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師匠!何してんですか!?  作者: 宇井琉尊
学園対抗戦(異世界勇者二人)
46/86

修行開始

皆から好意を伝えられてから数日。

学園対抗戦の本番までも後2日となった。

それまでに変わった事と変わらない事があった。

変わった事、それは・・・・


「・・・このように、彼には人を強制的に魅了させる能力はありません。そして、彼女らも彼に魅了されている訳ではありません」


王都にいる魔術師、呪術師、終いには王宮魔術師まで繰り出されて、僕を調べる事になった。

この学園には貴族やそれに準する人達も沢山通っていて、英雄の娘達が魅了されているかもと話題になった為、こんなに大掛かりな事になってしまったのだ。

そして、色々な人に検査され結果は勿論大丈夫だったのだけど、それに納得できない人達がいた。


「嘘だ!あいつには”魅了し者”という称号があるんだぞ!魔法や呪術じゃなくて、道具か何かを使ったんだ!そうじゃなきゃ、実力も低くて、何も持っていないそいつに惹かれる奴なんているもんか!それに、狙ったように英雄の娘が全員”魅了されし者”の称号を得るなんておかしいだろ!!」

「そうだ!そうだ!」


異世界の勇者である神崎武雄(後でジル達に聞いた)と僕の周りにリース達がいる事に納得できない生徒達が声を揃えて抗議している。


「と言われましても勇者様・・・仮に彼がそういう強力な道具を使用したとしても、彼の魔力の痕跡は残りますし、彼女らにも何かしらの異常な魔力が残ります。彼らにはそれがないんですよ。・・・・・それに、あまり言いたくはありませんが、その勇者様が仰る”称号”というのは私達には見えませんので・・・」

「それは俺が嘘を付いていると言うのか!」

「そうは言いませんが・・・・では逆に、勇者様は私達の仕事を信じてくれないのですか?私の娘もこの学園に通っているので必死になって調べたのですよ?」


その人の言葉でその場は落ち着いたけど、学園の中での僕の立場は戻らなかった。


道を歩けば、人が遠ざかり

どこにいても、冷たい目で見られて

酷い時には、僕の机や荷物が捨てられたり、汚されたりされた。

そんな僕をリース達が支えてくれたけど、そのリース達も同情的な目を向けられていた。

あまりにも我慢が出来なくて、喧嘩をしたこともあった。

だけど、それは現状を悪くするだけだった。

そして、終いにはリース達にもキツイ態度をとってしまう事もあった。

でも、リース達はいつも笑顔を絶やさないで僕に接してくれて、それが不思議でリース達に聞いたことがあった。


「どうして、笑っていられるの?僕は嫌だ。訳も分からない理由で嫌な事をされて、皆にも迷惑を掛けている・・・・笑えないよ」


そんな、情けない言葉にリースは


「興味がないから」


と一言で言い切った。


「私達はアルトに恋している。それは、皆に認めて貰わないといけない事?じゃぁ、皆に認めて貰えるためには何が必要?お金?地位?実力?・・・・・くだらない。それは、その人じゃなくて、お金や地位、実力を認めているってこと。そんな小さい事に興味はないの。私達が興味があるのはアルトだけ。だから、周りが何を言おうが私達には関係ないの」


他の人にも聞いたけど、皆も似たような事を言っていた。


「人はどうしても周りと比べてしまうんだよ。優越感や劣等感と言い換えても良い。要するに、自分が相手のそれを認められるか認められないかだ。皆を認めさせる程の実力や地位を得る事も確かにやり方の一つではある。でも、それだけじゃないだろ。じゃないと地位も実力もなかったあの頃のお前はずっとあの場所で空を見上げたままの存在でしかない筈だ。だけど、現実は違う。お前はここにいるし、リース達からも好かれている。お前はお前らしくいれば良い」


悩んで塞ぎ込んでしまった僕の部屋のドアを蹴破って入ってきた師匠がこの会話の後に皆に怒られている姿を見て、僕は我慢するのを止めた。

耐える事を止めた。

ある意味開き直ったと言っても良い。


広まった噂は消えないし、起こった事を人の記憶から消すなんてことは出来ない。

出来るのは、皆に今の僕を見てもらう事しかないからだ。

苛ついて、喧嘩して、嘆いても、僕にプラスになる事なんて一つもない。

幸運な事に、僕にはこんな僕にもついてきてくれるリース達の存在もある。

きっと僕が道を外れそうになったら、止めてくれると信じてもいる。

だから、僕は僕らしくある為に我慢することを止めたのだ。

それからは、コソコソと歩くことを止めて、避けられても普通に人と接しようとした。

悪質な悪戯には心が痛むけど、それでも普段通りに生活するように心がけた。

僕は何も悪い事はしていないのだから、堂々と生活するようにしたのだ。

じゃないと、僕の事を好きだと言ってくれた皆の気持ちも悪い事になってしまいそうで・・・・


現状、学園では僕の事を批判してくる学生が殆どだけど、元々興味がない人、興味が逸れた人も増えてきている・・・・らしい。(何でかナナシさんが教えてくれた)

