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第十七話:魔王の最後を見届けた刃

 太安京(たいあんきょう)を出て北へと進む。

 美しい模様の木漏れ日に照らされた林道を進むこと数十分。それはあった。

 びっしりと苔に覆われた石段を登り、今にも崩壊しかねない朽ちた山門を潜る。

 しぃんと静まり返った中にぽつりと建つ本堂。

 心霊スポットだと説明しても充分に通る不気味さだ。

 この不気味な廃寺に実休光忠(じっきゅうみつただ)がいる。


「さてと……鬼が出るか蛇が出るか」


 本堂へと歩み寄る。

 不意に、ぼろぼろの扉がゆっくりと開かれる。


「なんじゃ。ここに普通の人間……それも男が来るとは珍しいのぅ」


「あれが……」


「えぇお兄様。彼女が実休光忠(じっきゅうみつただ)です」


 紺色のスカートに木瓜紋が入った長羽織。その下は豊満な胸をサラシで巻いているだけで、またも目のやり場に困らせる。

 太安京(たいあんきょう)に来てから久しく見る成人女性だけに尚更だ。

 ポニーテール状にされた赤みを帯びた黒髪を靡(なび)かせて、魔王の最後を見届けた名刀が今、悠の前に姿を現した。

 赤紫色に輝く目は見る者に神秘さと禍々しさを感じさせる。

 にやりと、実休光忠(じっきゅうみつただ)の口角が釣り上がった。まるで面白そうな玩具を見つけたと言わんばかりの目に、悠は僅かに鯉口を切る。


「……実休さんで間違いないですよね?」


「あ、なんだかトンチのうまそうな小坊主っぽい呼び方はやめて。普通に呼べばいいものを何故最後まで言わん!?」


「あ、ごめんなさい。つい……――では改めまして、実休光忠(じっきゅうみつただ)さんですね? 俺の名前は結城悠、桜華衆の一員として働かせてもらっている者です」


「なんと。あのつまらん組織はとうとう男を雇ったのか! こりゃ傑作じゃ、各地で生きている御剣姫守(みつるぎのかみ)を手元に置いておくために男を利用せねばならんほど地に落ちたとはな!」


「……その考えについては、まぁ否定はしません。実際俺がこうして現われたのも実休光忠(じっきゅうみつただ)さん、貴女と交渉するためです」


「ならあの阿呆共に伝えておけ――ワシは好きにやらせてもらうとな」


「み、光忠さん! お願いですから力を貸してください!」


「ん? なんじゃ胸に全ての栄養を与えて身体も頭も残念な姫もおったのか。いや相変わらず小さくてまったく気付かなんだわ」


「むきーっ!!」


「お、おい落ち着け姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)。挑発に乗るな」


「だって……だってお兄様、光忠さんが……光忠さんが姫を馬鹿にじだぁ……」


「わかったから泣くな泣くな」


 悔し涙を流す姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)の頭を撫でる。

 それを見ていた実休光忠(じっきゅうみつただ)が、ほぉ、と関心したような声をもらした。

 ご満悦の様子で泣き止んだ姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)を一先ず下がらせて、再び悠は実休光忠(じっきゅうみつただ)に交渉を持ちかける。


「実休光忠(じっきゅうみつただ)さん、<兎杷臥御(とばふしみ)の戦い>は終わりましたが……実際はまだ終わってはいないことは知っているはず。ある程度は平和になったとは言っても未だに人々は鬼の恐怖に脅えながら暮らしている状態。数少ない世の男性は、貴女達御剣姫守(みつるぎのかみ)が必要なんです」


「……確かに鬼は気に食わん。じゃが殺すも殺さぬもワシの自由じゃ。向かってくるのなら殺す。邪魔をしてくれば殺す。目の前にいても殺す――ワシの剣はワシのためだけにある。他者のために振るう剣なぞ持ち合わせておらん」


「……そうですか。わかりました、では交渉は決裂と言うことで帰らせて頂きます。行こう姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)」


