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アンブル リーゼの魔法使い

 《アンブル•リーゼ 甘味処》と掲げた看板が青空に映える。

 琥珀と颯をフランス語に訳した店の名前にした。

 安直ではあるが、この世界にはない響きに信長も素敵ですと感想を述べていたので、受け入れてもらえるだろう。

 

「さて、開店準備オッケー!」

「おぉ、まだ開店まで時間あるのにお客さん結構並んでるなぁ」


 今日は二人のお店の開店日である。

 

 国王と大神に会ったあの日から半年、色々と面倒なこともあったがようやく店を開店することが叶った。

 いつかくるレベルアップに備えるため、そしてさらなる経験値の会得のため。


 そして、甘味をこのオルランドに広めるために。


「本当のスイーツってもんを教えてやるわっ!」

「この世界の人達をぎゃふんと言わせてやるわよ!」

「お二方とも、荒ぶりすぎですよ。お客様がいらっしゃるのですからいつも通り愛らしく笑ってくださいませ」


 勢い勇む琥珀と颯を、ネロが諫める。

 二人で切り盛りできるつもりで準備を進めていたのだが、護衛と手伝いが出来る人物が必要だとアルバイト要因の面接を事前にしたのだが、ことごとく面接官の信長が断り続けたのである。


 面接する時には、特に後ろ盾もない女二人が切り盛りする店では人が来ないであろうと、織田家が出資して、国王のお墨付きである店であることも同時に宣伝したところ、老若男女かなりの人が集まってしまったのだ。人数が多すぎて三日ほどに分けて面接したのだが、初日から店でアルバイトしたいという人よりも、織田に媚びを売りたい者や、国王への取次を願う者ばかりで本当に仕事をしたい人などあまり集まらなかった。

 見かねた信長が面接に同席したのだが、織田の家に媚びを売るものや国への取次などどうという事もなくあしらえるのだが……。


 琥珀と颯に色目を使う者まで出てきてそれはもう、信長も気が気ではなかった。


「ちゃんと仕事したいってい人いるのかなぁ……」


 と半ば琥珀が諦めていた時に、ひょっこりとネロが顔を出したのだった。

 

「織田の使用人を止めるつもりはないのですが、もしお手伝いが必要であればわたくしがお手伝いさせていただくことは可能でしょうか」

「「渡りに船とはこのことだ!!」」


 ネロならば知り合いでもあり、織田の使用人である。

 織田の使用人は、それぞれの分担の仕事以外にも護衛も出来るよう常日頃より鍛えているというではないか。二人にとっては本当にありがたい事である。


「そう……ですね。本当は俺が手伝えればいいのですが……」

「いやいや、信長さんにそこまでお手伝いさせるわけにはいかないですよ」

「そうそう、信長さんが店に出たら国中の女の子が店に押し寄せてきてアタシ達が睨まれちゃう」


 冗談だけれども、ありうる話である。信長はこの国の女性に物凄く人気があるのに自分自身はあまりそれを理解していないところがありすぎるのだ。


「そんなことありません。それよりも琥珀さんの可愛らしさで男性客が増えすぎることが懸念されます」

「相変わらずアタシの事は眼中なしよね」

「えっと、颯さんも頑張って欲しいです」

「相変わらずアタシには雑ね」


 開店準備はすでに終わり、あとはオープンするだけで少しだけ時間がある。

 ふと琥珀はこれまでお世話になりっぱなしの信長に喜んでもらいたくて一つ提案をした。

 

「最初のお客様は信長さんがいいです。なにた食べたいものはありますか?」


 信長は考える事なく速攻で答えた。


「ここはやはりクレープが食べたいですね」

「常連客になってもらえると嬉しいですけど、食べ過ぎて太らないように気をつけてくださいね」


 ふふふと楽しそうな琥珀が笑いながら、クレープ生地を焼く。


 店の外までいい匂いがするのか、窓の外から店内を見ている人が沢山いた。


「トッピングは生クリームにチョコでお願いします」

「お任せあれ!」


 琥珀は焼けた生地にトッピングしていく。

 その姿を信長はただ黙って愛おしそうに見ていると、出来上がったのか目の前にクレープを差し出す。


「どうぞ召し上がれ」

「はい。いただきます」


 信長は渡されたクレープを大事に口に含むと、とても柔らかく幸せそうな笑顔で美味しいですと呟いた。


「いやぁ、まだまだ故郷の味は再現できないけどこれから要研究よ。はい、二人にはこれ」


 颯が力強くこれからのことを口にすると、信長と一緒に店内にいた佐久間と柴田に先着順で配る予定のプリンを渡す。


「あ、プリンも俺食べたいです!」

「信長さんは欲張りですね。はい、どうぞ」

「そのうちクレープのプリントッピングなんてのもやりたいね」

「メニューも夢が広がるわね!!」


 見守るだけではなくちゃんと手助けしていけるように、信長自身も力をつけなくてはいけない。

 さらに琥珀との距離ももっと縮めていきたいが、それはまだまだ時間がかかりそうだ。


 しかし、まだ始まってまもない夢に思いをのせて二人が楽しそうにしているのをみると、同じように楽しい気分になる。


 きっと二人なら……


「アンブル リーゼの魔法使いのお二人なら、きっと叶えられますよ」

「うわ!なんか素敵な言い回し。信長さん、ありがとう」


 さて、そろそろ開店の時間である。


「まだ肩書だけの魔法使いだけど、早く本物の魔法使いになれるよう、頑張ろ、颯」

「もちろんよ、琥珀! さ、とりあえずはこのお客さん達に満足してもらうわよー」


 アンブル リーゼの甘味処に、二人の魔法使いがいる。

 

 数年後、その二人はこの国に富と栄光と、甘いスイーツをもたらし人々を幸せいっぱいにしましたとさ。


 おしまい。

この回でおしまいとなりますが、思うところがあって完結の設定はしていません。

途中の話や、今後の話を書く機会があればちゃんと書こうと思っています。


お読みいただきありがとうございました。

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