【A】毎年、名月の夜は
この小説は【対戦カードA】の組み合わせです。
対戦相手は『月のいきもの』となります。
以下企画サイトのルールの項目から抜粋。
もっと詳しいルールは企画サイトか目次欄最初にある『ルール詳細』のほうにあります。
【投票方法】……必読!
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(加点方法の詳細は【投票に関するルール】を参照してください)
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「どうするんだよ、姉さん……流石にこの量は大変だなぁ」
テーブルの上にこしらえた山盛りの団子をぱくつきながら、僕は姉さんに不平を漏らす。
今夜は中秋の名月。十五夜の晩、我が家では毎年、お団子をホームメイドするのが伝統だった。
王道の餡、シンプルに砂糖、ちょっとばかりのきな粉、全体の一割ほどは何もかけない。最後のは僕のこだわりで、舌休めにちょうどいいのだ。
姉さんはジャムをつけて食べている。流石は甘党、団子にも付けるとはやるねえ。
「え、大変……かなあ? 去年も似たようなものだったじゃない」
「そんなことないよ。数は……同じくらいだったかもしれないけど。一つ一つは小さかったじゃないか」
「うーん、そうだっけ? 言われて見れば、大きいのが多いわね。のめり込んじゃうと、ついついやりすぎちゃうのよねえ」
姉さんの無計画ぶりには困ったものだ。毎回フォローをする僕の身にもなって欲しい。
「僕、途中で止めたんですけど~? もうそろそろ終わりにしようって言ったのに聞く耳もってくれないし」
熱中し始めるとなかなかやめてくれないのが姉さんの癖だった。以前に晩御飯を作ったときだって、一体何人分なんだと疑いたくなるくらいの量だったしね。とにかく加減がヘタクソなんだ。
「ごめんごめん、反省はしてるわよ。一応」
「……心優しい弟でよかったね。いつもいつも似た失敗をしてるのに、許してもらえるなんて稀だよ」
「まあ生意気。あんたのきな粉にジャム付けるわよ」
そ、それだけは勘弁だ。というより、姉さん!
「きな粉馬鹿にしてるだろっ? このほのかな甘みと絶妙な粉感触、たくさんまぶそうとしても中々しっかり付かない、ちょっと反抗期っぽく見えるこの調味料、馬鹿にしてるだろっ!」
「あーあー、ごめんなさい。悪かったわよ。あんたきな粉好きだもんね」
「当たり前。きな粉あれば生きていけるよ」
親指を立てると、姉さんに苦笑された。
「まったく。あんた、お姉ちゃんときな粉が溺れてたらどっちを助けるのかしらね?」
「きな粉」
「即答しないでよ! たった一人の肉親じゃない!」
姉さんが本当に悲しそうな表情を浮かべたので、ちょっとふざけすぎたと思った。
「う、ごめん。本気じゃないから……何とか両方助けるよ」
「せめてお姉ちゃんからにしてね!?」
それは難しいところだが、善処しよう。
喋っているうちに、だいぶお団子が減ってきた。皿の上に補充のきな粉をまぶし、喉を潤すお茶も補給する。
「姉さんもお茶いる?」
見ると、姉さんは少しえらそうな、苦笑いを作っていた。
「うーん、もらうけど……そろそろ気分が悪くなってきたわ。最初は平気だったのになあ……」
段々厳しくなってきた、と。
言い訳は聞かないぞ、姉さんよ。最初と言ってることが違うじゃないか。
「去年も似たようなものだったろ? あんなに楽しそうにやっておいて、そりゃないよ。お団子もう少しなんだから、頑張ってよ」
放っておいたら硬くなってしまう。適度な弾性を失ったお団子なんて、延びたラーメンみたいなものじゃないか。食べがいもないし、食べ物自体にも申し訳ない。僕はきな粉信者ってだけじゃなく、食物関係全般を残すことは大嫌いなのだ。
「わ、分かったわよ。でもちょっと視線外すから。盛ってあるの視界に入れたら、ゲ――」
「それより先のカタカナ禁止」
釘を刺した、
「食道から競り上がったモノを、口内から吐き下しちゃいそう」
けど無駄だった。
「事細かに言わないでよ! 何で説明したがるのさっ」
まったく汚いと思いながら、僕は餡入りの団子を堪能する。うーん、やっぱりこし餡に限るね。粒餡も捨てがたいけど、やっぱり滑らかさには敵わない。
「う~――けふっ。ごめんもう無理アンタ食べて」
早口でそう言うと、姉さんはお腹をさすり始めた。
「す、すごいわねぇ。感心するわ。よくそんなに食べられるね?」
「そりゃ、お団子を作るとき、僕はきねを使ってたからね。体力使うもの。お腹ペコペコだよ」
喋っていたらもっとお腹が空いてきた。姉さんの皿に載った分まで手を伸ばす。まあ最初から、このくらいは余裕なのだけど。
「そうじゃなくて。それだけ平然なのが凄いなと思ったの」
拍手を送られそうほどの賞賛だった。
いやだな、姉さん。
「毎年こうじゃないか。今年はちょっと量が多いだけだろ」
「だ、だから。いつもの量だとテーブルに座ると見えないでしょ? アタシ、冷静な時は結構フツーだったみたい……」
あれ、意外な事実だ。
「そんなに気になるの? 真横に死体があるくらいで」
最後のきな粉にぱくつき、しっかりと噛み締める。甘味をじっくり堪能した後、僕は立ち上がった。
「まあいいや。食べ終わったし、片付けに行こう」
うすときねを持って、庭に出る。
姉さんと二人で、キッチンに一時置いていた死体たちを運ぶ。同族の死骸でも、見ると結構グロテスクだな。きねで殴った所なんて、骨が砕けて陥没してるし。
まあ、埋めやすいようにもっと砕くけどね。
まったく、うすときねって便利だ。
硬い骨も難なく砕けるし、構造上どこかに飛んでいくことも少ない。細かくすれば処理ってのは案外楽なのだった。
「姉さん、頼むよ」
「うん」
中に放り込まれた、千切れた腕に向かって思い切りきねを叩きつける。ぐち、という鈍い音と共に血も飛び出た。
それが姉さんの、白くふさふさしたほっぺに散ってしまう。
――後で拭ってあげなきゃ。
そうやっていくらか処理した後、ふと首を上げた。
いつの間にか、遠くの雲が晴れている。きっと今夜は、ずっと向こうからでも、こっちが見えるに違いない。
「ママー、お月さま、きれいだね~」
「そうねえ。あ、ほら。ウサギさんもお餅つきをしてるわよ?」