 踵を返して廃寺を後にする。

 戸惑った様子でついてきた姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)が尋ねてくる。 


「よ、よろしいのですか?」


「構わない。これ以上の交渉は無意味だと判断してのことだ。どうやら見込み違いだったらしい――彼女じゃ俺達の期待に応えられそうにない」


「ほぉ……ワシが弱いと、使い物にならぬと。お主はそう抜かすか」


「どう捉えるかは貴女の判断に委ねますよ、実休光忠(じっきゅうみつただ)さん」


 実休光忠(じっきゅうみつただ)の誇りを逆撫でさせる。

 それは悠がもっとも恐れていた最悪の結末を導きかねない危険な賭けだった。

 事実、先ほどまで見せていた不敵な態度から一変。

 端整な顔にははっきりと怒りの色が浮かび上がっている。

 今にも腰の名刀を抜き放たん気迫に、頬に一筋の冷や汗が流れ落ちた。

 刺激を与えれば与えるほど、実休光忠(じっきゅうみつただ)の怒りは増大していく。さながら火薬が追加され続けていく爆弾だ。

 だが同時に、交渉を成立させる確率を上げられる。

 俺の交渉術ですべてが決まる。

 だからここで諦めるわけにはいかない。与えられた仕事はきっちりとこなす。


「図に乗るなよ小童が! 男だから危険な目には遭わぬと高を括ったか!?」


「だから貴女の判断に委ねると言ったでしょう? それともなんですか――図星を突かれたからそんなにも怒っているんですか?」


「き、貴様……!」


「どちらにせよもう貴女に用はありません。今後俺は貴女に関わることはないでしょう。さようなら実休光忠(じっきゅうみつただ)さん」


「待ていっ!」


 怒号が廃寺に反響した。


「お主はそこまでしてワシの力が見たいと抜かすのか」


「俺自身は興味ありません。見せるのなら俺じゃなくて鬼を相手に見せてもらいたいものですね」


「ふふふっ……よかろう。そこまで言うのであれば貴様の身体を以って教えてくれよう小童が!」


 とうとう、実休光忠(じっきゅうみつただ)の腰から得物が抜き放たれた。

 刃長はおよそ二尺三寸。

 まるで“十八箇所の切り込み傷”が入ったかのような独特な模様を描く刀身は、悠の知る実休光忠(じっきゅうみつただ)の逸話を体現している。

 しかし、はて。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)の刀は実に奇妙な形状をしている。

 いや、そもそもあれを刀と呼んでいいものだろうか。

 反りはほんどとなく、部類的には直刀に近い。

 特に護拳付き柄(スウェプトヒルト)の日本刀など、目にしたことがない。


「や、やめてください光忠さん! 殿方に刃を向けるなんて御剣姫守(みつるぎのかみ)……ううん、女としてやっちゃいけません!」


「そこを退けい姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)! 見ればそこの男も刃を腰に携えておるではないか。ただの飾りではあるまい。目を見ればワシでなくともわかる――こやつは剣を振るう者であるとな!」


 刀を抜いて対峙する姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)に、実休光忠(じっきゅうみつただ)が吼える。

 獅子の咆哮が如き威圧に姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)は今にも泣き出しそうな顔を浮かべていた。

 けれども、彼女は一歩たりとも退く姿勢を見せない。

 何があっても守る。数時間前に口にした言葉を、彼女は健気にも遵守している。


「いいよ姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)。交渉役は俺に任されているからな。こう言った時の対処も解決するのも全部俺の仕事だ」


「で、でも!!」


「大丈夫だよ。まぁ、なんとかなるって」


 納得いかない様子の姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)を下がらせる。

 大刀を抜く。

 静かに刀を運び、双極(そうきょく)の構えを取る。

 陽射しは良好。技への移行も問題なく行える。


「今すぐ土下座をして――いや、お主はそんなに安い男ではないな。今まで数多くの男を見てきたが、お主は別格だ。ワシら御剣姫守(みつるぎのかみ)に劣らずの……剣を振るう者としての闘気に満ちておる。ならば――」


