人間の性はどうしてこう…
「ねぇ、成瀬くん。ちょっといい?」
「なんだよ……? 15文字程度の日本語で簡潔にまとめてくれ。今ちょうどいい場面なんだ」
「国語の問題じゃないんですよ……しかも、そんなの無理に決まってるじゃないですか!」
蘭が例に漏れず俺の隣で寝転んでいる。
ああ、L字型のソファを買っておいてよかった……おかげで窮屈じゃなくて助かった。
今日は金曜日。本来なら学校があるはずなのだが、高校の創立記念日らしく(初めて知った)休みになったようだった。金曜日、土曜日、日曜日──これが何を意味しているかと言うとつまり、最強の三連休が成されたということで俺たち生徒からすればこれほど嬉しいものはない。
自然と口角が上がる。
なんて素晴らしい日なんだ。無性にワクワクしてくるのは俺だけだろうか、前日休みでもなければ明日は学校だとか頓着する必要もない。表現し難しいが充足感に満ちたような感じだ。
(こういう日は家でのんびりと小説でも嗜みながら最高の休日を……)
と思っている、
思っていた……。
だけど──
なんで蘭がいるんだよ。おい。
俺は読み進めているページを指で綴じて、眉間にしわを寄せた。
「で、なんだ?」
「お腹すきました。何かないですか」
「机の上にクッキーがある。しかもチーズクッキーとチョコチップクッキー、生憎これ以上はない」
「はーい、ありがとうございます。そう言えば、知ってます? チーズクッキーってワインにとっても合うんですよ!」
そう言い、人差し指を立てる姿はゲームとかドラマでしか見たことがない。現実でするヤツっているんだ……。
「へー、知らなかったな。というか飲んでいるような口振りだが……って、まあいいか」
どうせいつもの冗談だ、とその発言にはあえて触れない。触れないようにしているのだ。高校生に酒を売るなど商売人として失格だし、行政庁はそんな店には今すぐ営業停止命令を出すべきだ。
そう思いつつソファの隣にある机の上を指さした後、俺は綴じていた本を開く。
今読んでいるのはアガサ・クリスティの長編推理小説、『ABC殺人事件』これが中々面白くて、自分の性格上ミステリーはあまり嗜まない口だが、先入観をもって読み進めていると後半のどんでん返しやミスリードだった事実に驚かされるのが魅力だ。特に伏線が散りばめられていたり、プロットがしっかりしている作品は素人ながら脱帽させられ────
「成瀬くん」
──って、またかよ……。
俺は振り返る。
「なんだ今度は」
「一緒に本読みましょうよ。私も愛読家なので」
嘘つけ。お前の口から本が好きだ、って生まれてこの方今まで聞いたことなかったぞ……。
それにしても、今日は妙に騒がしいと思っていたが一体どういうつもりなのだろうか。
「おい、さっきからわざと被せにきてるだろ」
「さっすが。よくわかりましたね」
俺は溜め息をついて、
「あのな〜……何しにここに来たんだよ。読みたい本がまだまだあるんだって」
「もちろん、すぐ終わる話ですから安心してください。そろそろ話す頃合いですから」
「…………話す頃合い? 一体何を」
訝しげに本を閉じて、蘭に目を遣る。
なんだよ。今までの会話全部茶番かよ。だったら早く切り出してくれっての……それに、早く帰ってもらわないと。以前にも似たようなことがあったがこういう状況は世の体裁的にあまり良いとは言えない。周辺には同じクラスの生徒たちもいるわけであらぬ疑いをかけられるのは後に辛酸を嘗めることになる。
それは嫌だ……だから、早く済ませよう。
最悪の想定が脳裏を過ぎる。
「気になること、ありませんか?」
クッキーをパクパクと口に頬張りながら訊ねる……貯蓄行動をするために、胡桃を詰めるリスみたいだ。
「…………? 気になること、って俺は特にないが……」
「ほんとですか? あるじゃないですか!」
「もったいぶるなよ……」
あまりにも言葉足らずでなんのことかさっぱりわからない。幼馴染とは言えど、俺はエスパーでもなければ心理学を履修しているわけでもないので高度な技術を求められては困る……。
「あの2人ですよ。星崎先輩と花嶋さんの関係、知りたくないんですか!」
──おお、なるほど……なるほど。
そういえば2日前にあったな……そんなこと。蓮と花嶋(同じクラスだがあまり知らない)が昇降口前で言い争っていたときだ。あの後、どういう関係なのかを蓮に訊いてはみたものの「うざい後輩」とだけ言い放っただけでそれ以上語ることはなかった。
あまり、他人の秘密を詮索するのは気が引けるからやめておこう──と言いたいところではあるが、やはり知りたい衝動が顔を出す。人間の性とはどうしてこう、理性に反してくるのだろうか。
「……まあ、正直。知りたいところではあるな」
「でしょでしょ。私もです!」
蘭は「なので」と話を続けて、
「作戦を考えました……! 名前をつけるなら『4人で遊びに行こう大作戦』です!」
「……やめとけ!!」
また余計なことを……。
嫌な予感がプンプンしてくる。
「わかりましたよ……でも、あの2人絶対なんかありそうですよね! なんていうか、言い合ってるけど仲良い、みたいな!」
彼女は上機嫌にそう言った。




