↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/89

フロア10 獣界門其の三 憧れのライカンスロープ


「いい啖呵切ったわね、彼女、少し見直したわ」

 獣界門の前で、誰が見ても緊張しているだろう表情のまま仁王立ちのキム・ヨンウに対して、アリスが感心した様子で呟いた。

 

 しかし、自分が先に行く言ったものの、キム・ヨンウは二の足を踏んでしまう。

「みっ、見てなさいよっ!!」

 キム・ヨンウはこっちを向いて叫んだ。

「なんでこっちを睨んだんだ?アイツ」

「天満の事見て、叫んだね」

 ニヤニヤしながら、ニヤが俺のに肩にアゴを乗っける。

「おっ、俺っ!?アリスじゃなくて?」

「残念ながら私じゃないわね、目合ってないもの」

 二人の言う通り、キム・ヨンウが半ば睨んでいるのは、俺なのである。

 あいつら、バスでニヤに絡んでたんじゃなかったっけ?

「見てなさいよ!天草天満!」

「だから、なんで俺なんだよ!?」

 高く足を振り上げて、足音がここまで響くほど大きな一歩を踏み出す。

 足を引いて、ゆっくりと門を進む。

 緊張したままの彼女は門を通り抜け・・・・。

 

 そして、倒れた。


 待機している生徒たちがざわつく。


 舞台上ではアイザックが倒れたままのキム・ヨンウのスキャンを開始する。倒れているキム・ヨンウの身体にスキャンのレーザーが照射される。

 俺たちは生唾飲み込んで見守る。

「大丈夫かな?」

 ニヤが呟いた。

 俺の視線は倒れたキム・ヨンウから離れない。

 見てろっ!言ったんだから、キッチリ結果出せよキム・ヨンウさんよ!


「12席、キム・ヨンウ アクティブ型ライカンスロープ」

 ドッドッドッ とアイザックさんの頭部の円形レーダードームが低音が響く。


「おいおい、今年はレア種のライカンスロープ多いな」

 シャオロンは言葉のトーンとは裏腹に、緊張感を全身に纏う。

「今年のセレモニーで、ランカーステアーズ相手に天満君が派手に活躍したからですかね?ワーウルフは絵力強いですから、力の象徴として影響する生徒も多いと思いますよ、憧れ的な感覚ですねー」

 チーフの言葉に、思わず吹き出してしまう。

「おっ、俺っすか!?・・・いや、俺はただ、あの時は一方的にやられてただけです」

 ノーマンにギフトを使わせることもなく、やられて、逃げただけだ。

 銀子さんと実際に戦ったのはアリスと安綱だ。俺は四肢を切断されて、のたうち回ってただけだ。

「それは、過小評価だよ天満ぁ」

「そうよ、セレモニーで無事脱出できたのも、ワーウルフの超回復があったからあんな無茶が出来たのよ」

 アリスとニヤの慰めの言葉が心に染みる。仲間に認めてもらえてると言うのは、くすぐったいけど嬉しいものだ。

 


「警告!!生徒たちは下がって!パターンイエローからレッドに移行、12席キム・ヨンウ ギフトのウラガエリを検知――――――――。メタモルフォーゼ始まります」

 アイザックは警戒しながら、距離を取る。


「チッ!!、今年はめんどくさいなぁっ!!天草ぁッ!!」

 シャオロンは俺に毒づいた後、再び舞台上のキム・ヨンウに向かって飛び込む。シャオロンの立ち位置は獣界門を背にして、暴走した生徒が万が一でも獣界門を通ってエボシティーに転送されるのを防ぐ役割なのだろう。

 ナインのシールダーの二体も同じ方向を向いてキム・ヨンウを警戒している。


「イッシシシッ!!今年はあたりだなぁ!!いづな!!刹那!‼行くよ!!」

 ファックスのお姉さまたちは喜々として飛び出していく。銀子さん、さっき脇腹に大穴開けられて血だらけだったのに、早速次の獲物を見つけた猛獣の表情だ。

「啖呵切っておいて、ウラガエリとか…キム・ヨンウよ!その程度だったんかよ!」

 そう叫んだが、彼女の耳には俺の言葉はおろか、仲間の二人の叫びすら届いてない様子だ。

 頭を抱えて悶える彼女を取り囲む様に、大人たちはジリジリと間を詰めていく。


 シャオロン側がディフェンスで、銀子さん達がオフェンスなのだろう。

 妙に慣れてる感じが、気に入らない。

 これじゃあ公開処刑みたいじゃねぇーかよ。


 しかし、ウラガエリとかで正気を失って暴れ回れるのもたまったもんじゃないよな…それが街中に出てくるとなると大騒ぎでは済まされない。


「みんな慣れてるよね、講師も狐のお姉さん達もさ、毎年恒例って感じで・・・あと、天満もだよ」

「はっ?俺もって、どう言う事だよ!」

 ニヤは俺の隣てしゃがみ込んで呟く。

 その表情は冷やかだ。

「シャオロンが言った通り、生徒の一割ここでリタイヤするって事、自分の足でエボに登ることなくね」

「何が言いたいんだよ、ニヤ」

「もっとさ、生徒よりの目線で韓国のお姉さんを見てあげなくちゃ、俺たちは生徒なんだからさ」

 ため息交じりにそう呟くと、獣界門の手前で赤髪のパク・シフと金髪のリ・ミンソンはキム・ヨンウの名前を必死の形相で叫んでいる。

「天満、さっきから講師やナイン、狐のお姉さん側からギフトで暴走した生徒をどうやって抑え込むか、どう処理するか、って見てるでしょう?…でも、ああしてギフトが暴走してるのが安綱ならどう?同じように見れるかな?」

