???の場合(2)
少年、アルトが寝ている部屋に溢れるばかりの人が集まっていた。
「狭いぞ、お前ら」
「そう言うなよ、誠。サヤ達がアル坊が倒れたって必死になって伝えて来たんだ。最悪な状況を想像してしまったんだよ。それで、今どういう状況なんだ?」
「分からん。リース達の回復魔法で血は止まった。けど、少ししたらまた出血してしまうんだ。・・・望、お前の”力”で向こうの世界の医療機械を創れないのか?」
「無理だな。実物を見た事も無いし、それがどういう原理で動いているのかすら知らないしな。まぁ、想像で創る事は可能だが、その結果が合っている分からないしな」
「・・・そうか」
井上誠と上村望。二人の異世界の英雄が話すも、解決策は見つからず、集まった人達もただ不安そうにアルトの姿を見るだけだった。
「ゴホッ」
「チッ!またか!」
その沈黙を破ったのは、またアルトが口から血を吐き出す音だった。
誠がすぐさま回復魔法を使い、血は止まったがアルトの顔はまだ青いままだった。
「そうだ、お父様!聖女様なら!」
「ダメだ。マリーは今色んな町や村に巡回に行っているらしくてな、どこにいるのか正確な場所が分からないんだ。それに、一応俺もそれなりに回復魔法や解呪魔法を使えるが、それすら反応が良くないんだ。だから、もしここに、マリーが来ても・・・」
「そんな!」
この世界の中で一番の回復魔法や解呪魔法、その他の補助魔法の使い手の聖女と呼ばれる女性ならと誠の娘、リースが言うが、アルトの様子を見るに魔法ではどうする事にも出来ないだろうと誠は判断する。
その判断は正しい。
これは、傷を治すだけの回復魔法や毒や呪いを払う解呪魔法ではどうしようもないものなのだ。
そこまで気付いていながらなぜ気付かない。
お前達はこの世界とは別な世界から来たのだろう?
その世界には、傷を治す為の魔法なんてものは無かったのだろう?
毒に侵された人を救うための魔法なてものはなかったのだろう?
あったのは何なんだ?
なぜ、最初に医療器械を創れないのか聞いたのか?
それで何をしたかったのか、もう一度しっかりと考えてみろ
・・・もどかしい
ずっと見ていたから、アルトが夜な夜な血を吐きながら、それを周りに気付かせないように隠していた姿を、アルトがなぜそんな事をしたのか、その想いもみていたから
だから、直接言ってやりたい気持ちがあるが、今の我の力ではこうやって唯見ているしかできない。
だから、凄くもどかしいのだ!
だから、早く気付いてくれ。もう答えはすぐそこまで・・
「・・ッ!誠!病気だ!怪我や毒、呪術何かじゃない!風邪と同じ病気なんだよ多分!」
そうだ!
望よ、良く気付いた。
回復魔法はその症状の緩和しかできない。
それでは、その大元を治療することができない。
だから、今必要なのは、世界一の回復魔法やその使い手じゃない。
必要なのは
「そうか、薬か!でも、こんな症状の病気は見た事がないぞ!」
「あいつだ誠!あの、ふっひゃっひゃっひゃ!のばあさんだ!」
ほほう!今度もよく気付いたな望よ
この世界では回復魔法や魔法薬で大概は治る。だから、それ以外の病気に対する薬を作っている薬師の数は少ない。
しかも、その中で珍しい病気に詳しい薬師となるとさらに少なくなる。
その薬師の中でも、回復魔法に頼らずに病気を治す事に徹底した一族が作った治療薬。その治療薬の作り方を知っている人物は、誠達は我の元に来るまでの旅の中で会っていた。
「あのばあさんか!でも、あのばあさん、まだくたばってないよな?」
「今にも死にそうで、死にそうで、死なないばあさんだぞ?まだ、死にそうにふっひゃっひゃっひゃ!言ってるさ」
確かに、今も死にそうな姿でふっひゃっひゃっひゃ!言っているが、早くしないとその希望も無くなってしまうぞ?
