サヤの場合(1)
私は強い
「サヤ、お前は俺の力を濃く受け継ぎ過ぎている。これからそれが負担になっていくかもしれない」
大丈夫。私は強いから耐えられる
「サヤ姉さん、助けてくれてありがとう」
何てことはない。可愛い妹を守るのは姉の仕事。例え他の周りの人に怖がられても大丈夫
「サヤお姉さまは、凄いです!強くて、綺麗で私はサヤお姉さまみたいになりたいです!」
私は強くないといけない。妹が私に憧れてくれている事を後悔させたくないから
父さんや母さんの修行にも耐えられる。
周りの人が怖がって近づかないのにも慣れた。
妹達と一緒にいるのは落ち着くけど、やっぱり姉としてしっかりしないといけない。
私は英雄の娘で、姉だから、何でも耐えられるのだ。
目の前には、構えも粗末で隙だらけの私と同じ歳の男の子が立っている。
いつものように日課を終わらせた後、お父さんとマコトおじさんが私を呼び止めたのだ。
「サヤ、悪いけど少し相手をして貰いたい奴がいるんだけど」
「・・・・別に構わない」
「ありがとな!あいつは体力がなかったからまずは基礎体力からだっと思っていたんだけど、流石に何度もボロボロにされるとな」
マコトおじさんが最近連れて来た男の子。
私と同じ歳なのだとは聞いていたけど、全く興味はなかった。
だけど、最近はミヤやアヤがその人の事をよく話すようになって気になり始めてはいた。
ミヤは、明るさを取り戻して、失敗を恐れずに、良い意味で真っ直ぐ突き進めるようになった。
アヤは、クーリ母さんから修行をして貰うようになって、自分の力や血に向き合うようになった。
私は二人とずっと一緒にいたけど、何もしてやれなかった。
いや、ミヤを虐める人を懲らしめたり、アヤが戦わないようにアヤの分まで頑張っていた。だけど、それだけなのだ。
私がしたことは、二人に危害を与えようとしている原因を取り除いていただけ。悪く言えば、ただ過保護に守っていただけ
だけど、彼は二人が自分の足で進めるように変えた。
どういう方法で変えたのか分からないけど、私が出来なかった事をした彼が気になっていたのだ。
「いいか、アルト。サヤはこう見えてかなり強い。今のお前が逆立ちしようが、卑怯な事をしようと絶対に勝てない。だから、真っ直ぐ突っ込んで行け。倒され、投げられ、何度負けても、諦めずに、負けの中から学べ」
「はい、マコト様」
「様は禁止!師匠と呼べ!」
「あ、はい!師匠!」
「よし」
二人のやり取りを見ていたら、お父さんが私の方に近づいてきた
「サヤ、聞いていたな?あいつは全力で向かってくるぞ。お前は全力は出さなくていい、あいつが死んでしまうからな。だけど、真剣に相手をしてやってくれ。いいか?手加減するなよ。じゃないと、これをする意味がないからな」
「・・・・分かった」
お父さん達が私達から離れて、お互い構え直すとすぐに彼が飛び込んできた。
マコトおじさんの言いつけ通り、真っ直ぐ一直線に突っ込んでくる。
私は、避けたり、受けたりできる中で、敢えて前に踏み込んだ
「え?」
彼の驚きと間抜けな声がすぐ近くで聞こえて
ダンッ!
