剣鬼、配信者となる
頭悪ーいな、短編小説ですwww
楽しさだけを追求して書きました!!
その日、結城悠を襲ったのは驚愕という感情だった。
気が付いたら、まったく見知らぬ部屋にいる。特に目立った家具などは一切なく、あるのは大型のモニターとカメラのみ。後は肝心の出入り口がどこにも見当たらない。
誘拐、と……一瞬だけ脳裏によぎった可能性を悠は否定する。
根拠としては、結城悠に異常は見られない。拘束されていたならばまだしも、得物もあるし貴重品の類もそのままだ。
あえて、持たせている。その可能性もまた、否定できなくはない。
わざと希望を持たせておいて、どれだけ努力しても叶わぬと絶望した瞬間を見届ける――そんな歪んだ性癖の持ち主であったならば、あるいは……。
しかし、悠はどうしても今回のことが誘拐と思えなかった。
何故、と問われたら、上手く答えられないけれど。
次の瞬間、壁に取り付けられていたスピーカーから甲高い金打音が鳴り響く。
きぃん、と時折なるあの音は老若男女問わず不快感を与えてくるから、両耳を塞ぐ悠の顔も嫌悪感をこれでもかと示していた。
程なくして、音は声へと変わった。とても聞きなれた声に、悠はひどく狼狽する。
《それじゃあ悠、そろそろ配信の準備をするけど大丈夫?》
「す、鈴!? お前、どこにいるんだ! それに配信ってどういうことだ!?」
《もう、緊張しすぎてど忘れしたとか大丈夫? 悠が“少しでもみんなが楽しんでもらえるように何かやってみたい”って言いだしたから、こうして配信していこうって決めたじゃない》
「そんなこと言ったのか俺!?」
姿なき愛刀から次々と飛び出す新事実は、悠の思考を置き去りにした。
処理がまるで追いつかない。自己が口にしたことを忘れるような年齢ではないし、結城悠の記憶力に関してはまぁまぁな方だと彼は自負している。
(本当に何がどうなってるんだ!?)
訳がわからない。いつもなら頼れる愛刀も、今回ばかりは力にならないと判断を下した今、結城悠は一人でこの状況に立ち向かわねばならぬことを、悠はここで理解する。
とりあえず、流れに逆らわずに身を委ねてみることにした。
与えられた役割をこなせば、何か攻略の鍵が見つかるやもしれぬ。
(けど、配信か……未知すぎて不安しかないぞ)
配信というものを悠は経験したことがない。しかしながら、目にしたことは多々ある。
あの時彼らがどのようにして進行していたか。実にくだらないことに全記憶を総動員させることが、いささか不服ではあるものの――やるしかない。悠は覚悟を決めた。
《それじゃあそろそろ始めるよ! 準備はいい?》
「あ、あぁ……こうなったらやけくそだ!」
《三……二……一……スタート!》
陽気な音楽がスピーカーから流れる。
早速、モニターの方で異変が起きた。
どこの誰ともわからぬ視聴者がコメントを打つ。生放送などでは、これはよくある光景だ。人気であればあるほど、配信者が追いつけないほどの量のコメントが殺到する。
結城悠の配信は、恐らくこれが初めて。
何度も配信を続けていたならばまだしも、初回で数多くの視聴者を集めるのは不可能に近しい。最悪、誰もこないなんてこともある――そう考えていた時期が、己にもあった。
「えっ!?」
悠は驚愕に眼を見開いた。
既に視聴者は百人以上を超えて……二百人をあっという間に突破する。その勢いが収まる気配はない。
続いて、コメントと言うコメントが一気に上へと流れていった。
――三日月:こんにちは! はじめまして。素敵な殿方でびっくりしちゃいましたw
――金狐:うほっ、いい雄。私と結婚してくれないかな?
