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プロローグ 降下直前

2020.12.12

プロローグの改編しました。

内容は変わってないですが、少しオープニングをわかりやすくしました。

キャラのやり取りも少し変更してます。

前より良くなってれば、幸いです。

 


今から20年前、宇宙から地球に向かって巨大な構造物の落下の可能性が大であるという世界を震撼させる衝撃亭なニュースが全世界を巡った。


 地球の軌道に接近中の謎の構造物は、長さ約35km、直径6kmの円筒型であるとアメリカのNASAが発表。

 総重量はおよそ見積もって、最低でも百億トンと判明するや否や、世界はまるで90年代のハリウッドの災害パニック映画の様に、あらゆる都市が大パニックに陥ったそうだ。


 これは現代史のテストで出たところだ。


 まぁ、今から20年も前の話だし、当時の状況なんてテレビの特集や学校で習った程度の知識しか無いので、何故、直前まで気が付かなかったのか理由はわからない。


 あらゆるニュースやワイドショーが、ヒステリックにこれから訪れるであろう大惨事の責任の所在を叫ぶ放送を繰り返した。


「なぜ、もっと早く発見できなかったのか!? 」ってね。


 大型の天文台をもつ機関やその国の政府がやり玉にあげられたり。

 それは何処に落下するのか? その被害はどのぐらいの規模と推計されるのか? 落下する前に破壊は可能なのか?

 …等々、さまざまな情報や憶測が錯綜する中、落下地点を独自に予測してなるべく遠くへ逃げようとする者や、地下シェルターが爆売れしたり、津波から身を守るため高所へ避難する集団が現れたり、はたまた宇宙へ脱出しようとする富豪まで居たとか? 



 そして、最終落下予定地点が発表されたのは、パニックを避けて国連が情報統制をかけたおかげで、衛星軌道上に構造物が突入してからの発表だった。

 

 落下地点は日本。

 本州のおおよそ中心部に落ちると予測された。

 親父いわく「日本は終わった…」って本気でアジア圏の人々は絶望したしたそうだ。


 落下直前に、当時の在日米軍と自衛隊の緊急発進スクランブルによる構造体へのミサイル攻撃で破壊が試みたが、ハリウッド映画の様にはうまくいかず作戦は大失敗した。


 世界規模の大惨事を誰もが覚悟し、祈りと絶望の中人々はその衝撃の瞬間を待った。


 結果は、なんてことない。

 何も怒らなかったのだ。


 人々の思いの全てを覆す様に巨大構造体は静かに、なんの被害も出さずに日本の南海域に浮かぶ離島に着陸した…ってのが事の顛末で、物語の始まりとも言える。


 島に聳え立つその構造体は、進化のエボリューション・タワーなんて呼ばれる事となり、観光客をはじめ、この塔に登るのに必要なライセンス試験を受験する為、世界中からこの島に人々が集まる世界で一番有名なスポットとなった。


 なぜかって?


 そりゃ、この構造体はいわゆるダンジョンと呼ばれる迷宮構造で、誰もが知るRPGの様に構内はモンスターが跋扈していて、人類が手にしたことの無い技術やお宝が隠されていたわけで…。


 そりゃ、想像しただけでも、人がわんさか集まるのは理解できる。


 ならず者や犯罪者、一攫千金を夢見る者が日本に山ほど入国してくるもんだから、慌てた日本政府が入国の規制かける。

 するとアメリカやロシアや中国が独占するなと口出してきたりで、世界情勢が緊迫しはじめた頃、満を持して日本政府は自衛隊と米軍の調査の後、塔がある島を限定特区として開放する事を発表して事態の収集を測ったのだが…、事態はさらに混乱。

