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不思議な少女と宣戦布告

僕を学園に通わすために、冒険者ギルドの規約(ある一定間隔で依頼を受けないといけない)を逸らす為にあのふざけた指名依頼書(報酬が美少女とか云うやつ)を書いた師匠だけど、僕が暇だと分かると色々な依頼を持ってくる。


基本は街の中の雑用の仕事であまり報酬は良くない。リース達が暇な時は一緒に討伐依頼も受けるけど、僕が一人の時は街の中だけなのだ。

まぁただ、師匠が何を目的にこう言うことをしているのかは分かっているつもりだ。


「おう、ありがとよ。急に体調を崩した奴がいてな、急ぎの用事だったから助かったよ」

「いえいえ、一応依頼ですし。それに、ついこの間まで似たようなことをしていましたから」


運んでいた荷物を地面に置いた時に、この場所を仕切っている親方が声を掛けてきた。


「いや、依頼には荷物を運ぶだけだったが、お前は整理までしてくれただろ?あれで、次の仕事がやり易かったんだよ」


確かに依頼では荷物を運ぶだけだったけど、実際に運んでみると色々な物がぐちゃぐちゃに置いてあるだけだったのだ。

自分が持ってきた荷物を置くスペースがなかったから、片付けていたら色々と工夫してしまって逆に迷惑じゃなかったか心配だったのだ。


「それは何よりです。では、僕は戻りたいと思います」

「おう、気を付けて帰れよ。報酬の上乗せは出来ないが、凄く助かったって言っておくよ」

「ありがとうございます。それでは、失礼します」


親方から依頼完了の書類を受け取りギルドに戻る事にした。

街の中を歩いていると、野菜を売っているおばちゃんが声を掛けてきた。


「おや、今日はなんの用事だったんだい?」

「荷物運びですよ。何やら急用だったみたいで、街の外まで」

「あぁ、なんかバタバタとしていたね」

「僕も一緒に走ってましたよ」

「それは大変だったね」


このおばちゃんもギルドの依頼で出会った人で、それからはこうやって声を掛けてくれるようになったのだ。

確かに街の中の依頼は報酬は少ないけど、街の人達と仲良くなるためのきっかけになるのだ。

師匠の弟子じゃなくて、唯の僕としてこの街に馴染むように師匠が考えてくれている。と僕は勝手に思っている。


おばちゃんとも別れて、ギルドに着くと何やらガヤガヤと煩い状態だった。

何かあったのか気にはなったけど、依頼の完了の手続きから済まそうと空いている受付に向かう。


「依頼完了の手続きをして貰いたいんですけど?」

「あ、はい。お預かりします」


受付の女性の人も騒がしい方が気になるのか、僕に気付いていなかったけど、声を掛けると手続きをしてくれた。


「はい、依頼完了です。お疲れさまでした。依頼主からもお褒めの言葉が書いてありましたよ」

「あははは、本当に書いていたんですね」

「ふふふ、えぇ珍しいですよ。あの親方は厳しい方で有名ですから」

「そうなんですね」

「ところで、アルトさんはまだEランクなんですが、そろそろ討伐の方もした方が良いと思うのですが・・・」

「まぁ急いでランクを上げる必要はないですからね・・・・と言ってもそろそろ厳しいかなとは思ってはいますよ」

「そうですか、ご自身で考えているなら余計な事を言ってしまいましたね」

「いえ、有難いですよ」


FランクからEランクに上がる為には、街の中の依頼をある一定数成功させないといけない。それと同時に魔物の討伐ができるかどうかを試験管と一緒に確認する必要がある。

Eランクからは魔物討伐がメインとなる為、街の中の依頼をしている僕はまだランクが上がっていないのだ。

そういう事で、他の冒険者達からはEランクにもなって街の外にでない臆病者という事で見られているのだ。ってことをナナシさんから聞いたのだ。

初めは噂程度だったけど、最近では睨みつけてくる人も出てきて、そろそろやばいかなとは思っていたのだ。


「ところで、あっちの騒ぎは何なんですか?」

「私も詳しい事は分からないのですが・・・・どうやら道案内がどうとか・・・すみません。ここからだとあまり聞こえないので」

「緊急ですか?」

「それは大丈夫ではないのでしょうか?もし、緊急事態であったなら私を含めて全職員に伝達がきますから」

「それもそうですね。では、僕はこれで」

「見に行かれないのですか?」


