少女の正体
真っ暗な中、段々と意識が覚醒してくるのを感じることができた。
思い出すのは、師匠の家を探していると言っていた見惚れる程の少女がいきなり襲ってきた事
僕を逃がそうとチッタが現れ無力化された事
そして、針のような物で拷問な様な仕打ちをされた事。
それを思い出しながら目を開けようとしたけど、目を開くことができなかった。
「お、起きたか」
「その声は、イサオ様ですか?」
「そうだ」
僕が起きたのが分かったのか、すぐ近くからイサオ様の声が聞こえてきた。
その声は、少し安心しているような気がする。
「何があった・・・かは、井上さん達が聞きに行っているが、お前をそんな風にした奴は何者だ?王都の拷問師よりえげつねぇぞ」
「・・・・今はどういう状況なのですか?目が開かないのですけど」
イサオ様の声を聴きながら、あの少女が一本一本針を刺してくる姿を思い出して体が少し震えてしまう。
「身体の傷なんかはすべて治しているぞ。ここには聖女とその娘。その聖女に匹敵すると言われる俺がいたんだからな」
「それもそうですね」
「目の方は、井上さんが仕組んでいたけどな」
「・・・・それはちょっと怖いんですけど」
傷を治してくれたのが、イサオ様達だったのは安心できたけど、最後の言葉には不安しかなかった。
「それでどうだ?」
「??目以外は大丈夫だと思いますけど・・・」
試しに手足を動かしてもほぼ問題はない感じがした。
「身体じゃない、心の問題だ。気付いてないのかもしれないが震えているぞ」
「・・・・・・・・」
確かに体の感覚も鈍いし、少し震えている。
イサオ様が近くにいるのにまだベッドに寝ているのは、何も目が見えないだけじゃない。
身体に力が入りにくくて危ないと思ったからだ。
「一本一本の針はそこまで太くない。けど、刺さっていた場所は死なないようにでも痛みは最大限にあるように考えてあった。しかも、その知識は人の物じゃない。俺は何度か異種族の医療なんかの知識を学ぶことがあったが、このやり方は魔族のやり方だ。元々残忍な性格で有名だった魔族が使う拷問の一手段。それを受けて体はともかく心がただで済むはずがない。」
魔族と呼ばれる種族は元々は他の種族から嫌われていた。
魔族も自分たちが優れた種族だと思って、他の種族を見下していた。
魔物の氾濫も魔族が起こしていると言われていたけど、魔族もその被害にあっていて師匠達が助けた。
その事で、魔族は他の種族達と手を取ることになって、知識や戦力など協力し合った。それで徐々にだけど魔族も受け入れられてきている。
人もそうであるように、魔族もすべてが残忍な性格をしている訳じゃない。
だけど、そういった知識や技術が他の種族達よりも飛び抜けていることは事実なのだ。
イサオ様から改めて聞かされて、体の震えが大きくなったような気がする。
一本一本存在感を煽るように取り出す針。
それをゆっくりと、かと思えば素早く刺す。
激痛が走り声が漏れ、恐怖心が産まれる
痛みで集中できないのに、少女の声だけはしっかりと聞こえてくる。
何を隠しているの?
全てを話して楽になりなさい
そして何も言わなければまた針を出してくるのだ。
「・・・大丈夫だと良いなとは思います」
はっきりと震えが感じられるようになってしまい、体を少し丸めてしまう。
「無理もない。もし、このままトラウマ、精神的苦痛になるようだったら冒険者としてやっていけなくなるぞ」
「・・・そうはなりたくないですね」
想像だけで体が震えるのに、武器、特に針をみて落ち着いていられるか今の僕には自信がない。
別に冒険者だけが職業じゃないのは知っているけど、自分の力で、師匠に貰った力で何かをしようと考えた時に最初に思い付いたのが冒険者という職業なのだ。
師匠に憧れたという事もあるけど、今まで冒険者と過ごしてきて楽しみも見つけている。
それを諦めないといけなくなる可能性があると聞いて、別の意味でも体が震えてしまう。
師匠の弟子なのに・・・・
そんな気持ちが湧き上がってくる。
「こればっかりは魔法でもどうすることもできない。精々気持ちをリラックスさせる程度だ。・・・・長い付き合いになると思うぞ」
「・・・・・・・」
イサオ様の声は真剣で僕の事を心配してくれている。
僕が壊れないように、傷付かないように、優しく支えてくれようとしている。
だけど、僕は知っている。
僕の事を考えて、色々していると思われる人を
その人はイサオ様みたいに優しく支えてくれる人ではなくて、どんどん引っ張っていく人なのだ。
常に前を進んで、躓いて、転んだって手を引っ張って
