嬉し恥ずかしい・・・不本意な告白大会
師匠が部屋から出ていき、代わりにジルとノア、リースやマリル、サヤ、ミヤ、アヤ更には、シェルやファル、ナナシさんが入ってきた。
異世界の勇者に僕が”魅了”を持っていると言われて、僕が無意識の内に魅了の力を使っているのではないかと思った全員だった。
ノアとジルの二人は異世界の勇者に”魅了されし者”だと言われ、
師匠はその対象は僕で、僕は”魅了し者”という称号というものを持っていて、
”魅了し者”の称号を得るためには、”魅了されし者”が十人以上必要だと言う。
「・・・・まさか」
部屋に入ってきた人数を数えると丁度十人。
”まさか”という思いと”なぜ”という疑問が浮かび上がってくる。
「あの方に言われた”魅了されし者”という意味は私共もよく知りません。ですが、その意味が”ご主人様に対しての好意”という事であればそれは間違いではありません」
部屋に入ってきた皆にどう話しかければ良いか悩んでいたら、意を決したようにノアが話し始めた
「わ、私達は子供頃より、ご主人様の為だけに力を磨いておりました。ご主人様のお力になりたい。ご主人様をお守りしたい。・・・ご主人様のお傍にずっと居たい。その気持ちはずっと変わっていません」
ジルもノアに続くように話し始める。
そして、二人は僕の目の前に跪いて頭を下げる。
その姿は見覚えがあり
二年ぶりに初めて会った時?
いや、それよりも昔でまだお互いに子供だった頃だ
それは確か・・・・
「・・・・初めてご主人様にお会いしたあの村での誓いをもう一度」
昔、師匠に連れられて帰った村での出来事の後、二人とも今と同じような格好をして
「「我が全てを貴方に。例え人が、神が、世界が、全てが貴方を害するのであれば、何時如何なる時であっても、我が全てを以って排除し、お守り致します。」」
と言ったのだ。
あの頃は、目の前の出来事に一杯一杯でよく理解出来ていなかったけど、改めて聞かされると二人の本気が感じられる。
二人は胸元から鎖で繋がれた古びた玩具のような指輪を取り出して
「「この誓いは、未来永劫、死後魂のみの存在となっても続くものであり、永遠に破られるものではないものである。」」
それが誓いの印だと思わせるように、優しくそっと握り締める。
「・・・・・・・」
僕は何を言うべきなのだろうか
改めて、誓いを告げる二人の姿は真剣そのものでふざけた感じは一切ない。
本気で宣言通りに僕に全てを捧げる覚悟があるのだ。
そんな二人に対して僕は・・・・
「・・・僕には何の力も持っていない」
口から出た言葉は、自分を否定するものだった。
正直、”嬉しい”気持ちよりも”なぜ”という疑問の方が強い。
「いつも皆に助けられて、支えられてきて・・実力も低くて、皆の迷惑になっている僕なんかが・・・」
二人がそこまで言ってくれる事は嬉しいが、それに僕が相応しいのか改めて考えてしまう
「完璧じゃないからこそ私達がいます」
そんな僕の悩みを断ち切るかの様に、二人は顔を上げる。
その顔には柔らかい笑顔があって
「完璧じゃないからこそ、私達をお使い下さい。私達の力はその為にあるのですから」
ニコリと笑うその姿に、僕は自分を情けなく感じた。
今僕がすることは、二人の言葉を否定したり、自分を否定する事じゃない。
今必要なのは
「・・・分かった。二人の気持ちは凄く有難い。そんな二人が胸を張れるように、立派なご主人様を目指すよ」
二人の気持ちを改に受け入れる事。
二人が言った誓いの言葉は、過去のものだ。
だから、これは新しい誓いではなく、ただの再確認。
二人が僕に対する覚悟がどれ程のものか示すだけの確認でしかないのだ。
「ふふ、今でも十分立派なご主人様ですよ」
「はい、仕え甲斐があります」
僕が二人の誓いの言葉を胸に刻み込んだ事、二人を受け入れた事が分かったのかとても嬉しそうな表情になる二人。
その姿が本当に綺麗で・・・
「・・・ゴッホン!私達もいる事を忘れないで欲しいのだけど?それに二人ともまだ言っていない事があるでしょう?」
二人に見惚れていたら、わざとらしい咳をしてリースが話に加わってくる。
リースの問いかけにジルとノアは二人して顔を見合わせてから
「その言葉は、私共よりもお嬢様方からの方が良いと思いまして」
と言って、少し後ろに下がる。
「あぁ成程、そういう事ならリースが先ね」
そのやり取りを不思議に感じていたら、マリルがリースの肩を押して僕の方へ押し出す
「ちょっと!な、何で私から!?」
「・・・それが分からないリースじゃない。それに、これは凄く羨ましいこと」
「ぐっ・・・それは・・」
