とある日の診断遊戯
普段ならば特に気にも留めなかったものの、いつもとどこか違った雰囲気に悠は足を止めた。
ある昼頃。多目的室で御剣姫守の集まりを偶然目にした。
また良からぬことを考えているに違いないだろうから、関わらずに通り過ぎようと足を速める。その時に異様な盛り上がりを見せたものだから、ついつい気になってしまった。
よくよく見やれば、彼女達の中央には一冊の本があった。あれがこの騒ぎの元凶であるらしく、そうなると中身が気になってしまうのが人の性。
「さっきから何をそんなに騒いでるんだ?」
悠は自分の会話の輪に混ざることにした。
「あ、悠。いや面白い本を見つけてね」
小狐丸の手にある本をまじまじと見る。
「えっと……【いろいろ診断本】?」
「そうだよ。本に書かれている選択肢に従って進めていくと、自分を例えた何かが出るってやつさ。ちなみにだけど、この宝石診断じゃ、私は金剛石って出たね」
「ちなみに相性もそれでわかるそうだ。ちなみに吾と九字兼定は真珠だったな」
「ワシは青玉じゃったな。どうしてワシがこんな駄狐と相性がよくなけりゃならんのか、未だに不服なんじゃが!」
「それはこっちの台詞でもあることを忘れないでもらいたいね。私も悠とがよかったさ」
「ふ~ん、とりあえず色々あるんだな」
「せっかくだからお兄様も姫達と一緒にやりませんか?」
「……まぁ、今は暇だからな。別に構わないぞ」
「それじゃあ、私が読んでいくから該当するものがあったら選んでいってね」
小狐丸信仰の元、絶えずくる質問に悠は答えていく。
誕生日、性格、シチュエーションに応じた行動――それらすべてを応えていき、とうとう最後の質問が投げかけられる。
「それじゃあ最後の質問だよ――好きな人から告白されました、どんな風にされたい?」
「どんな風に……か」
告白されることを、悠は一度として考えたことがない。
何故ならば剣鬼である自分が、誰かに好かれるとは微塵にも思っていないからだ。
父を斬り、最愛の妹すらも斬ったような男に、誰が言い寄ろう……と、いうのはあくまで彼が高天原へと来るまでにあった考え。
現在では彼が望まずとも、相手の方からどんどん告白してくる。
色んな告白があった。その分だけ、ろくなものがなかったと悠は懐古する。まともな告白があったろうか――いや、あった。
脳裏にて微笑んだ彼女に、悠も小さく口元を緩める。それ故に、選ぶべき答えも定まってくれた。小狐丸の問いに、悠はこう告げる。
「下手に着飾ったりしないで、シンプルかつ己の想いをしっかりと伝えてくれるような告白だな」
「ふむふむ……と、なるとこの場合はこれに該当されるのかな――よしっ、出たよ悠」
「俺の場合はなんて書いてある?」
「えっとね……悠を宝石で例えたら紫水晶だって。性格は真面目で一途。どんな困難にも立ち向かっていける、ただしちょっと頑固な一面もあり」
「ふむ、当たっておるの」
「当たっていますわね」
「当たってんな」
「うん、当たってる」
「そうか?」
「ねぇねぇ、お兄ちゃんは誰と相性がいいの!? もちろん兼定だよねっ!」
「悠と相性がいいのは……月長石の人って書いてあるね」
「なんじゃつまらん。誰もおらんではないか」
「ムーンストーンか……」
それはそれは、また彼女の似合いそうな宝石だ。
本当に彼女がムーンストーンとなるかは診断によるが、イメージだけならば彼女を差し置いて相応しい御剣姫守を悠は知らない。
もっとも、不服そうにしている面々の前では、決してその名を口にしたりはしない。口は災いのもと、面倒になることだけは極力避けたい。
(今度顔でも見せにいこうかな……)
久しぶりに顔が見たくなった。
彼女のことだから元気にしているだろう。たまには顔を見に行っても罰は当たるまい。
そのためには、後でこの狐娘を説き伏せなくてはならないが……なんとかなろう。
「……ねぇ悠。他にも診断してみないかい?」
「え?」
「ほらっ、次は野菜で診断するなんてものもあるよ! さぁどんどん誰と相性がいいのかじっくり、ゆっくりと調べていくよ!」
「お前……!」
悠は自己の未来を悟り、そして嘆いた。
彼女達は、自分達と相性がいいと結果が出るまで続けるつもりでいるらしい。
たかが診断。本当にそのとおりになるなんてはずもないのに、件の本の内容をしっかり信じ切ってしまっている。ざっと見ただけでも、診断の数はおよそ三十種類以上。全部付き合っていてはたまらない、とここで悠は逃走を図る。
「あ、逃げた!」
「お待ちになってくださいお兄様!!」
「悠よ、逃がさんからなっ!!」
「ジョークなんだからそこまで信じるなっ!」
やはり、弥真白支部は本当に騒がしくて問題児が多い。
再認識したくもなかった事実を目の当たりにした悠は、大きな溜息をはいた。
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「ところで主? どうしてボクと相性がよくないのかな? またボクを置いていくつもりなのかな?」
「いやお前も信じてたのか……っ!!」




