腰巾着なわけあるか
大体、入学初めと言うと体力測定が必ずしも存在するというわけで、やはり今年もあるらしい。
……ここまできたらもう、春の季語にしてもいいんじゃないのか、それでも誰も文句は言わない気がするけど?
「まじか、体力測定かよ……! 数学の授業終わって運動か、しんどいな」
「……え〜、いいじゃないですか! 鈍った体を動かす機会にもなりますし」
隣人の幼馴染は体の前に体操服が入った袋を抱えながら楽しげに笑みを零した。
俺は知っている。
……コイツは運動が得意なのだ、それゆえこれほど嬉々としているということに。
その反面、教室で担任から予定されていた体力測定を告げられた俺は言葉通り意気消沈していた。
「……ならねぇよ! 俺みたいなスポーツマンとはかけ離れた奴が急に体を動かすと、数日後に極度の筋肉痛が待ってるんだよ」
脱力気味に答える。
毎年恒例にあるこの行事に嫌気が差しているのもあるが、何よりクラスにあまり馴染めていないというのも起因しているかもしれない。
周りからの評判はと言うと『ただの美少女と席が隣のヤツ』と、そう単純に思われている。
いわゆる、腰巾着、金魚のフンなのか?
いやいや、いや……。心外だな、おい!!
前に二人で遊びに行ったときにもし、クラスメイトに会っていたら良からぬ噂が吹聴されていただろうから今思えば、危なかった……。
「えー……、そうですか? やっぱり一緒に運動部入ります?」
「いや、なんか穏やかじゃなさそうだから遠慮しとくわ……」
「むぅ〜」
……この腰巾着────実は、最近では何かと目立つこともあるわけで、世間曰く美少女と席が隣になった弊害らしく、それが意味するのは男子生徒からやっかみや疾視の対象になるということだ。
今にも殴られそうなのに同じ部活に入るとなれば、わかりきっていると思うが、それはもう穏やかじゃないだろ? そう思うと思春期の男ってなんて単細胞な生物なのだろうか……アメーバたちも今頃仰天しているに違いない。
机横に掛けていた鞄を取り、次の体育に向けての準備を始める。
「それにもともと部活は入る気ないしな……」
「……じゃあ、生徒会とかもですか? 蓮先輩がいるんだし入りやすそうですけど」
「生徒会は俺に一番似合わないだろ! その学校崩壊するだろ、多分」
俺は自嘲するように言った。
「…………んぅ、確かに?」
「って、おい……失礼だな……!」
留年した奴が生徒会とか前代未聞で、近年稀にみる意識の高さと現実が乖離した大バカものじゃないだろうか。
まぁ……、生憎入る気はないのでその不名誉な肩書きを背負わずにすむのだが。
俺が部活への無関心を示すと思い出したように、蘭は話を続ける。
「そういえば、前も思ってましたけど中学のときは成瀬くん、サッカー部じゃなかったですか? 経験あるし興味ないんですか?」
「それはそうだけど……別にサッカーが得意でもないし、かと言ってめちゃくちゃ好きってわけでもなくて、そこまで思い入れはないからなぁ……」
「かっこいいから入ってもいい気がしますけど……モテますよ、絶対に……!!」
「……そうか? よく言うイケメンに限るっていう話な気がするんだが」
「絶対そうですよ、かっこいいですし」
こちらを向いて前のめりになった。
目の前に蘭の顔が来る……近いな……。
というか、部活ってモテるのを理由に入るのか……。割と不純な選び方な気がするけど?
冗談かと思いきや、割と本気で勧めてきているのに俺はしどろもどろする。
……そうして、返答に困っていると
「やっほー、すーずーなちゃーん!」
パタパタと忙しなく軽い足音を立てて誰かがやってきた。
バンッと蘭の机を叩いたのに目を遣ると、そこにいたのは花嶋だった。
「う、うわっ! びっくりした!」
「それでそれで、何を話していたのかな……ムフフ、もしや、二人で内緒話かな? 私も混ぜてよ〜」
「違う違う……! そういうのじゃないから」
悪戯っぽく言う花嶋の誤解を解くように慌てて手をぶんぶんと横に振る。
「ん、そういうことにしとこう!」
いや、そういうことにしとくも何も本当に何もないのだが……!
忘れているのかわからないが、この人もあれやこれやと邪推できる立場にいない気が……。
────と、直接言うと怒られるから胸にしまっておかないといけない。
「あれ?」
二人の和気藹々とした様子を横目に見ていると、花嶋が後ろのドアを指差して心配そうに、
「礼斗くん……もう男子体育館に向かってるけど……行かなくて良いの?」
「え? どういうことだ?」
「いや、だって……ここで着替えるの!?」
俺は教室を見渡した。
って、男子が誰ひとりいねぇ……!
その代わりに女子たちが怪訝な顔つきでこっちを見ていた。ヤバいな、これ!
蘭との話に熱中しすぎて忘れてた、女子の更衣室は教室だったんだ。
まずい、まず過ぎる! このままじゃ現行犯逮捕で執行猶予なしの即刻、実刑判決だろ。
ラッキースケベ、ではなく。
アンラッキー実刑判決。
「──ッすまん、じゃあな!」
慌てた手つきで机の上の筆記用具、お茶など掻き集めると席を立つ。
さすがに少年院には入りたくないので、そそくさと後ろ扉から教室を後にした。




