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ニヤの策略

 

 今まで、ステアーズフリークとして多くのパーティの戦闘シーンや闘技場での名勝負を観戦してきたが、こんな戦闘は見たことがない。

 例えるなら、 MMORPGでイベントボス戦に挑む同盟(アライアンス)パーティみたいな感じだ。

サイボーグに魔法使い、キツネ憑き、雷使いに陰陽師、そして狼男・・・万能型のニヤはさしずめ勇者あたりか?

 RPGパーティにしては、バランスが悪いことこの上ない。

 

 攻撃特化のこのパーティには、そう、ヒーラーが居ないのだ。

  

 上位ランカー・ステアーズにヒーラーは存在しない。


 ステアーズのランク付けの方法は昇級試験によって決められるからである。

 進化学園に入学すると自動的に仮ライセンスである《Ⅾランク》が発行される。

 学園に入学しないで個人でのライセンス所得だと、《Cランク》試験を受ける必要がある。(模擬戦と学科試験)

 学園を卒業すると自動的に《Cランク》が発行され、在学中に試験を受けて合格すれば在校中にプロステアーズのCランカーとして、ガイドなしでエボに塔登する事が可能になる。

 Cランク六名以内のパーティでエボ・タワーフロア10に到達する昇給試験を受けて合格すると《Bランク》が授与され、同試験を単身でフロア10に到達で《個人Aランク》のライセンスが得られる。

 以下、パーティでフロア20で《グループAランク》単身だと《個人Sランク》、パーティでフロア30で《グループSランク》単身だと《個人SSランク》、パーティでフロア40に到達で《グループSSSランク》となっている。

 ※フロア30からはガーディアンが危険なレベルで強敵な為、個人での塔登は禁止されている。


 現在フロア40に到達しているのは、僅か2パーティのみで、セレモニーで戦ったノーマン・ガーランドが所属するUSAイーグルとステアーズランキング一位の赤星帝(あかぼしみかど)率いる、六界(The world Six)のメンバーの合計12人だけがSSSの称号を持っているのだ。


 昇級試験で単独踏破が条件ゆえ、戦闘に不向きな支援ギフト持ちのステアーズは、ランクとは別に五つ星で評価されて、それそれの特性に応じたギルドに属しレンタル・サポーターとして様々なチームに参加しているのが一般的だ。

 ヒーラー・ギルド《癒しの手》や《再生の緑》、塔登のガイドやサポートのギルド《シェルパ》や《ピーク・エンド》なんてギルドが有名どころだ。



 単身で昇給試験を合格できる上位ランカーのほとんどが、負傷などしない強者か負傷しても超回復する者、又は高価な再生医療アイテムを潤沢に準備できる者に限定される。


 銀子さんの様に負傷しない単純強者が負傷し、俺のような超回復者の回復が追い付かなくなるような戦闘では、それらを補うため再生医療アイテム頼りになるわけで、当然クスリの切れ目が命運を分ける事となる。


 オマケに、サイボーグの損傷はエリクサーでは癒すことはできない。

 今回は流石に想定外だったのだろう。

 安綱の刀はシールダーの盾すら、まるでバターの様に切り裂き、対物ライフルの12.7mm×9.9弾すら易々とスライスしてしまう。


「ギャハッ!熱っ!溶ける!溶けちまうって!」

おまけに触れると四千度を超え、鉄も易々溶断する光剣と刀身を溶かすことなく鍔迫り合いする「しゃべる妖刀」の切れ味は先に述べた通りだ。

 発動からほとんどタイムラグがない、例の白い稲妻は雷属性のシャオロンにダメージを与え、SSランクの銀子さんを心肺停止まで追い込んだ。


 今の安綱は「SSランク」に匹敵する戦闘能力を有したうえ、その能力を最大限に活かす装備を手にしている。


「入学セレモニーの時のノーマンみたいにギフト使わないでくれたら、もうちょっといい勝負できるんだけどなー」

 ニヤは都合のいい事を言いながらも、果敢に攻撃と離脱を繰り返している。

「安綱は思い切り、手加減してくれてるわよ、この状況で半人前の仮ライセンスの私たちがこうして立ってるんですもの」

 アリスの言う通り、今舞台で立っているのは獣化した俺と、ニヤとアリスだけだ。

「あはははは、だよねー、友達だから手加減してくれてるんかな」

 友達以外は、容赦ないけどな…、ナインのメンバーなんて避雷針で雷撃を封じたところまでは良かったんだ。

 しかし安綱は雷で発生させる電磁を足裏に発生させて、超電導リニアのごとく、高速移動からの斬撃に攻撃パターンをシフト。

 超高速の連撃の剣鬼を前に、ナインのメンバーは一方的に壊滅状態にされてしまった。


 環さん、シャオロンのサポートで安綱の攻撃にかろうじて対応できていた銀子さん達も回復薬が無くなり、いづなさんと刹那さんは戦意喪失で離脱。

 銀子さんは四度致命傷を負って虎の子のエリクサーを使い切っても尚、多少の負傷も気にしないで喜々としながら環さんと現在進行形で鬼つよの安綱に食い下がってる。

 

