【B】サテライト・ガール
この小説は【対戦カードB】の組み合わせです。
対戦相手は『百年遅れのノストラダムス』となります。
以下企画サイトのルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
・ルールを守らない書き込みは企画ルールを知らないものとして、集計から除外します。
・投票は特設掲示板から行います。
移動は小説トップにある「投票・感想用掲示板」からお願いします。
・あらかじめ各SSタイトルのスレッドを立てておきますので、そこへ書き込みをしてください。
・投票する際は本文の最初に【投票】と書き込みを行ってください。
(もちろん投票だけでも構いませんが、感想なども作者の方も喜ぶと思います)
・また投票はしなけど一点入れたい、
という場合はやはり冒頭に【ナシ】という書き込みを行ってください。
(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
・基本的に『小説家になろう』のサイトにある感想欄は使用いたしません。
夜空から月が消えて、もう三日が経とうとしている。
最初は世間で大いに騒がれた月消失だったけれど、困ることと言えば夜道が暗くなることくらいのもので、三日経った今は、僕は普通に大学に通う日々を送っている。
この年齢にもなると、月なんてほとんど見上げる機会がなかったし。僕が気付いた時には月の姿は既に無く、今更ネットで画像を探して、思い出すだけの存在になっていた。
おそらく僕の知らないところで、様々な論議が為されているのだろうが、平凡な一塊の学生に過ぎない自分に何が出来るわけでもない。
したがって、僕がしてやれるのは無くなった月を忍んで鍋を食べるくらいのものである。
何故鍋かって? すみません、僕の趣味です。
「う~、寒ぃ~。誰だ、地球温暖化唱えてる奴!」
季節はまだ、秋に入ったばかりだというのに。
月曜、時刻は午後七時。学校帰りにスーパーで材料を買い、身を縮こませながら一人暮らしの部屋に急ぐ。
空の透明度は高く、数多の星が瞬いているけども、月はやはりそこに無く、何と言うか、空虚な気持ちになった。あっ、これがセンチメンタルってやつだろうか。
何にしても、星灯りだけでは心許なく、歩く先は闇に満ちていた。
だから、それを踏むまで気付かなかった。
「ふむぎゅっ」
足元から奇声がした。
「ん?」
女の子がうつ伏せにぶっ倒れていた。
「何事!?」
「うぅ……お腹が……」
しまった僕、腹を踏んだ!? いや、僕が踏んだのは頭だったはず。セーフセーフ!
「と、とりあえず119番! あれ、でも待てよ、最近って無闇に救急車呼んじゃいけないんだっけ!?」
迷っていると、その女の子に足を掴まれる。不思議な色合いの瞳をうるうるとさせて、
「お腹が……」
「あっ、もしもし? すみません、道端に女の子が倒れているんですけども」
すぐに電話した。神速で電話した。異論がある奴は出て来るがいい! ……大人しく殴られますので。
「お腹が~」
「ちょ、ちょっと待って! 僕は無実だ! 誓って腹は踏んでない! 誰だ全く君みたいな美少女踏んだ奴!」
うるさいっ、頭はセーフなんだよ! ほら、ドッヂボールの判定も頭はセーフだろ!?
「おーなーかーがー」
「すみません踏みました! 間違いなく頭踏みました! 僕が犯人ですっ!」
「減りました……」
「どんな罰も受けるから許して下さい! そうだ踏まれましょう! 頭踏まれましょう! それでどうかお許しを……へ?」
ぐきゅるるるるぅ~。
女の子のお腹が、大きく鳴いた。
鍋の中身が一瞬で無くなった。ちょっと冷蔵庫に飲み物を取りに行った間の出来事だった。
「え? 僕の鍋は?」
「飲み干しました」
部屋に連れ帰った女の子は整った顔立ちの口元に葱をくっ付けたまま、そう言った。
「飲み干した!?」
鍋の下を見る。ガスコンロの火は先までと同じく、付けっぱなしになっている。
僕は思い出す。鍋は湯気を立てて煮えたぎっていた。ぐつぐつ。
……。
………。
…………中身は最初から入ってなかったことにしよう。
「で、とりあえずお腹一杯になってもらったところで本題だけど」
「はい」
思考放棄して、僕は女の子の向かいに正座する。
「何であんなところに倒れてたの? 行き倒れってわけじゃないよね?」
「行き倒れです」
嘘付け。僕はこんなに綺麗な女の子が行き倒れているのを見たことがない。
女の子の髪は白銀で、部屋の安っぽい蛍光灯の明かりを受けてさえ、きらきらと宝石のように輝いている。肌も白く、くびれる所はくびれ、出るとこは出ている。どこかのお嬢様か何かなのだろう、多分。行き倒れにしてはスペックがあまりにも高過ぎる。
「私は、宇宙から家出して来たんです」
なるほど、家出か。やはりお嬢様となると、親から色々と拘束を受けるんだろう。そうか、へぇ……んん?
