大会終了・・・評価は?
強い魔力の高まりを感じて急激に意識が覚醒する。
「ッ!」
急いで立ち上がって周りをみるも、驚いている表情をしているクーナの姿しかない
「・・・びっくりした~」
「どれくらい寝ていましたか?」
取り敢えず危険はないと判断して、驚きながらも立ち上がってきたクーナに聞く。
いくらクーナが近くにいたとはいえ、何が起こるか分からない大会中に寝てしまうなんて・・・・
「う~ん・・そんなに経ってないよ。大体五分ぐらいかな?」
「そうですか・・・・」
その事にクーナは何も言わないが、そっちの方が何故か恥ずかしく感じる。
「ところで、この魔力は」
「どっかの誰かさんに負けた人が、張り切っているんでしょうね。相手は・・・アルトの方が詳しいじゃない?」
確かに、魔力の高まりの片方は知っている人で
「ケントですか・・・・ではもう一人は」
ケントが苦戦、若しくはここまで魔力を高めないといけない程の人物。
微かに感じるれるのは、先ほどまでいた彼の魔力に似ているが
「神崎武雄・・・異世界の勇者。本気を出せばこれ程だとは・・・」
僕との試合で彼が本気を出していたら、この魔力だけで僕は一歩も動けなかっただろう
それ程までに、彼の魔力が違い過ぎる
「・・・やっぱり、先は長いですね」
確かに、さっきの試合は僕が勝ったのだろうけど、相手の驕りや手加減の中必死でようやく勝てたのだ。
まだまだだと言う気持ちが強くなる
「どうする?」
「見に行きます」
クーナの問いかけに、考えるよりも早く答えていた。
自分以上の実力がある人達が戦っている所に向かうのは、この大会の勝負を考えると間違っている。
だけど、
「何があるか分かりませんが、観てみたいです」
師匠の弟子と認知され、実力も確かなケント
異世界の勇者で、師匠にケントよりも強いと言われている神崎武雄
その二人の戦いを身近で見たいと強く思った。
「そ、なら行こうか」
「・・・止めないないのですか?ある意味勝負を捨てるようなものなのに」
「リース達がいない以上強敵になるのは、ケントのチームと両勇者チームの三チームだけ。少しでも情報を得る必要はあるし、どっちかが疲弊していたら奇襲をすればいいし、なにより私も気になるしね」
微かに笑いながらクーナが出口に向かって歩いて行く
「それに、お迎えも来たみたいだし」
「別に迎えに来たわけではありませんわよ」
「はいはい、分かったから。それで旗は?」
出口の所にはミリアが壁に背を預けて立っていて、その足元には多くの旗が置いてあった。
「ナインさんでしたか?あの方と半分です。残りの旗は多分今戦っている彼らのチームが持っているのでは?」
どうやら、僕が戦っている間にミリアが旗を奪いに一人で行ってたみたいだ。
そのミリアがチラリと僕の方をみて
「貴方が負けた時にと思って旗を奪っておきましたが、どうやら無事だったみたいですわね」
「やっぱり心配してたんじゃない」
「ええ、心配していましたわよ。この人が旗を奪われたら負けてしまうのですからね」
「本当素直じゃないね」
クスクスと笑っているクーナと少しムスッとした顔で話をしているミリア。
僕が知らない間に、少し仲が良くなっているみたいに感じる。
「・・・煩いですわね。それで観に行くのでしょう?では早く向かいましょう」
「やっぱり盗み聞きしてたんじゃない」
「勝手に聞こえて来たのですわ!」
仲良く?じゃれつきながらも物凄いスピードで前を走る二人を必死になって追いかける。
二人みたいに話しをしながら何て余裕は全くない。
・・・・少しは前の二人も気にして欲しいな~と思いながらも、必死になって足を動かすのであった。
キィン!ギャァン!・・・ドォン!
