仲間
土煙がもうもうと上がる中、俺が何とか目をあけるとよくみしった顔が三つ
「やっぱさー、もうちょっと深さがあってもよかったんじゃない?」
「いや、こんなもんだろ」
「………」
「人を落とし穴に落としといて、その反応はないだろ」
まさか、生きてるうちに落とし穴に落ちる体験ができるとは思ってなかった
そんなものテレビの中のやらせ番組でしかみたことない
………っていうか
「この土煙、アスベストだろ」
この廃ビルは21世紀前半に建てられたものだから、これは紛うことなき石綿建築材である。間違いなく体に悪い
「ま、とにかく上がってきなよ」
この穴は深さ2メートル程だから上の人間が手を伸ばせば届くのである
「よっと……」
穴から這い出ると、目の前には僕らの基地が広がっている―――
部屋の広さは十畳程、中心にはテーブルとソファがおかれ、壁際には本棚と食器棚、シンク、机の上には一台のデスクトップパソコンがある
今では珍しくなった電球がこうこうと部屋を照らし、室内に暖かい雰囲気を醸し出していた
ここは俺たち「black crow」の拠点である
「black crow」は1年前、俺が立ち上げた怪盗集団。怪盗集団なんて大層なことを言っているが、大きな仕事をしたのはたった一度きり。一年前だけだ
それ以外は学校で没収された物を教師から取り戻すとか、猫探しとか……まあ、便利屋みたいなことをやっている
それでもメンバーのスペックは本物だ
机に向かってパソコンをいじっているのは高城正城。城が名前に二つもついてどっしりとしたイメージがあるが、実際身長は165センチメートル。痩せ型。と小柄な体型をしている
ルックスは上の上。爽やかなイメージを持つカッコイイという言葉がピッタリと当てはまる奴だ
正城は武術の達人でカンフーをさらに攻撃型に特化させた。とは本人談である
正城が手刀でスチール缶を切断した時は感心を通り越して呆れた
ソファに寝転んで本(おそらくゲームの攻略本)を読んでいるのは、今野理恵。身長は155センチメートルと小柄。
ルックスはかなりの童顔で身長のことも相成って中学生くらいにしかみえない。
運動神経はいいほうだが、彼女はハッカーと鍵師だ。
重度のネット中毒患者であり、その情報収集力は並はずれたものをもっている
そして、彼女にあけられない鍵はない。旧式の南京錠から最新鋭の網膜認証システムまでシステムに干渉してあけてしまう
趣味は女の子のくせにギャルゲー
ちなみに正城の彼女だったりする
理恵と向かい合わせのソファに座って紅茶を飲んでいるのは、島田由美。身長は正城とあまり変わらないが、何より目を引くのがその美貌である。
パッチリとした大きな目。小さい鼻。小さく張りのある唇。肩口まである綺麗な黒髪。100人中100人は振り返るだろうという美人だ
しかし、彼女は詐欺師。変装を得意として相手を騙すのである。
さて、俺は綾瀬和也。一応「black crow」のリーダーだ。ルックスも上の中と取り上げることもないぐらい平凡だ
では、何かすごい能力があるのか―――そんなことは決してない
本当に和也は普通の男子高校生だ
では何故そんな彼がリーダーを務めているのか
和也の役割はオペレーターだ。インカムを通じて実行中の情報のやりとりや、行動を指示する
そして、もうひとつ。作戦を立てているのは和也なのである
和也は学校の成績はあまり芳しくないものの、作戦的なものになると途端に頭が回る
ちなみに4人とも陽明学園の2年生だ
「部屋の中にまで罠張るのは卑怯だろ……」
和也は土埃だらけになったトレーナーをバッタバッタと払いながらボヤいてみる
ちなみにここに罠を張るのは正城の役割だ。正城はユニークな罠を次々に考えてくれる
……まさか部屋の中に落とし穴をつくるとは思わなかったけど………
今は巨大な板で穴に蓋がしてある
「ま、遅刻の罰ってことで」
「そうそう、当然の結果だよね~」
正城と理恵がニヤニヤしながらいう
「それに~これ実行しようっていったのユーミンだし~」
