あぁ、やっぱり騒がしき幻想空間
英雄の子供として有名なリース達。それに加え貴族でもあるシェルム達。
良くも悪くも目立つ立場にいる皆がゆっくりできる場所を手に入れたいのは分かる。
でも
「ウェルカム・トゥ・皆様!」
「落ち着いて下さい。皆様が驚いた表情で立ち止まってしまっています」
ようこそ!と書かれている旗を嬉しそうに振っているマイさんとそれに付き合っているコキさんの姿をみて本当にここがゆっくりできる場所なのか少しだけ不安になってしまった。
まぁ景色はとても良いのだけどね・・・ある人が暴走をしなければ・・
「何を言っているのですかコキさん!コキさんがご主人様達が出て行かれてからすぐに皆様の名前がこの白い本に記載されてから、嬉しそうにこちらに来られるのを待っていた事を私が知らないとでも!?」
「嬉しい事は本当ですが、取り敢えずプライバシーの侵害ですので即刻辞めてください」
「なんと!?」
「・・・何故驚いているのか問い糾したいですが、それよりも皆様を案内することが最優先です」
「・・・・主を持つという事はこういう変化もあるものなのですね」
何処か遠くを見つめ始めたマイさんの姿に苦笑して、隣にいたシェルムさんと一緒に皆を先導する様に歩き始める。
「少しは落ち着いていると思ったけど・・・」
「でも、私としては変に畏まれるよりは気が楽だと思います」
シェルムさんのその言葉を聞いて、マイさんのあの様子が皆に気を配って敢えてあのような行動をとっているのだとしたら・・・
「うわっぷ!コキさん辞めて下さい!私の渾身の作品である旗で私をパタパタしないで下さい!邪魔です。非常に邪魔なのです!ご主人様が見えないじゃないですか!」
「何を言っているのですか?せっかく作ったのですから使わないと勿体無いですよ」
「それは分かりますが!何故、私の前でパタパタするのですか!」
「風向きじゃないですか?」
「反対側を向いているじゃないですか!」
かなり凄い人達なのではないかと・・・・思ったのだけどなぁ
「まぁ楽しいから良いとは思うけど・・・・リース達に飛び火が行かなければ」
「私が言うのも何ですが、リース達なら直ぐに馴染むような気がするのですよ」
「確かに」
逆にリース達なら人目がないって云う事で一緒になってバカ騒ぎをしそうな気がする。
リース達は今は少し落ち着いているけど、小さい頃は凄くお転婆で僕が修行で疲れていても腕を引っ張って付き合わされていた事を思い出した。
「流石に今はしませんからね」
僕の隣に来たリースが突然そんな事を言ってきたからかなり驚いてしまった。
「声に出てた?」
「アルトはすぐに顔に出るのです。大方、昔を思い出して私達なら一緒になって騒ぐとでも思ったのでしょう?・・・まぁ確かに少し面白そうだけど」
やはり少しは心惹かれるモノがあったみたいだ。
「それで、此処はどういった所で、あの二人とはどういう関係で、何故シェルムとアルトの二人が分かり合っている風に話をしていたのか・・・ちゃんと説明してくださいね」
「・・・・はい」
シェルムさんと二人揃って頭を下げてしまった。
だって、笑っているのに凄く怖かったのだ。
「ご主人様~!とシェルム様~!・・・む、シェルム様だけ名前呼びと言うのもおかしいですね・・・では」
そんな僕達二人の危機に颯爽と現れたのはマイさんで、リース達も姿勢を正してマイさんと向き合おうとして
「奥様!」
「何でそうなっ」
「はぁぁぁぁぁ!?」
マイさんの発言に驚いた僕の声は、皆の叫び声にかき消されてしまった。
「なる程、事情は分かりました」
カチャリとマイさん達が淹れてくれた紅茶を置きながら、リースが口を開いた。
あのマイさんの爆弾発言の後、リース達に問い詰められてマイさん達やシェルムさんとの事を説明したのだ。
「・・・・なんて羨ましい」
「え?今なんて?」
「こほん。いえ、何も。ただ、事情は分かりましたけど、流石に奥様は・・・後、ご主人様もあの子達にとっては譲れないモノみたいだしね」
「はははは・・」
リースが少し可笑しそうに僕の前に置かれている紅茶をみて笑っている。
どうすれば良いのか分からなくて、まだ一口も飲んでいない紅茶が僕の目の前には2つ置いてある。
「冷めてしまいますよ”ご主人様”」
いつも少し巫山戯た様子のマイさんが、しっかりとした立ち住まいで強い促しにならない程度にやんわりと片方の紅茶を勧めてくる。その後ろには、コキさんも待機しており真剣な表情で立っている。