目的の場所はすぐに分かった。
土煙が舞い、爆発音が聞こえるからすぐに分かった。
だけど、そこで何が行われているのかは僕には分からなかった。
「ッ!いつもよりも鋭い」
「どうした!こんなものか!」
偶に現れる二人の姿が一瞬見えるだけで、後は武器と武器の衝突や魔法の音しか聞こえないのだ。
「ケントの方が少し押されているみたいだね」
「というよりも、相手の方たしか勇者でしたか?そっちの方の気迫が凄いというか、後先を考えていないみたいに見えるのですが」
「誰かさんに負けたのが相当悔しかったんじゃない?」
「・・・・・また、貴方の所為ですか」
ミリアがジト目で見てくるが、そこを僕の所為にされても困る訳で・・・
「二人とも二人の姿が見えるの?」
「細かい動きは分からないけど、普通には」
「これぐらい普通に見えるようになって欲しいですわね」
無茶を言わないで欲しいと思う。
二人の姿をはっきりと捉えているのは二人だけのようで、戦っている二人のチームの人達もポカンとした表情をしたまま固まっているのだ。
どうにかして、二人の戦いを観ようと目に魔力を集めたりとするも点が線になったぐらいしか変化がなかった。
そうこうしている内に、勝負が決まったらしく
「・・・・参った」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・どうだ俺は強いんだ。あんな奴に負ける筈がないんだ」
片膝をついた状態のケントに剣を向けている神崎武雄の姿があった。
神崎武雄は勝ったのにも関わらず、ケントよりも疲弊している状態だった。
さて、どうしたものか
勝負は決まったようだけど、旗のやり取りはしていないみたいだし、神崎武雄は見た通りだけどケントも疲れている筈。
クーナとミリアを見ると、二人ともやる気な表情をしていたから奇襲を掛けようとしたら
「はい、二人ともご苦労様。”デリート”」
そんな言葉と共に、二人の地面が消えてしまい
「うわぁぁ!またか!?」
「っ!ラミア!」
神崎武雄はそのまま地面の中に落ちて姿が見えなくなり
ケントは、チームメンバーである魔法使いのラミアに咄嗟に指示をだして、ラミア自身も構えていたのか魔法の縄のような物をケント身体に絡ませ引き寄せた為無事だった。
「成程、これが差か・・・私達も一からやり直さないといけないのかもしれないわね」
「そうですね。私を含め皆、武雄様やリリア様に依存していたのは確かですからね」
「依存か・・・」
「はい、依存と信頼は似ているようで全く違うものですから」
もう一人の異世界勇者であるリリアさんとノアとジルと同じ奉仕科の制服を着ている女子生徒が急に現れて、ケント達の方を警戒しながら穴に落ちた神崎武雄の姿を見ながら話をしていた。
「その話はまた気絶した彼が起きてから皆でしましょう。さて、これからどうしますか?貴方たちも出てきて意見を聞かせて頂戴」
リリアさんが顔を向けたのは僕達がいる場所で、少し離れた場所に隠れていた筈なのに、僕と目が合ったような気がした。
いや、確実に合った。
「どうやらばれていたみたいですわね。彼らにも」
素直に隠れていた場所から出ていくミリア
クーナも苦笑して続いて出ていく。
僕も観念して歩いて行くことにした。
歩いて行く中で、ケント達の様子をみると警戒はしているみたいだけど、僕達の存在に驚いてはいないみたいだった。
ミリアが言うように、僕達の存在に気が付いていたのだろう。
だけど、神崎武雄のチームメンバーは僕達の存在に驚いているみたいだった。
「さてと、こうして残りのチームの中で実力者が多いチームが揃った訳だけど・・・ま、考えても意味ないわよね」
「旗の殆どはこの三チームで取っている。敢えて危険を冒す必要はない」
「え、え~と、僕達が争っても得をするのはまだ生き残っているチームだけなので、出来れば戦わない方が・・・」
まぁ要するに、そういう事だ。
ケントは僕達が観ている事に気付いて、体力を温存しようとしたけどその所為で神崎武雄に負けてしまい、疲労もそこそこ残っている
戦力をみた限りリリアさんが有利なような気もするが、それは全員が分かっている事で多分、戦いになるとケントのチームと僕のチームはリリアさんを倒すために手を組む。
そうすると、いくら異世界勇者でも苦戦は免れない。
僕のチームは、僕以外はかなり実力はあるが旗は僕が持っている為、出来れば戦いは逃れたい。
まぁやると言えばただでは負けるつもりはないのだけど。
そういう状況をみても、僕達三チームが戦っても得るものは少ない。