お辞儀をして帰ろうとしたら受付の女性が聞いてきたが、僕は行くつもりはなかった。

気にならないかと言うとそうでもないけど、あの集団には僕を睨みつけてくる人達もいたので、自分から首を突っ込む気にはなれなかったのだ。

だけど、騒ぎの中心から聞こえてきた言葉に僕は足を止める事になったのだ。


「ああ、もうしつこいですよ!私は英雄の一人のマコト様の所に行きたいだけです」

「だから俺達が連れて行ってやるって言っているだろ!」

「最初に知らないって言ってたじゃありませんか」

「あ、あれはだな・・・」


師匠の名前が聞こえたと思ってよく聞いてみると、誰かが師匠の家まで行きたいのだという話声が聞こえてくる。

実は、師匠の家の場所は一般的に知らされていない。

師匠の弟子になろうと人が押し寄せてきたことがあったみたいのだ。

だから、そういうことを防ぐために師匠の家場所はお偉いさんの人達しか知らないのだ。


「・・・・どうしよう」


立ち止まって考えるが、どうにもできないと思いまた歩き始める。

当たり前だが師匠の家は分かる。けど、それを僕が教えても信じてくれるか分からないし、じゃぁ何で知っているのかと聞かれても答えることができない。

なので、師匠に誰か探していましたよと伝えるだけでいいのだ。

・・・良い筈なんだけど、なぜかその集団が僕の方に動いてくる。


「ねぇ!そこの貴方!ちょっと待ってください!・・・この人なんでしょ!」


集団から出てきたのは僕と同じぐらいの歳の少女で、少女を担当していたと思われる受付の人に確認を取っていた。

その受付の人は、僕をみて申し訳なさそうな顔になって頭を下げていた。

師匠の名前が出てきて瞬間に厄介事に巻き込まれそうな気はしていたのだ。


「ねぇ、私を英雄の一人マコト様の家に案内して貰えないかしら」


一言で言えば綺麗な人だった。薄い赤い色の髪を伸ばして、肌の色は物凄く白い。そして、吸い込まれそうな透き通った青い目は僕をずっと見ている。

この街について直ぐなのか、旅衣装のままでも関わらずその美しさは見てとれた。

集団であった男達が騒ぐのが理解できた。

だけど、正直勘弁してもらいたい。

師匠の家は知ってはいるけど、教えられないし。

集団の男達は僕を睨んでくるし


「師匠、助けて下さい」


口には出せない言葉を胸に秘めて、どう乗り越えようか考える事にした。


と、思ったのは良いけど結論から言えば無理でした。

少女は僕を完全に捕らえていたし、断っても断らなくても周りの集団からは睨まれるしでどうにもならなかったのだ。


「さっきも言いましたけど、し、マコト様の家は規制が掛かっていて正確の場所は分かりませんよ」

「それでもいいのです。先ほどの受付の方に街に詳しい人は誰か教えて欲しいと頼んだら、貴方の名前が出てきたのよ。街の中の依頼ばかりしているから詳しい筈だとね」


受付の人さん恨みますよ

そんな、個人情報をペラペラ喋らないで下さい

まぁ、多分口から洩れてしまったのでしょうけどね。男の人でしたし、悪いと思ったのか頭も下げていたしね


「勿論、それらしき家に連れて行ってくれるまでで良いですから。ちゃんと報酬も渡しますし」


と、まぁあの瞬間でここまで考え付いた自分を褒めてあげたい。

本当の家は教えられない。けど、逃げられない。

そこで、師匠の家らしき建物に連れていくことで納得してもらったのだ。

と言っても、貴族街の所まで行って適当な家を指さすだけにしようとは思っているけどね

・・・・騙しているから悪い気になってしまうけど、仕方がない。本当の事を言う訳にはいかないのだ。


「ところで、何でマコト様の家を探しているのですか?あ、教えられなければそれで構わないですが・・・」

「別に構わないですよ。昔、母がお世話になったみたいで・・・・そのお礼をと思いまして」


ゾクリとその表情、声は変わらない筈なのに背筋が凍ったようになった。


「あら、なかなか敏感ですわね」

「な、なにを」


僕の言葉は少女の目を見た瞬間に止まってしまった。

青色だったはずの目が、紅くなっていたのだ。


「私はとある事情で、人の感情に凄く敏感ですの。あの人達からは色んな欲望しかありませんでしたが、貴方も何か隠しているみたいですね」


ペロリと口を舐める姿は、その美しさも相まってとても欲情的に見えてしまう。

大通りだと目立って嫌だと言ったので、小道を通っていたから周りには誰もいない。

