【A】月のいきもの
この小説は【対戦カードA】の組み合わせです。
対戦相手は『毎年、名月の夜は』となります。
以下企画サイトのルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
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(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
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月面調査に行ったはずのマイケルが帰ってこない。宇宙ステーションの話題は、三日ほど前からそれで持ちきりだった。それが今日になって、突然電報が入った。月面へ着陸したと思われるマイケルの宇宙船からの信号だった。生存が確認されたことにより、クルーはひとつの佳境を越えたと安堵の息を漏らしていた。
「一体マイケルはどうしたんだ。予定されていたカメラは?」
「どうやら故障で失ったらしい。それに、電報の中にはこんな一文があったぞ」
マイケルの同期である日本人の木村が、渡された資料に目を通すと、腹からこらえきれない笑い声を上げた。
「はっはっは! マイケルは何をいっているんだ。月の生物に手暖かく歓迎を受けたので、連絡が遅れただと?」
「どうやらそのようだ。この報告を受けて、上が第二次調査隊を月へ送ろうとしている。お前にその矢が立つかもしれないぞ」
「ほう、それは面白い。俺がこの目で直接見てこようじゃないか」
「どうやら月の生物に手土産を持っていくらしい。見てみろこのリストを。用意するのも一苦労だ」
紙面には地球上のさまざまな美味、珍味と呼ばれる高級な食材が並んでいた。木村もこれには目を丸くし、「冗談だろう?」とクルーに顔をでかくして聞いた。クルーは「そうだったらこの料理、全部食ってやるよ」とおどけてみせた。
しかし、どうやら全ては真実だったらしく、木村は翌日上司に呼ばれると、月面調査隊の一人として明日すぐにでも出発してくれとの命が下ったのだ。当然、手土産にとコンテナには大量の食料と美術品が積まれた。宇宙服を身に着けた木村はそれを横目に見て、本当に月に生物はいるんだろうな、とここにはいないマイケルに恨み言を吐いた。
月面調査船は予定通りに出発し、ほどなくして月面に到着。数年前は遠い光景だったのに、今では旅行気分だ。ありがたみのまったくない月の感触を宇宙服越しに確かめて、木村を含めて三人のクルーが月面に降りた。
するとどうだろうか。月面荒野の向こうから、ひょこひょこと何かがやってきた。
「おお、あれは兎か?」
長い耳に白い体。くりっとした丸い目は、まさに木村の言う兎そのものだった。だがしかし、その巨躯といえば、身長百八十を超える木村の腰元までくる大きさ。目の前まできてようやくその全貌を知り、木村は少しのけぞった。
「ようこそいらっしゃいました。『まいける』からあなたたちのことは聞いておりました。どうぞこちらへいらっしゃってください」
どうだろうか。実にしっかりした地球の言葉を喋る。木村はクルーと一度顔を見合わせた後、とりあえず地球の土産を渡すためにコンテナを開け、食料の数々を贈呈した。
「これはご丁寧に。我々も地球を代表しておもてなしをさせていただきたい」
「ありがとうございます。月は食料に不足していて住みにくい。こんな美味なものをまた用意していただけるなんて、地球はなんていいところなのでしょう」
「どうぞどうぞ。友好的な関係を築いていただけるのならば、我々はいくらでもこんなもの用意いたしましょう」
「本当ですか? それはありがたい。今度こちらからも取りに行かせます」
言葉だけを読み取れば、随分と喜んでくれたようだった。兎なので表情はわからない。とりあえず食材を持ちながら、木村たちは兎についていった。
それからの一日、つまりは二十四時間でわかったことだが、兎は月の鉱物を「臼と木槌」で叩いて粉々にし、食料にしていたようだ。まさに地球で見た「兎が餅をつく」絵図そのものだった。ほかのクルーは国が違うのでピンと来なかったらしいが、少なくとも木村はその光景に感動していた。そして、その鉱物の美味なること、まさにほっぺたが落ちるとはこのことなのだろうかという味にクルー全員が腹が破裂しそうになる寸前といっても過言ではないくらいに、月兎の歓迎を喜んだのだった。
「確かに、これならいつまでも過ごしていたい気分にもなる」
木村はそう素直に感想を漏らした。クルーもそれに同感してうなずいた。
宇宙船から連絡を送り、もう少しだけ調査の時間を寄越して欲しいと、木村含むクルーが満場一致し、電報を宇宙ステーションに遣った。幸いか酸素のストックは多い。地球時間にして四日は余裕で持つだろう。木村たちはそうして一仕事終えると、再び月兎のもてなしを受けにいったのだった。
「ところで、マイケルはどこにいるんだ?」
「『まいける』なら、特別室に」
「ほう、VIPルームのようなものか。是非とも私たちもい入ってみたいものだ」
「残念ですが特別室は小さくて、あなた方の大きさなら一つ分しか入らないのですよ」
「残念だ。またの機会に招待してくれるかな?」
「すぐにでも入れるようにしたいです」
「ははは、ありがとう」
そうしてまた、豪勢な食事に舌鼓を打った。
それから一週間後、宇宙ステーションのクルーはほとんどが死亡した。政府がそれを発表したとき、地球はあまりの恐怖に震え上がった。
命からがら脱出用ポッドにて帰星したクルーの一人は、事件後にこう語った。
「兎のような風貌をした奴らが急に襲ってきたんだ。それも、つい先日月面調査に向かわせた宇宙船を乗っ取ってだ。恐ろしい奴らだった。地球の言葉で「ありがとう、ありがとう」と叫びながら、俺らの仲間を次々と臼みたいなものに放り込んで、でっかい木槌で叩き潰していきやがった。思い出すだけで吐き気がしてくる……」
今日も人々は空を見上げる。月夜の頃、月面に移る兎を恨めし気に睨みながら。それをまるで知らないように、兎はぺったん、ぺったんと、臼の中の食料をついて、今日も生き延びている。