流石に、リース達みたいに僕の事を擁護してくれる人は表立っていないらしく、この状況は随分先まで続くと思われる。


そして、変わらない事というのは

「・・・こうしていると少し恥ずかしいわね」

「・・・・・」

「ほらそこ!二人して照れていないでさっさと始める!」


マリルとおでこ同士をくっ付けたまま照れていたら、リースが怒ってしまった。


・・・・いや、少し訂正しよう。


変わらないのはリース達との関係で・・・お互いに好意を伝えあって、でも、僕が受け入れる事ができない事で何か変わってしまうのかと思ったけど、全然変化がなかった。

少し気恥ずかしい事はあるけど、僕たちの関係は以前と変わりがない・・・・けど、リース達が僕に対する好意を隠さなくなり、行動するようになってきたのだ。

今も二人して少し喧嘩みたいな事をしていて、それが僕に関係する事だと思うと少し気恥ずかしい。


「君はなんていうか・・・・頑張りたまえ・・・応援しかできないが」


師匠の家での修行に参加しているケントが肩に手を置いてズルズルと僕を引き摺って行く。


「・・・・今度は俺が教える番だ」


その肩が物凄く痛いのは、ケントの嫉妬ではない事を祈りたい所だ。


学園対抗戦が近いという事で、修行の濃度がかなり上がった。

・・・・僕の為に

異世界勇者の神崎武雄達が何をしてくるか分からないからだ。

学園対抗戦では、人を殺してはいけない。それだけのルールしかない。

だから、何をしても、されても文句は言えないのだ。

ただ、その試合は色々な人達がみて評価されるものなので、本来なら大事にはならないのだけど

今回は理由が理由だから、念には念を入れて取り組むことになったのだ。


先程のマリルとおでこ同士をくっ付けていたのは、いちゃつく為では勿論なくて

補弾を完成させる為に、体外の魔力を感じる訓練をしていたのだ。


マリルは、基本魔法の他に精霊魔法、精霊召喚という魔法が使える。

詳しくは分からないけど、師匠が作った補弾はこの精霊魔法を応用したものらしく、その基礎を教える為にあのような事をしていたのだ。


・・・・マリルがあれが一番分かりやすいと言ったのだけど、凄く恥ずかしくて集中できなかった。


そして、今からはケントの番でケントが何を教えるのかというと


「違う、そこはそこまで丁寧にしなくていい。”雷魔法”は勢いが重要だとお師匠様も言っている」


そう、師匠以外使いこなせなかった筈の雷魔法。

ノゾムおじさんや師匠の娘であるリースも使う事が出来なかった雷魔法。

それを僕は教わっている。

いや、僕に教えるように師匠が言ったのだ。

確かに、昔からリースにも使いこなせない雷魔法を僕なんかに教える事に疑問を持っていたけど、数年経った今でも師匠は諦めていない。

なんでそこまで僕に雷魔法を教えるのか分からないけど、僕も師匠の魔法に憧れた一人だから必死に習得しようと頑張っている。


「勢いって言っても・・・・」

「君は、良くも悪くも丁寧なんだ。丁寧過ぎると言っても良い・・・・良いか?」


そう言って、両手の人差し指を肩幅に広げて、その間を魔力の線が繋がった。


「今、指と指の間に魔力を流している。それは分かるな?」

「はい」


凄く綺麗で丁寧に魔力が流れていて、僕が目指す技術がそこにあった。


「魔法を使う上でこの魔力操作が基本となり、これを極めるのが僕達の常識だ。だから、お師匠様と俺以外雷魔法を使えない」


魔力操作が早ければ、魔法の展開も早くなるし

細かければ、威力の調整や種類なんかも変えられる。

だから、いわゆる魔法使いはこの魔力操作を徹底的に鍛えるのだ。

だけど、ケントはその綺麗な魔力の線を意図的に乱し始めた。

すると


「・・・・・これが雷魔法の原点」


パチパチと小さな音が聞こえてきて、終いにはバチバチと言う音が聞こえて一瞬光って消えてしまった。

でもそれは、紛れもなく師匠が使う雷魔法で


「そうだ。魔力を敢えて乱して、それを制御する。これが雷魔法の原点で、他の人達が使えない理由だ」


魔力を乱すように操作する事は出来るが、そうではなく、乱れた魔力を制御するというのだ。