「”ご主人様”今日は少し動いた後なので、少し温めに、後砂糖を少し入れてあります」
マイさんの淹れた紅茶に手を伸ばそうとすると、ジルが僕の身体の事を心配しながらもう一つの方の紅茶を勧めてくる。ノアもジルと同じような目で僕を見てくる。
リース達が奥様という言葉に反応したのと同じで、ジルとノアはご主人様という言葉に敏感に反応したのだ。
「おやおや、”ご主人様”の行動を阻止するとはメイドとしてあるまじき行為ではないのですか?」
「いえ、私達は先程まで走っておられた”ご主人様”に熱々の紅茶よりも”ご主人様の為”に淹れた紅茶の方が良いと思いまして」
「・・・・・」
「・・・・・」
誰か、助けて下さい・・
ジルとノアは僕の専属のメイドとしてずっと仕えて来たつもりで(ケントに話していた)
マイさんとコキさんは初めて仕えるメイドとして何やら譲れないモノがあったみたいだ。
「・・・大変だね」
周りをみて苦笑しながらクーナが接客業で鍛えたのか、不自然にならないように僕の目の前にコトリと水を置いた。
「皆仲良く出来ればいいんだけどね」
そのあまりにも自然の動作と、走り回った後とこの何故か緊張してしまう雰囲気で喉が渇いていた僕は、違和感なく水を飲んでしまう
「あ」
両左右から聞こえてきたそんな声で、出されていた紅茶を無視ししてしまった事に気付いてさっきよりもダラダラと汗が吹き上がってきた。
「はいはい、落ち着いて下さい。ご主人様を困らせるのが貴女達の目的ではないのでしょ?」
しょうがないという表情で手を叩きながらリースがマイさんやジル達を見る
「特に、ジルとノアは午後からも授業があるのだからアルトにだけ構っている暇はないのでしょう?」
「ご主人様のお世話をすることが私達の」
「貴女達がアルトの専属である事は認めていますけど、その前に今の貴女達は学生でしょう?そういう約束だったでしょう」
ジルとノアは小さい頃から僕や師匠達の世話をしてきた。
だから、二人は改めてこの学園に入る必要は無かった。
けれど、子供は遊んで、学んで、色んなことを経験するべきだという師匠達大人の意見に押されて入学することになったのだ。
学園にいる時は、ただの学生として過ごす。それが、ジルとノアが学園にいる理由なのだ
「それに、と言って良いのか分かりませんが、この幻想空間はいわば私達の家。ご主人様を含め皆様は私達にとってはお客様であるので、もてなすのは当然なのです」
えっへんと胸を張りながら、マイさんはてきぱきと食事の準備をし始める。
「っと言うことなので、お二人も席に着いて貰います」
コキさんがジルとノアの背中を押しながら席に誘導していく
「え、え?ですが」
今まで人の世話をしてきたが、世話をされることが少なかった(しかも同じメイドに)二人はどうすれば良いのか分からずオロオロしていた
「これも体験で良いのではないですか」
「・・・実際にお世話される立場になれば、今まで気付かなかった事に気付く・・・かも」
「私もサヤお姉さまやアヤと同じ気持ちです」
「それに、二人はいつもアルト君や私達の為に働いているから、少しは休まないと」
そういう、皆の後押しもあって二人は諦めて素直に案内された席に座った。
「やっとこれで、話を進める事ができますね」
ジル達が落ち着いたことで、各自準備してきた昼食を食べなからリースが話しかけてきた
元々はリース達がゆっくり昼食を食べる為であり、クーナに僕たちの秘密を明かして、仲間になってもらうつもりだったのだ。
「っと言っても、ある程度は理解できているとは思いますが」
「まぁ、あれだけのモノを見せられたらね。でも、ただの幼馴染ではないんでしょ?」
僕とリース達が幼馴染で仲が良い事は別に知られても良いのだ。
まぁ、その所為で注目されたり、追われたり、追われたりする訳だが
問題はその先である。
師匠達が言うには、隣国が召喚したと言われる新しい勇者に目を付けられないように、師匠の弟子と言う事を隠すこと。
後は、僕が師匠の家族になる事。
この二つだ。
後者は、まだ僕が自分の身を守れるほど力がないからだ。
「シャルムとファミルも聞いてね・・・・アルトは私の父、英雄が一人マコト・イノウエの最初の弟子なのよ」
「え?」
クーナだけじゃなく、シェルムやファミルも驚いた表情で僕の方を見てくる
「だけど、マコト様の弟子は」
「ケントも弟子の一人で、アルトからすれば弟弟子になるの」