「ごめん、よく聞き取れなかった。どこから家出して来たって?」
「宇宙です」
女の子は安っぽい蛍光灯を指差し、
「私は、お月様ですから」
「え~っと、1、1、0、と。……あっ、警察ですか? 今ですね、僕の家に電波なこと呟く不審な女の子が」
「困ります」
女の子は僕の携帯電話を奪うと、ぐわしゃあ! と握り潰し、粉砕してみせた。
「ちなみに私の握力は、地球重力の約六分の一です」
「そっかぁ、君はお月様なんだぁ。うん、僕は微塵も疑ってないよ?」
宣言しよう。僕は拳銃を突きつけられたら犯人側に寝返るタイプだということを。
「で、私が宇宙から家出をしてきた理由なのですが、最近、自身の存在価値に疑問を持つようになったからなんです」
「はあ、存在価値」
「太陽があるじゃないですか」
「ありますね」
「私はあいつが大嫌いなんです」
あれ、話の主導権がいつまにか逆転してね? とか思うのだが、地球重力の六分の一に反論出来る奴がいたら、是非出て来て欲しい。喜んで変わってあげよう。
「恒星っていいですよね。自分から光放って、自己主張出来て。それに比べて私は、太陽の光の反射役に過ぎませんし。しかも惑星じゃなくて、衛星だし。この間ね、神様にお願いしたんですよ。そろそろ私も惑星に昇格させてもらえませんかね、って。そしたら、あのクソジジイ、何て言ったと思います? お前が惑星になってどうする気だ、地表面でウサギでも飼う気か、ですよ? そりゃあ家出もしたくなるってもんですよ。それからですね――」
膝を抱えてぶつぶつと愚痴を吐き出し続ける女の子。
あれれ、おかしいな。僕が最初に彼女に抱いたイメージが、どんどんと崩れて行くんだけど。
それから一時間、二時間と愚痴は続くわけだが、その頃には僕の額から嫌な汗が出始めていた。
「ちょっと、あなた、聞いてます?」
「聞いてます聞いてます!」
この状況はマズい、と全身が訴えていた。何がマズいのかと言えば、いつの間にか女の子が横にいて、指を絡めて来ていることである。
どうやら女の子は電波系の上にヤンデレであるらしかった。
後から振り返ると、この時の僕は相当に混乱していたんだと思う。状況を打破する為に必死だったのだ。
「……確かに、僕は今まで月を意識したことはなかった。だけどやっぱり――」
言っておくが、断じて彼女の話を信じたわけではない。
「夜空に月がないと、寂しいよ」
全力で逃げただけだ。
ひょっとしたら、彼女は本当に月であったのかもしれない。
何故ならば、あの逃げ台詞を言った翌日に、夜空に月が戻って来たからだ。
女の子は「仕方がないので、あなたの彼女になってあげます。もしもあなたが浮気するようなことがあれば、地球に激突して私も砕け散ります」と大災害予告を残して去って行った。要するにあなたを殺して私も死ぬ的なアレである。夜道では本気で背後に気を付けようと思う。
しかし、数日後に僕の生死どころか人類の生死に関わる問題が起こることとなった。
今度は太陽が空から消えてしまったのだ。
騒ぎはもちろん月の比ではなく、世間では地球の終わりだとか囁かれている。
で、そんな中、今日も僕は鍋の材料が入ったビニール袋片手に、家へ向かっている。
月の時みたいに今回も何とかなるさ、というようなポジティブシンキングではなく、死ぬ前に腹一杯好物を食べておこうというネガティブシンキング故である。
そして、僕は道端で一人の女の子に出会うわけで。
「よう、少年」
真っ暗闇に閉ざされた街だというのに、燃えるような赤髪の彼女は、眩いばかりの笑顔をこちらに向けて。
「月が惚れたってのは、あんたかい?」
どうやら地球の命運は、僕の手に懸かっているらしかった。




