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そして動き出す

さて、5w1hゲームのお題はなんでしょう?

それも考えながらぜひ考えてみてください。



宇宙母艦の外では無音の中、一瞬の花が開く。



爆発音もなく、衝撃音もなく。


宇宙で起きた、人間対異世界人の戦闘はその趨勢を大きく人間の側へと傾けていっていた。








しかし、宇宙母艦の中では慌ただしい足音が響く。



異世界人の攻城兵器、『角』。

その被害の確認に向かった戦闘員が、瀕死の状態で見つかったからだ。


瀕死の戦闘員の元へ駆けつけた彼らの目には、一見して人とは思えない戦闘員の姿があった。

それは、蜘蛛の巣状に割れた壁に捻り込まれたかのような、不気味なオブジェ。




異世界人が宇宙母艦に乗り込んだのではないか。




その不気味さは、彼らにそう思わせるだけの衝撃を与える。

急ぎ、敵対者を排するために動くも、下手人はすでにそこにいなかった。






******








「う~ん、それにしても、何もわからないわ。」





1人の戦闘員を排除して、数時間。

彼女は、宇宙母艦の一般人用通路ではなく、メンテナンスの際にしか使われない特殊通路にある小部屋にその身を置いていた。


彼女の視線の先には、一台のメンテナンス用サーバーが置かれている。それは無骨で実用性しか求められていない。


そもそもこの部屋自体がそうであった。


壁は、塗装もホログラムでの景色もない、剥き出しの金属。床は白のタイルが貼ってあり、鏡面加工されたその輝きは、無機質さを際立てる。


椅子も机も道具箱すらない。


メンテナンス室という名の、この部屋はただただ四角の箱であった。





「何もわからなかった。うん、何も分からないということが分かった。ふふ、昔の哲学者気取りの屁理屈さんみたいな事を言っているわね」





小さな部屋だ。

彼女の発した小さな言葉も、冷たい金属の声は反射する。部屋自体がまるで彼女の声を増幅させているかのようである。



彼女は思案げに、扉に目を向ける。

ハッキングで開けた扉は、手を翳すだけで円形状にグルリと扉が開閉する。


その外には、メンテナンスの際にのみ使用される通路が、この宇宙母艦を毛細血管のように張り巡らされていた。





彼女は何も分からないと溢した。

だがそれは、決して言葉通りの分からないと言うことではない。


彼女の目的とする情報が全て閲覧不可であっただけなのだ。







この部屋に辿り着き既に1時間ほど。

彼女が黙せば、ふたたび部屋は静まり返る。

空気の音すら聞こえるのでは、とさえ感じる静寂が辺りを支配する。



度々感じていた振動が無くなったことから、宇宙での異世界人との戦闘は終結した事が窺えた。

どちらの勝利か。

それは、この宇宙母艦内に緊急アラートが鳴り響いていない事が答えを表していた。


つまり、彼女が戦闘員を撃破した事は既に相手側には伝わっているという事である。




「戦闘員共も私の捜索を始めました。こちらの証拠隠滅も既に不可能です……」




セクサロイドとは、演算能力に優れたアンドロイドである。

なぜなら、本能を相手するにあたり嘘は通用しない。0と1を持って、その相手の最適解を出さなければならないからだ。


だがその彼女を持ってしても、自身が戦闘員を行動不能にした証拠の改竄は不可能だった。いや、アクセスさえ出来れば証拠の改竄は可能だったかもしれない。

だが、その証拠の保管されている警備サーバーには近づく事は出来ないことが分かってしまった。


何度シミュレートしても、今度こそ完全なスクラップになる未来が変化しない。



彼女のアンドロイドらしからぬ軽率な行動は、宇宙母艦-最大組織、全員を敵に回すことになったのだ。





その事実に、その美貌を悔しげに歪ませた。


だが、彼女の表情は悲しげに、寂しげに移り変わった。

暗い絶望が、彼女からちらりと顔を覗かせる。





「そして、おじょ・・・『お姉さま』が今どこに囚われているかについての情報が、痕跡一つなく見つかりません。」





データの奥でフラッシュする、とある日の映像データ。それは、戦闘員の精鋭と思われる黒に金の刺繍が施された男共が、『お姉さま』を攫っていく様子であった。