このリースの言葉には苦笑いしかできない。
弟弟子の方が断然実力があるのだから。
「では何故、その事を公表しないのですか?」
「一番の理由は実力がないからですね」
本当は、僕が師匠の弟子という言葉に縋って皆の気持ちに気付いていなかった事とか、色々理由はあるのだけど、一番の理由はそれだと思う。
僕の言葉にリース達はなんとも言えない表情をしているが、言い返さないという事は少しからずそういう気持ちがあるのだと思う。
「それは、弟子を名乗る程の実力を認められていないからか?それが本当なら、マコト様の事を勘違いしていたようだな」
「それだけは違うと断言できます」
ファミルさんは弱いから名乗るな。と言われていると勘違いしているみたいだけど、師匠はそういう人ではない。
「英雄の子供と同じように英雄の弟子と言うのも注目を浴びます。シェルムのお母様であるマリー様から指導を受けている人達やファミルの家の騎士の人達。そして、父の弟子と知られているケント。良い意味でも悪い意味でも注目を浴びてしまいます」
「それらの中特に悪事に関して、自分で身を守る事が出来ないから名乗れないのです。師匠はそういう輩から僕を守る為に敢えてその事を黙っているのです」
英雄の子供やその家族は地位こそ高くはないが、貴族達でも無視ができない存在となっている。
もし、英雄の家族たちに何かあれば、その力が自分達に向けられるかもしれないからだ。
それと同じで英雄の弟子にも同じ事が言えるが、ケントに関しては、ケント自身が貴族の産まれで手が出しにくい状態である。
だけど僕は
「僕は両親に捨てられ、奴隷として生きて、死にそうになった所を師匠に助けてもらいました」
師匠の弟子という看板を背負って生きるには、後ろ盾が無さ過ぎる。
何も殺されたりなど害される事だけではなく、貴族の権力など僕一人だけではそれらから逃れる術がない
師匠の家族に迎えられる事が周知されると、その危険性は少なくなると思うが、元奴隷という立場がそれを邪魔してしまう
「見て見ますか?右の肩の後ろにまだ奴隷の印が残っている筈です」
僕が奴隷として売られた所は、正規の場所ではなかった。
そこでは、奴隷は消耗品の様に扱われて、開放されるという事は全くない所だった為、その印も消えないようにと一種の呪いが掛かっている。
だから、奴隷から解放されて数年が経とうがその印は消えることがなく、また、正規の役所に行っても解除することができなかったのだ。
「い、いや、いい。すまなかった」
袖を捲るだけでは見せる事ができないから、上着を脱ごうとしたらファミルが慌てて謝ってくれた。
「分かりました。実力と出自の関係で僕は師匠の弟子を名乗ることができないですが、僕はそれでも師匠の弟子で有り続けたいと思っています。まぁ公表できるのはいつになるか分かりませんけどね」
その気持ちだけは、先日のケントとの模擬戦で誓ったことだ。
実力がなくとも
元奴隷であろうとも
皆に認めて貰えなくとも
その気持ちだけは、決して忘れない様にしていきたいと思う
「まぁアルトの方はそう思っていて、あながち間違ってはいないのですが・・・・お父様は多分もっと単純に考えているとも思うのですよ」
僕の奴隷発言で少し重たくなってしまった、空気を変えたいのかリースが苦笑している
「元々お父様はケントを弟子にするつもりはなく、国の人達や知り合いにお願いされて一人だけという条件で受けたのです。それなのに、アルトも弟子である事を公表すればまた、弟子にしてくれという人が沢山押しかけてきてしまいます。それも嫌なのでしょう」
確かに、その方が師匠らしくて納得ができそうな理由であった。
「ところで、ところで、ご主人様」
クイックイッと袖を引かれて振り向くと、マイさんが満面の笑みで
「ご主人様の裸が見たいです」
と言った瞬間、ガタッ!と勢いよく体を引かれ、マイさんに抱かれてしまった。
「え、え?」
「ふっふふ。こう見えても私は機械ですからね。見た目以上に力持ちなのです!」
機械という割には硬い所はなく、女性特有な場所に顔を埋めてしまって顔が赤くなるのが分かってしまう
しかもマイさんが、僕の両手を抑えるように肩から手を回して背中で手を組んでいるから、抵抗ができないでいる。
身長的には僕のほうがマイさんより少し大きい筈だから、そのままでは動けないと思っていたけど
「さぁさぁ!めくるめくヌフフの世界へいざ行かん!」
「う、浮いた!」
「え、なに!何も見えないんだけど!」
