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9.今は未だ見ぬ小さい種を

「よーしよし、そのままそのまま……」


 その日、女神の庭園には無数の水球が浮いていた。

 厨二病魔術師アキの影響を受けて、俺が魔法で作り出したものである。


 よくよく考えてみれば元・女神様は光り輝くノートパソコンやら小さい女神様のリーネやらと、色々創っているんだ。

 俺はその力を受け継いでいるのだから、魔法くらいはやって出来ないことは無いだろう――ということで、まずは水球の魔法に挑戦していたところだ。


 アキのように攻撃魔法として水球を撃つのは割とすぐ出来たのだが、ある目的のために『作った後しばらくその場に維持させる』ということも試していた。

 それで何とか――彼女の魔法を見てから一週間というところで――ようやくそこまで辿り着くことが出来たのだ。


「……よし、今日はここまでにしようかな」


 ふぅ、と一息つきながら椅子に腰を下ろし、魔法のモニターに映像を映す。

 誰か大きな進展はあるかな――と思いながら転生者たちの様子を見ていく。


「――む?」


 目に留まったのは元・女神様だった。

 何やら可愛い女の子を二人連れている。どうやら魔法使いと聖職者らしい少女たち。


「なん……だと……? もしかして……ハーレム……を……?」


 血の涙は出なかったものの、想像をしていなかった映像に衝撃を受ける。

 ぐぬぬ、俺は一人でぽよぽよしかしていないというのに……。……ま、まぁいい。元・女神様も今は健全な男子だからな。

 うん、元々が俺の身体だったとしてもそれは許そう。実際のところ一回転生してるわけだから、厳密に俺の身体とも言いにくいしな。ついでに15歳にもなってるし。


「――でもその構成なら、アキとサーシャちゃんと組んだ方が強いだろうけどな……」


 何せその二人は転生スキル持ちである。

 アキの転生スキルは少しクセがあるので単純には比較出来ないが、サーシャちゃんは高ステータスを受けての聖魔法が強力なのだ。

 ……ただまぁ、サーシャちゃんは男がいるパーティには入らなそうだけど。


 そう思いながらサーシャちゃんを映し出すと、案の定というかやっぱり聖堂で祈りを捧げていた。

 何だか周りには若い男性信徒が多いような気もするが、引き続き頑張って頂きたい。

 本心としては、異世界に転生したんだから冒険くらいには出て欲しいものだが――やはり例の転生スキルがハードモード過ぎたのだろうか。



 ――ガラーン…… ゴローン……



 どこか遠くから鐘の音が響いた。


 ふむ、一週間振りの転生対象者が来たようだ。

 アキに付けたような『珠玉の転生スキル』は今は無いから、今回は話を聞いてしっかり検討してあげようかな。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 転生の間に行くと、一人の男が座っていた。

 年は30歳くらいだろうか? 社会人かな?


「迷える魂よ……、ここは転生の間。運命に導かれし者のみが来訪を許される場所……」


「――わ、わぁっ!?」


 男は驚きながら、後ろに一回転した。

 ……驚きすぎじゃない? ……いや、仕方無いのか?


「私はこの転生の間を司る女神……。名前はリーネルペルファ。

 あなたは運命に導かれ、転生の機会を得ました。どのような世界に、どのような来世を望みますか――?」


「――あ、あう……。あ、あの……」


 ……。


「――そ、その、こ、ここ、は……」


 ……ふむ、緊張しすぎだな。


「ご安心ください。私はあなたを導く者……、慌てなくても結構です。ゆっくり落ち着いてから――お話ください」


 俺は優しく男に微笑んだ。


「――あ、あり、……と……で、す」


 男は何とかそう言うと、100メートルほど離れたところまで行って、俺に背を向けて座り込んだ。


 ……いや、あの。ちょっとそれは、離れすぎじゃない?




 ――三時間後。


 男は相変わらずその場に座り込んでいた。

 いや、俺は時間があり余ってるからいいけどさ、それにしても待たせすぎじゃない?

