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総力戦


 まるで剣鬼となった安綱を、全開のニヤと環さんの陰陽術で注意を引きつけている間に、シャオロンは身を屈ませながら舞台を移動する。


「オイ!お前たち生きてるか!?」


 シャオロンは倒れたまま、未だに微動だにしないフォックスの三人のそばに駆け寄る。

 いづなさんと刹那さんと順番に安否を確認すると、頭部に電気を流し強制的に意識を覚醒させる。

 そして、二人より離れた場所でうつ伏せに倒れている銀子さんの元に駆け寄り、仰向けに抱き上げる。

「本気で死んでる訳じゃないよな? 銀子ぉ」

 銀子さんの口元に耳を当てたシャオロンの顔色が見る見る変わり、慌てて銀子さんの戦闘服の胸元を広げて左の乳房に右手を押し当てる。

「馬鹿野郎っ!お前何死んでやがるんだっ!」

ドンッ!

 銀子さんの身体がドンッと跳ねる。

 AEDの要領で、止まってしまった心臓に電気を流したのだ。

 銀子さん心肺停止状態だったのか!? 

「おいおいおい、らしくねぇーぞ!おらっ戻ってこい!」

 続いて、二度、三度と電気を流す。

 ドンッ

 ドンッ

 無言で身体をバウンドさせるが、銀子さんの意識は戻らない。

「うそ・・・銀子さん」

「姐さんっ!返事してくださいよ!」

 シャオロンの悲痛な叫びを聞いて、意識が戻ったばかりのいづなさんと刹那さんが四つん這いのまま、ピクリとも動かない銀子さん近寄る。

「姐さん、私たちを突き飛ばした後――――――――」

「私たちの身代わりになって、ひとりであの雷撃を浴びて!」

「待て身代わりって、あのフラッシュみたいな雷撃を銀子は見えてたのかっ!?」

 みんなが喰らったあの雷撃は自然界の雷のような、雲に溜められた電気が地上に向けてズドンと落ちる、プラスからマイナスに向けての一方的な流れじゃなかった。

 予兆なしでいきなりその場で放電された印象だ。

 雷公の二つ名のあるシャオロンが、避ける事も防ぐこともできずダメージを受ける程の雷撃だったのに…見えて、仲間を守ったのか?


「アレが見えんのなら、戻って来いよなっ!お前のお楽しみはまだ終わってねーぞ!」

 シャオロンの電流で再び銀子さんの身体がドンと跳ねる。

「ぐはっ!!」

 銀子さんは口から大量の吐血して、息を吹き返した。

「戻った!!」

 本当に心肺停止状態だったんだな・・・三人の安堵な表情を見たらわかる。SSランクが命を落とす様な脅威なんだ、今の安綱は・・・。

 そう考えを巡らせて、視線をニヤと環さんが抑えている安綱に向けた瞬間――――――――。



「天満ぁぁぁっ!逃げて!」

 ニヤの叫びで、現実に引き戻された。

 喋る妖刀を二振り構えた変貌した安綱が、閃光の如く突如目の前に現れた。

「グギャッ!?」

 突然の展開に、獣の口から変な声を上げてしまう。

 一刀目の横薙ぎを四つ這いになって躱す。

 次の瞬間、地に着いた獣化した右腕に激痛が走る。

 反射で仰け反ると、地面に切断されて右腕が残っている。


 斬撃が鋭過ぎて痛みは微塵にも感じなかったが、その直後に傷口に塩でも塗ったのか?と思うほどの激痛が斬られた腕を襲う。

 反射的に押さえた傷口からは、焼けるような痛みが全身に広がる。

 

 クソッ!何度目だ!

 何度俺は安綱に腕を斬られてるんだ!学習能力ねぇーのか!?

 心でふがいない自分を咎めながら、後方にジャンプして安綱と距離を取る。


 腕を落とされてしまった事で、せっかく溜めたゆらぎの波動は行き場を失い四散してしまった。

 そもそも両手で挟まないと《虚心合掌》は決められないのに、片腕を落とすとかありえないだろう。

 大失態だ。


 万事休す。挙げる手はないが完全にお手上げだ。

 

 そんな窮地に立っている俺の事なんて構わずに、安綱は執拗に斬撃を繰り返す。

 まるで入試の時のトーナメントの再現だ。

 だだ、あの時と圧倒に違うのは、獣化した俺が反応できない程の神速域に達した安綱のスピードだ。

 本気で攻撃を繰り出してるのに擦りもしないし、安綱が繰り出す太刀筋が一切見えないときた。

 結果、防戦一方の俺の身体はケバブの肉の如く、見る見る肉が削がれていく。

 斬られては再生を繰り返す傷口から出る水蒸気が、どれだけの斬撃が自分に刻まれているのか、視認できる。

 3位決定戦の試合と時より圧倒的に早い速度で刻まれていく。

 獣化しているのは俺だけではなく、安綱もウラガエリながらも獣人と化してるんだ。

 再生限界で倒れるわけにはいかないが、悲しいかな狼男と霊獣麒麟じゃぁ、勝負は見えてる。


 だが、俺はひとりじゃない。

「安綱ごめんね」

 安綱の背後に肉迫したニヤは安綱に囁くと、高速の回し蹴りを繰り出す。

 ニヤの踵が、背後から安綱のこめかみをフルスイングする。

 俺の目の前から安綱が凄い勢いで消えた。

 蹴られた勢いのまま、安綱は舞台の外を囲っている外壁に激突。

 側頭部粉砕骨折に脳挫傷、頚椎を派手に損傷する様な一切の手加減なしの攻撃は壁を派手に粉砕し派手に砂煙を上げた。

 

 安綱は沈黙。

 瓦礫に埋もれたまま、動きが止まった。

 ごめんねと云いながらも、何で攻撃かましてんだアイツ!


