学園生活の始まり
ニヤを欠いた状態で俺たちの学園生活が始まった。
タワー西口から程近い場所に、進化学園を擁する学園都市が存在する。
エボ・シティの四分の一と云う広大な敷地内にはステアーズの教育機関の進化学園高等学校の校舎を始め、学生寮に各国の研究機関が立地している。
各国がこぞって自国の生徒数を増やすコネ作りに、莫大な寄付金やら助成をぶっ込んだおかげでエボ・シティ西部でも学園都市の発展は著しいものがある。
学生寮も各学年に一棟有り、学園から東西南の方角に建てられ、通学時に別の学年の生徒たちとニアミスしない様に計算された配置となっている。
校内でもそれが徹底していて、他学年との交流は極力無いよう各学年が分け隔てられているという印象だ。
そんな新開発都市の東側の俺たち一年生の寮からは、朝から様々な動物のパーツを新たに身につけた異形な生徒たちの登校する様子は、まるでテーマパークのパレードか、はたまた百鬼夜行か…。
いずれこんな風景も、慣れて日常になるんだろうけどな。
鼓門のような豪華な校門を抜け、中庭のホログラフィック掲示板で、俺たちはギフトの種類によってクラスをAとBで振り分けられた。
「ウソぉ!なんで私だけBクラスなのよ!」
自分だけBクラスだとアリスが憤慨する。
「コレ、ファイターとサポートで分けてる感じ?」
安綱は掲示板に並ぶ名前とギフトを思い出しながら首を傾げながら呟いた。
確かに、このクラス分けは、エボタワーにおけるパーティーの役割別のクラス分けのようだ。
大雑把に前衛タイプのギフトはAクラス、後衛タイプのギフトはBクラスってことらしい。
俺やニヤ、あと安綱がAクラスでアリスだけがBクラスになったもんだから、この後アリスがAクラスに入れろと職員室に乗り込んで…と一悶着あったが、Bクラス担当のシャオロンに耳を引っ張られ泣く泣くアリスはBクラスに連行されることになった。
教室に向かうと、獣人系のギフトのほとんどが前衛職となるから、Aクラスは様々な動物のギフト溢れ、講堂内はまるで小さな動物園と化していた。
「猫耳に兎耳…尻尾尻尾で、まるで仮装パーティか動物園みたいね」
教卓を前に扇状に並んだ座席の一番後ろの席を陣取った安綱は頬杖を付いて、つまらなそうに呟く。
そう云うお前もそのひとりだろうが…と思いつつ、隣の席に座ろうとして、俺は安綱の変化に気がつく。
安綱の艶やかな黒髪がポニーテールに結ばれるのはいつものスタイルだが…。
「安綱っ!?ツノどうしたんだよ?ツノ!」
昨日まで生えてた立派な麒麟のツノが無いのだ。見事に綺麗さっぱりと無くなっている。
「あぁ、寝るときに枕に刺さるから、刀で斬った」
面倒くさそうにぶっきらぼうに答える。
「斬ったって…お前、体調とか大丈夫なのか?」
「あぁ、身体は平気、おかげでしっかり眠れたしね、まぁ必要なものなら、また生えてくるでしょう、心配ないわ」
「すげぇな、お前」
意味あるから生えてるんだろ?それを普通刀で斬るかね?
切るにしてもノコギリとかさ、何も刀で…ん?刀って!どうやって持ち出したんだ?
「安綱、刀ってさ、学園の武器庫に厳重に保管してあるんじゃないのか?許可が無いと持ち出し厳禁だろ?どうやって持ち出したんだよ!バレたら退学もんだぞ」
思わず声量をグッと抑えて、小声で安綱に詰め寄る。
ステアーズは基本シティー内での武器の所持は認められているが、当然俺たち学生は許可制で、武器の持ち出しも使用もAランク以上の講師の管理下でしか扱えない。
当然、俺のダマスカスのククリナイフも武器庫の個人用ケースで保管してあるわけなのだが…。
「ああ、それね、武器召喚だけはなんか出来るんだよ」
そう言うと小声で「おいで、髭切…膝切」と呟くと、安綱の両手に日本刀が二振り突如として現れた。
「ほらっ!…そんで…お帰り…って言えば」
一瞬現れた日本刀が何処かへ消える。
「ジャジャーン!」
「はぁ?!」
ジャジャーンじゃぁねぇだろう!
まるで、タチの悪いイリュージョンを見せられた気分だ。
「試したらさ、実家の宝物庫の爺様の秘蔵の刀も取り出せたんだよね」
猫型ロボットのポケットかい!
「なんだそれ!セキュリティーも何もあったもんじゃないか!頼むからどこぞの銀行の金庫から、直接拝借的な事するんじゃねーぞ!犯罪には手を染めるな!わかったな!」
誰でも一度は妄想するヤツだ。銀行の金庫と直通の財布みたいなアレ。
「あぁ、それね。試したけど無理だった」
「試したんかい!」
どんだけ欲求に正直なんだよ!コイツに限っては能力の限界追求欲求なんだろうけどさ。
「場所を知ってても、対象と保管場所を私が細かく認識してないと無理っぽいんだよ、まぁ、実家に帰らなくても、自分の私物を持ち出せるのは凄く便利だけどねー」
「既に《武器召喚》でもなんでもなくなってるし!」
きっとひとりで色々試してんな、コイツ。
「お前、変身の練習とかしてないよな?アレはひとりでするなよ!あぶねーから」
「ああ!うるさい!あんたは私の親か!?」
「親って・・・歳じゃないだろ・・・」
ニヤが登校できてない状態だからか、少しナーバスになっているのは否めないけど、そんなに過干渉だったか?