流石に、生物として限界だろ
「確かに、藁にも縋る気持ちだが、試す価値はあるな!ちょっくら行ってくるわ!」
「おう、こっちの事は嫁さんや娘達がどうにかできるだろう」
「・・・お前は?」
「・・・嫁さん達の邪魔にならないように大人しくしているわ」
こういう時に、テキパキと動けるのは女性と言うのはどこの世界でも変わらないらしい。
「ふっひゃっひゃっひゃ!ゴホッ!ゴホッ!」
「何か変な咳が混じっているんですけど!大丈夫か!?」
「ふっひゃっひゃっひゃ!ゴホッ!ゴホッ!」
「もういいわ!死ぬならアルトの奴を見てから死んでくれ!」
「ふっひゃっひゃっひゃ!なんじゃ、やけに素直に言いよるな?この老い先短い婆ぁに向かって、そう急がんでももうすぐそこまで迎えが来ているぞ?」
「だから!その迎が来る前にちゃんとアルトを見ろよ!」
「ふっひゃっひゃっひゃ!ゴホッ!ゴホッ!」
「お父様!ふざけてないでちゃんと見て貰って下さい!」
「ふざけてねぇよ!」
誠が連れて来た婆さんは、部屋にいる人達を見た後に急に咳き込んでしまったのだ。
誠たちが慌てる中、婆さんは急に態度を変えて
「ふっひゃっひゃっひゃ!ちょっとした、婆ぁのお茶目じゃ」
「ふざけんッ・・!」
その態度に、誠が流石に我慢の限界だったのか婆さんに掴み掛ろうとしたら、婆さんは手に持っていた杖を誠に突き刺す。
「別にふざけてないさ。ここは暗すぎる、病は気からじゃ。陽の気を取り入れようとしただけじゃ」
「陽の気って、陰陽術でも齧っているのかよ」
「ふっひゃっひゃっひゃ!ゴホッ!ゴホッ!」
「だぁぁぁ!もう!」
頭を抱えながら叫ぶ誠の傍を通り過ぎて、婆さんは寝ているアルトの身体に触れて色々調べる。
「おい、お主」
「何だよ?」
「邪魔じゃ」
「・・・望。俺この婆さん殴っても良いよな?」
「気持ちは分からんでもないが、止めとけ?婆さんじゃなくて、嫁さん達が怖いから」
振り上げそうな拳をフルフルと震わせながら、望と一緒に部屋から出て行く誠。
婆さんはついでにというように、部屋にいた人たちを全て追い出した。
皆は、それぞれ残りたい意思を伝えるも、婆さんは「邪魔」の一言で全員追い出したのだ。
婆さんはアルト以外の人が完全に消えたのを確認してから
「お前さん、いつからじゃ?」
婆さんは、寝ている筈のアルトに向かって声を掛けた。
「・・・12歳になった頃だと思います。師匠に拾われる一年前ぐらいですので、丁度一年前かと」
アルトは顔色が悪いまま、目を開けて婆さんを見ながら小さな声で答えた。
婆さんはアルトの意識が戻っていることに気が付いていたのだ。
「そうか」
婆さんは、そういうとアルトの身体を触ったり、目を開いたり、口の中を見たりして先程よりも詳しく調べ始める。
「・・・怒らないのですか?」
「何にじゃ?」
「僕がこの事を隠していた事にです」
「ふっひゃっひゃっひゃ!怒ってどうするのじゃ?確かに処置を早めにすればここまで酷くはならなかっただろうがな。それはそうとお前さん、北の方で、奴隷のように働いた事はないかの?それか、不衛生な人を世話をしたことがあるとか?他には・・・死人の傍にいた事があるとかじゃが」
「・・・あります」
アルトは婆さんに、誠に拾われるまでの事を話し始める。
今までも見て来たが、改めてその話を聞くと何だか我も不思議な気持ちがしてくる。
・・・成程、これが怒りか。
誠の周りの事をみてきて、アルトの事を見始めてから我にも心の感情が産まれて来たようなきがするのだ。
だから、この二人の事を視るのは止められない。