 実休光忠(じっきゅうみつただ)が構えた。

 刃を水平に寝かせて肩の位置まで持ち上げる。

 五行の位に属さない独特の構えだが、切先を相手に向けるそれは刺突(つき)の型であることを物語っている。

 ようやく、合点がいった。

 実際に習ったことはない。テレビで数回目にしたことがあるかないかぐらいなものだ。

 オリンピックで取り扱われている競技の一つ――フェンシング。

 故に。


――あれは、刺突剣(レイピア)のつもりか。


 レイピアとは、刺突技に主体とする片手剣である。

 サーベルやブロードソードなどの刀剣類に比べて比較的軽量で幅を取らないレイピアは、実戦用ではなく護身もしくは決闘用として普及された。

 これは火器などが発展し、鎧を纏った騎士同士の戦いが比較的低下したことが大きな要因となっている。

 そのため斬撃を繰り出すには不相応な武器であり、細い刀身は下手に振り回せば折れてしまう。

 相手の鋭い斬撃を受けようものならば、小枝の如く圧し切られる。

 対策として刀身に負担を掛けない為の擦り切りや、護拳(ナックルガード)で敵を殴るなどの戦法が編み出された。

 もしくは、盾の代わりとしてマンゴーシュなどの短剣で防御をしながら、と言った俗に言う二刀流で戦うことも極めて普通だったとされている。


 実休光忠(じっきゅうみつただ)の左手には防御用の短剣が握られていない。

 そもそも彼女には必要ないだろう。

 なにせ相手は第六天魔王が振るった名刀だ。一撃、二撃で折れるようなナマクラではない。

 下手をすれば打ち負けてこちらが折られる可能性の方が高い。

 それにしても。


――よほどの自信あり、か。


 斬るのではなく突く。

 刀の本来の強みは斬ることにあり、突くのは槍が持つ強みだ。

 状況によっては刺突をすることもあろうが、斬ることを主にするのが殆どだろう。

 もっとも、反りがほとんどない彼女の得物であれば斬るよりも突く方が向いている。 


「今まで発した言葉を謝罪するのであれば、許してやらんでもないぞ? ワシはこう見えても寛大であるからな」


「……御託はもういいでしょう実休光忠(じっきゅうみつただ)さん。最初からそのつもりなんかないくせに」


「そ、そうです! ずっと昔に姫が間違ってオヤツを食べた時は泣きながら半日中追い掛け回されてました! 光忠さんは短気で怒りん坊です!」


「へぇ、そんなことが……」


「む、昔の話を引っ張り出す出ない! そもそもあれはワシが楽しみにしておった高級菓子をお主が食ったからであろう!」


「お菓子食われただけで怒るって……かわいい時期もあったんですね」


「お主もいちいち反応せんでよいわ!」


 咳払いの後、実休光忠(じっきゅうみつただ)が静かに口を開く。


「しかし、わかっておるでないか――では、ワシからゆくぞ!」

 

 実休光忠(じっきゅうみつただ)が先の先を仕掛ける。

 力強く地を蹴り上げて己の間合いに入ったと同時に繰り出される刺突。

 相手が男であろうと、躊躇いもなく顔面へと打ち込んだことに姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)が短い悲鳴を上げる中で――悠は静かに避けた。