そんな中、身動きができない僕に少女が近づいてきて


「それ以上近寄らないで下さい」


僕の中から魔力が抜かれた気がした瞬間、僕と少女の間に黒い少女が現れた。


「チッタ!」


ケントとの模擬戦に出てきた、師匠曰く僕の守護精霊みたいなもの。

魔力の使い過ぎで今まで外に出れなかった筈なのに・・・


「緊急事態なので、魔力を強制的に頂きました」

「でも、その姿は」


それでも、その姿は前見た時よりも弱弱しいもので、体も一回りぐらい小さい。


「万全の状態からは程遠いですが、我が主を逃がすぐらいは」

「それができるとも?」

「な!?」


一瞬にしてチッタとの間合いを詰めた少女が腕を振るうと、チッタは一瞬にして消えてしまった。


「あらあら、私とは相性が悪かったみたいですわね」

「その油断が命取りですよ」


消えたはずのチッタが少女の後ろに現れて攻撃をしようとしたが


「無駄ですわよ。私には全部見えていますから」

「ぐっ!」


振り向きもせずに腕を伸ばして、チッタの首を握るとチッタは力が抜けたように座り込んでしまう。


「結構頑丈ですわね。普通の精霊なら消えてもおかしくはないのですけど・・・ですけど、もう何もできないですわね」


少女が手を放すと、チッタは体を倒して動かなくなってしまう。


「ぐっ!」


チッタを助けようと体を動かそうとするが、まったく動かない


「大丈夫ですわ。あの精霊は何か特別な存在みたいですから消さない事にしました。その代わり・・・今からすることをしっかりと目に焼き付けて下さいね」


少女は懐から短剣を取り出して、そのまま


「ぐぁぁぁ!」


動けない僕の太腿に突き刺した。


「あ、主!」


我慢できない痛みに叫び声を上げると、チッタが弱弱しいい声で叫ぶ


「さぁ教えてくださいまし。貴方が隠していることを・・・」


少女は顔色も変えずに、今度は細い針みたいの物を取り出して


「さて、何本耐える事ができるでしょう?」

「や、やめろ!主!」


チッタの叫び声とその針が僕の身体に刺さるのは同時だった。



おまけ


「あはっ!あはははは!気絶してしまいましたか!でも、全然話さなかったですわね」

「・・・もう・・・やめて・・・」

「消えさせませんよ。貴方達精霊は良くも悪くも魔力によって影響してしまう」

「・・・精霊の瞳」

「よくご存じですわね。この目には人が見ることができない色んなものが見えてしまう。人の感情やら魔力の流れなどですけどね」

「ヴァンパイア」

「正確にはヴァンパイアの血も流れている。ですわね」

「・・・・・・そんなことが・・・」

「あるから困るですよ。っと、楽しくてつい時間が経ってしまいましたね。伝えて下さい。その為に貴女には消えないで貰ったのですから」

「・・・誰に」

「貴女を作った人にですよ。まぁ私の勘違いならそれはそれで構わないですので」

「・・・・・・・」

「沈黙は肯定としますわよ。それとは別に早く人を呼ばないと、この人が死んでしまうかもしれませんけどね。まぁこれだけ体中に針が刺さっている状態から助けられ人は限られていると思いますけどね。聖女様とかね」

「・・・・絶対に許さない」

「構いませんわ。私は人外の欲望によって生み出され、親の狂愛によって育て上げられて、人の悪意の中で育ちましたからね」

「・・・訂正・・・貴女は哀しい人だ。本当の愛を知らない」

「ええ、そうですわ。ですから私は探しているのです。本当の愛を!私の全てを受け入れてくれる人を!・・・私を・・・・・・」

「宣言します」

「何をですか?」

「貴女は我が主に敵わない。我が主の前で膝をつくことでしょう」

「この針ダルマみたいのに私が負ける?ちょっとした瞳力で動けなかったこんな弱い人に?あはははは!それは面白そうですわね」

「・・・・多分こっちだ!変な魔力を感じる!」

「・・・お仲間ですか・・・・では私はこれにて」

「・・・・・・・・」

「おい大丈夫か!」

「ッ!」

「見るな!ダルス、回復させながら同族から話を聞け!詳しくだ!ラミア、ミリルは聖女・・・いやイサオ様を呼んできてくれ!まだ、街にいる筈だ!早く!」

「何があったんだ」

「・・・私はもう限界だ。創造主に伝えてくれ・・・・」

「・・・・分かった」

「それと・・・・・・」

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