少し気まずい空気の中、勢いよく廊下から教員が教室に入ってきた。
「はいはいー!邪魔するぞー」
ざわついた教室が一瞬で静まり、突然入室してきた大男に注目する。当然、俺も安綱も大男に注目する…。
ソフトモヒカンに無精ひげの大男を見て、生徒たちがどよめく。
それもそのはずで、教室に入ってきたのは皇帝ミカド程では無いにしろ、バリバリの武闘派で超有名人のSSランカー「天狼」の二つ名の真狼が突然乱入してきたものだから、生徒たちは歓喜の声をあげて、拍手まで起こる始末だ。
「はいはい、騒がない騒がない」
興奮する生徒を宥めながら、教壇から生徒の中から誰かの姿を探すように視線を回らす。
「マジかよ…」
俺は溜め息ついて、「天狼」の視線から身を隠すように机にうつ伏せになる。
「天満なにしてるのよ」
「隠れてるんだよ」
「なんで?」
安綱が訝しげに聞いてくる。
「アレ、俺のオヤジなんだってばさ、親が学校に来るとか、マジねぇーわ」
「オヤジって・・・はぁ、お父さん!?ウソ!」
安綱は突然立ち上がり、俺と「天狼」を見比べる。
「バカッ!声でけぇよ!」
周りの生徒も何事かと怪訝そうにこっちを注目する。
ざわつく教室の中、「天狼」は注目を集めた安綱を見つけて嬉しそうに口の端を釣り上げると、教壇から予備動作なしに音を立てずに跳躍。
10メートル以上離れた教室の最後尾、俺たちの真横に着地する。
「よぉ、天満ぁ、ナニ隠れてんだよ」
無精髭の生えた顎を摩りながら、言葉とは裏腹に俺の隣の安綱を値踏みする様に見下ろす。
「オヤジこそ、こんなところで何やってんだよ!?」
オヤジの視線から安綱を守るように立ち上がり、オヤジを見上げる。
「んなことは置いといて、コレ、お前の女か?」
ふざけた表情で、安綱を指して不躾な事を呟く。
「なっ⁈何言ってんだよオヤジ!安綱が俺のオンナとかっ、ナッ…ナニ言ってんだよ」
俺が狼狽えてる最中、安綱は俯いたまま「おいで、髭切…」と呟いた。
安綱の心中を察した瞬間。
「バカっ止め…っ!」
小柄な体から放たれる殺気が、一気に膨らみ爆発する。
バンっ!
片足を机に乗せて居合い構え。
高速で放たれた白刃は殺気を纏ったまま、タメも躊躇いもなくオヤジの首筋に向かって一閃煌めいた。
ビィィィィィン!
オヤジは涼しい顔のまま、刹那の斬撃を右手の人差し指と親指だけで受け止めていた。
「ほう…そそる事するじゃねぇーか」
獣の表情で犬歯を剥き出して口角を釣り上げ、左手を握り込み振りかぶる。
突如、真狼から放たれる闘気に当てられ、生徒たちが身動きできない程のプレッシャーに包まれる。
「オヤジ、早まるなって!」
安綱の盾になるべく前に出る。
前門の虎後門の狼とはまさにこのことで、口より先に手が出るタイプの二人に挟まれて右往左往する俺って、実に損な役割だとつくづく思う。
「天満退け!」
顔面を掴まれて投げ飛ばされる。
クソッ!オヤジ喧嘩売られてマジになってやがる。!
空中で身を翻し着地して、焦って安綱の安否を確認。
俺と同じように、安綱の頭をオヤジが鷲掴みにした瞬間だった。
「安綱ッ逃げろ!」
と、駆け寄ったところで…。
オヤジは前かがみになり、安綱の顔を覗き込み。
「アンタ、天満なんかやめて俺の女にならねぇか?」
と、ガシガシと安綱の頭を大きな手で撫でながら、女子高生相手にとんでもない事を抜かしやがった。
安綱がぶちキレて、暴走したらまた面倒くさい事になるぞ…と構えたのだが、安綱は俯いたまま時間停止している。
「…ダメ」
か細い声で呟いた安綱さん、顔赤くないっすか?
「かぁっ!ダメか?フラれちまったか!」
「フラれちまったか!じゃねーんだよ!妻子持ちがJKナンパすんな、てか、秩父の山からいつ降りて来たんだよオヤジ」
エボからギフトを得て、それをこの島以外の場所で悪用する違法ステアーズを取り締まる捜査員をしているオヤジがエボに戻ってくるなんて!?
「今朝、入間の空自の輸送機でな、仕事も一段落したからよ、シャオロンの誘いを受けてやったのさ…アイツしつこいからよ」
そう言いながら、俺たちに背を向け教壇に向かうと、黒板に自分の名前を書き殴る。
「今日から、お前たちAクラスの担当講師SSランカー「天狼」こと真狼だ!息子の天満ともどもよろしく頼む!」
自分の親が担任とかどうなんだよ?
こうして、親子同伴の学園生活に一抹の不安を抱えながら、俺たちの学園生活が本格的にスタートしたのだった。
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