オジサマと青年
2021.1.13
大幅な改編してます。エピソード追加しました。
少しは良くなったと思います。
「オイッ!メガネ!、テメーッ俺たちのことナメてるだろ!?」
耳元で大声で怒鳴られるようなことをした覚えは無いのに、おじさんに怒鳴られてます。
「メガネをしているだけで、人をメガネ呼ばわりっすか?」
人を見た目だけで判断する程度の人なんだと、冷ややかな視線で相手を見つめる。
「んだぁその口の聞き方は?ナメてんのか?アァ」
「ナメては無いです…はい」
顔に縦横にキズの入った強面のおじさんが、睨みを効かせながらドスの効いた声でそう言う…のだが、彼の頭部に可愛らしい丸い動物の耳が生えているから、正直そんなに睨まれても怖くない。
この人の耳ハイエナ系かな。いわゆる獣人って呼ばれる人たちだ。
「まだセレモニーも始まってねーのに、なんだ挑発しにきたんか?ガキが!あぁ!!」
そうか、侵入者が島の中心部のエボ・シティに入ってからセレモニーが始まるんだっけ?
現在、顔に傷がある男以外に、武装した男たちが数十人に絶賛取り囲まれ中である。
その多くは傷の男同様、様々な動物の耳を頭に生やしている。傍から見たら、テーマパークの耳の付いたカチューシャを着けたサバゲー集団みたいな。
スタジオ・ステアーズの放送で見慣れているはずなのに、目の当たりにすると、なんかコスプレ感丸出しで吹き出しそうになる。
訂正するが、強面のオジサマ達は決して怪しげな趣味でコスプレしているわけでは無い。コレが進化の塔エボリューション・タワーの名前の由縁となる現象の一つで、目の前に聳える巨塔、その内部のフロアを繫ぐ階段を登っていくと、何かしら塔によって人は《進化》させられるのだ。
何をどうやって人を進化させているのかは一般公表されていないのだが、ある一定の階数を登ることで何かしらの変化が訪れる…らしい。
目の前の、このオジサマ達の様にね。
その《進化》の殆どが動物特有の能力を手に入れるパターンが多いようで、ここに居る人たちも、おそらくその類いに入る。
ギフトと呼ばれる《進化》のタイプが犬なら牙や嗅覚が進化したり、猫なら俊敏性や爪の出し入れなど、クマやトラなど猛獣系ともなると筋力増強、体力増加、更に鋭利な牙や爪を備え、汎用性が高く優秀な能力とされチーム内でも重宝される。
ただ、ステアーズの上位ランカーなんかになってくると、そのギフトは動物の括りの外、アニメや映画で登場するようなお馴染みなデタラメでレアなギフト持ちも存在する。
なぜ、人が進化させられるのか?
その理由は解明されてないが、進化で得たギフトの能力を駆使しないと上階層へ登っていけないのが進化の塔なのだ。
二十年前、地球の周回軌道上に突如現れた巨大な円筒形の構造物、それは地球の引力にひかれ宇宙空間から勢いを落とすことなく大気圏に突入した。
国立天文台に観測されて十八時間後、巨大構造物は日本の上空にその姿を現した。
その質量から、衝突時に日本の大部分はその衝撃で甚大な被害が出ると、あらゆる専門家が未曽有の被害を予測し、国内だけでなく世界中が大パニックになったとか。
世界が固唾を呑んで見守る中、全長35キロメートル、直径6.4キロメートル、重量100億トン以上の質量の物体が太平洋の日本の領海内のこの島に落下。
