやがって厨二かテメーは!」
まだ、14歳だから、あながち間違っていないのでなんとも言えない。
そうこうしてる間に、男の一人に胸ぐらを荒々しく掴み上げられる。
「アレ?」
遅すぎる—。と感じた男の動きに合わせて半歩下がって避けたつもりだったのに、何故かアッサリと捕まってしまった。
「お前今、俺たちのナリを見て『しまった』とか吐かしやがったな?オイ!良い度胸してんなお前!」
胸ぐらを掴まれたまま、別の男が横から顔面に向かって拳を繰り出す。
殴られる様なこと言った俺が100%悪いんだけど、だからと言ってタダで殴られてやる道理もない。
痛いのはヤダし。
まず、胸ぐらを掴んでいる男の手首を捻り上げ、殴りかかってくる男に、この男の腕を極めながら体当たりさせる!…
一瞬で自分の立ち回りをシュミレート、脳内で描いたイメージに自分を合わせて…あぅ!身体が重い!思い通りに動かない!
胸ぐらを掴んだ腕を握ったところで、無防備に横から男の拳が頬に炸裂した。
「グフッ…アレ…」
鼻からポタポタと血が垂れる。
「おう、いい顔になったじゃねぇーか」
口の中が鉄の味でいっぱいになる。
「エボで一稼ぎする前のウォーミングアップに丁度いいサンドバッグだな!オイッ!コラッ!」
「アグッ」
男に羽交締めされた状態で、二人の男が嬉しそうに交代で蹴りやパンチを繰り出してくる。
見えてる…視えてるのに、身体が思う様に動かない!
「ちょっと!アンタらいつまで弱いモノイジメしてるのよ!そんな事より、これ見て!この子すっごいお宝持ってるんだけど!どうする?」
ボンテージのピンク頭の女が、六界のソード・ケースを見つけて歓喜の声を上げている。
「んだぁ?なんだよお宝って?」
交代で殴っていた男たちが手を休め、女が示したお宝を品定めする様に眺める。
「どれどれ…」
「おっ六界のソード・ケースじゃん、早くあけてみせろって!」
「威張ってんじゃないわよ!ホラ開けるわよ!」
女は慣れた手つきでケースの鍵を壊して、金属製のケースを開ける。
ケースの中は、緩衝材に包まれた赤いグラディウスが二本収納されている。
「「おおおぉぉぉ!」」
男たちがどよめく。
「お前、こりゃぁエンペラーの六界レッドシリーズのレプリカだぜ!」
「なんで、こんなお宝持ち歩いてるんだ?!」
「このガキ実はすげぇー金持ちで、エンペラーのファンかなんかじゃないっすかね?ミカド子供に人気あるし」
「いっそ攫っちまいますか?身代金とか?」
「バカ!んな事しなくても、この剣だけでひと財産だ!オークションにかければ少なくとも数千万にはなるぞ!」
「うひょー!マジっすか!?」
興味は生意気な少年から完全にお宝に移った様で、男たちはケースの中身を見て大ハシャギのお祭り騒ぎだ。
言っとくけど、それはレプリカでもないし!断じて俺はミカドの追っかけでも、ファンでもオタクでも無いから!
と、声を大にして言いたかったが、裂かれた唇からは枯れた吐息しか出なかった。
見ず知らずのこんなヤツらに、その二振りの剣を盗られるとか絶対に嫌だ!見るのも触れるのも絶対に許さない!その双剣は最強の象徴そのものなのだから!
「止めろ!それに触るな!」
血で粘っこい口開けて、なんとか声を発する。
ドス黒い感情で、胸が張り裂けそうになる。
軽い気持ちで持ち歩いて来たてしまった、自分の軽率さに眩暈がしそうだ。
「五月蝿え!ガキは黙って寝てろ!」
「ぐはっ!」
男に布に巻かれたままの剣で殴打され、壁際まで吹っ飛んだ。
ゲート前には騒ぎを聞き付けて何人か野次馬が集まってきているが、誰も助けに入ってくれない。
それどころか大人が子供からオモチャを取り上げている様を、まるで見せ物の様に歓声やヤジをあげながら見物している。
そんな様子をボロボロに痛めつけられても、頭はいつも通り冷静に状況判断をしている。しかし———、肝心の神眼は発動せず、治癒能力を高めようにもまるでギフトが作動しない。
当たり前の事が、当たり前に出来ないのだ。
ミカドも初めは使えなかったと言っていたっけ。
確か自分のギフトを取り戻すのに2日。そして、俺から奪ったギフトを使える様なるのに3日かかった…って言ってたよな…。
……ミカドの事は置いといて、今はそれどころじゃないぞ…。
それどころ…じゃ…
急激に襲う睡魔に、意識が混濁していく…。
眠たい……。
………っ!
今、一瞬気絶してた!
