第十八話:咎人の行く末は光か、闇か……
【天魔顕現】による暴威によって荒れ果ててしまった境内。
それを背に、廃寺の中で悠は正座させられていた。
目の前には腕を組み赤面している実休光忠。つい一時間ぐらい前から彼女の説教を受けている。
原因は、勝負の最中に衣服を脱いだことにあるらしい。
意表をつくためといくら説明しても、実休光忠が納得することはなかった。
加えて応援していた姫鶴一文字にも一緒になって説教されているから、なかなかに辛い。
説教をする相手は一人だけで充分だ。
「まったく、お主は何をやっておるのじゃ! うら若き男がは、肌を簡単に晒すなど恥を知れ!」
「本当ですお兄様! お兄様はもっとご自分を大切にしてください!」
「いや、大切もなにも俺からすれば別にどうってことないだけど……」
瞬間、二人の動きがぴたりと止まった。
怒りに満ちていた顔も急速に落ち着きを取り戻していく。
続け彼女達が浮かべたのは、涙だった。
同情されている。何に同情されて泣いているか、俺にはそれがさっぱりわからない。
とにかくぼろぼろと大粒の涙をこぼす姫鶴一文字と、指で涙を拭い取り平常心を装う実休光忠に、悠は小首をひねった。
「……そうか。お主はどうやら相当辛い目に遭ってきたのじゃな」
「は?」
「ぐすっ……。大丈夫ですお兄様。姫がお兄様を守りますから……!」
「え? 何? どう言うことですか?」
「皆まで言わんでもよい! ワシにはよく伝わったぞ悠よ。お主の覚悟、しかとこの目に焼きつかせてもらった! であればその覚悟にワシは応えてやるぞ!」
勝手に話を進められて、まるで思考が追いつかない。
確かにこの世界に来るまでは、まぁそれなりに大変だったと悠は自覚している。
しかし、多分二人が思っている内容と異なっている。
だが、一先ず任務は成功したと判断して問題ないだろう。
相手から提示された条件は満たしているし、実休光忠の口からも協力に応じると言った。終わりよければ全てよし――三日月宗近にはいい報告ができそうだ。
「さてと、そうと決まれば今日からお主はワシの婿じゃ!」
「……はぁ?」
突拍子もない一言に呆れざるを得ない。
何故桜華衆に所属する話から結婚する話に繋がるのだろうか。
脈絡がまったくなさすぎる。
「男としての恥を捨てて生きる……これがどれだけの苦行かワシら女にはわからない。わかるはずもない。じゃが辛く苦しい人生を歩んできたことだけはわかる!」
深まる疑問に悠は小首を再度ひねって、眉を顰める。
彼女の言っている言葉の意味がわからない。
ただ、実休光忠の脳裏で勝手に描かれていく妄想に巻き込まれているのは確かだ。
「だから安心するとよいぞ悠よ。もう生きていくためにその身を穢す必要はない、ワシがお主を婿として迎え入れて一生幸せにしてやろうぞ!」
「……もしかしなくても、今すごく勘違いしていますよね?」
実休光忠には、肌を簡単に見せる行為に恥らうことを忘れてしまうほど、多くの女に抱かれる必要があった、とでも勘違いされたのかもしれない。
何故そのような妄想に至ったのか。豊かな妄想力に感心する傍ら、小一時間ほど問い詰めたい。
「ちょ、ちょっと待ってください! お兄様は姫だけのお兄様です! お兄様を幸せにするのはこの姫鶴一文字であって実休光忠さんじゃありません!」
「何を言うか。お主のような童女では悠を幸せにしてやることはできん。であれば、この人生経験豊富かつ大人の魅力を醸し出し、最強の力を持つこの実休光忠こそが悠の伴侶であるに相応しい――そうは思わぬか?」
「いや、全然」
同意を求めてきた実休光忠を、正面からばっさりと切り捨てた。
「何故じゃ!?」
「何故って言われても、本当のことですし」
「お主を幸せにできる女はこのワシぐらいなものなんじゃぞ!? ワシといれば一生幸福に生きられることができるのじゃぞ!?」
「……興味ないですよ。幸せに生きる人生なんて」
「お兄……様?」
「とにかく今回は俺の勝ちです。ちゃんと約束守ってくださいよ実休光忠さん」
踵を返して、悠は廃寺を後にする。
木漏れ日の林道を再び通って、太安京へと戻る
とことこと後ろを付いて歩く姫鶴一文字を他所に、悠は沈思する。
罪を犯した咎人に、幸せを味わう資格などあるのだろうか。
わからない。
あるのかもしれないし、ないのかもしれない。
度合いによって、と答える者もきっと世の中にはいることだろう。
どちらにせよ、幸福に生きることを結城悠は許さない。望んでいない。




