彼女の心配事
久しぶりの更新です。
一ヶ月もかかってしまいました。はやく思った事を思った通りに書ける様になるには、反復しかないんでしょうね。
「お前らぁ!さぁ御注目!お待ちかねのイベントのお知らせだ!!」
真狼はそう云うと、黒板に大きく「Aクラストーナメント」と書き出す。
「一部のヤツは既に知っていると思うが、Aクラスの序列を再選考するトーナメントを一ヶ月後に開催しようと思う。皆そろそろ自分のギフトの特性も解ってきた頃だろう?」
壇上から生徒たちをゆっくりと見渡す。
「おおー、下剋上イベント来たぁぁぁ!!」
「やってやるぜ!」
とクラスが響めく。
「今の十席はBクラスと混同してるし、入試試験時のランキングだから不公平だよな?今年は特に生まれながらにギフト持ってるチート連中と合同の実技試験なんて不公平極まりねぇ!って事で!」
バンッと黒板を叩く。
「今度は全員ギフト持ちだ!前衛最強が誰か決めんぞ!お前ら心して臨んでくれ!」
「おおー!」「猫柳がいねぇーからトップ取れんぞ!」「打倒天馬ね!コテンパンにしてやるわ!」
新たにギフトを得た連中が敵意剥き出しで、天然ギフト持ちの俺たちを睨む。
「少年漫画じゃないんだからさ。あんまり熱くなるなって」
新しくギフトを得た連中の安い挑発を受け流し、クラスを見渡すと、五、六、七席シェーンにワンさんやザハールなんかは露骨に難色を示すように俯いている。
そりゃそうだよな。
国の期待を背負い自ら志願してギフトを得た連中と、産まれながらにギフトを備え、進化学園に強制的に入学させられデザイナーズ・ギフトたちの温度差ってヤツだ。
てか、キム・ヨンウは、俺のこと名指しで中指立てて「打倒」とか言ってたな。
「と云うことで、午後の授業はトーナメントに向けての模擬戦やるから、昼食は腹いっぱいに喰うなよ!ーーーーーー以上だ!」
真狼が切り上げたところで、授業終了のチャイムが鳴り響く。
皆、昼食を摂る為に席を立つ。
「ん?食堂行かないのか?」
席を立とうとしない安綱に声をかける。
「ん?ああ、行く」
考え事をしていたようで、慌てて荷物をカバンに詰め込み立ち上がる。
「珍しく考え事か?」
「別に珍しくないわよ」
蹴りでも来るかと構えたが、安綱は髪を耳に掛けながら小さく呟いた。
「おっ?なんだ体調不良か?あぁ、わかった生理…」
ドガッ!
言い終わる前にミドルキックが下腹部に炸裂。
「おっがッ!!」
「ホント馬鹿!死ななきゃ治らないのかしらね?」
悶絶する俺の耳元でそう呟くと、スタスタと食堂に向かって行ってしまった。
「冗談だろ!なにも本気で蹴らなくてもいいだろ!」
結局、食堂には安綱の姿は無く、俺は久しぶりに一人で昼食を取る事になったのだが・・・。
にしても、あいつどこに行ったんだ?
そして、午後の授業。
少し遅れてやってきた安綱の表情は暗く、やっぱりなんか考え事しているような冴えない表情でグランドに現れた。
クラスの連中はその表情を「機嫌が悪い」と勘違いして、恐れる様に安綱に道を開ける。
「さすが一番人気の大本命、遅刻も堂々としてるね」
ちなみに二番人気は私だけど!とキム・ヨンウは安綱の前で胸を張る。
「何?大本命って?」
ぶっきらぼうに聞き返す安綱の目が鋭い。
「なっ!しっ知らないの?私たちのクラスのトーナメントの上位三席を誰が取るか、校内で大々的に賭けの対象になってるのよ」
安綱に少しビビりながらも、キム・ヨンウは昼食時に仕入れたトーナメントのオッズ表を安綱に見せる。
「おおー、安綱のオッズ倍率1.1倍のダントツ一番人気じゃん、てか、なんで、俺がキム・ヨンウより下で三番人気なんだよ!」
「実力よ!実力!ポテンシャルはアンタなんかより私の方が上って事よ!」
学校で生徒の試合で賭けって…いいのだろうか?