「成程な、病名が分かったぞ」
「それは?」
「まぁ待つのじゃ。お前さんの事を一番心配していた他の奴らにも聞かせんといかんしな。それに」
婆さんは、アルトの扉の前でソワソワと落ち着かない誠達を部屋に迎え入れようと扉に向かう。その途中で、一度アルトの方を振り向き
「お前さんは、先程儂に怒らないかと聞いたな?」
「はい」
「確かに儂は医者で薬師で、病気を隠していた事については思う所があるが、この病気は普通の人ではまず気付かん。医者の中でも、気付けるのは古い知識を持っている儂ぐらいじゃ。じゃから、その事については儂は怒る事は出来ん。それが出来るのは・・・」
「・・・はい」
「ふっひゃっひゃっひゃ!察しがいい少年じゃ!お前さん今いくつになった?」
「13歳です」
「ふっひゃっひゃっひゃ!その歳でか・・・まぁ、それなりの経験をしてきたようじゃからの。大丈夫じゃ、絶対治るさ」
婆さんはそのまま扉を開けると
「婆さん!それで、アルトは!?」
「ふっひゃっひゃっひゃ!ゴホッ!ゴホッ!」
「だから、それはもういいんだよ!?」
誠が騒がしく、部屋に入ってくるのだった。
「キリキリ病?」
「ふっひゃっひゃっひゃ!そうじゃ。身体中に急に切り傷ができてしまう病気じゃ」
「そんな病気があるのか」
「ふっひゃっひゃっひゃ!目の前の現実を見るんじゃな。この坊主はまだ運が良い方じゃ。一番対処がし易いのは、身体の表面に傷が出来る場合じゃ。この場合は、すぐに気付くことができるから、対処が早く出来る。その次は、身体の中に傷が出来る場合じゃ。これは気付くの遅くなるのと内臓を傷つけられるために、口から血を吐く。これも対処が間に合えば死ぬことはない。坊主の場合はこの場合じゃな。参考に、最悪の場合も教えておこうかの。それは、頭の中に傷が出来る場合じゃ。この場合は、死んでからしか原因が分からん。」
婆さんからアルトの病気について説明を聞き、最悪の場合じゃない事に皆がホッとする。
病気が分かれば、治療も可能だと喜びそうになるが
「確かに、この病気の治療薬はある。じゃが、ここまで進行が進んでいる状態なら、今の手持ちだけじゃ足りないのじゃ」
「じゃぁすぐに追加分を作れば・・」
「材料があればな」
「は?無いのか?」
「無い」
その言葉で、緩んでいた空気がまた重くなる。
もし、すぐに材料をかき集める事が出来ても、乾燥させたりと処理に時間が掛かると言うのだ。
しかも
「この坊主の限界は、あと数日じゃ。普通なら間に合わない・・・」
「そんな・・・」
婆さんからその言葉を聞かされて、リース達が絶望した声を出しながら座り込んでしまう。
そんな姿を婆さんは見ながら、血が滲む程強く手を握り締めて誠に視線を向ける。
「普通ならじゃ。お主達は今では英雄と呼ばれているんじゃろ?子供一人助けられなくて何が英雄じゃ」
「だけど婆さん、さっき無理って」
「いくら英雄と言っても、一人じゃ無理じゃ。じゃが、ここにいるお前さん達の力を合わせれば、大丈夫のはずじゃ」
そう言いながら、婆さんは誠や望だけではなく、座り込んでいるリース達。そして、その母親達をも指さす。
「まずは、グループを三つに分けるのじゃ。そうじゃな、獣人が固まらない方が良い。丁度、猫、犬、狐の母娘で三つじゃ」
「えぇと犬じゃないくて、狼なんですけど・・・」
氷狼族の母親の言葉は婆さんには届かず、婆さんは説明を続ける。
「いいから、すぐこっちに来るのじゃ。この三つの薬草の匂いを覚えるのじゃ。独特の匂いじゃから覚えやすいと思うが、その中でも一番覚えやすいのを言うのじゃ」