 島には正規の入国ではない密入国者が大量に押し寄せるわ、無謀の塔登による死者が大量に出る始末。


 対応を迫られた日本政府が塔の入場にライセンス制を正式に導入し世界中から塔登者を正式に募ったのが塔が島に刺さって10年が経過していた。


 塔に登る為のノウハウを教える教育機関として誕生したのが《国営 進化学園》

 俺が春から入学したステアーズ養成機関だ。




『この島が進化島エボ・アイランドと呼ばれる様になって二十年。そして私たち進化学園が進化の塔に挑む階段を探す者「ステアーズ」を輩出し、塔に挑戦し続けて今年で十年という節目の年です! 』


 目の前の大きなモニターに繰り返し流される《進化学園》のPR映像。

「ねぇ、この学園PR何回目? ちょっとヘビロテ過ぎだって! もう何回目よーうんざりよ」

 俺の隣に座っている黒髪黒眼の安綱が、うんざりした声で呟く。

「進化学園は明るい未来と優秀なステアーズをこれからも育成していきますーって、私も覚えちゃったわ」

 安綱の隣の金髪碧眼のアリスがオーバーリアクションで嘆く。

「しょうがないぞ、なんせ今夜のスタジオ・ステアーズは進化学園の一社提供だからな」 

 そんなステアーズ・ライセンスを所得する為に、今夜は進化学園に入学が決まった俺たち新入生代表の入学セレモニーの独占生放送なのだ。

 


 現在PM19時 太平洋上空10.000m

 俺たちがこの映像を観ているのは、お茶の間でも、会議室でも学校の教室でもなく…。

 満月が浮かぶ雲海の上、航空自衛隊大型輸送機格納部でこの映像を見ている。

 小牧基地から離陸した輸送機は俺たち四人を降下地点に向けて飛行中なのだ。


 ハッチ内部の壁際に設置されたネット型の簡易シートに、降下用のフライングスーツにヘルメットを着用した俺たちが五度目の学園のPR映像が始まってウンザリしていると、輸送機がゆっくりと高度を下げながら旋回を始める。

 機体がゆっくり内側に傾く。


「見ろよ、いよいよ見えて来たぜ」

 傾いた機体の窓に目的地である島《進化島エボ・アイランド》が現れた。

 その島の中心部に突き刺さる様に聳え立つ。

 余りにも巨大な構造物とそれを囲むように乱立するビル群が異様な雰囲気を醸し出していた。


 巨大過ぎる塔が月明かりを遮り、天空にまで穿つ巨大な真っ黒な壁の様なシルエットが見えた。

 アレが問題の宇宙から飛来した巨大構造物、進化のエボリューション・タワーだ。

 旋回で角度が変わり、満月の月明かりで露わになった塔を見上げる。

「近くで見るとやっぱり大きいわね!エボリューション・タワー!」

「ねぇ!塔のテッペン全然見えないわ!」

 小窓に映る島の夜景と、巨大な塔のシルエットに圧倒される二人。

「直径6キロ、全長35キロの超巨大の円筒形の塔だからなぁー」

 女子二人が塔側の小窓に張り付いてるから、俺は見えないんだけどね。


 島の上空に差し掛かったということは、まもなく降下地点だ。


「ねぇ、改めて思うけど、なんでうちらがこんな高さから降下しなくちゃならないわけ? やっぱり海上からの方がよかったんじゃない?」

「嫌よー、三月上旬の夜間極寒ダイブも御免だわ」

「お前ら、降下直前で何言ってんだ? 今から降りる場所に比べたら、こんなの屁みたいなもんだろ?」

 流暢な日本語を話すアメリカ人のアリスと、小柄な安綱の女子二人の掛け合いに思わずツッコミを入れる。

 

 これから、俺たちは上空から島に不法に侵入する侵入者《役》として、島の警備《役》のステアーズ連中に追い回される事になっている。

 島で警備に見つかること無く潜入、そして目標地点に到達…その後、警備に捕まることなく島から脱出できたら任務成功というルールが、毎年恒例の進化学園の新入生入学行事として行われている。