しかし、巨大構造物は予想に反して、沿岸部に何の被害も出さないで静かに島に突き刺さったって話だけと、眉唾もんだ。
実際見てみても、目の前のアレが宇宙から飛来した物体だとは、にわかに信じがたい。
俺たちが生まれる前の話だからな。
異世界ではなく、宇宙から来た迷宮。
多階層で構築されたこの迷宮は、かつて一世風靡したダンジョン・ゲームばりのモンスターが徘徊し、未知の素材やテクノロジーなどのお宝もセットなわけで。
世界中が注目するこの進化の塔に、日本政府は塔に入場するための「ライセンス制度」を制定し、入場者の徹底管理を開始した。
そして、ライセンスを所持し上階層に上がる階段を探す者たちを、人々はこう呼んだんだ。
《ステアーズ》と。
俺たちは、この迷宮入り組む進化の塔の登頂を目指す「ステアーズ」になる為に進化学園に入学したわけで、オジサマたちにケンカを売りに来たわけでもない。
入学セレモニーの為、島の上空から侵入した俺は、膀胱は腫らして本能のまま公衆トイレに着地した同級生を待っているだけで…。
ただ、その場所が、侵入者役の俺たちをエボ・シティーで待ち構える予定の警備ステアーズの集合場所だったって事で。
獲物が向こうからやってきたものだから、オジサマたちが怒り心頭なのは否めない感じなのだ。
改めて自己紹介しよう。
俺の名前は天草天満、高額所得のランカー・ステアーズになって世界のセレブの仲間入りする予定の17歳。
進化学園の入学試験で第四席。幸か不幸か今夜のさらし者に選ばれた四人のうちの一人で、強面の武装動物の耳集団に取り囲まれ、今にもボコボコにされそうになってる…メガネ君が俺だ。
こんな俺にも、とっておきの秘密があるのだが、今はまぁ、伏せておこう。いろいろ諸事情があって簡単に見せれないものなんでね。
今はこの場をとりあえず穏便に済ませて、この状況を作った張本人が来るまで、時間を稼ぐのに集中しよう。
「まあまあ、そんなに目くじら立てんで下さいよ、先輩方」
誰も好き好んでこんな場所に降りて来たわけじゃない。
膀胱をパンパンに膨らませた小僧が、俺たちの計画を無視して暴走した結果がコレなんだから…と言ったところで引き下がってくれる感じでもないよな。
「お前、自分の立場解ってんのか!?」
「ええ、まぁ」
酒臭いんだよ、オジサマたち。
「じゃぁ、なんで侵入者が警備の集合場所に降下してんだっ⁉︎ナメてるとしか言いようがねぇだろうが!」
仕事中に酒食らってる割に、真面目なんですね。
自分たちは、新入生相手のチョロい仕事だとなめてるくせに、その相手が突然自分達の前に降り立ったものだからご機嫌が斜めなのは解るが、俺に言わんでくれ。
「理由は、後ろの奴に聞いて下さいよ」
「あースッキリした」
極楽極楽と言いながら、背後の公衆トイレから出てくるニヤ。
フライングスーツとヘルメットを脱ぎ捨て、タクティカルベストを着こんだ黒い戦闘服姿で、憑き物が取れた様な爽快な表情で現れる。
膀胱を襲う地獄の圧迫感から解放されて、夢心地なこいつが我らがエース、猫柳二夜。年齢制限がない進化学園に十四歳で首席入学を決めた俺たち新入生の第一席だ。
まぁ、見た目は幼さがまだあるが、身長170センチで手足が長くスマートで、サラサラな銀髪の美少年だ。
まだ、入学もしていないのに既にファンクラブまであるとか無いとか?
