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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
これまで、そしてこれから(過去編)
75/86

アルトの場合(3)

急いで村に戻ろうと馬を走らせていると、道には急いで逃げて来たのであろう人達が何組かの集団で固まっていた。

群れからはぐれたのか、逃げて来た村の人達を追いかけて来たのか分からないけど、ゴブリンの数も多くみられる。


「急がないと!」


ゴブリン達から必死になって逃げている人や皆を守るために戦っている人が見えるけど、今の僕にはその人達を助ける余裕も実力もなかった。

だから、そういうことを言い訳にして、目の前の光景を見ないようにして馬を走らせる。

逃げて来た集団に、今も襲われている集団に家族がいないか軽く見渡すが、そのような人達はいなかった。

段々と村が近づいて来るにも関わらず、家族の姿を見つけられないことで段々と焦り始める。


「何でいないんだ」


お父さんは、あの村の責任者の一人になっているらしく、最後まで村に残っているのかも知れない。

だけど、お母さんやまだ幼いイストが逃げていない筈がないのだ。

なのに未だに見つけられない・・・・


「違う!」


最悪の事を想像してしまい、首を振ってその光景を振り払う。

まだあるか分からない希望にしがみ付いて、村が目と鼻の先ぐらいの位置にいた集団の横を通り抜けると後ろから


「アルト!お前の母さんがイストを探してまた村の中に!」


という声が聞こえて来た。


「ッ!」


無事に逃げていて欲しいという希望が打ち砕かれたけど、まだ間に合う筈だ。

どうせなら、最後まで残っているお父さん達と一緒に逃げた方が良いのかもしれない。と思い込むことにした。


ゴブリンの強さは良く知っている。

師匠との修行で、何度も何度も戦ってきた相手だ。一対一だと僕一人でも倒せるようになってきた。


ゴブリンの知識も良く知っている。

武器を奪い使い、道具をも使い、人間と一緒のような生活をしているという事を。人間でいう三大欲求に素直で、目の間に獲物がいれば襲い掛かるという習性があるという事も。


ゴブリンの最大の強みも知っている。

一体一体は弱い力しかないけど、それを補うように数で攻めてくることを。はぐれの集団でも危険なのに、巣や拠点を築いているゴブリンの集団には高ランクの冒険者や騎士が駆り出されることも知っているし、僕は師匠の修行で何度もそこに置き去りにされた事がある。