 顔を右に傾け最小限の動きで実休光忠(じっきゅうみつただ)の攻撃を回避して、同時に反撃に転じる。

 最大限にまで伸ばされた腕を戻して次の突きを出すよりも、表切上に刃を打ち込む方が先に到達する。

 悠の思惑通り下方より切り上げた刃が実休光忠(じっきゅうみつただ)の左脇腹を捉えて――。


「なっ!?」


 それは突然として起きた。

 己の攻撃が受け止められた――この部分だけを聞けば別段変わりはない。

 攻撃をして防がれる、当たり前の現象だ。

 問題は、左虚空を穿ったはずの実休光忠(じっきゅうみつただ)の切先が、悠の刃を受け止めていることにある。


――いやいや……ありえないだろ。


 そう、ありえないことだ。

 陽動(フェイント)ではなく全力で繰り出した一撃を打っておきながら、己に攻撃が到達するよりも迅く刺突をもって相手の攻撃を防ぐなど、ありえないことだ。

 驚く悠に追い討ちを仕掛けるように、更に不可解な現象が続く。

 受け止められたと目視して、瞬きもせぬ間に既に顔面へと打ち込まれていた。

 眼前まで迫った切先を、咄嗟に倒れるように身体を大きく逸らして強引に回避する。

 僅かに遅れて、先程まであった頭部の位置を実休光忠(じっきゅうみつただ)の刺突が通過した。

 なんとか体制を立て直す。

 魔剣――刀を構え直す悠の脳裏に一つの言葉がよぎる。


 幕末、最強の人斬り集団と呼ばれた新撰組の一番隊隊長を務めていた沖田総司。

 剣の天才であり最強と謳われていた彼には、三段突きと言う得意技がある。

 そもそも突き技とは本来“死に技”とも言われ、一度突きを繰り出すと次の一手までの時間が掛かる。

 もしも躱され反撃された時には、防御ができないと言う致命的な弱点がある。

 これを副隊長であった土方歳三が考案したとされる平突きは、刀身を地面に水平な状態にして刺突を繰り出すことで、横に動いて避けられても即座に横薙ぎへ派生する事で追撃を可能にすることで弱点を克服した。


 沖田総司は、この平突きを一瞬にして三度繰り出す。

 諸説によれば同じ喉や心臓などの急所に三度打ち込むとされていれば、急所のどこかを一点集中で三度突くなど。

 未だに実態は解明されていない。

 だが、一歩足を踏み出す音を聞いた瞬間三度の突きが打ち込まれるなど、相対した者からすれば最早純粋な剣術としての領域を遥かに凌駕している。

 そうした常識から逸脱した剣技を、人は魔剣と呼ぶ。

 ならば先ほどのあれも魔剣の類であろうか。

 可能性がないわけではないが。


 御剣姫守(みつるぎのかみ)には刃戯(じんぎ)がある。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)は真打だ。ならば当然彼女にも刃戯(じんぎ)が備わっている。

 詳細は不明。しかしあの不可解な現象と関係があることは確かだ。

 純粋な剣術か、それとも異能か。


――関係ない。


 どんな仕掛けがあろうと、結城悠がすることは変わらない。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)に勝つ。ただそれさえ理解していればいい。


「今の攻撃をよく避けた! 一先ずそのことは褒めてやるぞ。じゃが次も避けられると思わぬことだ!」


 再び向かってくる実休光忠(じっきゅうみつただ)。

 悠は刀身をわずかに動かす。

 陽光が刃に反射して、眩い光が実休光忠(じっきゅうみつただ)の顔を照らす。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)の動きが、一瞬止まった。

 間髪いれず地を蹴り上げる。

 間合いは零に。目が眩んでいる実休光忠(じっきゅうみつただ)が視力を取り戻し、攻撃に転ずる頃には、すべてが終わっている。

 斬りはしない。斬ってしまえば依頼は失敗する。

 切り込む瞬間、刃を反転させて峰を相手に向けた。

 左脇腹を悠の白刃が捉えた――が、肉を打ち骨を砕く感触とは、まるで掛け離れたものが両手に伝わった。

 硬度の高い物を打った感触。

 その感触を、悠は知っている。とても馴染みがある。

 これは、刃と刃がぶつかり合う時の感触(もの)だ。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)の目はまだ回復していない。

 構えが解かれた刀を見れば、気配を察して攻撃したわけでもない。

 落ち着いて見やる。


「なっ……」


 驚愕と同時に、悠は理解した。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)は魔剣など習得していなかった。