 もちろん、戦闘にニヤもアリスも積極的に参加しているのにかかわらず、安綱は一切二人には反撃をしなかった。

 

 あいつ意識ないはずなのに攻撃対象をキッチリ選んでやがる。


 ナインのメンバーの殆どか大破している中、グラムとチーフの損傷は中破だったり。

 シャオロンに限っては、疲労困憊して舞台袖で辟易しているが無傷だ。

 サポートに回っていた環さんは自身無傷だが、彼女が召喚する式神に対して安綱は容赦なく、問答無用、完膚なきまで切り刻んだ。

 

 俺はさっき執拗に追い回され、肉をそがれ腕を切り落とされたけどな。

 俺はアイツにとって、友達じゃないのか?

 ショックだぜ。

 まったく。


「はぁ~、あのさ、最悪、渡辺の意識を取り戻せない場合、ヤツは上のフロアへ逃がす…俺たち全員の命に代えてもシティーへの流入は防がなければならん・・・あのバケモンがその気になればたちまち皆殺しにして街に繰り出るだろうけどな・・・あぁ、面倒くせぇ」

 舞台袖で座り込んでいるシャオロンからの指示だが、声に生気を感じない。

「スタミナ切れでヘロヘロのクセに、縁起でもない事言わないでよ・・・安綱は絶対連れて帰るんだから」

「はっ、違いない、俺はちょい休憩だ。あと1アタック分猶予をやる、まぁ、好きなようにやってみろ」

「ゴラッ!! お前たち、いつまで遊んでいる!?減点だぞ!」

 安綱と光剣で壮絶な打ち合いをしながら、銀子さんがこちらに向けて檄を飛ばしてきた。

「銀子!ちょっと!余所見しないで!」

 呪符から飛び出た鎖で、安綱を拘束していた環も声を荒立てる。

 銀子さんの意識がこっちの逸れた途端、安綱は両手に絡まった鎖を一瞬で切断、自由になった途端こっちに向かって猛ダッシュしてくる。

 うおっ!あの無機質な黒い目と目が合った。

 狙いは俺かよ!?

「もう、なんで安綱は天満には執拗に攻撃してくるのかしら?天満なにか安綱に嫌われる様なことした?・・・・て、言うか、このままだとじり貧よ、どうするの!?」

 アリスはそう言いながら、俺にターゲットを変えて突進してきた安綱に向けて火炎弾を撃ち放つ。

「ギャハッ!だからあづっ!熱いって!」

 幽鬼の様に無表情でユラユラ揺れながら、安綱は右手に握った刀の叫びを完全に無視して、アリスが放った火球を次々一刀両断にしていく。

「私を無視してんじゃねぇー!」

 再び、安綱の動きを止めるために、銀子さんが連撃でけん制する。


 はぁ、俺が安綱に何したのか?

 いやいや、むしろ、安綱に色々やられているのは俺の方だ!と、声を大にして言いたい。

 獣化した俺は無言で訴えるしかないんだが。

 狼男の俺は否定の意を込めて必死に首を横に振った。

 まもなくゆらぎの波動は溜まる。


「あのさ…」

 そんな俺たちのやり取りを見ていたニヤが口を開く。

「ちょっと考えたんだけど、いいかな?」

 ニヤが「考える」・・・普段何にも考えて無さそうなニヤが考えるた。

 なかなか興味深いこと言い出したな。

 俺は肯定の意味合いを込めて、大きくうなずく。

 波動の溜めは終えている、安綱の動きが止まり次第いつでも打ち込める。

「環姉ちゃん!鬼出してぇ!」

 陰陽師の環さんに鬼を出せとニヤ。

 おいおい説明なしかよ!

「でもぉ!!、渡辺さんに鬼はダメなんでしょう!?」

 舞台の反対側から困惑気味に環が大声で返す。

「安綱の気を引いてくれればいいからぁー!」

 ニヤも大声で言った後。

「アリスも向こうで獣界門の前に火で壁を作って!安綱が通らないようにねー」

「わかったわ!」

「あと先生も門の前で、みんなを守ってあげてよ」

「なんか考えがあるんだな?……いいだろう、やってみろ」

 ヨッコラセっと立ち上がったシャオロンは、戦闘中の銀子さん達を避けながらアリスと獣界門前に陣取った。


「さて、やっと二人きりになれたね、天満ぁ」

 はぁ、何言ってんだこいつ。気持ち悪い。

 しかも、いたずら小僧が新しいいたずらを思いついたような顔でほくそ笑んでやがる。


 嫌な予感しかしないのは、俺だけか?


「作戦は二通り、どっちにするか最終的な判断は天満に任せるよ・・・ちょっと耳貸して」

 ニヤは屈んで、と手をひらひらさせて見せる。

 なんで二人きりになれたのに、耳打ちする意味あるのかよ。

 そして、ニヤの口に耳を寄せる。


「あのね・・・・・」





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