終幕
コン、コン
廃ビルの駐車場に靴音が響き渡る
「すいませーん」
和也が呼びかける
今日、和也他3人は田辺と任務清算に呼びだされていた
なぜか、メンバー全員という話だったのだが………
「ねえ、なんか……変じゃない?」
由美がそう言う
……たしかにそんな感じがする
変な違和感をほぼ全員が感じていた
なぜ、全員を呼び出した?
それもこんな場所に
………まさか、罠?
和也がこの違和感の正体に気付きつつあったとき
「おいっ!」
正城が声をあげた
その声に全員が構える
「……殺気を感じる」
「うん」
空間を静寂が包んでいる
「くっくっくっ………」
気付いた時にはすでに囲まれていた
しかも、こいつら………
「おいおい、ビンビンに殺気を感じるんだけど」
「ああ、殺る気マンマンだな、これは」
どうやら全員本気で殺しにきているらしい
人数は10人ちょっと
だが、全員ナイフや金属バットなどの武器を携えている
なかには……拳銃をもったやつもいるな
どうやら、罠だったらしい
「やべえな……こいつは」
―――!
和也が呟いた瞬間ナイフをもったひとりが襲い掛かってきた
「アアアアアア!!」
正城がそれを拳で迎撃する
「俺と由美、正城と理恵の二手に分かれるぞ! 互いにカバーすることを忘れるな!」
こんだけ人数がいたらやつらもそう簡単には銃は使えないはず
「和也!」
「おう!」
由美と背中合わせになる
これが一番安全で効率的だ
互いの背中を互いに任せる
バキッ
由美の右拳が顔面に決まった
「おらっ」
和也も襲い掛かってきたナイフの手をつかんで一本背負い
なるほど、こいつら殺る気はあってもプロじゃない
戦闘がそんなにうまくないのだ
「俺たちはな、こんなところでくたばるわけにはいかねえんだよ!!」
和也の拳が最後の一人の鼻っ面にめりこんだ
「ねぇ、和也………」
「ああ、やられたみてえだな」
「ってことはやっぱり………」
「ん、口封じだろうな」
どうやら田辺は和也達を捨て駒にするきだったようだ
本気で命を奪うつもりだったのだろう
「で、どうする?」
理恵がいやらしい笑みできいてくる
ふふっ
そうだな―――
「やられた分は……やり返さねえとな」
この日、和也は田辺カンパニーを訪れていた
「失礼しますよ」
そういって社長室に入ると田辺は予想外の来客にしばし目を丸くしていたが、すぐに取り繕う
「やあ、久しぶりじゃないか」
「そうですね。まさか、命を狙われるとは思いませんでしたが」
「……何のことかわからんね」
「まあ、いいでしょう。今日は別のお話があってきたんですよ」
和也はそう言うとポケットからフラッシュメモリーをとりだした
「これが頼まれていたデータですが……これ、脱税の記録ですよね」
「!!」
初めて田辺の顔に焦りと恐怖が表れた
「な、何を言ってるんだか。そんなハッタリが通用するとでも………」
「ハッタリじゃありません。中身、見ましたから」
「な、そんなはずはない! それは強行にプロテクトされているはず……」
理恵の前ではそんなものなんの意味もなさない
「残念でしたねえ。もうすでにこのデータは警察にわたっています」
「ふ、ハッ子供の言うことだ。警察だって信用するか……」
「ああ、言い忘れていましたが……私たちの信用している大人を経由して警察に情報がわたりました」
「!!」
田辺の顔に汗がにじむ
もう逃げ道がないことに気がついたのだろう
「田辺さん、あんたの会社は脅迫されていたんですよね。サンダー社に。
この脱税の件で。おかしいとは思っていました。新OSのデータを盗まれたから取り戻してほしいという依頼からして不自然でしたから。そんなものさっさと発表しちゃえばいいだけですし。
それに、こんな高校生にそんな仕事を頼むには理由があるはずです。
私たちは都合がよかったんですよね? 終わった後、始末するのに。
親をはじめ、身内と呼べる人間がほとんどいない私たちは」
そこまで言うとがっくりと肩を落としていた田辺はいきなり立ち上がると
「ハッハッハ」
笑い出した
「なるほど、見事だ。だが、ここに1人で来るのはいささか失敗ではないかね?」
すると部屋の壁が突然開き、何人もの黒服のサングラス男がでてきた
「君はここで死ぬんだよ」
田辺は勝ち誇ったような笑みを浮かべている
「……やれやれ、どこまでいっても小物だな」
和也が腰を上げる
「なんだと?」
「俺がここに1人で来るわけないだろ」
「!!」
バンッ
「警察だ! 全員武器を捨て、おとなしくしろ!」
部屋のドアが開き、何人もの警官が入ってくる
「田辺、脱税の疑いで捜査令状がでている、無駄な抵抗はするな」
そして、警察の捜査が始まった
「ああ、君にも話を………」
1人の警察官がそう和也に話しかけていた
正直ここにいると、和也まで話をする羽目になるだろう
「いえ、それには、及びませんよ」
和也はそう言って、窓から飛び降りた
10階から
「!!」
頭上からは何人もの驚いた声が聞こえてくるがそんなもの気にしない
ドフッ
無事マットの上に着地した
「「「おかえり」」」
三人の声が聞こえる
「おう、ただいま」
その声が合図となったように車が走り出す
これにて、一件落着
翌日の新聞の見出しはもちろん、その件だった
おそらく田辺カンパニーは倒産するだろうとも
今回の仕事はかなりイレギュラーだったが、それなりに楽しかった
それは、全員一致の気持ちだろう
ま、しばらくは休みたいけれど
それにしても、いよいよ暑くなってきた
季節は夏に突入してきている
とりあえず、ひと段落です
次はまた、趣向を変えた作品を書いてみようかと思ってます