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第1話 無彩色の世界

 アリアは、銀色のスーツのジッパーを胸元まで引き上げた。

 金属繊維が擦れる微かな音が、狭い個室に冷たく響く。


 毎朝のことだ。

 毎朝、同じ音を聞き、同じ重さを肩に感じ、同じ鏡の前に立つ。


 鏡に映る自分は、今日も昨日と変わらない。

 灰金色の髪を後ろで束ね、無表情のままスーツの襟を整える。


 ステーションの規定で、髪色は無彩色に統一されている。

 染め直しの周期が近いのか、根元にわずかな色の揺らぎが見えた。

 それを見つけた瞬間、アリアは胸の奥がざわつくのを感じた。


「行かなきゃ」


 自分に言い聞かせるように呟き、部屋を出る。


 居住区の通路は、いつも通り白と銀だけで構成されていた。

 壁も床も天井も、無機質な光沢を放つ金属で覆われている。

 歩く人々は皆、同じ銀色のスーツを着て、同じ速度で歩き、同じ無表情をしていた。


 アリアはその中に紛れながら、ふと視線を横に向ける。

 透明パネルの向こうで、子どもたちが感情抑制訓練を受けていた。


「怒りは乱れ。喜びは油断。悲しみは弱さ。感情は、社会の安定を脅かすものです」


 教師の声が淡々と響く。

 子どもたちは小さな声で復唱する。


 アリアの胸が、きゅっと締めつけられた。


(どうして……こんなに息苦しいんだろう)


 理由はわからない。

 ただ、胸の奥にずっと小さな棘のような違和感がある。

 誰もが当たり前だと思っているこの世界に、アリアだけが馴染めない。


 資料室に着くと、いつものように無表情の同僚たちが端末に向かっていた。

 アリアも席につき、データ整理の作業を始める。


 単調な作業。

 規則正しい光。

 冷たい空調。


 すべてが整いすぎている。


 ふと、アリアは照明が反射した金属棚に目を奪われた。

 光がわずかに揺れ、銀色の中にほんの一瞬だけ、淡い青のような色が見えた気がした。


「……?」


 瞬きをすると、もうその色は消えていた。

 ただの銀色の反射に戻っている。


(今の……何だったんだろう)


 胸の奥がざわつく。

 理由のない不安と、理由のない期待が入り混じる。


 そのとき、資料室の奥にある立入禁止区画の扉が視界に入った。

 普段は誰も近づかない、古いサーバーが眠る場所。

 地球時代のデータが封印されていると噂されているが、真偽は不明だ。


 アリアは視線をそらした。

 見てはいけないものを見たような気がした。


(あの扉の向こうには、何があるんだろう)


 胸の奥の棘が、少しだけ疼いた。


 その瞬間、資料室のスピーカーが鳴り、無機質なアナウンスが流れる。


「本日も規律ある行動を。統一こそが、私たちの未来を守ります」


 アリアは深く息を吸い、端末に向き直った。

 しかし、胸の奥のざわめきは、消えるどころかますます強くなっていく。


(この世界は、何かが欠けている)


 その“何か”が何なのか、アリアはまだ知らない。

 けれど、今日という日は、確かにいつもと違っていた。


 彼女の世界に、ほんのわずかに――

 色の気配が差し込んだのだ。

 キャラクター紹介


 アリア・セルフィス(20)【カラー革命の火種/色彩に目覚める少女】


 性別:女性

 身長:162cm

 髪:銀色スーツに合わせて染色義務があるため、無彩色の灰金

 目:淡い青(ステーションでは珍しい)

 家族:両親は管理局の下級職員

 職務:資料室補助スタッフ(データ整理・搬送)

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