彼女は反射的にその手を握りしめる。


軽く目を瞑り、ゆっくりと立ち上がった。




「このままここにいても、見つかる時間が延びるだけです。行動を。何か行動しなければ。動かなければ鍵となる情報が見つかる確率は、永遠にゼロです」




欲しいデータは入手してできなかった。

しかし、気になるデータは見つけた。




「さて、モグラ狩りです。」



インストールされた膨大なデータは、彼女脳内で恐るべき速度をもって、関連と解析がされている。




歩き出す彼女の瞳には、怒りと寂しさと、そして覚悟が揺らめいていた。






*****






「ここも違います。次の場所へ向かいましょう。」




宇宙母艦のほぼ全ての場所へアクセスできる、メンテナンス用通路。


そこは、重力自体が弱く設定されている為か、上下左右への高速移動を可能とした。


彼女の性能も相まってか、メンテナンス用通路に一迅の黒い影が走る。






彼女が探しているもの。


公式情報と、現場情報の『差異』、それに付随するうわさ話である。





宇宙母艦は広大だ。

宇宙母艦内だけでなく、メンテナンス用通路や部屋を含めて、精細な地図がある。



だが、メンテナンスを行なっていた作業員の音声記録や不審死、アンドロイドの行動記録が、時折地図と合致しない場合があるのだ。



ここで鍵となったのは、宇宙母艦での噂話。






例えば

・曰く、誰も認識する事の出来ない扉がある

・曰く、この母艦には、直接敵対しているものが未だ隠れ潜んでいる

・曰く、何も無いはず壁の先から声が響く事がある

・曰く、移動する秘密基地がある

・曰く、この世のものとは思えない幻想的な空間がある


などである。




1つ1つは、ただの噂。

だが、実際の音声記録や、正常なアンドロイドの不可解な行動記録が、この噂の見方をを180度変える。








 認識出来ない扉。

だからアンドロイドは直進出来なかった。


 母艦には敵対者がいる。

だから不審な作業員の遺体があった。


 何も無い壁の先から声がする。

だからアンドロイドは無いはずの道を進んだ。


 移動する秘密基地がある。

だから未だに発見された証拠が上がらない。












「なるほど、こんなところにいましたか。やっと見つけました。」








そして、この世のものとは思えない幻想的な空間が広がる。






「こんばんは。協力の要請に来ました。」


《どうやってここを見つけた?!》



「この世のものとは思えない、幻想的な隠し部屋。言い得て妙とはこういう場合に使うのが適切ですね。」




その部屋には水が流れ、緑の植物に覆われていた。


ただし水は空中を流れ、泡のような水球が下から上に。上から下にゆっくりと移動する。

そして植物は金属質特有の光沢に覆われ、それでいて僅かな風でゆらりと、しなる。


物理現象には反しているのに、特有の法則がある。無機物であり有機物である。




なるほど、たしかに幻想的。







だが、これらの噂話の芯は消える部屋でも、その秘密の光景でも無い。



曰く、この宇宙母艦には[異世界人]が密航している。




「返事は"はい"以外を認めせん。良き協力体制を気付きましょう。【異世界人さん】」




第一印象は二足歩行のモグラ。

そして、その頭の透明な傘と、足に見える束ねられた触手。


それは、モグラのようでありクラゲのようである。







《俺の安寧のために貴様を殺す》



「平和的交渉のため、躾を開始します。」







彼女は異世界人との邂逅する。












*****








隠し、作る事に特化した異世界人。


既に元の世界には帰れず、しかして人間と生きることも叶わない。




守り、戦い、奉仕する心を持ったセクサロイド。

命よりも大切な存在を助けられず廃棄された。





たった2人のレジスタンスは、宇宙母艦を縦横無尽に駆け回る。


情報で、罠で、噂で。




2人 対 宇宙母艦




彼女達は、宇宙母艦を、混沌の渦へと沈ませた。


















そして。


















*****





「お嬢様!!」


彼女は1人の少女に駆け寄る。

その声は。普段の冷静さとはかけ離れていた。