 その様子を大々的に世界に放送するってのか恒例で、あの巨大な塔を登る為の知識と技術が学べる特殊な高校の…まぁ、特殊なイベントがこれから派手に開催される。


「屁って・・・女の子に変なこと言わないでよね」

「ホント、デリカシーの欠片もない、メガネのクセに知性も感じない、天満バカ丸出しだから」

 《屁》一文字でここまで言われる俺っていったい…。

「進化学園の入学試験上位四人が、このセレモニーに参加するって、試験前から知ってただろ? 何をいまさら言ってんだよ?」

「嗚呼ぁぁぁぁぁぁ!! もっと試験、手を抜くんだった」

「これって全世界同時放送でしょっ!? ネットにテレビにタレ流すんでしょ!」

「中継は、私たちが降下してからだよね?」

「生放送だから、くれぐれも放送禁止用語とか中指立てたりすんなよ」


「「するかっ!!」」

 同時に突っ込まれた。ちょっと緊張をほぐそうとしただけだろ。

「公開処刑にならないといいけど、まぁ、大部分の視聴者がそれを期待してるでしょうね」

 アリスが言う通り、毎年新入生がこのセレモニーで警備役のプロのステアーズ相手にフルボッコにされる姿が世界中の人に晒される。


『ハーイ! 新入生諸君! ご機嫌いかがかしら? 進化学園校長のカーミラ・D・サトウです』

 学園PRの映像が流れていたモニターに金髪ショートの若い女性が現れた。

 はっ? 今校長って言ったよな?

『改めて、今回のセレモニーについて説明させてもらいますね』

「今、この人校長って言ったよね? 若すぎない?」

「日系アメリカ人かな、流暢な日本語よねぇ」

 アリスよ、日本に来たばかりのあんたが言うかね。

 

『みなさんもご存知の通り、この宇宙から飛来した巨大なエボは、一昔前にテレビゲームで流行ったダンジョンの様に各フロアには未知の敵が侵入者を待ち構えています。しかし希少鉱物に地球外テクノロジーのオーパーツ等のお宝が大量に発見されるものですから、この島に一攫千金狙いの荒くれ者やら盗賊団の類いが方法を選ばず不法侵入者が現在も絶えないのが現状です』

 原稿を読むわけでもなく、つらつらと笑顔で校長は日本語で説明を続ける。


『毎年セレモニーでは、進化学園に進学を控えた新入生の皆さんが、この島に不法上陸する密入者の役で島に潜入し塔を目指してもらいます。その密入者を警備のステアーズが捉え、これを未然に防ぐというゲームを放送し、毎年の新入生の能力と我々ステアーズの防衛力を世界に周知してもらう目的に開催されているものです』


「嗚呼、うちらみたいな麗らかな美女が捕縛され、打ちのめされる姿をみんな望んでるんだわ」

「身ぐるみ剥がされて、露わになる白い肌ー」  

「きゃぁぁぁぁぁ、もうお嫁に行けなくなるぅぅぅぅ」

 校長の激励の言葉も聞かないで、女子二人が見つめ合って首を同時にかしげながら、両手をバタバタしておちゃらける。

 要は、島に無断で入るとこんな酷い目に合いますよって、世界に毎年発信してるわけだ。

 もちろん密入者側も警備側に対して攻撃可能だし、武器の所持も許可されている。


『それでは、まもなく放送開始です!皆様のご検討を祈ります!頑張ってください!』


 例年侵入者が死なない程度にフルボッコにされているんだが…。

「まったく、女子は作戦前だってのに余裕だな・・・なぁニヤ」

 ポンと、寡黙を貫いていた隣の男の肩に手をかけると、手にかすかな振動を感じる。

「んっ?」

 震えてやがる・・・・?

「おおー、なんだ武者震いってやつかっ!? おい二人とも、我が進化学園首席合格のニヤを見ろよ、相当気合入ってるぜ」

 ひとり会話に参加してなかった、ニヤに注目する二人。

 ん? ニヤの様子がおかしいぞ、なんか小刻みに震えてる様な…。

「ニヤくんどうしたの?」

「やっぱビビってるんじゃない、あぁーそれか高いところ嫌いなんじゃない?」


 ガクガク ぶるぶるぶる。

 おいおいおい、どうしたニヤ!