肩を押されて一歩踏み込んだリースが後ろの皆を見るが、サヤが言った言葉に皆が頷く。
その姿を見て、一瞬言葉に詰まったリースだったが、勢いよく僕の方を振り向いた
・・・・・かなり顔が赤くて、凄く緊張している感じではあったが・・
「あ~・・・その・・・・・・・・・・・」
目が泳いで僕と視線が合わなくて、徐々に顔が真っ赤になって
「・・・・きです」
小さくポツリと言った。
「・・・・・え?」
聞こえなかった訳じゃなかった。
ただ、聞こえた内容を頭が理解出来なかったのだ。
「好きです。小さい頃からずっとアルトの事を想わない日はなかったです」
今度は僕に言い聞かせるように、ゆっくりはっきりと顔を真っ赤にさせながら言った。
リースはう~と小さく唸りながらも僕から視線を離さない。
その姿が、リースが言った言葉が嘘じゃない事を示しているようで
「・・・・・え?」
失礼かもしれないが、本当に意味が分からない。
いや、意味は分かるけど、何で?どうして?という気持ちの方が強い。
しかも、それだけじゃなくて
「混乱しているアル君は可愛いわね・・・・私もそんなアル君の事が好きよ」
少し照れくさそうに髪を掻き上げながらマリルが
「・・・・アルトの周りは暖かいから好きだけど、アルトの事はもっと好き」
いつも通りだけど、顔を少し赤くしながらサヤが
「アル兄様が一杯遊んでくれていた頃からずっと好きでした!」
元気よく、でもやはり恥ずかしそうにミヤが
「私が恥ずかしい服を着るのも、見られたいのもアル兄さんだけです・・・・私もずっと好きでした」
三姉妹の中で一番顔を赤くしながらアヤが
「わ、私達もご主人様の事は好きです!」
「あの誓いとは別にお慕い申しております」
ジルとノアの二人も
「前にも言ったが、もう一度。その不便になってしまった左腕と右足の代わりに私が君の敵を倒そう、敵から君を守ろう。私の剣と盾は今日から君と共にある。これは、誰にでも言っている訳ではなくて、だから・・・」
「私もファミルもアル様の事が好きだという事です。私ももう一度言いますね?私は敵を倒すことはできないですが、貴方をすべてのものから守ります。一生、命を懸けてでもです。ある意味、ジルさんとノアさんの誓いの言葉と似ていますね」
ファルとシェルの二人も一緒に
「まぁ~あれっすね。アルトは知らない事だと思うっすけど、私もアルトに救われた事があるっす。だから、私も貴方の事が好きです・・・じゃないと隣の国まで着いて行かないっすよ」
気付いても良いじゃないっすかと少し拗ねた様にナナシさんも僕の事が好きだと言ってきたのだ。
「え?嘘?皆?」
更に混乱してしまう僕を見る皆の顔は優しいもので、その顔をみて徐々に気持ちを抑えようとする。
皆顔を赤くして、恥ずかしいのを我慢して言ってくれたのだ、それなのに驚いて混乱しているだけじゃダメだ。
僕は師匠達から離れて旅をしている時に皆の事を忘れた事は一度もなかった。
二年ぶりに会った皆は、それぞれ綺麗に可愛くなって見惚れる事は何度もあった。
リースとケントが仲良さそうな姿をみてショックを受けた事もあった。
その時に、自分の気持ちがはっきりと分かったけど、色々考える事があって後回しにしていた。
本当なら、男の僕が伝えないといけない事を皆が言ってくれて、
そんな情けない僕でも好きだと言ってくれる皆。
だけど
「・・・・正直信じられないけど、皆の気持ちは凄く嬉しい。僕も皆の事が好きだ。リースがケントと仲良さそうに歩いている所を見て嫉妬したこともあったし、皆が学園の人達に好かれているのをみて嫉妬したことも何度もあった。皆を誰にも渡したくない気持ちもある。だけど」
僕は皆の事が好きだ。
異性として好きだ。
そう、”皆”が好きなのだ。
誰かを一人選ぶ事何てできない。
「大丈夫です。お父様からハーレムと言う言葉を」
「そうじゃない」
ノゾムおじさんは三人奥さんがいるし、師匠も昔から僕たちの事をハーレムと言う言葉で揶揄ってきた。
だから、皆と幸せになれる方法は知っている。
だけどそうじゃないのだ。
「僕がそれじゃ納得できない」
「・・・・・・・」
多分かなり我儘の事を言っているのだろう。
皆から愛想をつかれても仕方がないとも思う。
だけど、僕はそんな皆の好意を蹴ってでも、いや、皆の好意を知ったからこそ納得が出来なかった
「・・・皆の気持ちは凄く嬉しいし、守ってくれると言ってくれた言葉も嬉しかった。だけど、僕はまだ皆に並べていない。皆は気にしないのかもしれないけど、僕は皆と肩を並べて同じ景色を見たいんだ。じゃないと、いつか僕が皆の事を引っ張ってダメにしてしまうかもしれない。それだけは、したくないんだよ」
