表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/155

とある日の診断遊戯

 普段ならば特に気にも留めなかったものの、いつもとどこか違った雰囲気に悠は足を止めた。

 ある昼頃。多目的室で御剣姫守みつるぎのかみの集まりを偶然目にした。

 また良からぬことを考えているに違いないだろうから、関わらずに通り過ぎようと足を速める。その時に異様な盛り上がりを見せたものだから、ついつい気になってしまった。

 よくよく見やれば、彼女達の中央には一冊の本があった。あれがこの騒ぎの元凶であるらしく、そうなると中身が気になってしまうのが人の性。


「さっきから何をそんなに騒いでるんだ?」


 悠は自分の会話の輪に混ざることにした。


「あ、悠。いや面白い本を見つけてね」


 小狐丸こぎつねまるの手にある本をまじまじと見る。


「えっと……【いろいろ診断本】?」

「そうだよ。本に書かれている選択肢に従って進めていくと、自分を例えた何かが出るってやつさ。ちなみにだけど、この宝石診断じゃ、私は金剛石だいやもんどって出たね」

「ちなみに相性もそれでわかるそうだ。ちなみに吾と九字兼定くじかねさだ真珠ぱーるだったな」

「ワシは青玉さふぁいあじゃったな。どうしてワシがこんな駄狐と相性がよくなけりゃならんのか、未だに不服なんじゃが!」

「それはこっちの台詞でもあることを忘れないでもらいたいね。私も悠とがよかったさ」

「ふ~ん、とりあえず色々あるんだな」

「せっかくだからお兄様も姫達と一緒にやりませんか?」

「……まぁ、今は暇だからな。別に構わないぞ」

「それじゃあ、私が読んでいくから該当するものがあったら選んでいってね」


 小狐丸信仰の元、絶えずくる質問に悠は答えていく。

 誕生日、性格、シチュエーションに応じた行動――それらすべてを応えていき、とうとう最後の質問が投げかけられる。


「それじゃあ最後の質問だよ――好きな人から告白されました、どんな風にされたい?」

「どんな風に……か」


 告白されることを、悠は一度として考えたことがない。

 何故ならば剣鬼である自分が、誰かに好かれるとは微塵にも思っていないからだ。

 父を斬り、最愛の妹すらも斬ったような男に、誰が言い寄ろう……と、いうのはあくまで彼が高天原へと来るまでにあった考え。

 現在いまでは彼が望まずとも、相手の方からどんどん告白してくる。

 色んな告白があった。その分だけ、ろくなものがなかったと悠は懐古する。まともな告白ものがあったろうか――いや、あった。

 脳裏にて微笑んだ彼女に、悠も小さく口元を緩める。それ故に、選ぶべき答えも定まってくれた。小狐丸の問いに、悠はこう告げる。


「下手に着飾ったりしないで、シンプルかつ己の想いをしっかりと伝えてくれるような告白だな」

「ふむふむ……と、なるとこの場合はこれに該当されるのかな――よしっ、出たよ悠」

「俺の場合はなんて書いてある?」

「えっとね……悠を宝石で例えたら紫水晶あめじすとだって。性格は真面目で一途。どんな困難にも立ち向かっていける、ただしちょっと頑固な一面もあり」

「ふむ、当たっておるの」

「当たっていますわね」

「当たってんな」

「うん、当たってる」

「そうか?」

「ねぇねぇ、お兄ちゃんは誰と相性がいいの!? もちろん兼定だよねっ!」

「悠と相性がいいのは……月長石むーんすとーんの人って書いてあるね」

「なんじゃつまらん。誰もおらんではないか」

「ムーンストーンか……」


 それはそれは、また彼女の似合いそうな宝石だ。

 本当に彼女がムーンストーンとなるかは診断によるが、イメージだけならば彼女を差し置いて相応しい御剣姫守みつるぎのかみを悠は知らない。

 もっとも、不服そうにしている面々の前では、決してその名を口にしたりはしない。口は災いのもと、面倒になることだけは極力避けたい。


(今度顔でも見せにいこうかな……)


 久しぶりに顔が見たくなった。

 彼女のことだから元気にしているだろう。たまには顔を見に行っても罰は当たるまい。

 そのためには、後でこの狐娘を説き伏せなくてはならないが……なんとかなろう。


「……ねぇ悠。他にも診断してみないかい?」

「え?」

「ほらっ、次は野菜で診断するなんてものもあるよ! さぁどんどん誰と相性がいいのかじっくり、ゆっくりと調べていくよ!」

「お前……!」


 悠は自己の未来を悟り、そして嘆いた。

 彼女達は、自分達と相性がいいと結果が出るまで続けるつもりでいるらしい。

 たかが診断。本当にそのとおりになるなんてはずもないのに、件の本の内容をしっかり信じ切ってしまっている。ざっと見ただけでも、診断の数はおよそ三十種類以上。全部付き合っていてはたまらない、とここで悠は逃走を図る。


「あ、逃げた!」

「お待ちになってくださいお兄様!!」

「悠よ、逃がさんからなっ!!」

「ジョークなんだからそこまで信じるなっ!」


 やはり、弥真白やましろ支部は本当に騒がしくて問題児が多い。

 再認識したくもなかった事実を目の当たりにした悠は、大きな溜息をはいた。


――――

―――

――


「ところで主? どうしてボクと相性がよくないのかな? またボクを置いていくつもりなのかな?」

「いやお前も信じてたのか……っ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