 そんな会話を余所に、ニヤの震えが最高潮になる。

 壊れたおもちゃかよって、突っ込みたくなる動き。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 ガチャガチャと、おぼつかない手でシートベルトを外し。

「オイオイッ!どうしたニヤ⁉︎」

「やっぱぁぁぁトイレっ!!」

 片手を挙げて、唾をまき散らしながら急に立ち上がる。

「緊急事態ですっ!!!!! 係員さーんっ!! すいませーん、降ろしてくださいっ!!」

「自衛隊機だから、係員さんは居ないぞーニヤ」

 漏れるぅぅぅぅと、股間を押えてもじもじしているニヤを、呆れて見つめる女子二人。

「ずっと我慢してたのね・・・」

「遠足じゃねーし、バス乗ってんじゃないのよ・・・」

「すぐに降ろしてもらえるわよ。ガンバ」

 可愛らしく、声援送るアリス。

「こいつより、うちらって成績下だったんだよね・・・」

 安綱は思わず頭を抱える。

「黙ってれば手足長くてかっこいいのにね」

 冷めた目でアリスは、生理現象と必死に戦っているニヤを見つめる。

「それは言わない約束な」

 同情して安綱の肩に手をやる。

 気持ちは凄くわかるぞ。

「おしっこぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 ハンガー内を、あるはずもないトイレを探し回るニヤ。

「ニヤ! そろそろ降下だからヘルメット被れよ! 」


『まもなく降下ポイントに到着です! ハッチオープンっ!!』


 オープン回線で、皆のヘッドセットにオペレーターの声が響く。

 赤色灯の回転とともに後部ハッチが開く。

『空挺降下準備良し』

 外気が構内に入り込み、轟音が響く。

『よーし坊主たち嬢ちゃんたち、行ってこいっ!!楽しみにしてるぞ』

 コックピットから激励が飛ぶ。

「よっしゃ、行きますかぁっ!!気合い入れろよニヤァ!」

 フルフェイスのヘルメットに装備してある通信機で会話するたびバイザーの口元が白く曇る。

 景気づけにバンッと背中を叩いたら、苦悶の表情で

「あうっ・・てってんまぁぁ・・・漏れるぅぅ」

 下半身に両手をやって苦悶する。

「ああー、悪い悪い・・・大丈夫かニヤ?」

 プルプル震える様は、生まれたての小鹿をイメージさせる。

「あんたも意地悪ねぇ、天満ぁ」

 アリスが意地悪な顔をして天満の脇腹を肘で小突。

「わざとじゃないってっ!!」


『死ぬなよっ!!放送見てるからな』『GO! GO!』

 装着したヘルメットから、通信で激が入る。

 自衛官が死ぬとか言わんでくれ。

「ほら、トイレまで超特急よ」

 股間を押えたままのニヤの背中に、無情な蹴りを入れて落とす。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 あっという間にニヤは、股間を押えたまま暗闇に吸い込まれるように落下していった。

「安綱も酷いなぁ、ニヤ、あれじゃぁちょっと漏らしちゃったんじゃねぇーか?」

「ふん、アイツには試験で負けてるからね、意地悪したくなるのよ」

「んじゃ、アリスまたあとでね」

 アリスに投げキッスのジェスチャーでそう言うと、安綱は日本刀を二本持って蹴り飛ばしたニアに続き、躊躇なく闇夜に消える。

「ではではアリス殿、我々も参りましょう」

 貴族が婦人をエスコートするように手を取り、アリスをハッチに誘導する。

「ふふふふ、ありがとうございます天満様」

 そして、パラシュートを搭載した高高度降下用スーツで順番に俺たちは暗闇に飛び込んでいった。


読んでくださってありがとうございます。続きが気になった方はブックマーク、広告の下の☆☆☆☆☆から応援していただければ励みになりますので、よろしくお願いします。



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