その反面、敵も多い…その理由は、まぁ、しばらく見てれば分かると思う。
「なんで天満も、アリスたちと同じ場所に降りなかったのさ?」
開口一番それかよニヤ。
これだけ大の大人たちか武装して俺たちを取り囲んでいるのに、まるで視界に映って居ないかのような完全な無視スルー。
「四人揃ってセレモニーをクリアするって決めたろ?お前ひとりじゃ無理だと思って心配して付いて来てやったんだよ」
「一人でも大丈夫だよー、俺強いし」
確信的に挑発的な微笑で、周りの大人達を見渡す。
「このガキッ、黙って聞いてりゃ!これだけの人数相手に余裕こいてんじゃねぇぞ!?」
ニヤの耳元で脅すように凄んで見せる。
恐喝に臆する事なく、マイペースに周りを観察。
ふぅ、と一息ついて。
「だってそうでしょ?———————。ステアーズフリークの天満がミーハーに騒がないってことは、当然この中にランカー・ステアーズは居ない。で、見たところおじさん達装備はバラバラだから企業のオフィシャルのチームでもない…でしょ」
傷の男を嘲るように、クスリと笑い。
「年齢は平均35から40歳、ステアーズのキャリアは5年から10年、年齢と服装から進化学園卒業生じゃない、学園生は中装備の戦闘服は定期支給されるからね。ってことは個人でライセンス試験受けたプライベーター(個人参加者)、日銭稼ぎの万年のCランクってところでしょ?」
コイツ・・・ワザと喧嘩売ってるなぁ。
俺は眼鏡の曇りをふき取り、掛け直し、一歩下がる。巻き込まれちゃかなわん。
オジサマたちの青筋がブチ切れる音が聞こえてきそうだ。
「ふざけるなっ!なら試してやるよ!セレモニーなんて俺たちには関係ねぇ、報酬は先にもらってるからなぁ!」
「やってやんよ!ガキ!」
取り巻きの男たちが一斉に抜刀。
「おらぁぁぁぁっ!!」
間髪入れず銀髪の無防備の少年に男たちは斬りかかる。
そこに手加減も手心も加わる事なく、命を奪う為だけに無情な刃が振り下ろされる。
「未成年に対して、容赦ないなぁ」
男たちの背後に突然現れたニアの声に、男たちが慌てて一斉に振り返る。
「ナニッ!」
「コイツ、ギフト持ちか!?」
男たちが狼狽する。
あぁー、この人たち今年の学園の新入生の半分くらいが、ギフト持ちだってことを知らされてないんだ…。
進化学園十周年を節目に、今年の新一年生はエボ・タワー解放したばかりの初期のステアーズ達から産まれた。生まれながらにしてギフトを得ている子供たちが集めてられた特別な学級なんだ。
だから俺は今年に合わせて入学したわけなんだよね。十七歳で入学って、中学でダブったみたいだが、違うのだ!声を大にして言いたい。入学時期を今年に合わせられた結果なんです!
というわけで、俺とニヤはステアーズの両親を持ち、ステアーズになる為に生まれたサラブレット言えるだろう。
当然、俺もギフト持ちだが、ニヤのギフトは桁が違う。
入試試験では学科と実技文句なしの満点、単純に強い。おまけに攻守万能だ。
「んじゃ、行くよ!・・・・大丈夫、痛いのは一瞬だから…クククッ」
ニヤの瞳が蒼く光った瞬間ニヤの姿が消え、取り囲んでいた男たちが次々と宙を舞う。
「あぎゃ!」
「ぐふっ!」
おそらく、ギフトは蒼く光るあの瞳、おそらく《神眼》だろう。ギフトの中では《魔眼》と並ぶ激レアな能力だ。
まるで蜃気楼のように掴みどころがなく瞬間移動し、あの細腕に似つかわしいくない凶悪なパワーで次々と相手の意識を刈り取る。
瞬く間に、数十人の男たちの素手でノックアウトしてしまう。
ニヤのギフトは単純に強い。
「テメーら・・・ナニ者だ・・」
「何者って?…ねぇ、今年の新入生だよ」
そんなわけで俺の本能が心で囁くのだ。こいつとつるんでれば、明るい未来が訪れる可能性がぐんと上がると。
エボを攻略するのには仲間が必要だ。
その仲間が強いに越したことはない。
「えっ・・とっ・・あれ・・あれれ」
ニヤは突然何かを思い出したかのように、戦闘服の上のタクティカルベストのポケットをまるで部屋の鍵でも探すようにポンポンしながら、明らかに動揺して探し物をしている。
「のぉぉぉぉぉぉ、俺っ装備忘れたーっ!!降りるとき安綱に蹴られたからっ!?」
確かに、尻を派手にアーミーブーツで蹴られてたからな。
「ってか、全員倒した後に装備が無いとかって…頼むぜ首席ー、お前次第で俺たちの生還率が変動するんだからさ。お願いだから自覚してくれ。」
「何言ってんのさ?天満だって本気出せば強いよ。出し惜しみしなければね」
したり顔で、組んだ腕でゴンゴンと肩にぶつけてきやがる。
「別に出し惜しみなんて…してねぇし」
出せないってのが本音だ。
「ま、いっか、早く行こうよ、ほら、おいてくよ天満」
ニヤは装備はすっかりあきらめたのか、鼻歌交じりに巨塔に向かって、ひとりスタスタと軽快に歩き出した。
「ちょっと待てよ!ニヤ!」
読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。