――こてっちゃん:いい男で眼福。もう百回も保存したわwww
――かしゅー:いい男……あ、鼻血が。
――チラ見竜:はじめまして! こんなイケメンが存在していたなんて( ゜Д゜)
…………
………
……
…
コメントの流れは留まる様子を知らない。
一瞬惚けてしまい、悠は慌てて気を取り直した。コメントについては、もう確認できたものだけに返事することにする。
「あ、えっと……はじめまして。今日から配信していきます、ゆ……いや、ハルカカナタと申します。呼び方はご自由に呼んでもらっても大丈夫です。まずは、記念すべき第一回目の配信なのにこんなにもたくさんの方がきてくださったこと、心から感謝します」
コメントを見やれば、なんとなくながらも誰が特定できしまう。
しかし、例え知人や仲間であったとしても、配信では誰しもが平等に一人の視聴者だ。
えこひいきはしない、特定や晒しもしない。あくまでまったく知らない相手と喋っているつもりで。悠は徹底して、配信を続ける。
後、パソコンやインターネットもない文明でどうやって配信をしたり見たりできるのか、という疑問もここでは一切無視する。ツッコミを入れるのはあまりにも野暮だ。
「いや、しかしまさかこんなにも来ていただけるとは本当に思ってもいませんでした。刀チャンネルでは……このご時世です。色々と暗い出来事なんかもあったりします。そうした世の中だからこそ、微弱ながら何か自分にできることはないか……そう考え抜いた結果、この配信でした」
またもコメントが殺到する。
量は先の倍。視認した時にはコメント欄から押し流されてしまって、読むことも難しい。
――てんた:その心意気マジで最高なんですけど。これから推しますねぇ!
――神作家:素晴らしいですぅ。ぜひ一度お会いしてあれこれお話ししたいですぅ!
――ほたるん:や ら な い か?
――ネネー:自分感動したッス! じゃけん今から結婚しましょうね~!
――私、姫ですが?:こんなにも素晴らしいお兄様を生んでくれた世界に、圧倒的感謝!
…………
………
……
…
「ありがとうございます。そう言っていただけると俺……いや、私もとても嬉しいです。これから頑張っていきますので、応援していただければ嬉しいです! それと、一応言っておきますけど卑猥なワードなんかはご遠慮願います。他に見ている方もおられるので、ね?」
注意すべきところは注意する。
コメントによる不快感で視聴者同士が喧嘩をして、配信どころではなくなったという事例を悠は少なからず知っている。それを平和的に収めるのも、配信者としての腕の見せ所だ。
自信などと呼べるものは何一つ、悠は持ち合わせていない。だが、配信者として歩み出したならば、責務がある。
「――と、まぁこんな感じですが、ゆっくりとやっていきたいと思います。また配信しますので、その時は是非とも遊びに来てください。それでは、これにて失礼します――またね!」
己らしからぬ言葉で締めくくり――終わった。画面が真っ暗になったのを確認した悠は安堵の溜息を盛大にもらした。
《お疲れ様悠。初配信にしてはなかなかよかったんじゃないかな?》
「そうか?」
《それじゃあ、そろそろ目を覚ます時間だよ悠》
「え……?」
足元がふわり、と浮いた。
まるで海の底に沈んでいくかのような感覚。
水なんてものはない。ただ漆黒の空間をゆっくりと下降していく。
意識が、暗転する――遠くから、なんとも騒がしい声が聞こえてきた。
「……小狐丸?」
「やぁ悠、おはよう。よく眠れたかな?」
至近距離で顔を覗き込んでいる、この狐娘がどさくさに紛れてキスをしてこようとしたものだから、悠が手を下すまでもなく愛刀が彼女に神罰を下した。
漫画のようなたんこぶを作ってのたうち回る光景は、見る側にも幻痛に陥らせる。
「まったく……油断も隙もありゃしないんだから。おはよう主、一応聞くけど大丈夫?」
「……あぁ、鈴。おはよう」
「うん!」
微笑む愛刀に、悠もつられて頬を緩める。
ふと、思い出して笑ってしまう。その様子に千年守鈴姫がきょとん、とするが悠の意識は彼女へと向けられていない。
おかしな夢を見てしまったものだ。どうしてあんな夢を見てしまったかは、悠は皆目見当もつかない。されど、決して悪い夢ではなかったから、小狐丸と千年守鈴姫からの怪訝な眼差しを浴びている彼の顔はとても穏やかだった。
「ありがとうな――なぁ鈴。さてと、それじゃあ朝食の準備に取り掛かるか」
「ボクも手伝うよ」
「頼む――なぁ、鈴?」
「何?」
「……この世界で配信とかやってみたら、どうなると思う?」
「……え?」