 でも、さすがにそろそろ落ち着いたんじゃないかな――?


 俺は男に近付いて声を掛けた。


「そろそろ落ち着きましたか?」


「――わ、わぁっ!?」


 男はまたもや後ろに回転しながら、器用に受け身を取ってから後ずさりした。


「――す、しゅいま、せ……。あ、あの……」


 ……うん、さっきと変わっていないな。三時間待ってこれじゃ、いくら待ってもダメじゃないか?

 ――仕方無い、この状態は良しとして、話しながら進めてしまおう。


「落ち着いてお話ください。話すのが難しいのであれば、身振り手振りでも結構ですので」


 それを聞くと、男は慌てながら強く頷いた。


「先ほどもお伝えしましたが、あなたは転生――望む来世に進む機会を得ました。

 私に、その希望を教えて頂きたいのです」


 男はコクコクと大きく頷いた。


「あなたは次の人生で、何かやりたいことはありますか? あるいは今までの人生でやり残したこと、得意だったことなど――」


「――ッ!」


 男は何か反応したのだが……言葉になっていなかった。それじゃ分からんがな。


「何かありましたか?」


 俺が改めて聞くと、男は何度も深呼吸をしてからようやく言葉を放った。


「――物理、学」


 ……おお、時間は掛かったけどついにまともな答えが返ってきたぞ!

 それにしても……物理学?


「ぼ、僕は……、大学院まで……行って、研究……してたん……です」


 ここに来て、男の言葉が繋がって来た。いいぞ、その調子だ!


「――はい」


「で……でも。女神様……この、話し方……どう、です……か? ずっと……こんな調子……なん、です……。就職……全然……決まら、なく……て……」


 男は震える声で、懸命に話を続けた。

 話をまとめると、この男は人を前にすると極度の緊張を起こすようで――大学院まで行ったものの、コミュニケーションに難有りということで就職が決まらなかったそうだ。

 他の仕事も当たってはみたのだが、結局は同様の理由と、それに加えて年齢が高いことや専門畑過ぎるということで、行く先々で失敗したのだという。

 そしてそのまま家に引き籠るようになってしまった――。


 つまり簡単に言ってしまえば、最終的にはいわゆる『ヒキニート』というやつになってしまったわけだ。

 しかし何だかんだの理由でやる気が出ないという類のものではなく、どうしようもない理由で社会から拒絶されたものだった。


「お話頂き、ありがとうございます。――辛かったですね」


 俺が慰めると、男は大声で泣き始めた。

 よーしよし、思う存分泣いておけよ。また新しい世界に飛び立つんだからな。


 ――三時間後、男はようやく泣き止んだ。

 ……身体が魂に近い状態だから、涙が枯れるっていうのが無いんだよな。そんなわけで時間をかなり食ってしまったのだが、ある程度でも心が晴れたなら良しとしよう。


「す、すいま……せん、女神様……」


「いえ、心配ありません。それではあなたのやりたいこと、進みたい道を――教えて頂けますか?」


「は、はい……。僕は……研究を、続けたい……です。物理学で……無く、ても。ただ――出来れば、誰かの……役に、立つもの、を……」


 ――うん、根は良い人なんだよな。とても弱気でコミュニケーションが取れないってところが問題なんだけど。

 でもここは『お悩み解決★転生の間』だからな。良い感じでスキルをくっつけて、素敵な転生ライフを贈ろうじゃないか。




 俺は時間を止めて、転生の設定をする。


 現時点で精神的なステータスの中に悪いものがあったので、これは転生の際に削除することにした。

 俺の価値観的に、精神的な部分はあまり触れたくなかったのだが――この男は随分と悩んでいたようだからな、今回は特別だ。

 とはいえ長年そんな状態だったから、少しくらいは取っ掛かりも付けてあげないといけないだろう。


 ――というと、最近覚えたこんなことをしてみちゃったりして?