だから、知っているのだ。

ゴブリンの集団に一度囲まれてしまったら、逃げ出せない事を

師匠達みたいに特別な人や集団戦に慣れている人でもない限り無事にはすまない事を

でも

だったら


「だったら!僕が助けてみせる!」


まだ、リース達みたいにゴブリンの巣を壊滅させる事は出来ないけど、逃げてくることは出来るようになってきたのだ。

家族を見つけて、村の外まで連れ出せれば多分助かる筈だ


「間に合え!」


気合を入れ直して、馬に活を入れて未だに増え続けているゴブリンの集団がいる村の入り口に飛び込んでいく



馬の勢いでゴブリンを蹴散らしながら進んでいくことは、そこまで長く出来なかった。

矢が馬に刺さり、馬が倒れてしまうとそこに群がる様にゴブリンが襲ってきたのだ。

僕は襲ってくるゴブリンに対応しながら、馬を犠牲にして何とかその襲撃から逃げ出す事ができた。

僕が今持っている武器は、地面に落ちていた短剣でそこまで良い物ではなかったけど、何も持たないよりはましだった。


何度も何度もゴブリンに追いかけられ、

何度も何度もゴブリンを倒して、

やっとの事で自分の家まで辿り着くことが出来た。


「・・痛い」


一対一であれば勝てるようになったゴブリンだけど、やっぱり集団で襲ってくると対処が間に合わなくて、軽い怪我をしてしまった。

それでもその痛みを我慢して家の扉を開けようとしたけど、固く閉ざされてビクリともしなかった。


「いないのかな?」


いないのであれば問題ない。

この家は洞窟に一番近い建物なのだ。

という事は一番危険な場所でもあるのだ。

そんな所に家族がいないであれば凄く安心できるのだけど、何故か僕はこの家の中に誰かがいると感じている。

今も洞窟の入り口から数匹のゴブリンが出てくる様子を隠れて見ながら、家の周りを確認していく。

師匠に見つかれば怒られるだけでは済まないとは思うけど、僕は何かに引き付けられるようにそこに向かってしまう。


「・・あ」


そこで見つけたのは、正面の無事だった扉とは正反対にぐしゃぐしゃに壊された壁や窓があった。

ゴブリンは人間と比べると低いけど、知恵を持っている。

だから、頑丈な正面よりもどこか脆い所を探したのだろう

壊された瓦礫の踏み越えて家の中に入ると、数匹のゴブリンの遺体と散らかっている家具があった。

僕は短剣を握り締めながら、慎重に部屋の中を確認していく


一階は・・誰もいない

争ったような跡があるだけだった。


二階に上がる・・・・


「ッ!」


階段を上っている途中で何か音が聞こえた。

ゴブリンと戦う事で注意するべき点は、いかに囲まれないかだ。

囲まれてしまえば、僕ならすぐに殺されてしまう。

だから、外で戦う時よりも室内、空間が限られている所で戦う時の方が難しいのだ。

慎重に階段を上り、音がする方を恐る恐る見ると


「ギャッギャ!」


ゴブリン達が数匹集まっていて、扉を壊そうとしていた。

ゴブリン達が手に持っている武器や体当たりなどしているけど、その扉はびくともせず、こちらに聞こえてくる音も小さくしか聞こえてこなかった。


「あの部屋は確か師匠が・・・」


僕が家族の所か師匠の所かどっちかに住むことになっても、いつでも会えるようにと転移魔法を設置する為に作った部屋で、まだ、転移魔法自体は設置していないけど、僕達家族や師匠達しか使えない特別な扉だけは取り付けていたのだ。


多分、そこに逃げ込むことが出来たのだろう。

だけど、扉の前にはゴブリン達がいて出られないのだ。


「ふぅ~・・・・」


そうと分かれば後はゴブリンを倒すだけだ。

僕はバクバクと激しく鳴っている、心臓を落ち着かす為に大きく深呼吸してゴブリン達を見る

数は外に比べると多くなく5匹。

狭い廊下である事から、多くても二匹しか前に出れない。

なら、後は落ち着いて倒すだけだ。


「行くぞ!」


僕は意を決してゴブリン達に飛び掛かる。


「ギャッギャ!」


ゴブリン達は僕に気付いて、攻撃をしてくるが、予想通りに廊下の幅狭くて僕を囲む事は出来ない。

特に、体当たりで扉を開けようとしていた、ゴブリンは武器を持っておらず簡単に倒すことができた。

一対一だと何とか勝てるようになったゴブリンだけど、何故か今日は一対一よりも多対一での戦闘の方が楽な様な気がする。


「気の所為かな?」


師匠達みたいに実力が高い人ならともかく、一対一でやっと勝てるようになった僕が多対一、それも危険だと言われているゴブリンの集団に対して楽だなんて言える筈がない。

多分、気持ちが高揚して錯覚しているのだと思う事にした。


「お父さん?お母さん?僕ですアルトです。扉の前のゴブリン達は倒しました。出て来ても構わないですよ」


扉の前でノックして声を掛けるけど、中からは何にも返事がなかった。

疑っているのか、僕の声が聞こえないのか・・・

急に扉を開けてしまえば、驚いてパニックになるかもしれないと思って声を掛けたけど、どうやらそうも言っていられないらしい。


「開けますよ」


扉を開けた瞬間、恐怖に錯乱した家族が襲って来ないようにと祈りながら扉を開ける。


「お母さん?・・・・お母さん!」


そこには血だらけで倒れているお母さんの姿があった。


「アルト?・・・なんで?」


血を流し過ぎたのか朦朧としているお母さんが目を開けて僕の方を見た。

よく見ると、お母さんが抱いている腕の中にはイストがいた。


「お母さん傷が・・・それにイストは・・」

「イストは無事よ、少し怪我をしているけど・・・でもお母さんは・・・」


イストを庇って怪我をしてしまい、ゴブリン達が多くなったことで村の外に出る事を諦めたお母さんは、師匠から聞かされたこの特別の部屋に籠ったのだと言う。


「外に出よう」

「何を言っているの。外に出るとゴブリンがいるのよ」

「でも、それだとお母さんが!・・・・死んじゃう」


簡単に止血はしてあるみたいだけど、それでも血が止まっているようには見えない。

このままだと本当にお母さんが死んでしまう。

外に出れば、村の外に出て町にいや、来る途中で会った集団の中に治癒魔法が使える人がいるかも知れない。

そんな事をお母さんに伝えるけど、にっこりと笑って首を横に振る。


「お母さんの為に、イストもアルトも危険な目に合わせたくないの。この部屋から出なければ安心だから、お父さん達がきっと騎士の人達を連れて助けに来てくれるから、それまで待っておきましょう?ね」