ゆっくりと、少女を抱き抱える。

彼女のセンサーは、辛うじてまだ少女の身体機能が活動している事を読み取った。


まだ生きている。



「お嬢様!お嬢様!!目を覚ましてください!」



だが、何度呼び掛けても、返事は帰ってこない。




暗く、光を吸収される隔離部屋の中で、2週間、少女は倒れていた。


まだ、2桁にもならないであろう小さな少女。

真っ暗闇の中で、少女の精神は無事であるわけもなかった。精神の衰弱に付随して身体も弱る。

死んでいなかった事自体が奇跡であった。




「なんで、なんでお嬢様がこんな目に!お嬢様が何をしたというのですか!?」




心が張り裂けんばかりの慟哭が響いた。


権力闘争と言われればそれまで。


だが、彼女にとって、罪なき少女への仕打ち言い訳にもならない。


怒りに悲しみに震える彼女に、鋭い声が届く。




《ボケっとすんな!阿婆擦れ!!やることやらんかぁあ!!》




その声が、呆然と心で涙する彼女を動かした。


左腕が、モーター音と共に開く。中には光を吸収するこの部屋にあってなお輝く、碧色の液体の入った細い瓶が出てきた。



その液体の中には螺旋を描くように金と銀の光が細く渦を巻く。



「お嬢様!これを、これを飲んでください!!」



その敵対がゆっくりと少女の口へと注ぎ込まれる。

少女の体は淡い光に包まれた。



「お嬢様!」


仮死状態にすら近かった少女の体に熱が戻る。

【ドクン】と、大きく一回鼓動がなった。

彼女の身体が生命の脈動を始める。






もうしばらく何も食べてないのだろう。

もうしばらく何も飲んでいないのだろう。、


貴人として持つ、並外れた生命力も、ナノマシンも既に見る影もない。


細く折れそうな、身体。







祈るように、彼女は、少女を抱きしめた。





「も う、『お姉ちゃん』と呼び、な さいと言っ たで、しょ?」



「おじょ、『お姉さま』」



「ほ ら、泣かな いの。まった く、困ったこ。」





碧色の液体。それはこの世界には存在しないもの、異世界の秘薬。

それは、【エリクサー】と呼ばれていた。




少女は目を開けた。




命の灯火が消えかけた弊害か、その言葉はたどたどしい。

だが、彼女は、再び自分の最も大切な存在に出会えた。








暗い暗い部屋の中。




彼女の目は、光り輝く幸せが映っていた。




「さぁ、行きましょう。面白い生き物を見つけたのです。ペットにしましょう」



彼女の瞳から、涙が落ちる。



「あれ?これは、なんでしょう。私アンドロイドなのに」




声が震える。

視界がぼやける。



「ほら、行くわよお姉ちゃんが連れてってあげるから。」



小さな手に引かれ彼女は立ち上がる。



「あれ?でも私はどこに行けばいいの??」


少女の纏う光は強くなり、比例して、少女は力強く立ち、滑らかに話す。




「ふふ、ほら、こっちですよお姉さま。」




彼女は愛おしそうに少女を抱き上げ、部屋をでる。


そして、異世界人が用意した宇宙船に乗り、この宇宙母艦を後にした。


《幸せそうに寝てんなぁ〜》


「えぇ、幸せです。……、わたしは、幸せです。」




安心したのか、あどけない表情で眠る少女。


彼女は、少女を膝の上に乗せ、優しく、頭を撫でた。
















後の世に、一つの噂がたつ。


異世界人と人間とアンドロイドが手を取り合う楽園が、宇宙のどこかにある。

そこは、決して見つからず、でも心清らかな人の前にのみ姿を表す、



とかなんとか。
























「大好きですよ、シルフお姉ちゃん。」


「私も大好きよ。セーリア」





読んでくださりありがとうございました!


短いですがこれで完結になります。

皆さんもお題分かりましたか?


お題は【宇宙進出時代 異世界人が蔓延る世界で 心が宿った人形が 姉と再会するために 物資と情報を集め 奮闘する物語】です。


はい、頭を抱えました。

ですが書くのはとても楽しかったです!


読んでくださった皆さんが少しでも面白いと思っていただけたら、幸いです。


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