それよりも、他の生き残っているチームに隙を見せない方が得策だと思う。
「でも、この旗だけは私が貰うわね?貴方達の二人が取っても争いの種にしかならないから」
そう言って、リリアさんは穴の中から救出されたばかりの神崎武雄から旗を奪っていた。
「構わない、俺は勝負に負けた訳だしな」
「僕も構わないです。それに、最後の魔法はリリアさんが撃ったもので油断していたのは彼ですから」
確かに、異世界勇者として有名な神崎武雄から旗を奪えたとなれば、敵味方面倒なことになるだろう
同じ異世界勇者であるリリアさんが取ったのなれば、まだ丸く収まるはずだ。
「ありがとう。それじゃぁ私達は」
とリリアさんが場を離れようとしたら
「試合終了だお前ら、すぐに集まれよ」
何故か学園の放送から師匠の声が聞こえてきて、試合の終了を告げてしまった
確かに、師匠は学園の創設に深く関わった人で今日も重要来賓として招待を受けていたが、学園の運営には全く関わっていなくてそんな権限はなかった筈だ
「・・・・師匠、何してんですか」
そう呟いてしまい、ケントと見合わせて肩を竦めるのであった。
開会式と同じようにグランドに全学園生が揃っていた。
しかし、開会式とは違うのは壇上に立っているのが、学校の先生ではなく師匠であるという事だ。
学園生の中でもガヤガヤと落ち着きがない状態になっている。
「静かに」
師匠がそういうと、ぴたりと話声が消えた。
皆、師匠が何を言うのか聞き逃さないように真剣な表情になる。
こういうのをみると、師匠はやっぱり英雄の一人なんだなと思う。
「さて、本来であれば俺にこの大会を終わらせる権限はない。だから、これは俺の独断ではなくこの大会に関わっている全ての人の意見だと思って聞いて欲しい」
師匠は改めて姿勢を正し、大きく息を吸って
あ、これはと思い咄嗟に耳を抑えた
「お前らは馬鹿か!!!!!!!!」
耳を塞いでも響くように師匠の怒鳴り声が聞こえてくる。
「何なんだこの大会は!初めに学園長が言っていただろ”自分の実力を確かめる為”だと。お前ら今日自分の行動をもう一度思い浮かべてみろ!これがお前らの実力なのか?それならこの学園を作ったのは失敗だ!何故なら、お前達は何一つ学んでいないからだ。これなら素直にギルドに行って死ぬ思いをして学んだ方が為になる」
師匠は本当に怒っている。
僕の魅了の件とは別に純粋に今日の僕達の姿をみて怒っているのだ
「良いか?今日の大会は”人間対人間”学園で学んだ同士の実力を試す場だ。なのに実際は”人間対魔物”狩るか狩られるかの場になっていた。言っている意味は分かるな?分からないのであれば、辞めるかもう一度一年生からやり直せ!」
師匠の言葉で何人かの生徒は理解したのか、下を向き師匠を見ることが出来ないでいた。
人間対魔物
同じ人同士が競う、この大会で師匠が言った言葉。
これは、僕が作戦を考える為に一番に思い付いたことだ。
正直、この戦いの前の事件の所為で学園は落ち着きがなかった。
しかも、異世界勇者と有名な神崎武雄が率先して事を大きくしていた。
だからと言う訳じゃないけど、皆が僕に向ける視線は厳しくなる一方で・・・・・僕はそれを利用した。
敢えて人目に付く場所に現れ、罠に誘い込み、連携が崩れた所を突く。
人対人での戦いでも使える作戦だけど、僕が想像したのは魔物。
人の形をした魔法が使える魔物だと想像して作戦を考えた。
そう、ミリアが個人で取ってきた旗以外は、魔物の討伐の証拠と同じなのだ。
「お前達は人間だ。魔物じゃない。知恵もあれば連携も取れる。必要であれば敵同士手を取り合うことだってできる。なのにだ!もう一度聞くぞ?今日自分達の行動で胸を張れる奴はいるか?ただ闇雲に突っ込んで罠に嵌まった奴はいないか?他のチーム同士手を組んだのは良いが、連携が上手く取れずその隙を突かれた奴はいないか?そして、何より周りは自分より弱いと思い、情報収集も満足にしないまま突っ込んだ奴はいないよな?そこのお前だよ異世界の勇者。お前が一番ダメだった」
その師匠の言葉に顔を下に下げていた生徒達も驚いて顔を上げていた。
僕も驚いたけど、多分師匠にしかこの言葉は言えないと思う。
学園の先生や勇者を召喚した国の人達も注意は出来るが、それほど強く言えない。
だけど、師匠であれば、同じ異世界人で大人で、現勇者達よりも実績があり信頼もあり強く言える。
「確かにお前は強い。ランクで言えばSランク以上だろ。だけどな、他の奴も聞いておけよ?魔物と戦う冒険者はな、そんなSランクの魔物とも戦う事があるんだよ。俺やお前みたいに実力があるやつなら一対一で戦えるかもしれないが、普通であれば、大勢の人達と連携して何日も何日もかけて討伐する。そう討伐できるんだよ。Sランクの魔物も頭を使えば討伐できる。Sランクの実力があるからと言って胡坐を掻いていれば討伐されるぞ?」