お前ならできるだろ?と
無理やりでも進ませるのだ。
「なら心構えができたみたいだから、荒治療の開始だ」
頭の中から師匠の声が聞こえて来たと同時に視界が切り替わるのが分かった。
そこには、僕を襲ってきた少女と師匠達がいた。
僕が見ている視点は人からではなく、空から全体を見渡せるようになっていた。
あの少女が視線に入ったことで体が震えるような気がするけど、それと同時に師匠の無茶苦茶ぶりに少し笑ってしまう。
いくら僕があの少女と直接会わないとはいえ、まだ心の整理が出来ていないのに無理やり過ぎる。
と同時に、僕の目に一体何を仕掛けたのかが不安になってしまう。
別の所の景色を人に直接見せる方法、魔法もまだ作られていないのだ。
まぁ、師匠の事だから使える事を黙っていたのかもしれないが
「結構大人数で来られたのですね」
「俺は出ていくつもりはなかったんだがな、娘たちがどうしてもと言ってな」
視覚だけかと思ったけど、しっかりと声まで聞こえて来たことにびっくりしてしまう。
師匠と少女が向かい合って、師匠の後ろにリース達が並んでいた。
まるで、師匠を無理やり追い出したみたいになっていた。
「私が痛み付けたあの人と貴方がどういう関係か知りませんけど、結構薄情なのですね?」
「これでも色々考えているんだけどな。今ここで俺が出て行ったらあいつと俺が関係者だという事が確実になってしまうとか色々な」
「えぇ、あの人が何かを隠していた事は分かっていましたけど、確実ではありませんでしたからね。でも、貴方が出てきたことでそれが確実になった」
どうしてそこまで師匠が僕の存在を隠す、あるいは師匠と結びつけないようにしているのかは分からない。
前に色々説明して貰ったこともあるけど、上手く言えないけどそれだけではないような気がするのだ。
「別に何が何でも隠そうとは思ってないんだがな。学園関係の人に聞けば、あいつと娘達が仲が良い事は聞けるはずだしな」
「やはり貴方は少し変わっていますね。例えば、領主の子供と仲が良い平民の子供がいたとしましょう。はたして、その平民は領主自身と仲が良いのでしょうか?」
「子供同士が仲がよければ親も顔見知りぐらいはするんじゃないのか」
「あり得ません。それが領主と平民との差です。どちらかと言えば、その親は子供にこう言うじゃないでしょうか・・・・「平民の子供となんかと遊ぶな」と」
少女のいう事は間違いじゃない。
どちらかと言えば、師匠達大人たちが世間より少しずれているのだ。
ルミス様やマリー様も多分、旅のするうちに師匠達の考えに染まっていったのだろう。
「成程、確かにそういう考えの奴らもいるな。俺は嫌いだがな。それで、そろそろ本題に入ろうか。まさか世間話をするつもりで挑発したわけだはないんだろ?」
「ええ、本題は違いますが、貴方の考えが聞けた事は無駄ではなかったのですよ」
そういって少女は魔力を練り上げていく。
驚いた事に、この目は魔力の流れが見えているのだ。
そこまで考えて、この光景はケントと模擬戦をした時のチッタの力を使ったときと同じ物だと思った。
これなら、僕の身体に負担が掛からないままで、師匠達の領域の戦いを見ることができる。
もしかすると、師匠は僕の為にこの魔法を作ったのかもしれない。
まぁそこまで行くと、自信過剰になってしまうけど・・・・
「改めて自己紹介をいたしましょう。私の名前はミリア・・・・貴方の娘です」
少女からその言葉が出た瞬間、全員が驚いた顔になった。
特に一番驚いていたのが
「なぁんだぁてぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇぇぇ!!!!」
師匠本人だった。
・・・・・それもそうか
おまけ
「おーい、大丈夫か?ってか聞こえているか?」
「・・・・・・・・」
「いきなり黙り込んだと思ったら、返事すらない」
「・・・・・・・・」
「ま、井上さんの仕業だと思うが・・・・」
「・・・・・・・・」
「せめて何をするのか説明して欲しかったな」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・ん?よく見ると変な魔力が流れているな」
「・・・・・・・・」
「ほう・・ほう・・・ほほう・・・・これは文字か?しかも、日本語?メモかこれ・・・あの人は無駄にハイテクな事をしょうもない事に使うな」
「・・・・・・・・」
「・・・まじか、どうなっても知りませんよ」
「・・・・・・・・」
「・・・独り言は結構寂しいな・・・」