「私が一番ねぇ…。フン、そんなに甘くないでしょ」
安綱は溜め息ついて、生徒たちが集合している列に並ぶ。
てっきり「当然よ!」と自信満々に振る舞うと思ってたんだが、やはり様子がおかしいぞ。
「よし、んじゃ始めんぞ!」
拡張機を持った真狼は指揮台で声を張り上げる。
「一ヶ月後に行われるのは、総勢四十八名のトーナメントだ!現在の序席上位八名はシード扱いとし!ギフトの使用は可!武器は真剣を使用を許可する!」
武器の説明の時、オヤジの視線が安綱に向けられていた。
ギフト無しでも刀があれば戦えるだろ?って顔だ。
「今日はそれの予行演習ってことで、武器は訓練用、ギフトの方使用は許可する!」
模擬戦は進化学園のグラウンドに設置された八つの特設闘技台にて行われた。
試合時間は15分で、相手を場外中に落とすか戦意喪失、または審判による判定によって勝敗が決まる。
当然、相手を殺害するのは無しだ。
「今日の授業は試合を見据えての模擬戦だ、試合時間は五分、ハ試合同時で始める!初戦は序列八席に順番に挑んでいく勝ち残り方式で行う!」
真狼の指示で俺たちは訓練用の武器を手に闘技台に上がる。
ニヤが欠席しているので、第一闘技場には安綱が刃を潰した訓練用の刀を携えて佇む。
空手の息吹のような深呼吸をして目を閉じるその姿は、スキが無く、凛とした存在感に他の生徒たちは思わず息を呑んで見惚れてしまっていた。
あんまり乗る気じゃない雰囲気だったから心配だったが、どうやら俺の杞憂だったようだ。
「安綱のヤツ、やる気マンマンじゃないか」
俺はメガネを外し、舞台袖に陳列された訓練用の武器の中から刃の反り返ったナタを二本選択、第一闘技場の安綱の姿を横目に闘技場に上がる。
そして、25メートル四方の武闘台の中央に立ち対戦相手を待つ。
ニヤがいない間に序列落としたら、あいつに何言われるかわからないから、出し惜しみせずに戦闘態勢を取っておこう。
獣化。
骨格がバキバキを音を立て巨大化し、光沢のある黒毛が隆起した筋肉を覆っていく。
くぉぉぉぉぉぉぉん!!!!
辺りが振動するほどの咆哮を上げ、周りの全てを威嚇する。
USAイーグルで貰ったライカンスロープ用の戦闘服が、体に合わせて破れること無くサイズアップしている。
狼男に変身して服が破れないっていう安心感!!もはやこれは身震いするほどの快感だ!
なんて感動に浸っていると、目の前にキム・ヨンウが腕組して俺を見上げていた。
「有言実行!この私があんたをコテンパンにしてあげるわ」
したり顔でそう言うと、上着を脱ぎ捨てワー・タイガーに変身する。
キム・ヨンウもライカンスロープ用の装備を身に着けていたようで、USAイーグルの戦闘服ような伸縮型ではなく、巨大化に合わせて機械式の胸当てが展開する仕様のようだ。
「お前ら遠慮すんな!誰に挑むのかは自由だぞ!!じゃんじゃん自信があるヤツからリングに上がれ!!何度負けても良い!何度でも挑戦しろ!」
真狼の掛け声で、他のリングにもそれぞれ腕に自身がありそうな対戦者がリングに上った。
安綱がいる第一闘技場以外は・・・。
「渡辺の相手、誰もいないのか?始まんねぇーぞ!」
真狼は拡張器でつぶやきながら指揮台の上から、待機している生徒たちを品定めするように見つめる。
生徒たちは当ててくれるなと、揃って視線から逃れるように俯いている。
「ふん、渡辺嫌われてんなぁ、誰もやりたくないってか…」
流石に嫌われてはいないだろ、俺も含めて皆に恐れられてるってのが正解だろ。
「よし、八十席、八女兎上がれ!」
「えっ?わっわたしですか?」
突然の指名に露骨に動揺しながら、兎耳をワナワナしながらおぼつかない手で訓練用のショートソードを握り、リングに上がる。
「よっよよ、よろしくお願いします!!」
安綱が居る第一闘技台に、例のウサギちゃんこと、八女兎ちゃんがオドオドしながら安綱に挨拶する。
「それでは!各自始めっ!!」
試合開始の号令とともに、俺は目の前のワー・タイガーに集中する。
この短期間で、キム・ヨンウは獣化を始めさまざまの能力を驚異的なスピードで習得している。
オヤジのやつどんな指導してやがるのか…。
「天草天満!ギタンギタンにしてやるんだからっ!!」
ワー・タイガーの姿でその話し方に違和感ありまくりなんだが、やっぱ獣の姿で喋れるってのは、羨ましい限りだ。
「第一リングッ!!勝負あり!!」
早っ!!安綱のやつ瞬殺かよ!!
俺も、うかうかしてられねぇーな。
「さすがですわ、やはり打倒天満改め、安綱さんに変更した方がよさそうね」
キム・ヨンは俺から視線を外すこと無く、構えたままニヤリと牙をむく。
「勝者!八女兎!!」
誰もが予想しなかった名前が名乗られ、あたりは騒然とする。
「おおぉぉぉぉぉぉっ!」
はっ?何言ってんの、そんな安綱が負けるわけないじゃん、だって安綱だぜ。
模擬戦そっちのけで、安綱の姿を探す・・・・。
第一リングにはショートソードを両手に持ってオロオロしている八女兎の姿…、安綱は…。
・・・・・いた。
場外に落とされたのか、場外で横たわったままピクリともしない。
なっ・・・に、やってんだよアイツ!!
「安綱ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
たまらず叫んだ安綱の名前が、俺が狼男の状態で初めて発した言葉だった。
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