最後の言葉が意味深いように聞こえたのは、一応僕が彼に勝っていたからだろうか
皆の前で暴露はされなかったが、その裏にある言葉を理解したのか彼から一瞬膨大な魔力が噴き出たが、一瞬にして消えた。
「え、嘘。これは私の・・」
魔力が急に消えて驚いたのは彼と彼の近くにいたリリアさんだった。
「このように、お前達よりも強い奴はいる。今は弱くても追い越そうとしている奴はいる。その術を学ぶのがこの学園だ。冒険科の奴らだけじゃない。他の科の奴らだって色々工夫できたはずだ。チームの行動を止めなかった奴も同罪だよ。・・・・今から学園長から評価がある。はっきり言うと今回はかなり最低だ。この結果をみて何を考えてどうするのか?しっかり考えろ。この年の最後の大会で今回みたいな試合をしたら・・・・」
師匠はそのまま何も言わず、壇上から降りて行った。
そして、少し気まずそうに学園長が壇上に上がり
「私が言いたいことは、マコト様が全て言って下さいました。だから私からは一つだけ。強くなりなさい。戦うだけじゃなく、人として大きくそして強くなりなさい・・・・では、総評をします」
師匠や学園長の言葉には本当に色々な意味が込められているのだと思う。
僕にはまだ二人が伝えたかった事の少ししか理解していないのかもしれない。
大人になれば、二人が伝えたかった本当の意味を理解できるのかとそういうことを考えていたら
「今回の大会で私達評価者の中で一番評価が高かったのは、冒険科二年ケント・マグワエルチームです。そしてその次に藤堂リリアチーム。そして、アルトチームです」
そんな言葉が聞こえて来た
「え?僕達」
僕の名前が出た瞬間に近くにいた生徒が驚いたように振り向いてきたが、僕だって驚いている。
だけど、よく考えるとクーナとミリアが旗を多く奪っていたから順当かなっと思っていたら
「このアルトチームですが、確かに旗も多く獲得していますが、相手の誘導の仕方、戦いの流れの読み、リーダーの的確な指示、私達が貴方達に教えたい事を実践レベルで使えていました。参考にしてみてください」
そのまま、他のチームの評価を伝えていく学園長であったが、正直今の言葉が頭に残って話が入ってこない
「的確な指示?」
正直、そんなことをしたつもりはない。クーナとミリアなら各自で僕の動きを察して動いてくれると思ったからだ。
首を傾げながらクーナ達を振り向くと
「自分の実力を理解し、私達の実力を信じて作戦を立てたんでしょ?」
「それは・・そうですが」
「戦いには流れがありますわ。その流れを読んで、誘導し私達の所まで敵を連れてきた。案外難しいものですわよ?」
「でもそれは誰にでもでき・・」
「出来ないから、あの人はあんなにも怒ったのでは?それをできるように学ぶのがこの科なのに、それが全然できていなかったらから」
「今回は素直に褒めるんだね」
「貴女は一々茶化さないとすまないのですか?」
「ごめん、ごめん。そんなに怒らないで」
まだ、納得が出来ないけど、同じチームであった二人が言うならと思う事にした。
またしても二人でじゃれ合う二人から視線を逸らし正面をみると、師匠がこちらを向いていて
ぐッ!
物凄い笑顔で、親指を立ててきた。
「本当に何をしているんですか・・・」
返事をする訳にもいかず、苦笑いしてしまった。
おまけ
「怒鳴った事はまぁ良いとして、試合を強制的に終わらせる必要はあったのか?」
「望も今回の大会は見れたものじゃないって言っていたじゃないか」
「まぁぐちゃぐちゃ過ぎてある意味面白かったけどな。で、本当の理由は?」
「・・・・娘達が惨いんだよ」
「あ~あれな。死体に鞭打ってるようなものだったな」
「リタイアしたチームは基本自由になるから、大会に出なかった娘達がそのチームに模擬戦を頼みに行って」
「同じくリタイアしたチームも暇だし快く受けたら最後」
「あぁ・・・あれは酷い」
「しかも、聖女の回復魔法で強制復活でのループ」
「肉体的よりも精神的にきついだろさ。現に、リース達の姿を見ただけで震えだす奴もいたしな」
「何それ怖い」
「俺はこれから起きようとしていた悪夢を事前に防いだのさ!」
「いや、グッジョブサインをアルトに向けても意味がないだろ。それに」
「なんだよ」
「色々考えて計画立ててた事を阻止された娘達の気持ちがどこに向かうかだが・・・・」
「・・・・・逃げよう」