「でも、お母さんが!」


お母さんは僕の声に耳を傾けずに、僕の身体を抱きしめようとする。

だけど、お母さんはもう動く元気がなくただ手を開くだけだった。


「・・・・・・」


僕は静かにお母さんの腕の中に抱かれるように体を丸めた。

お母さんの腕の中で、イストの温もりも感じてとても暖かい感じがした。

やっと会えたお母さん。

その温もりを失ってしまう事がとても我慢できなかった。

まだ幼いイストの為にも母親の存在は必要なのだ。

だから


「ア、アルト!」


僕は師匠達と比べるとちっぽけな魔力を全身に纏わせ身体強化を行い、イストを抱いたお母さんを持ち上げる。


「お母さんが良くても、僕もイストもお母さんに死んで欲しくない。だから」

「止めて!アルト達に何かあったらお母さんはどうしたらいいの!」

「お母さんこそ残される僕達の気持ちを知らない!・・・・大丈夫だよ。一応これでも僕は英雄様の一番弟子なんだから」


そして僕は勇敢ながら愚かな選択をしてしまったのだ。



「あ?」

目の前の出来事に思考が追い付かない。

ぐちゃぐちゃと目の前でイストの小さな手が醜いゴブリンの口に入って行く。

服を剥ぎ取られて、体中を剣で刺されているお母さんの姿も見える。

僕はそれをゴブリン達に腕を噛まれながら、剣で足を刺されながら見ている。

僕は目の前の出来事を阻止しようと、我武者羅になって動こうとするけど、魔力が尽きてしまい大量のゴブリン達を退ける事が出来ないでいた。

ゴブリン達も厄介な僕よりも、怪我をしているお母さんや幼いイストの方が楽だと感じたのか、そちらの方に向かっている。



順調だったのだ。

僕の説得が功をなしたのか、お母さんも生き残る事を選んでフラフラしながらも自分で歩き始めたのだ。

だから、ゴブリンの相手は僕がして怪我をしているお母さんと幼いイストの手を引いて村の外へ歩いていたのだ。


本当に順調だったのだ。

一度大きな集団に襲われた時も、ゴブリンの巣から逃げ出す修行が功をなしたのか、お母さんが僕を信頼してくれて僕の指示通りに動いた為か、無事に抜け出す事ができたのだ。


だから、最後に油断した

あともう少しで、村の出口だと言う所でまたしてもゴブリンの集団に囲まれたのだ。

今まで通りにすれば大丈夫だと思ったけど、極度の緊張感で自分の魔力残量や疲労、お母さんの怪我の具合などが頭からすっぽりと抜けてしまって、あともう少しで集団を抜けると思った瞬間に、身体が急に動かなくって倒れてしまったのだ。


そんな僕をお母さんが助けようとして、ゴブリンに捕まり、腕の中にいたイストも奪われてしまったのだ。

鳴き叫ぶイストに剣が突き刺さり、泣き叫ぶお母さんが大量のゴブリンに覆われてしまう。

僕は二人を助けようとしたけど、自分が殺されないようにするので精一杯だった。


何処で間違ったのだろうか

お母さんが言っていたように、あの部屋から出なければ良かったのか?

なら、僕がしたことはいったい・・・


イストとお母さんの叫び声が聞こえなくなり、僕は抵抗を諦めそうになった。

地面に倒されて、ゴブリン達に囲まれながらみる空は決して一緒ではないけど、師匠と初めて出会った時の空に似ているような気がした。


「お前の目を見ていると、昔の自分が惨めに見える」


ぶっきらぼうで、顔を歪めながら忌々しそうに見てくる師匠の姿。

不思議な感じがして、でもとても大きく見えたその姿。


「・・・そうか・・・なら俺がお前を救ってやる」


差し出された手は暖かくて、リース達と出会って、友達になって今では凄く楽しい生活が出来ている。

急に抵抗をしなくなった僕を警戒してか、ジリジリとゆっくり近づいてくるゴブリン達を横目に、僕はまだ動く右腕を空へ伸ばす

昔師匠の手を握ったように、幻影かもしれないど、それでも師匠は笑ってくれた。

師匠達との生活やお父さん達に再会できた喜びがグルグルと僕の頭の中を駆け巡る。


「あぁぁぁ!」


だから


「あ、ああああぁぁぁぁぁぁあああ!」


そんな温かな場所を奪うやつは許せる訳がない!


