2 ラサリオン殿下とラシアス、初対面です
アーク・シュライヤーと、ラルフアーサ・ザルカスは、現在、主に貴族の子弟が入学するミカエル大学に在学中。
勉強に熱心な学生ではないので、講義への出席率は高くはない。大学に通うより九宝館に通うほうが、ずっと多い。
ラシアスは、ラグーン帝国大学への飛び級による在学中、十七歳で高等官任用試験に合格。そのまま大学生を続けていたが、大学卒業後は参政官として職務に精励している。
したがって、入り浸っているという形容詞がふさわしいと思われるアークとラルフアーサほど、九宝館に通っているわけではない。
が、それでもある程度の頻度では、九宝館を訪れているのであった。
切っ掛けは三年前、ラシアスが高等官任用試験に合格した二年後、ラシアスがまだラグーン帝国大学古典学部に在学中のことだった。
ラシアスは、ラグーン帝国大学で「古典研究会」というサークルに所属しており、熱心に活動していた。
そのラグーン帝国大学古典研究会の年に一度の総会で、やはりそのサークルに所属していたラサリオンに話しかけられたのだ。
ラサリオンはその時、十六歳。やはり飛び級によりラグーン帝国大学古典学部の学生となっていた。
「ラシアス殿」
総会後の立食宴会の席上である。
ラシアスが振り返ると、そこに皇帝ナル・アレフローザの異母弟ラサリオンが立っていた。
「はい、殿下」
「私は、この古典研究会、さほど熱心な会員というわけではありませんが、ラシアス殿のこの会でのご活躍ぶり、感心して拝見しておりました」
帝国において最優秀の学生が集うとされているラグーン帝国大学。その大学にあって、古典研究会は、百年以上の歴史と伝統を誇るサークルであり、現役サークル員による厳重な入会審査がある。
ラシアスはその古典研究会においても、その学識において、一目おかれていたのであった。だいいち、大学在学中で、既に高等官任用試験に合格している人物は、ラシアス以外にはもう一名いるだけであった。
そして十六歳のラサリオンは飛び級によるラグーン帝国大学入学前に、既に古典研究会への入会が許可されていた。
「それは恐縮でございます。殿下がいかに優秀な方であられるかということは、これまで何度か聞き及んでおりましたので、機会があればお話させていただきたいなあと、以前から望んでおりました。お声をおかけいただき、ありがとうございます」
そのような挨拶から始まったふたりの初めての会話は長く続いた。
ラサリオンはあまり語らない。聞く側にまわることが多かった。
この方は天性の聞き上手だな。会話が始まって、ラシアスは直ぐにそのことに気付いた。
相槌の打ち方が絶妙で、表情が実に温かいのだ。
が、その少ないラサリオンの語る中で、ラシアスは、高等官任用試験の際にラシアスが提出した帝国の政務に関する論文も既に読んでおり、感銘を受けた、と述べた。
そのことにラシアスは感激した。
そして話を進める内に、ラシアスは、主に自分の語ることに対するラサリオンの相槌の打ち方、短く要を得たコメントによってだが、ラサリオンが、自分と遜色のない古典に関する学識を有する人物であることが分かった。
自分と同世代でそのような人物に出会ったのは、ルーレアート以来のことだった。
いや、厳密に言えば、ラサリオン殿下はラシアスより三歳年下なのだった。
そしてそれは、ラサリオンにとっても同様だった、いや、そのように感じた人物に出会ったのは、初めてのことであった。
ふたりの話は多岐に渡った。
ラシアスは、自分がルーセイラ皇后陛下のファンであること、十二歳で初めてその姿、十九歳だったルーセイラを間近で拝見して以来、憧れ続けていることまで、語ってしまった。
ルーセイラは、そのふたりが初対面の会話を交わした時点では、二十六歳だった。
ほっそりとされていた七年前に比べて、ほんの少しだけぽっちゃりされてきたと感じていたが、その美しさは少しも損なわれていない。むしろ、ボリュームを増した分、その美しさは圧倒的なイメージになってきている。ラシアスはそのように思っていた。
その話もラサリオンの興味を惹いたようであった。
ラサリオンは珍しく、そのようなことを人に語るのは、彼にとって初めてのことなのであったが、自分の女性の好みをラシアスに述べた。
色々と考察を重ねた末、
「未亡人」という言葉、概念が、最も自分の官能を刺激することが分かった、と。
「人妻」に憧れ続けているラシアスにこの面でも親近感を持ったのかもしれない。
そしてラサリオンは、自分も十六歳になったし、最も好ましいと感じる女性の概念に関する考察の結論も出たので、近く行動を開始すると、ラシアスに言った。
ラサリオン殿下の女性のご趣味。マニアックだなあ、とラシアスは思った。
そして、様々な女性に関する言葉、概念を比較、検討した結果、その結論に至ったというその思考経路。ラシアスは面白いと思った。
この方と親しくさせていただければ、これから色々楽しいことが起こりそうだ。
ラシアスはそう思った。