「断熱圧縮!」

 アリスが安綱の突っ込んだ瓦礫の山に向けて広げた手を突き出して、ギュッと握りこむ。

 キィィィィィンと耳障りな高音の後。


「爆破ッ!」 


 閉じた手の指を鳴らす。

 アリスのギフトにより極限まで圧縮された空気が超高温になり、まるで手りゅう弾の様に爆発する。

 爆発の衝撃波と共に轟音が響き、爆風で舞った砂塵が舞台全体を覆った。

 アリスの爆風の中、ユラユラと安綱が立ち上がるシルエットが砂煙の向こう側に見える。

 アレだけの攻撃食らってるのに、不死身かよ!?

「まだまだぁぁぁぁ!!」

 砂煙の中、瓦礫をかき分けるて立ち上がった気配を察知した蘇生したばかりの銀子が、九本のフォトンソードを安綱のシルエット向けて同時に投てきする。

 赤い光線が円筒状に空間を穿ちながら、次々と安綱に突き刺さっていく。

「私を殺せるなんて!お前は良いぞ!特別に合格をくれてやる!」

 とてもさっきまで心肺停止していたと思えない程、銀子さんは喜々としながら舌舐めずりすると、とどめとばかり紅の光剣を片手に安綱に向かって一気に躍り出る。

 煙を掻き消しながら横なぎ一閃。

 完全に息の根を止めに行ってる攻撃だ。


「ちょっとっ!?そこまではやり過ぎよっ!!!」

 真っ二つに切り裂かれた安綱のシルエットを見てアリスが叫ぶ。

「あの安綱はそんな簡単じゃないよっ!」

 ニヤの言葉通り、光剣を振り切った銀子さんめがけて雷を全身に纏った安綱が出現。

「クソッ攻撃は通ってる筈なのに、まるで手応えが無い!」

 銀子さんは神懸った反応で、安綱が放った白雷を回避。

 四つん這いなると、獣の如くすぐさま安綱に飛び掛かる。

 安綱は霧の如く霧散して消え、飛び込んできた銀子さんに向けて続けざまに落雷を放つ。

 あたりはホワイトアウトして何も見えないが、どうやら銀子さんあの連発する閃光の雷をすべて避けているようだ。


 俺の視界は一発目の落雷で真っ白に焼けてしまっている。

 落雷の音が舞台上をせわしなく移動している事だけ、耳で聴き分ける事ができた。



「天満君、落し物よ」

 まだ、ぼやける視界の中、環さんの式神の二羽のウサギが後ろ足で立ち、器用に斬り落とされた右腕を運んで来た。

 狼男にウサギが腕を届ける・・・考えるとシュールな画だ。

 腕を受け取る。

 完全にくっつくには数十秒で十分だ。

 再び波動を貯めるのに約三分ぐらい必要なので、腕の再生と同時進行で《虚心合掌》の準備し始める。



「どりゃぁぁぁぁぁ!!」

 ニヤがナインのグラムの剣を拝借して、安綱に剣戟を仕掛ける。

 勢いよく二刀流で攻撃を仕掛けたと思ったら、強烈な四連撃を受けて防戦一方になる。

「うわっ、ちょっちょっと待った! 交代交代」

 ニヤと入れ替わる様に、Sランクのいづなさんと刹那さんが安綱に左右同時に斬りかかる。

 安綱はそれをやすやすと二刀で受け切ると、頭上で例の稲妻の閃光がきらめいた。

 その瞬間、二人の間に飛び込んだ銀子さんが光に飲まれる二人の襟首を乱暴に掴み、力任せに背後に投げ飛ばし、自身も雷撃を躱す。

 SSランクって、やっぱり別格だ、銀子さんあの雷撃を完全に見切ってる。

 しかし、安綱も化け物じみた速度で銀子さんに猛追して斬撃を繰り出す。

 高速移動で後退する銀子さんは舞台に散らばったナインのパーツに躓いて体勢を崩す。

「チッ!」

 斬撃が銀子さんを捉えた瞬間。

「鉄砂障壁っ!」

 シャオロンが両手を地面につけて叫ぶと同時に、銀子さんの目の前に磁力操作で作られた鉄屑の盾が斬撃を受け止めた。


「待たせたな、ここからは総力戦だ!全員もう一度死ぬ気で行くぞ!」

 シャオロンの後ろで倒れていたナインのサイボーグたちが、あちこち損傷して満身創痍のボディのまま次々と立ち上がる。

「あはははは、せっかく気持ちよく死んでたのに、お花畑で呼び戻さないでよねシャオロン」

 そう呟きながら眼前に戦術モニターを展開し、チーフは重火器に弾丸を装填する。

「そういわず、ひとまず仕切り直しですチーフ」

 アイザックの頭部のレーダードームが再度回転し、ナインのメンバーが次々再起動して立ち上がる。


「さぁ、ラウンド2だ、楽しもうぜ!」

 銀子さんの言葉で、安綱に対してメンバー全員による総攻撃が始まった。



 

 

 


 




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