それぞれの種族の母親は、婆さんが取り出した薬草の匂いをそれぞれ嗅いで覚えようとする。
サヤ、ミヤ、アヤもまだ希望があるのだと、張り切り薬草の匂いを嗅ぐ。
「私は、こっちの方が」
サヤ達は緑色の薬草、ミヤ達は黄色い薬草、アヤ達は赤い薬草を選び、探す薬草が決まった。
「ふむ・・・なら、猫の方にはエルフのお前さんが一緒に行くのじゃ。この薬草は、エルフの里が近いからの」
エルフの英雄、ルックを指さし婆さんは持ってきた荷物を広げ始める。
そして、その中から大きな地図を取り出した。
山や川、道などが大まかに書かれている地図だ。
「ここと、ここと、ここじゃ。分かったならさっさと探してくるのじゃ。時間の余裕はないぞ」
「この地図、大まか過ぎるだろ!大体の場所は分かるが、細かい場所になると・・・」
「御婆様、もう一度、これらの薬草の特徴を教えて貰えませんか?」
婆さんから地図を奪い取った誠が頭を抱えると、その傍からメイド服を着ているノアが婆さんに声を掛けた
「ふむ、いいじゃろ。この緑の薬草は・・・・」
婆さんがそれぞれの薬草が生えている場所やその薬草の特徴を詳しく話すと、その話を聞いているノアが隣にいたジルに目配せをすると、二人して頷く
「旦那様、私達とお爺様ならもう少し場所を特定することが出来ると思います」
今まで旅をしてきた中で、実際に見た事があったり、噂話を聞いたりで心当たりがあると言うのだ。
「よし!それならいける!」
誠はその事を聞くと、薬草探しに選ばれた人たちと一緒に転移魔法で転移した。
「なら、俺は薬草の処理を早くする機械を創れば良いんだな」
「ふっひゃっひゃっひゃ!察しが良くて助かるわい。一つは、薬草を乾燥させる物、一つは、薬草を大量に絞る物、一つは、混ぜ合わせる物じゃ。最後の混ぜ合わせる物は、細かく分量が分けられる物が一番いいじゃが」
「ま、任せとけ!一気に三つ創った事はないが、為せば成る!・・・多分」
物を創り出せる望が、無茶な注文をする婆さんに顔を引きつりながら頷く。
そして、役割を与えられなかったのは
「わ、私達は何を・・・」
未だに座り込んでいる、リースと
「私もエルフの里に行くべきだったかしら?」
そのリースを支えている、マリルだった。
婆さんは、その二人の様子をみて声を掛けようとすると
「リース、いつまで座っているの!しっかりしなさい!」
リースの母親アマルが声を荒げ
「マリルもあっちに行くより、やる事があるでしょう?」
マリルの母親スミアが困ったように娘に声を掛ける
「ふっひゃっひゃっひゃ!流石、母親と言ったところかの。お主達には、坊主の傍にいて貰うぞ?さっきも言ったが、病は気からじゃ。病で苦しんでいる時に、誰か傍にいるだけで楽になる事もあるんじゃよ。それに、お主達は、回復魔法が使えるじゃろ?エルフの母親には、坊主を寝かせつけせて貰うかの」
婆さんは、流石というように笑いだし、早く動けと言うように、手を叩く。
リース達が慌てて立ち上がりアルトの傍に行こうとして
「・・アルトを寝かせ付けるというのはどういう事でしょうか?」
と、首を傾げて婆さんに尋ねる。
婆さんはそんな事も分からんのかという表情をして
「言ったであろう?キリキリ病は身体中に切り傷が出来ると。お主達は、身体に絶えず切り傷ができる状態で、寝る事ができのかい?じゃから、今も我慢している筈じゃ、叫びそうになるほどの痛みをな」
その言葉を聞いて、勢いよくアルトの方を向くリース達。
アルトははぁはぁと息を苦しくさせながら、顔を青くさせながら、苦痛に満ちた顔をしていた。