 ……よし、ちゃんと付けることが出来たぞ。俺は丹念に設定を確認してから時間を動かし始めた――。




「――詳しくは転生後、鞄を開いて地図を見て頂きたいのですが」


「え……?」


「あなたはこれから、魔法の存在する世界に転生します。その世界で最も大きい都市――そこに、小さな魔法研究所があります。

 そこで魔法の研究を行ってください」


「ま、魔法……? そんな……ものが、実在……?」


「はい。そして、こちらは私からのお願いなのですが――」


「お、お願い……? は、はい……」


「もしかしたら、いつかその世界に悪しき存在が現れるかもしれません。

 そのときはあなたの研究した成果を、人々のために役立てて頂けますか?」


「も、もちろん……です! お、お任せ……ください……!」


 言葉を躓かせながらも、男は強い意思を放った。そして男の身体が光り始めた――。


「――よろしくお願いしますね。

 それと、そこは『魔法がある世界』なのです。私からちょっとした贈り物をさせて頂きましたので――それも、使ってみてくださいね」


「……? は、はい……!」


 男は不思議そうに頷きながら、光の中へと消えて行った。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 ――僕の名前は飯山謙吾(いいやまけんご)


 さっきまで女神様と話をしていたんだけど、緊張で滅茶苦茶に疲れた。

 いや、それこそ非現実的なことだったからもしかして夢――かとも思ったのだが、僕は今、見知らぬ街にいる。

 どう考えても夢では無いようだった。


 そういえばあの女神様、『鞄を開いて地図を見て』って言ってたな……。

 少し若返った身体を確認していると、腰に下がった鞄を見つけた。


 鞄を開けてみると、中には地図が入っていた。どうやらこの街の地図のようで、目印がひとつ付けられている。

 ここに行けってことかな……?


 ちなみに地図の隅には綺麗な文字で『スキルも確認してね。頑張って!』と書いてあった。

 ああ、こういうの――何だか、いいな。


 それにしてもスキル……って? 色々探したり考えた結果、視界の隅のボタン? から、それを確認できることを知った。

 何だかゲームみたいな世界だな? それで、僕の持っているスキルっていうのは――


 ----------------------------------------

 【法則理解】

 (転生スキル/パッシブスキル)

 INT+200の加重値を得る。

 あらゆる法則への理解、発見に補正を得る

 ----------------------------------------

 【勇気の魔法】

 (特殊スキル/アクティブスキル)

 頑張って!

 ----------------------------------------


 うん……。魔法を研究をするように言われたから、その役に立つように――というのが『法則理解』かな。

 転生スキルっていうようだし、いわゆる創作物で良くある……チート系のスキル、なのだろう。


 でも何だか、今の僕には……特に強い効果も無さそうな『勇気の魔法』の方が嬉しいな。

 何だかずっと、女神様が見守ってくれているようで――。


 そんなことを考えていると、目に涙が浮かぶのが感じられた。


「……いや、ここ、は……泣くところじゃ……ない、ぞ」


 一人つぶやく。そうさ、女神様の期待を背負っているんだ。泣いてる場合じゃない、頑張らないと。


 ――それにしても地図はもらったけど……僕がいるここはどの辺りなんだろう?

 だ、誰かに聞く……しかないのか、な。街で誰かに声を掛けるなんて、いつ以来だろう……。


「……あ、あの……すい、ま、せん……」


 何とか声を振り絞り、街を歩く人に声を掛けるが――やはり声が小さいのだろうか。誰も立ち止まってくれない。


 異世界とはいえ、そういうところは元の世界と何ら変わらない。やっぱり僕は――?


 少し悲しくなり地図に目を落とすと、女神様からのメッセージが見えた。


 『頑張って!』


 そうだ、僕は頑張らないと。


 僕は、特殊スキル『勇気の魔法』を発動した。

 特に何も変わった気配は無いが、それでも僕の心の中で何かが動いた気がする。


 僕は意を決して、大きく息を吸い込んでから言葉を発した。


「――あの、すいません!!」


「おう、何だい? 兄ちゃん!」



 僕はまたここから始まる。始めることが出来るんだ!!

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