第5話 革命の鼓動
資料室の照明は、いつもより少しだけ暗く感じた。
アリアは端末の前に座りながら、胸の奥のざわめきを抑えられずにいた。
(見たい)
昨日見た色彩が、頭から離れない。
ピンク、ブルー、黄色、ミントグリーン。
画面の中で笑っていた少女たちの姿が、まぶたの裏に焼きついている。
(あの世界を、もう一度)
アリアは周囲を確認した。
同僚たちは無表情で作業を続けている。
ミラは資料棚の整理をしていて、こちらには気づいていない。
アリアはそっと席を立ち、奥の立入禁止区画へ向かった。
◆
扉は今日も静かに佇んでいた。
昨日のように開いてはいない。
だが、アリアが近づくと、センサーが反応し、わずかに隙間が生まれた。
(呼ばれてる)
そんな錯覚すら覚える。
アリアは息を潜め、扉を押し開けた。
薄暗い空間。
古いサーバーの唸り。
乾いた空気。
昨日と同じはずなのに、今日は胸が高鳴って仕方がなかった。
アリアは端末の前に座り、震える指でファイルを開いた。
VIDEO_014
再生ボタンを押すと、画面がふっと明るくなった。
そこには――
原宿の街が映っていた。
色とりどりの看板。
奇抜なファッションの若者たち。
笑い声。
音楽。
風に揺れるスカート。
光を反射するアクセサリー。
アリアは息を呑んだ。
「すごい……」
画面の中の少女たちは、自由だった。
誰にも縛られず、好きな服を着て、好きな色を纏い、好きなように笑っていた。
(こんな世界が……本当にあったんだ)
胸が熱くなる。
涙が滲む。
アリアは画面に手を伸ばした。
触れられないとわかっていても、触れずにはいられなかった。
「私も、こんな服を着てみたい」
その言葉は、昨日よりもずっとはっきりしていた。
願望ではなく、決意に近い響きがあった。
(私も色を纏いたい。色のある世界で、生きてみたい)
胸の奥で、何かが強く脈打つ。
「アリア?」
背後から声がした。
アリアは凍りついた。
振り返ると、扉の隙間からミラが覗いていた。
「ミラ……!?」
ミラはゆっくりとアリアに近づいてきた。
「ここ、立入禁止だよ。どうして……」
アリアは言葉を失った。
喉が乾き、声が出ない。
ミラはアリアの肩越しに端末の画面を見た。
そして――
息を呑んだ。
「これ……地球の……?」
アリアは震える声で言った。
「ごめんなさい。見ちゃいけないのはわかってる。でも、どうしても――」
ミラはアリアの言葉を遮るように、そっと微笑んだ。
「綺麗だね」
アリアは目を見開いた。
ミラは画面に映る色彩を見つめながら、静かに言った。
「私、ずっと思ってたの。この世界って、何かが足りないなって」
ミラはアリアの手をそっと握った。
「アリアも、見つけたんだね」
アリアの胸が熱くなる。
涙がこぼれそうになる。
「ミラは、怖くないの?」
「怖いよ。でも……それ以上に、知りたい。この色がある世界を」
アリアは震える声で言った。
「私、もっと色が見たい。もっと知りたい。そして……いつか……」
ミラが優しく問いかける。
「いつか……?」
アリアは胸に手を当て、はっきりと言った。
「このステーションにも……色を広げたい」
ミラは驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。
「アリアなら、できるよ」
その言葉は、アリアの心に深く刻まれた。
◆
その頃――
資料室とは別の場所。
管理局の監視室では、ひとりの職員が端末を見つめていた。
不審アクセスログ:EARTH_CULTURE_ARCHIVE
アクセス者:アリア・セルフィス
管理局職員――イーサン・グレイは眉をひそめた。
「また彼女か」
画面に映るアリアの名前を見つめながら、イーサンは静かに息を吐いた。
(何をしている。アリア・セルフィス)
その視線は、まだ敵意ではなかった。
ただ、強い興味と警戒心が混ざっていた。
◆
アリアはミラと並んで立入禁止区画を後にした。
胸の奥には、昨日とは比べものにならないほど強い熱が灯っている。
(私、もう戻れない)
赤い布が、胸元で静かに揺れた。
それは、アリアの心に芽生えた色彩の革命の最初の鼓動だった。
キャラクター紹介
ミラ・ハート(19)【資料室の管理補佐/地球文化オタク】
性別:女性
身長:155cm
職務:資料室のデータ管理
趣味:地球時代の文化研究(秘密)




