霊獣降臨
ワータイガーの騒ぎの後、元に戻ったキム・ヨンウをはじめ、他の生徒たちは一足先に獣界門からエボシティーに戻った。
途中、逃げた奴は居たけど…ソレ以外は特に大きな問題もなく儀式は進行して行った。
そして、俺たちが見守る中。いよいよ最後の安綱の番がきた。
「第三席、渡辺安綱」
アイザックの言葉に安綱はうなずくと、アイツらしくなく緊張した様子でこっちを見つめる。
手を振るアリスとニヤを見つめ、俺と目が合ったと思ったら突然あかんべーと舌を出す。
なんだよそれ。
そして、正面を向き真剣な表情で一度深呼吸して、大きく一歩を踏み出した。
巨大な朱色の鳥居の獣界門を潜る。
境界をまたいで、舞台上で安綱は俺たちを不安そうに見つめて、無理して笑って見せた後、糸が切れた人形の様に膝から崩れ落ちた。
「安綱っ!」
アリスとニヤは必死に手を合わせ安綱の安否を祈っている。
ニヤに限っては「南無阿弥陀、南無阿弥陀」と唱える始末。
縁起でもない。
「アイツの事だ、飄々とスッゲェーギフトもらって立ち上がるだろうさ」
そんな楽観的な俺の予想を裏切るように、安綱は立ち上がらない。
「安綱、起きないね」
ニヤも茶化すことなく視線を送る。
安綱ぁ~と、アリスも両手を合われたまま心配そうに呟く。
「安綱ぁー! さっさと起きろぉ!」
俺も心配で、思わず声を上げる。
いつも自信満々で飄々としてるくせに、心配させるんじゃねぇーよ。なんでもいいから、早く目覚めてくれ!
アイザックは倒れたままの安綱にゆっくりと近づくと、手を翳しながらギフトパターンをスキャンし始める。
「これはっ!?」
アイザックは安綱を警戒する様に距離を取る。
「三席、渡辺安綱・・・・パターン・・ブラック・・測定不能!」
アイザックはチーフに指示を仰ぐように視線を送る。
んだよ? 測定不能て・・・・何なんだよ。
「ちょっと、コレどうなってるんすか?」
安綱は微動だにしない、呼吸してないんじゃないか?
「安綱ぁっ!! 起きてっ!!目を覚ましてよっ!」
アリスが今にも舞台に駆け上がりそうな勢いで安綱を呼ぶ。
そんなアリスを制止しながら、俺は心配で講師を見る。
「いや、待て!まだだ」
舞台を凝視したままのシャオロンの言葉と同時に、ピッシャァァンーという轟音と同時に辺りはストロボフラシュッの様に一瞬光に包まれ視界がホワイトアウトする。
「なんだ!? 雷ッ!?」
みんなが揃って、シャオロンを見る。
「俺じゃないっ!」
シャオロンは大声で否定。
「な・・・何が起こった?」
視線を一瞬離した隙に、舞台では立場が逆転してアイザックが倒れて、さっきまで倒れていた安綱がうつむいたまま立っていた。
「なんだよっ!?なんで二人が入れ替わってるんだっ!」
イリュージョンでも見せられてるみたいな、おかしい光景を見せられ皆が混乱する。
「わからないわ、眩しくて・・・気が付いたら・・アイザックが倒れてたのよ」
舞台を注視していたアリスも両手で顔を覆い、混乱している。
「アイザックッ!」
チーフは舞台に飛び出す。
「待て!まだ正体がわかってないのに、迂闊に飛び出すな!」
チーフはバックパックのブースターを噴射させ、高速で頭部から白煙を上げているアイザックの元へ向かう。
舞台上の安綱は、不気味な佇まいで立ち尽くしたままだ。
逆方向から、チーフ同様ブースターを吹かしながら、高速でナインの誰かがアイザックに向かって飛翔した、あのシルエットはシールダーのどっちだ?
次の瞬間。
白閃光。
ゴオオンッ!
再び舞台に轟いた雷鳴。
その雷撃の直撃を喰らって倒れていたのは、チーフの身代わりになったシールダーのイージスが黒焦げになって倒れている。
「イージスッ!!」
イージスに突き飛ばされたのだろう、舞台の隅みで立膝ついたまま叫ぶチーフ。
しかし、動けない。
四枚の盾を持ったまま倒れているイージスの傍らには、シカのような角を頭部から生やし、艶やかな黒髪は白髪になり、白目と黒目が逆転した安綱が不気味にゆらゆらと揺れながら上目遣いで佇む。
ドオンッ!!ドオンッ!!