「その手を離せ!」


最後の力を振り絞り、叫びながら身体を起してお母さん達に群がるゴブリン達に飛び掛かろうとしたら


「・・・落雷」


今最も聞きたかった師匠の声が聞こえた瞬間、目の前が真っ白に染まった。

何故か、そのまえにジルさんとノアさんの姿が視えたような気がしたけど、その後の何かが落ちたような凄い音が周りに鳴り響いてそれを確認する余裕が無くて、無意識に地面に倒れて体を丸めていた。


「・・ったく無茶をする」


師匠の声がすぐ傍から聞こえて、身体を起すと案の定師匠が立っていたけど


「お父さん?」


師匠は体半分を失っている状態のお父さんを抱きかかえていた。


「詳しい話は後だ。今は・・バック」

「はっ!ノア、ジルいつまで呆けている。さっさと動きなさい」

「お爺様・・・」

「ミマ様とイスト様をこちらに」

「・・・はい」

周りは不気味という程静かで、ノアさんやジルさん達が動いている音が凄く大きく聞こえた。


「師匠、お父さんは・・・」


助かりますよねという言葉が出なかった。

身体が半分のまま、まだ息をしている方がおかしいのだ。


「俺は治癒魔法は得意じゃない。身体が半分しかない状態なら尚更だ。俺にできる事は最後の願いを叶える事だけだ」


師匠は地面に何やら文字を書いて、大きく円を描いた中にお父さんを寝かせて、ジルさんとノアさんがお母さんを、バックさんがイストを並べるように寝かせた。


「マコト様、残念ですがイスト様は・・・」

「そうか。流石に死人までは生き返らせないからな」


師匠は地面に手を置いて魔力を流し始めた。

すると、師匠が書いた魔法陣が光だし、苦しそうだったお父さんとお母さんの表情が和らいだ。


「長くは持たないぞ」

「・・・ありがとうございます」


師匠がそう言うと、お父さんが目を開いてお礼を言って、僕の方を見てくる


「アルト無事でよかった。見て分かる通り、もうお父さんもお母さんもどうにもならない」


お父さんはチラリとお母さんの方を向いて、悲しそうに微笑んだ


「本当ならすでに死んでいる身だったけど、どうしてもお前に伝えたいことがあってマコト様に無理を言ってここまで連れて来て貰ったんだよ」


僕は魔法陣の中に入って、お父さんとお母さんの手を握り締める。


「・・・済まなかった」


そんな僕にお父さんは唐突にそんな事を言った。


「どうして・・」


僕はお父さんが何でそんな事を言うのか分からなかった。

僕の所為で、僕の判断ミスでお母さんとイストが死んでしまうと言うのに


「お父さん達はずっと後悔していたんだよ。お前を売ってしまった事を。それこそ、イストを産むことすら罪になると思う程にね」


だけど、お父さんの口から出て来たのは、今回の事ではなく、昔の話だった。

僕の中では昔の事は終わっている訳ではないけど、区別が付いている。


「だけど、アルトが守ろうとした命だし、アルトが必ず帰ってくるって信じて今まで頑張って来たんだ」


そこで、ようやく分かった。

お父さん達はまだ過去に囚われているんだ。

僕は師匠達に出会って、前を向くことが出来たけど、お父さん達は僕達を売ったその日から進んでいないのだ。

後悔という足枷によって


「でも、アルトが帰ってきてくれた時は凄く嬉しくて、マコト様の弟子になっていると聞いてとても驚いたよ」


師匠が書いた魔法陣は治癒効果と鎮痛効果があるのか、お父さんは元気な様子でいつも通り話が出来ている。


「だから、アルト。お父さん達の事は忘れなさい」

「え」


一瞬、お父さんが何を言っているのか理解できなかった。


「夜、アルトが寝てからマコト様に色々話を聞いたよ。楽しそうにアルトの事を話すマコト様や話に出てくるアルトの生活を聞いているととても幸せなんだと思ったよ。本当の家族みたいにね。だから、アルトを捨てた悪い家族の事なんか忘れなさい。アルトがお父さん達の事を背負う事なんて必要ないんだよ」


これも一種の親としての優しさなのだろうか

お父さんやお母さん、幼いイストが死んでしまう。その死を背負わせないように、悲しまないようにする為?