失敗すれば、魔法が暴走してしまい、最悪、術者は魔力がなくなるまで止まることができなくて、魔力欠乏で死んでしまう。


出来る訳がない。


理屈が分かった所で、誰も挑戦しようとは思わないだろうし、魔力を綺麗に制御すると言うのが世界の常識の中で反対の事をしようとする人もいない筈。

だけど、この世界の常識が分からない師匠が使えるのは分かるけど、この世界の常識に囚われていた筈のケントが使える事が不思議だった。


「だけど、ケントは・・」

「・・・”補弾”だ。昔、補弾の制御を誤まって暴走させてしまったことがあった。それを必死に制御しようとしたらできたのがきっかけだった」


今までの僕の補弾は、体内の魔力を使ったもので補弾の制御を誤ってしまっても制御することができない。

だけど、本来の補弾は外部の魔力を圧縮させるので、自分の魔力で制御しようとできるのだ。

ってことは


「まずは、本来の補弾の完成・・・・その前に、外部の魔力を感じる所から始めないといけないってことか・・・」

「あくまで、俺のきっかけはそうだったと言うだけだ」


確かに、きっかけは人それぞれだけど、師匠とケント二人の共通点は補弾が使える事しか・・・・


「あれ?でも、リースも補弾は使えた筈だけど・・・・」

「リースのあれは別物だ。俺は乱れた魔力を制御しようとして雷魔法を習得した。リースは魔力操作を究めてあの魔法に辿り着いた。もしかするとこの雷魔法よりも希少かもしれないぞ」


小さい頃補弾を習い始めた時、リースはいきなり三つの補弾を作り出す事に成功していた。

その時点で師匠も驚いていたけど、それをまた昇華させてしまったというのだ。

凄いと思うし、頼もしいとも思う。

だけど、やっぱり置いて行かれてる気もして・・・・・


「・・・・頑張るしかないか」


気合を入れて、修行をする事にしたのだ。

目標は、ミリアから一本を取る事!

・・・・じゃないと、学園対抗戦の時にじっとしとかないといけなくなるからね・・・



おまけ


「・・・・何者!」

「何っ!?」

「・・・なんでリリア様が驚くのですか・・」

「いきなり、何者!って叫んで指に刃物を挟んでいるのメイドの姿をみたら誰でも驚くわよ」

「知らない気配には気を付けて下さいといつも言っているではありませんか」

「気付いたわよ・・・一瞬だったけど」

「・・・もう少し、反応を良くしましょう」

「それができる貴方達がおかしいと思うの私・・・・・それで、結局何だったのそれ?」

「・・・もう、あの人隠す気がないですね・・・・これは元私達の上司が使っていた連絡用のナイフです」

「ナイフを投げるのが連絡の仕方って・・・どんだけデンジャラスな所だったのよ・・・それで?」

「・・・・・ケタケタと笑っている姿が思い付きます」

「どれどれ・・・・・なにこれ?」

「そのまんまの意味かと」

「”当日はアルトの事を任せる”・・・・え?正気この人?だって、私も一応加害者側よ?勇者と言う枠で言えばだけど」

「それは気にされない方が宜しいかと・・・多分、私達が知らないうちに調べられている筈ですから・・・・色々と」

「何それ怖い」

「あの人がこう言ってくるのであれば、本当にあの人は当日手を出さない筈です」

「でも、確か英雄の子供たちが」

「辞退したみたいです」

「え?」

「英雄の子供達、あの方以外の問題となった人達は全員辞退しました。今頃、学園の先生達は大慌てでしょうね・・・・英雄を怒らせたかもしれないと」

「あの馬鹿の所為で・・・・じゃぁ、アルト君を当日フォローできる人って」

「同チームである、クーナ様、ミリア様のお二人ですね」

「まずいわね・・・・二人だけだと数が」

「だから、私に連絡してきたのでしょう。あの方々に気付かれないようにと」

「・・・・なんかもう色んな人の手の上で踊らされているみたいで私も辞退したいのだけど」

「一応、立場がありますから」

「分かっているわよ・・・・でも」

「「はぁぁ~」」

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