 

「はっ?オマエ何言ってんだ?」

 安綱が…。

「………」

 言葉に詰まる。

 あまりにも、当たり前に慣例に従って行われるこの異常な状態に、俺が慣れてしまっているってニヤは言いたいのか?

 もし、安綱が…仲間がピンチに陥ったらどうればいいんだ?



「ムグアァァァアァァァッ!!」

 苦悶しながら蹲ったキム・ヨンウの制服が背中から裂ける。

 体毛に覆われた隆起した背中が開いた背中から現れた。そして華奢だった彼女の肉体は見る見る巨大化していった。


「ギャオォォォォォォォォォォォンンンッ!!!!」

 サナギを破り捨て芋虫が蝶に変態するかのように、キム・ヨンウの身体は体長二メートルのワータイガーへ変貌を遂げた。

 猛獣の瞳は煌々と赤く輝き、解き放たれた野生はさっきの白狼と同じでキム・ヨンウの意識は感じられない。

「ギャハァァァァァァグリィィィィィッ!!!!」

 ワータイガーは四つん這いになり、口を大きく開いて咆哮を上げると、上下の牙の間に黒い稲妻が球状に集約する。

「はぁ、なんだ?何するつもりだ?」

 俺が知らない事象が目の前で起こる。

 ライカンスロープではやれない何かをしようとしているのは分かる。

 思わず舞台に向かう。

「全員っ!!下がれっ!!天草ぁ!お前もだ!下がれ!!」

 

 シャオロンは獣界門前に並んでいる生徒たちに叫び、舞台に擦り寄ってきた俺にも注意喚起する。

 同時にシールダーの二体が門の前で四面の盾を結合した壁を展開した。

 次の瞬間、ヴォンッと重低音と共に黒いレーザーがワータイガーから放射する。

 高出力のレーザーが舞台の石畳を黒々と焼きながら縦横無尽に弧を描く。

 そして獣界門前で展開しているシールダー二人の鉄壁の盾をも照射して焦がした。


「すっげぇーっ!!ライカンって、レーザー出せるのっ!!?最強じゃん!天満も出せるの?ねぇ?」

「出せるかっ!!ってか見たことも無いわ!!」

 ライカンスロープが、ブレスやレーザーを出すなんて聞いたことない。

「ライカンスロープと言うより、虎の化け物ね・・・見なさいなランカーたちが彼女を生徒としてでは無く、人敵として処理するみたいよ」

 アリスの言葉通り、大人たちは総動員でキム・ヨンウだった虎の化け物を退治する方向へシフトした。

 全員が覚悟と殺気を纏いワータイガーに向かって飛び込んだ。

 

 それは、ドンッドンッとバレットがワータイガーの両足を射貫く銃声が開始の合図となった。

 動物的な条件反射で射貫かれた傷に虎は反応する。注意が逸れて無防備になった上半身へ、間髪入れずに軍馬と共にグラムが実剣二刀流で斬りかかる。

 ワータイガーの脇腹に二条の刀傷が深々と付けられる。

 飛び退いた軍馬の影からニョルニルのハンマーの強打が襲う。

 手で脇腹を抑えた所にワータイガーの身体はくの字に反り返り、肺から全ての空気を苦悶の表情で吐き出す。

「ガッ・・・ハッ!!」

 ヘルハウンドがとどめとばかりに回転しながら、ワータイガーの首に喰らいつく。

 首筋を回転して食い千切る。

「ヘルハウンドッ!!」

 シャオロンの言葉でヘルハウンドは飛び退くと同時、シャオロンが体内で練り上げた特大の雷撃がワータイガーに炸裂する。

 ピシャン!

 

 ドンッ

 と、豪雷の雷撃でワータイガーは床に押し付けられ、舞台の中心が陥没する。



「こんなの、一方的じゃないか!!」

 黒煙をブスブスと上げ、動かなくなったワータイガー。

 確かにあのワータイガーの戦闘力は確かに目を見張るモノがあったが、コレはやりすぎだ。


「まだよ、まだ終わってない…殺す気だわ」

 すべての尻尾にフォトンソードを展開したフォックスたちが、ワータイガーに向かって飛び込む。

 赤、青、緑の二十三本の光刃が、動かなくなったワータイガーに向かって振り下ろされる。



 ニヤの言葉。

 安綱だったらどうする?

 あの、暴走したワータイガーが安綱だったら・・・。

 


  その答えは、キム・ヨンウのチームメイトのリ・ミンソンとパク・シフが、その身を持って示してくれた。




読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。