雷とは違う轟音が響き、安綱が立っている舞台の石床が突然二か所が破砕し砂煙が舞う。
援護射撃の為、後方で待機していたバレットが安綱に向けて発砲したのだ。
「ちょっと!! シャオロンッ!裏返ったか解らないのに、彼らは何で攻撃してるのよっ!」
アリスはヒステリック叫んで、シャオロンの胸元を掴み揺さぶる。
しかし、講師は舞台を凝視したまま、何も言わない。
「安綱ぁぁぁっ!!」
俺は砂塵が舞う舞台に駆け寄る。
バレットの銃声を合図に、ワータイガーの時と同じ様にナインの連携が始まる。
スレイプニルに跨ったグラム、ヘルハウンド、ニョルニル、スヴェルがブースターを噴かし舞台の砂煙を吹き飛ばしながら、安綱目掛けて攻撃態勢を整える。
「ちょっと待ってくれ!安綱はまだ完全に裏返ったわけじゃないっ!!」
「目の前の現実を見ろ、ありゃー完全にウラガエリだ! イヒヒヒヒッ!さぁさぁ今日最後のお楽しみだっ!!」
銀子さんの声と共に、俺の目の前を光刃を展開したフォックスの三人が砂煙の中へ疾風迅雷の速さで突入していく。
ピシャァァンー!! ピシャァァン!ピシャァァンーー!
ストロボフラシュッの連続。
明と暗の連続で、閃光がまぶたに焼き付いて状況が見えない。
やがて、閃光の点滅が収まり舞台の下で待機していた俺たちの視界が回復した時、舞台中心には意識を失って倒れた赤毛の銀子さんの頭を無表情で踏みつけてる安綱の姿があった。
いづなさんと刹那さんは、銀子さんからやや後方で意識を失って倒れている。
安綱を警戒しつつ、ナインのメンバーはチーフを守る様な陣形で取り囲んでいた。
安綱は黒く真っ赤に輝く人外の瞳で、それを興味なさそうにあたりを見渡す。
「あっ、あいついつの間にッ!フォックス全員をっ!?」
「いや、まいったね、完全にウラガエってんな・・・こいつはフォックスだけじゃすまねぇぞ」
シャオロンは飛び出すのを躊躇うように、舞台の縁を掴んで壇上を睨む。
ナインが構わず安綱に肉迫する。
先陣を切ったシールダースヴェルが、足裏のホイールを回転させて地面を滑走する。
その後ろをスレイプニルに跨ったグラムが安綱に向かって仕掛ける。
背後から銃声が轟く。
安綱の頭部を狙った狙撃だが、蜃気楼の様に揺らぐ安綱には当たらない。
銃弾が舞台の石床を砕く、破砕音と砂煙が立ち上る。
それどころかスヴェルのタックルも、グラムの実剣も空を切る。
そして再びストロボのような白閃光が、特大な轟音と共に光る。
ゴウンッ!!
再び閃光で眩んだ視界が回復した俺達が見たのは――――――――。
舞台上でナインのメンバーがまとめて山となり、煙を上げてブッ倒れていたのだ。
「うそ・・・アレ、安綱がやったの!?・・・・」
その光景に言葉を失うアリス。
「安綱の奴何やった!?アイツ何のギフト得たんだ!? あの角は鹿か?トナカイ?」
「シカやトナカイは、こんなマネ出来ないよ」
俺の肩を掴むニヤの手が震えてるのに、顔は笑ってやがる。
「二夜が言う通り、おそらくあのギフトは激レアの霊獣クラスだ」
シャオロンはどうしたもんかねと、倒れたナインの面々を見下ろしてる安綱を観察する。
「そうよ、あれはシカの角なんかじゃなくて、麟角、多分、霊獣麒麟の角よ」
「たっ環さん!?」
私も手伝うわ、と環さんが駆け寄ってきてた。
「円華助かる・・・アレが麒麟なら俺の雷効かねぇからな、正直俺だけなら詰んでたよ」
安綱はまるで幽鬼の様に、フラフラと舞台上を漂っている。
「見境なく攻撃してくる感じじゃないね」
確かにニヤの言う通り、ギフトの暴走という感じではない。
「どうするのよ? どうやって安綱を元に戻すの」
「今のうちに聞いておくぞ」
シャオロンは真剣な顔で、俺たち三人を見つめる。
「お前たち、友達の渡辺安綱を助けたいよな?」
「もちろん」
当然、即答だ。考えるまでもない。
ニヤもアリスもブンブンと頷く。
「OK、作戦は単純だ、さっきの天草の技をアレにぶつける」
シャオロンの提案にはいくつか問題がある。
「誰が安綱の動きを止めるの? 韓国の子たちは戻っちゃったし」
アリスが代弁してくれた通り、パク・シフとリ・ミンソンのギフトがあったからこそ、虚心合掌が決めれたわけだし。
「どうします?」
我ながら、他人任せの技だと思う。
「私が止めます、彼女が大人しく捕まってくれたら・・・だけどね」
環さんが名乗り出てくれた。相手の動きを封じる系の技があるのだ。
「俺が何とか捕まえる・・・電撃が効かないのはお互いさまだからな」
シャオロンがやれやれとボヤキながら、何とか手筈は整った。
「絶対、連れ戻すぞっ!」
俺はニヤとアリスに檄を飛ばす。
「もちろんよっ!」
「安綱は俺たちで取り戻そう!」
こうして、即席のパーティーで、安綱救済作戦が発動したのだった。
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