 ではどのようにして先ほどと、現在(いま)の攻撃を防いでみせたのか。

 答えは実に単純なものだった。

 第三者による加入――即ち、助太刀が入ったのである。

 それこそが恐らく、実休光忠(じっきゅうみつただ)の刃戯(じんぎ)なのだろう。

 彼女の背後より浮かぶ幻影(ヴィジョン)――一本の骸手が刀で悠の刃を受け止めていた。

 一本だけではない。

 百か、もしくは千を超えるか。

 とにかく無数の骸手が実休光忠(じっきゅうみつただ)の背後で蠢(うごめ)いている。

 腕の主が、遅れて姿を見せた。

 なんと言う巨体か。実休光忠(じっきゅうみつただ)の身の丈を軽く超える大きさ。

 鳳凰を象った冠を被った骸の王がにやりと笑った。表情筋はおろか血肉すらないと言うのに。


「このワシに二度も刃戯(じんぎ)を使わせるとはのぉ。ただの刀を持っただけの小童と思いきや、いやはや随分と楽しませてくれる男じゃ」


 視力を取り戻した実休光忠(じっきゅうみつただ)が不敵な笑みを浮かべる。

 悠は大きく飛び退いて間合いを空けた。


「それが……貴女の刃戯(じんぎ)ですか」


「いかにも。これこそがワシの力の象徴! ワシが最強である証! 【天魔顕現(てんまけんげん)】――ワシだけの刃戯(じんぎ)よ!」


「スタンドかよ……」


「“すたんど”? よくわからんが、まぁよい――さてと結城悠と言っておったな。ワシに刃戯(じんぎ)を使わせたことは素直に褒めてやるぞ? じゃが遊びはここまでじゃ!」


 実休光忠(じっきゅうみつただ)が、【天魔顕現(てんまけんげん)】が襲ってくる。

 無数の手に携えられた千を超える刃が、一斉に飛んでくる。

 悠は左右、後方へと避ける。

 なんの技でもない。ただ避け続けた。

 降り注ぐ刺突(つき)の雨に悠は打つ手がない。

 一対多数を想定した修練は鳴守真刀流(なるかみしんとうりゅう)の稽古もあったが、これはいくらなんでも規格外すぎる。

 一度に千人を相手にして生きていられるなど、創作の中だからこそ実現できる。

 普通の人間に同じ真似はできない。


「ほれほれどうした悠よ! 反撃してこぬのか!? お主はその程度なのか!?」


 できればとうにやっている。

 できないから、悠は逃げ回るしかない。

 幸い【天魔顕現(てんまけんげん)】による攻撃は、|実休光忠(じっきゅうみつただ)(ほんたい)に比べて遅い。だから辛うじて避けられて、命を繋ぎ留めている。

 廃寺から離れると言う手も一つだ。

 だが、逃げたところで実休光忠(じっきゅうみつただ)はきっと追い掛けてくる。

 となると、この場で決着をつける他ない。

 立ち止まって、実休光忠(じっきゅうみつただ)の正面に立つ。


「あぁ、結城悠よ。お主は最高じゃ。今まで数多くの男がワシによってきたが、皆ワシを恐れて媚を売るばかりじゃった。じゃがお主は違う。最強の御剣姫守(みつるぎのかみ)であるこのワシに正面から挑もうとしておる。その姿にワシはとてもお主を気に入ったぞ!」


「だったらなんですか?」


「このままお主の要望通り力をあのつまらん組織に貸してやらんでもない。じゃが……そうしたくば、このワシに一撃でも入れてみせよ」


「言質取りましたからね? 後で負け惜しみとかやめてくださいよ?」


「抜かせ小童が!」


 悠は地を蹴った。


「だ、駄目ですお兄様!!」


「結局、この手に頼らないと駄目か」


 悠は纏っていたシャツを脱ぎ捨てた。

 布の下に隠されていた肌が姿を晒す。


「は?」


「へ?」


 間の抜けた声が二つ聞こえた。

 猛攻を仕掛けていた【天魔顕現(てんまけんげん)】も、ぴたりとその動きを止める。

 この世界だからこそ通用する秘策。

 男に飢えている大和に住まう女性だけに限定された、悠だけの技。技でもなんでもないが。


「な、なななななっ! 何故お主は急に裸になるのじゃ!?」


「へへへ、変態ですお兄様!」


 慌てふためく二人の御剣姫守(みつるぎのかみ)。

 刀をぶんぶんと振り回している辺り、効果は抜群である。

 一方で姫鶴一文字(ひめづるいちもんじ)は両手で顔を隠している。

 指の間はしっかりと開かれているので、実質隠されていない。目を爛々(らんらん)とさせて、食い入るように悠の上半身を見つめている。

 それはさておくとして。

 実休光忠(じっきゅうみつただ)に隙が生まれる。

 当然、悠は見逃さない。

 縮地による間合い詰めの後、頭部に手刀を見舞ってやった。


「あっ! し、しもうた!」


「俺の勝ちでいいですよね実休光忠(じっきゅうみつただ)さん?」


「ぐぬぬ……し、仕方あるまい。ここは素直にワシの負けを――ってそんなことどうでもよいわああああっ!」


 実休光忠(じっきゅうみつただ)の叫び声が廃寺に木霊した。

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