「あんっ!もう、ご主人様の・・・エッ・チ!」
急に身体が浮き上がる感覚がして、反射的にしがみついたらマイさんが変な声をだしてしまった。
そうなると、変に力を入れる事ができなくて
「それではさらば~なのです」
「うわぁぁぁぁ!」
そのまま、何処かに向かって進み始めてしまい、怖くて大きな声を上げてしまった。
因みに、その後色々あったけど、なんとか死守しました。
シェルムさんの気持ちが少しだけ分かったような気がしました。
おまけ
「あれは大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫です。私達がご主人様に危害を加える事はありません」
「・・アルトの貞操が危ない!」
「あ、サヤお姉さま!私も行きます!」
「わ、私の胸の方が・・」
「あらあら、私も行った方が良いかもね」
「ずるい、私も行きたい」
「我慢、我慢、せっかくあの人が気を利かせてアルト君を離してくれたのだから」
「いえ、あれはただのマイの欲望かと・・・私達はご主人様の事を沢山知りたいですから。それが奴隷印だとしても」
「わ、私達も行きます!」
「ご主人様を守ります!」
「・・・私もアルト君と・・」
「・・・・・・」
「・・・君達は強いな」
「何がです?」
「いや、立場云々で悩んでいる私が凄く惨めに思ってね」
「別に特別な事はないでしょ?私達はアルトが元奴隷だと知っているけどだから何?アルトは私達に対して唯の女の子として接してくれる。そこに差はなくて、普通に接しているだけよ」
「その普通が難しいだよ」
「じゃぁ、ファミルはアルトの事嫌いになる?元奴隷だからという理由で?」
「いや、そうじゃなくて。私は聞かれると思ったんだよ。リース達があの人の言葉を遮らなかったら、多分「こういう自分だけど受け入れてくれますか?」ってね」
「それは私も思いました。英雄の子供で貴族でだから一線を置かれて接されてしまうと思っていた私達に対して、だからどうした?と。それより、自分を受け入れてくれますか?ってそう言われている様な気がしました」
「そう言われた時に、果たしてちゃんと答える事が出来たのか、それが怖い」
「私も、自分が一番不幸だと思ったことはなかったし、私以上に不幸な人がいることは知っていたけど、実際にああ言われるとなんて言葉を掛けて良いのか分からなかったわ」
「別に特別な事を考える必要なんてないんじゃない?重要なのは、あの話を聞いて離れるか、離れないか。哀れみでもなく、同情でもない。普通に接することができるのか?それだけよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ちょっ、ちょっと待ってください!離して!離して下さい!」
「ぐへへへ!よいではないか、よいではないか!」
「あぁ・・マイのリミッターが外れてしまいましたね」
「きゃぁぁ!何しているんですか!」
「・・・と言いつつ、指の隙間からしっかりと見ている」
「そ、それはですね!」
「ほら!まだまだ行きますよ!」
「うわぁ!何で印を見せるだけなのに、下まで脱がそうとするんですか!」
「はて?私は裸を見たいと言っただけで、印を見たいとは言っていないですが?」
「・・・確かに」
「と、言いつつ隙ありです!」
「残念ブロック!」
「や、辞めて下さい」
「そうです。ご主人様のお世話は私達の仕事です」
「む、でわ、どちらが先にご主人様を脱がすことができるか勝負です!」
「望むところです!」
「望まないで!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・行ってきたらどうだ?そんなにソワソワして・・」
「・・・・・」
「無言で行きましたね」
「あはは、面白いね。噂の英雄の子供が普通に女の子している。しかも、貴族でもある貴女達ともこうやって一緒にお茶を飲むことができる」
「それは、私達も普通の女の子ですからね」
「じゃぁそれが答えなんだと思う。平民だから、英雄の子供だから、貴族だから、壁を作っているのは相手じゃなくて自分自身。まぁあそこまで素直になれないと思うけど」
「り、リース助けて!」
「・・・・」
「何でそこで観戦する場所に行くの!?」
「と、取り敢えず止めに行きましょう。もうすぐ昼休みも終わりますし」
「だな」
「ですね」
「・・・・・・・・録画完了です。ご主人様の半裸姿・・・」