彼が突っ込んできた勢いを利用して、地面に投げつけた。
「ガッ」
怪我をさせないように、途中で姿勢を正したけど、地面に落ちた衝撃は結構あったらしく彼は息を吐き出して地面に倒れている
「ほい、一本。予想通りと言えば予想通りだけど、もうちょっと頑張れよ。ほら、いつまでも寝てるな、次だ次!」
「・・・誠。あいつ気絶してねぇか?」
「うわぁ・・マジだ。本当あいつ耐久性ないな」
お父さん達が彼の様子をみて、首を横に振って私の方を振り向いた
「サヤ、すまん。今日はここまでだ。正直もっと頑張れるかと思ったけど、まだ荷が重かったらしい」
「・・・・大丈夫、そんなに時間経ってないし、ただ投げただけだから疲れてない」
「アルト・・・もう少し頑張ろうな」
そう言って、マコトおじさんは彼を連れて帰ったのだ。
私とお父さんも帰る事になり、帰り道では彼の話題は出なかった。
私は強い。
お父さん達が認めて、妹達も憧れてくれるぐらいだ。
だけど、私を怖がって近づかない人達もいる。
というよりも、お父さん達の関係者以外は全員私を怖がって近づかない。
お父さん達は私より強い。
私と同じ英雄の子供のリースやマリルとは実力的には同じぐらいだし、妹達も弱くない。
私の傍にいるのは、そういう人達だけで、私より弱い人は私を怖がって近づいてこなかったのだ。
でも
「今日もよろしくお願いします、サヤ様」
そう言って、頭を下げてくる彼は、あの日から毎日、毎日こうしてお願いしてくる。
「・・・・様はいらない。私もアルトって呼ぶ」
「あ、はい」
別に呼び方は気にならないけど、何となく面倒になってそう呼ぶようになった。
アルトは、最初の日以外は一撃で気絶という事はなかったけど、それでも私に勝つ事も、攻撃を当てる事も出来ないでいた。
何度も、何度も、倒れても立ち上がり
何度も、何度も、負けても自棄になったり逆上せず
何度も、何度も、お願いしますと頭を下げて来た。
最初は、マコトおじさんに言われたからだと思っていたけど、アルトの態度はそういう風に見えなかった。
偶に、身体が動かなくなって倒れたままのアルトをマコトおじさんが呆れて引き摺って帰った事もある。
アルトは私より弱いのに、怖がったり離れたりしない。他の人とは違う。
だから、私は分からなかった。
同じ実力同士なら力を高め合えばいい。
私より弱いのであれば、私が守ればいい。
だけど、アルトは私より弱いのに、何度も立ち向かってくる。
今まで、こんな人は身近にいなかった。
だから、同じ歳で異性で、弱いのに何度も立ち向かってくるアルトにどう接すれば良いのか分からなかったのだ。
「よし、今日はこんなもんで良いだろ。サヤもありがとな。いつもこんなもんに付き合わせて」
「・・・・別にいい」
「にしても、もう少し頑張れよ。まぁ、最初の頃よりは少し動けるようになってきているとは思うけど」
マコトおじさんが言うように、何度もすぐに負けるのは変わらないのだけど、徐々に動きが良くなってきている。
そのスピードもゆっくりと、決して速い訳じゃないけど、しっかりと変化している。
「そうですか?僕としてはあまり実感がないのですけど」
「実感が沸くほど変化がある訳じゃないから」
「そうですか・・・」
アルトは少しがっかりした様に、手を握ったり開いたりしている。
「・・・・大丈夫。ゆっくりだけど、少しずつだけど、動きは変わってきている。だから、大丈夫。アルトがそれを実感できるまで、強くなるまで付き合うから」
その様子に、何故かそういう風に言っていた。
アルトは、パチクリと目を驚かせて
「ありがとうございます。サヤさ・・んに言われると自信が付きます。それに、いつも僕の事で迷惑していると思っていたので」
笑顔で頭を下げた。
マコトおじさんが「何で俺が言った事が信じられないんだよ」とアルトに迫っていたけど、私は別な事を考えていた。
アルトは、自分の事で私に迷惑を掛けていると言った。
だけど、私はアルトの事を迷惑だと思ったことはなかった。
それは、父さん達にお願いされたから?
それとも、アルトの事を何とも思っていないから?
でも、それだともう少し淡々と付き合っていた筈だ。今まで通りに
だけど、今日は励ますだけではなく、ずっと訓練に付き合うからとまで言ってしまっていた。
私は、自分の気持ちが分からなくなって、家に帰っても同じような事をグルグルと考えていたのだ。