理恵は由美のことをユーミンとよぶ。話を振られた由美はというとさっきから一言も喋らず機嫌が悪い
「由美、何怒ってんだよ」
「別に……怒ってないわよ」
明らかに怒っている口調で由美がそっぽを向く
「ユーミンは体育の授業で邪険に扱われて怒っているみたいだけど。和也~何したの」
ニヤニヤしながら理恵が聞いてくる。体育?何かしたっけ?俺
「あ、まさかバスケといえば……王道のシチュエーション―――」
バスケの王道のシチュエーション?理恵がいうことはたいていギャルゲーまじりだからな……ああ、
接触プレーで胸にひじがあたったとかそういうことか
「ドリブルしたはずみでズボン降ろしちゃったのか!」
「そんなわけあるかー!!」
すかさず由美のつっこみがはいる。万に一つもあり得ないだろ。その事故は
「じゃあ何よ~。あ、ダンクシュートした瞬間にズボンが落ちたとか」
「あんたはどうしてわたしのズボンを下ろしたがるのよ……和也、あんた私にほとんどパス回さなかったじゃない」
「いや、でもそれは作戦で……」
「そんなことは分かってるのよ……」
確かに俺は試合中ほとんど由美にパスをださなかった
由美の運動能力はずば抜けているから、どうしてもマークがきつくなるのだ
で、それを逆に利用して囮にして、点数をとっていった
結果最後のあの場面、由美のマークが取れ、チャンスが生まれた
でも、それが分からない由美ではないと思うんだが………
「ははーん、な~る。ユーミンは和也に頼られなかったのが口惜しいんだね~」
「! 何言ってんの!そんなんじゃないわよ!」
別に、由美を頼らなかった訳じゃなくて、単純にリスクが小さい方法を取っただけなんだが……
「和也はもっと女心を分かってあげないとね~」
ニヤニヤフェイスに戻った理恵がいう
「さて、和也。今日の依頼はね………」
パソコンの前に座った正城が話を始める
「今日の依頼はこの近くにある竹山高校の生徒さんからの依頼だよ」
「お~期待できそうだね」
竹山高校は都下トップクラスの学校で、名門のお坊ちゃま、お嬢様学校でもある
理恵の発言はおそらく報酬についてなんだろうが
「それで?」
「うん、夜の繁華街で不良に手に持っていたものをすべてとられたんだって。昼間にここへやってきてこれをおいていったよ。」
正城が差し出したものは一枚の写真と茶封筒
写真には某有名メーカーの財布が写っている
茶封筒には5万円が入っていた
「前払いで5万。成功報酬でさらに5万払うってさ」
「おいおい、一体いくら持ってたんだよ」
報酬でそれだけだすということは、かなりの金額を所持していて、それをとられたことになる
「何かね~財布の中身より、財布そのものに思い入れがあるみたいだったよ」
和也の質問に理恵が答える
「金持ちの感覚はよくわからないわね」
由美はそういった。まあ、たしかに。でも、思い入れなんてひとそれぞれだし
「っていうか今日、平日じゃねえか。なんで昼間お前らがいて、しかも客がくるんだ」
「ぼくらも相手も自主欠席さ」
「………それで、依頼内容は財布の奪取か」
「うん。犯人の特徴もきいたしね。明日は土曜日だし、みんな聞き込みしてね」
そういって正城はみんなに犯人のデータを配る
「じゃ、今日はこれで解散にして明日の同じ時間、ここに集合ってことでいいか」
「「「了解」」」
和也がそうしめくくってその日はお開きになった
和也が家にもどってくると、アパートの近くの家が火事になっていた
「危ないなあ」
そんなことを思いつつ部屋に入る
和也は東京のはずれにアパートを借りて、一人暮らしをしていた
部屋の電気を付け、ベッドに寝転ぶと耳元で携帯のバイブ音がしている
フリップをひらくと、由美からのメールだった
「明日の聞き込み、一緒にいかない?」
俺は返信を打ち込み、風呂場へと向かう
その日は目が冴えて中々寝付けなかった……
と、いうわけでメンバーの紹介でした。
実はメンバーそれぞれまだ特技があったりします。
ではでは~