その為に、実の家族の事を忘れる?

そんな事


「そんな事、で!」

「ふざけるんじゃない!」


僕が叫ぶ前に、師匠が叫んで寝ているお父さんの胸ぐらを掴んで引き寄せている。


「ふざけんな!自分の子供に親の事を忘れろだと!それがどういう事か分かっているのか!忘れる訳がないだろ!そんな事できる筈がないだろ!俺があんたをここまで連れて来たのはそう言う事を言わす為じゃない!過去を後悔して立ち止まるのは別に構わないがな!アルトはもう前を向いているんだよ!実の親がその子供の足を引っ張るような事を言うんじゃない!」

「だから、私達の存在が足枷にならないように」

「アルトはそんなに弱くねぇ!」


師匠の怒鳴り声でお父さんは口を閉ざしてしまった。

でも、その顔には驚きや悔しさが見てとれた


「何驚いた顔をしているんだよ!何今更悔しそうな顔をしているんだよ!昔のアルトはもういないんだよ!今ここにいるアルトを見てみろ!あんた達の息子が成長した姿を見てみろよ!驚いたか!俺がこんなに怒る事が。悔しいか!俺の方がアルトの事を理解しているようで、それはあんた達が今のアルトをしっかり見ていなかったからだ」


師匠はゆっくりと気持ちを落ち着かせるように深呼吸しながら、お父さんを寝かせる


「今貴方達が言う事は、自分達の後悔や自分達の事を忘れろとか消極的な言葉じゃない筈だ。親として後悔しているなら、最後に親らしい事をしてみろよ。人格形成・・アルトの根っ子の部分はこの村で作られた。あんた達が育てたんだ。だから、アルトがこれから伸びるかそうじゃないかもあんた達の言葉で決まる。子供の尻を叩いて、背中を押してやれ、子供を前に進ませるために必要なのは、親の言葉と態度だ」

「・・・本当に良いのでしょうか?」

「ダメな理由があるもんか」

「私達の言葉がアルトの重みに・・」

「アルトを信じろよ。こう言えば、また悔しがると思うけど、アルトはもう小さいアルトじゃない。強く、成長しているんだよ」

「・・・・・・・・」


師匠はそう言うと、また魔法陣に魔力を通すことに集中し始めた。

だけど、魔法陣の光は段々と弱くなってきていて、そう長くは保たないと思われる。


「アルト」


僕が握っている手をお父さんとお母さんはギュっと強く握り締めた。


「これから言う事は、アルトの足枷になるのかも知れない。こんな親が言う事じゃないかも知れない。だけど、聞いて欲しい」

「分かった」


僕が即答するとは思ってなかったのか、お父さんが驚いた表情になった。

それが、少しおかしくて、僕は少し笑ってしまう。


「本当に強くなったんだな」

「ええ、私の目の前でゴブリンを何匹も倒したんですよ」

「それは凄い」


お父さんとお母さんが本当に嬉しそうに話している姿をみて僕も嬉しくなる。


「だったらアルト、お父さんが伝えたいことは一つだ。強くなりなさい。別に最強になりなさいと言う訳じゃない。心も体も強く、お父さん達にはなかった強さを今よりももっと、アルトが自信をもって胸を張って頑張って強くなったと自分が誇れるような男になりなさい。」

「お母さんからも一つだけ。人を助けられる人になる事。お母さん達を助けようとしてくれた事凄く嬉しかったわよ。今回は失敗したのかも知れないけど、次はもっと上手く、多くの人を助けられるようにね。アルトは優しい子だから、押しつぶされるかも知れないけど、色んな人に頼っていいから、本当なら・・・その役目は・・・お母さん達の・・役割・・・なのに・・・・・ごめんね」


お母さん泣きながらそう言って、最後に二人そろって


「「アルト、産まれて来てありがとう。アルトがどれだけ成長するかずっと見守っているからね」」


そう言って、二人は息を引き取った。

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