それにと思う。
もし僕達が皆で付き合うってことになっても、周りの人達が納得いかないと思う。
だから、せめて僕が皆と並んでもおかしくない位まで成長しないといけない。
「・・・・・・」
「・・・・・・分かってた」
誰も何も言えなくなった中でリースがポツリと言った。
「分かってた。多分、私達が好きだと言ってもアルトが受け入れてくれないだろうと思ってた。だけど」
リースは座っている僕の傍に近づいてきて
「あ」
優しく抱き着いてきた。
リースの柔らかさや匂いでドキドキしてくる。
「だけど、私達の気持ちは変わらない。二年間一緒にいて好きになって、二年間アルトがいなくてどんなに悲しかったか、アルトが帰って来た時どんなに嬉しかったか、アルトは知らない。私達の気持ちはそんなに軟なものじゃない」
そう言って、頬に軽くキスをしてくる。
「”称号:魅了されし者”。この称号がここにいる皆が持っていることはノゾムおじ様が確認してくれたけど・・・・皆にはまだ内緒よ?恥ずかしがる人もいるから」
そのまま耳に囁きかけるように小さな声で
「”称号:魅了されし者”の条件は周りの有象無象に興味がなく対象に本気で恋い焦がれている事。さっき、廊下でお父様とノゾムおじ様が話しているのが聞こえたの。だから」
と言って、身体を離してクルリと背中を向けてしまう。
髪から覗く耳は真っ赤に染まっていて、リースの顔全体が真っ赤になっていることが想像できる。
「・・・だから?」
「だから、覚悟していてね?その称号が伊達じゃない事を教えてあげる。ほら、皆もぼ~としない!」
恥ずかしいのか、それ以外の理由があるのか分からないけど、リースが大きな声を出して手を叩くと、他の皆がハッとした表情になって僕に近付いて来る!
「ちょっとリース!流石にずるくない!?」
「ずるくない!悔しかったらマリルも急いだ方が良いわよ」
「・・・アルト。私ともチューする」
「サヤお姉様大胆です!・・・だけど、私も・・」
「アル兄さん!私も!」
「ご、ご主人様とキス・・・」
「・・・主に対して良いものなのか・・」
「良いじゃないか?貴族の中でもそういう話は結構あると聞くし」
「少し照れますね。殿方となんて」
「そうっすね。今まで意識しないようにしていたっすからね」
もみくちゃにされながら、結局皆にキスされてしまった。
僕の話を聞いていた筈なのに
自分勝手なことを言っている自覚はあったし、愛想をつかれても仕方がないとも思った。
だけど、皆はそんなことを気にしないで、それ以上の行動で好意を示してくれた。
だから、僕も頑張ろうと思う。
いつまでも、皆を待たせる訳にもいかないし、皆に愛想をつかれるのも嫌なのだ。
そういう考えを、皆が去って行った部屋で考えるのであった。
・・・・・・・・・顔を真っ赤にさせたまま
おまけ
「うお!さっきまでピンク色だった、雰囲気が一気にダークの方に」
「お父さん少し黙っていて下さい」
「・・・はい、すみませんでした。アヤが滅茶苦茶怒っているの久しぶりにみたな」
「それだけ、怒っているってことですよ。勿論私もですけどね」
「マリルも許せないか?」
「許せる訳がないじゃないですか。アル君が自分の実力の事や周りの人達にどう見られているかで悩んでいたのを知っているんですよ?だから、私達はアル君が落ち着くまで待とうと思っていたのに」
「だけど、そう言う訳にもいかなくなった」
「えぇ、あの人は必ず私達の事も視てくる筈です。その時にばらされるよりは自分達から言った方がマシです。だけど、今私達がアル君に好意を伝えても受け入れられないだろうと思っていたこの時期にあの人の所為で想いを伝えるしかなかったと思うと・・・」
「こわっ!なんか黒いオーラが出てるぞ!闇精霊か!?」
「今なら暗黒精霊も召喚できそうです。うふふ」
「止めろ!戻ってこれなくなるぞ!」
「って程、皆怒っているんですよ」
「・・・あぁ、それは理解した。それで、どうするんだ?」
「どうするとは?」
「どうせ、何かするんだろ?お前たちがやられたままで終わるはずがない」
「そこまで、断言されると複雑な気持ちですが、まぁ想像通りただでは終わらせませよ。ナナシさんからの情報もありますしね」
「あ~これだけはあいつに同情してしまうよ。英雄の娘達にそれを支える戦メイド。そして、正体不明な腹黒忍者。・・・あいつに勝ち目あるのか?」
「そんなものないですよ。ないように、自分がしていることがどういう事なのかきっちり自覚させて・・・・潰します」
「お、おう。頑張れよ?」
「はい、ではまた皆と話し合いをしますので」
「・・・・・・・・・やっぱり恋する乙女は怖いな」