ギフトが無いと、人ってこんなにか弱い存在なのだと初めて知った。
当たり前にあったモノが無くなる———。ヤバいぐらいの喪失感が身体を襲う痛みよりも深く。身体の芯に突き刺さる。
まさか深夜のエボがこんなに治安が悪いとは思わなかったなぁ…。
痛みを通り越して、眠気にも似た感覚が全身に染み渡り、落ちる様な感覚の中、急転直下の怒号がゲート前は響いた。
「ゴミ供が!ナニ糞みたいに溜まってやがる!邪魔なんだよ!全員微塵切りにされたいのかい!あぁ?」
ゲートに放たれる炎の様な強烈な殺気。
「「「…うぐっ!!!!!」」」
アレだけ騒いでいた大人たちが、全員が声の主に背を向けたまま、顔に大量の脂汗を垂らしながら直立不動になる。
まるで熱波の嵐の様な空気を纏って、ジャラジャラと腰に吊るしたフォトン・ソードを鳴らし、彼女は猛獣の様に辺りを睨みながらゲート前に現れた。
誰も声を発する事なく、固まったままだ。
瘴気にも似た殺気に当てられ、彼女の存在を確認する前に意識を失った。
「おかしいね?虫ケラ供がゲート前でお宝の奪い合いって?どういう事だい。奪うにしても盗むにしても、犯るのはエボの中が定石じゃないか?」
エボ・タワーの中は治外法権、弱肉強食の世界ゆえ、犯罪行為が多発しているのも事実である。
エボ内ではステアーズ法に遵守されるが、警察機関が存在しない為、タワー内は無法地帯と化している。
ゲート前で騒いでいた連中は、固唾を飲んでただ嵐が過ぎ去るのを直立不動で見守る。
「ギッ…銀子…」
ニヤにちょっかいをかけたパーティのリーダー格が、この唯ならぬ殺気を放つ九尾を見て呟く。
その瞬間、背を向けていた九尾が振り返り、男の顔面を鷲掴みにする。
「アガッ!」
「さんだろ?銀子さん…誰に向かってクチきいてんだ?ゴミ風情が!」
突然現れたSSランクの玉藻銀子の登場で、今まで散々好き放題暴れられた無法地帯の権限が、彼らから一瞬で彼女に代わってしまった。
「ふーん、六界のレッドシリーズ?レプリカにしては業物じゃないか?なるほどね、ここでゴミ同士が奪い合うに相応しいお宝じゃないか?」
銀子は開けられたソード・ケースを覗き込む。
「なっ、なぁ銀子さんよ、俺たちには金がいるんだ…わかるだろ?見逃してくんねぇーか?なぁ…へっ?」
リーダー格が話し終わる前に銀子の赤い斬撃で男の首が宙を舞う。
「ヒィィィ!」
光剣による斬撃で焼き切られた首からは、血の一滴も出ないまま転がる。
残りのパーティメンバーは涙や鼻水に尿まで滴らしながらも、恐怖に慄いたまま、直立不動を崩さない。
「ふん、臭い息吹きかけるなって!殺っちまったじゃんか」
つまんねーもん斬らせんなよ。と呟きながらカウンターのガードボットに向かう。
「ボット!SSランク玉藻銀子の名前で死亡証明書を作成しな!…ゲート前での窃盗暴行容疑で以下の者にステアーズ法の第十三条、執行権に則り刑を執行」
「了解、SSランク玉藻銀子と照合…只今より遺体の解析を開始します…解析終了…DNA解析により…Cランク、オズマ・J・ダグラスと認証。」
カウンターの中のボットとは別のボットが入場口から二体現れて、頭部を切断された男の死体の鑑識を始める。
「頭部、脳の損傷が無いためステアーズ法第五条、死体保護の権利により、オズマ・J・ダグラスの被体は現時刻より72時間生命維持された状態で安置所にて保管されます。時間内に蘇生措置が行われない場合は遺体として焼却、該当ライセンスは破棄されます」
ボットが切断された頭部に延命措置の為の管を差し込み、特殊な液体が入ったケースに収納した。
胴体も同様に切断面から管を何本も挿入され、ボット2台のアームで出来た担架に乗せられてカウンターの奥へ消えていった。
「はい〜サヨナラ〜」
男の遺体を見送った銀子は振り返ると、その場にいる一人一人の顔を見定めながら、彼らが大はしゃぎしていた原因のソード・ケースの前でしゃがみ込む。
その間、誰も声も発さず、身動きひとつしなかった。恐怖の表情で直立不動のままだ。
「レッドシリーズのレプリカって限定で10セットだったよな??まさかこんなところでお目にかかるとは思わなかったよ…確かグリップ横にシリアルナンバーが刻印されてるはずなんだけど、それ見れば元の持ち主が一発でわかるって……」
銀子が確認した刻印はNo.0000。————!?。
「————っ、おいおいおい、こりゃオリジナルかよ!なんでこんなとこにあるんだよ?ええ」
剣を取り出そうと手を伸ばした時。
「———触れるなっ!」
背後からかけられた、男のその言葉で銀子の伸ばした腕が固定された様に硬直する。
「はっ、腕が!」
銀子は慌てて振り返ると、壁際の視界の隅に赤い眼光が一瞬視えた。
「ひれ伏せ!———」
赤い眼光の主を視認する前に、銀子の頭は恐ろしいほどの引力で床に吸い寄せられる。
「なっなに!?コレって皇帝の瞳!」
ミカドがなんで?こんな時間にこんな所に!?
必死に頭を垂れようとする自分に抵抗しながら、ミカドの姿を探そうとするが視認できない。
さっきまで、銀子の殺気で脂汗を垂らしながら直立不動に立っていた野次馬連中は、事態が把握出来ないまま、全員床に頭をつけて土下座で硬直していた。
ドサッ
人が倒れる様な音。
その瞬間、呪縛が解ける。
銀子が振り返ると、ミカドらしき存在が居たであろう壁際に、血だらけで倒れている少年の姿を発見する。
「・・・・あの子・・・確か、猫柳二夜?」
そこには見覚えのある銀髪の少年が、その美しい髪を半分朱に染めた痛々しい姿で横たわっていた。
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