第31話 最後のショー
中央制御塔の頂上は、静寂に包まれていた。
銀色の金属がむき出しの巨大な空間。
天井には無数の光パネルが並び、そのすべてが今は暗闇に沈んでいる。
アリアは最後の衣装を纏い、塔の中央に立っていた。
半透明の光繊維が風に揺れ、胸元の赤い布が静かに震えている。
(ここが、最後の舞台)
イーサンが隣に立ち、レオンとミラが後方で準備を整えていた。
若者たちは周囲の通路で見張りにつき、市民たちは塔の下に集まり始めている。
アリアは深く息を吸った。
◆
レオンが端末を操作し、叫んだ。
「アリアさん、準備完了です! 光制御中枢は、あなたの光を受け入れる状態になりました!」
ミラが続ける。
「アリア。あなたが動けば、塔全体が色に染まる!」
アリアは頷き、ゆっくりと一歩を踏み出した。
その瞬間――
――パァァァァァッ!
足元の床が虹色に光り、光が塔の内部を駆け上がっていく。
暗闇だった天井パネルが、ひとつ、またひとつと点灯し始めた。
青。
赤。
黄色。
緑。
紫。
色が、天井に広がっていく。
アリアは胸が震えた。
ミラが映像投影を開始する。
天井パネルに青空が広がった。
雲が流れ、風が吹き、光が差し込む。
続いて、夕焼け。
夜空。
星々。
海。
街の光。
市民たちが塔の下で叫ぶ。
「地球の空だ……!」
「こんな世界があったなんて……!」
「アリア、ありがとう……!」
アリアは涙をこぼしながら、光の中を歩いた。
そのとき――
塔の入口が爆音とともに破られた。
「アリア・セルフィス! 貴様の存在を抹消する!」
武装した管理局部隊が雪崩れ込んでくる。
イーサンが前に立ち、叫んだ。
「アリア! 続けろ! 光を止めるな!」
アリアは振り返らずに歩き続けた。
管理局の職員が銃を構える。
「撃て!」
――ダンッ!
銃声が響き、アリアの肩に痛みが走った。
「アリア!」
ミラが叫ぶ。
イーサンが怒号を上げ、職員に飛びかかる。
「やめろ!!」
レオンが端末を叩きながら叫ぶ。
「アリアさん! 光を……光を放ち続けてください!」
アリアは震える足で立ち上がった。
(痛い……でも、止まれない)
アリアは両腕を広げた。
衣装の光繊維が一斉に輝き、背中の光の翼が大きく広がる。
胸元の赤い布が風に舞い、その色が塔全体に広がっていく。
アリアは叫んだ。
「見て……! これが、色だよ……!」
その瞬間――
――ドォォォォォォン!!
塔全体が虹色の光に包まれた。
光は塔を突き抜け、ステーション全体へと広がっていく。
居住リング。
商業区画。
学校。
工場。
管理局本部。
すべてが、虹色の光に染まった。
市民たちが涙を流しながら叫ぶ。
「アリア!」
「色だ……!」
「世界が……変わる……!」
管理局の職員たちは圧倒的な光に目を覆い、武器を落とし、その場に崩れ落ちた。
管理局長が叫ぶ。
「やめろ……! 色を……止めろ……!」
だが、光は止まらない。
アリアの光は、管理局の銀色の秩序を溶かし、市民の心を解き放っていく。
イーサンはアリアの背中を見つめながら呟いた。
「これが……君の光か……」
◆
アリアは最後の力を振り絞り、塔の中央で立ち尽くした。
光が収まると、ステーションの空には――
かつて誰も見たことのない虹色の空が広がっていた。
市民たちが歓声を上げる。
「アリア!」
「ありがとう!」
「色を……取り戻してくれた……!」
アリアは膝をつき、静かに目を閉じた。
(これで……世界は……変わる……)
イーサンが駆け寄り、アリアを抱きとめた。
「アリア! しっかりしろ……!」
アリアは微笑んだ。
「……大丈夫……光は……もう……みんなの中に……」
そして――
アリアは静かに意識を手放した。
革命は終わった。
世界は、色を選んだのだ。




