二年前の真実
とても懐かしい匂いがした。
急に師匠の家に引き取られて不安がっていた僕に笑顔で花を渡してくれた人
師匠の奥さんでリースの母親であるその人の笑顔を見ると何故かホッとして、不安だった心が安らぐのを覚えている。
不安で怖がっている時、悲しくて泣いている時、皆の輪の中に入れなくてオロオロしていた時
抱きしめてくれて、励ましてくれて、手を引いてくれた。
その人の手はとても暖かくてどんなに眠れない時でも、頭を撫でて貰うとすぐに安心して眠る事ができた。
そんな懐かしさを感じながら自分が目を覚ます事が理解できた。
「・・・何だか懐かしい感じがしました」
「ふふ・・こうして撫でているとすぐに寝ていた子がこんなに大きくなるなんてね・・・でも、寝顔は変わらないかな?」
「凄く恥ずかしいですね」
「そう?私は凄く懐かしくて嬉しかったけどね・・・」
そう言って、笑顔でまた頭を撫でてくれる人は師匠の奥さんで名前はアマルさんという。
アマルさんは、昔と変わらないようにニコニコとしながらこちらを見ている。
流石に恥ずかしくなったので、寝かされていたベッドから体を起こそうとする
「・・・前にもこういう事があったような気がする・・」
「二人共凄く心配していたわよ?アルト君はお兄さんなんだからあまり心配させる事はしないの」
「・・・似たような事をつい最近言われた気がします」
いつか見た光景のように、僕の両腕にはヴォルとミンクの二人がしがみついていた。
アマルさんは、その二人にも同じように優しく頭を撫でていた。
二人はとても安心するのか、僕もあまり見たことが無いような顔をしていた。
「まだ動かないの。症状は唯の魔力切れみたいだけど、アルト君の身体は結構ボロボロみたい。あの人が許可を出すまでゆっくりしていなさい」
「・・・二人が腕を抱きしめているから動けない訳じゃないと?・・・・確かに動かそうと思えばできそうですけど、それをすると後が怖そうですね」
試しに身体を動かそうとするも、痺れたように徐々にしか動かすことが出来ない。
感じる感覚も少し鈍いような気がする。
でも、あの時感じたあの雰囲気。
今まで見てきた世界がガラリと変わって見えた。
相手との力量、攻撃の最中の思考能力、一歩踏み出せば感じる力強い力。
今の僕を無理やり師匠達と同じレベルに上げた代償は決して小さい物ではなかった。
「・・・・それでも」
それでも、あの雰囲気を感じられた事はとても重要なことだった。
今の僕じゃ絶対に辿り着けない領域。
それを感じられて絶望感もあるけど目標もしっかりと理解することができた。
「今度は自分の力であそこに行く」
そして、あの人達と一緒に肩を並べるのだ。
「何となくアルト君が何を考えているのかが分かるけど、あの人からの伝言よ「俺の許可が出るまで鎧化は禁止する」だそうよ」
「そうなるとは思っていました。今の僕じゃあの力は扱いきれません」
とてつもない力を感じた”チッタ”
チッタの力であの領域に達する事ができたけど、今の僕じゃいつその力を暴走させるか分からない。
師匠が以前、上級精霊を見せてくれた事があったけどそれと同等かそれ以上の力を感じさせられたのだ。
「それもあると思うけど、アルト君の身体が耐え切れない事が原因みたいよ?あの人が張り切って修行をするって言っていたわよ?」
「・・・・・」
その言葉に口元が緩むのが感じられた。
師匠は僕を見捨てた訳じゃなかった。
色々言いたい事はあるけど、それが分かれば十分だった。
「・・さて、私は皆を呼んでくるわね?アルト君もあの人と話をしたいと思うし」
「そう言えばあの人は・・・」
「ケント君?彼も無事よ。ただ何か考える事があるって言って仲間の人達と一緒に家に帰ったけど」
「・・・そうですか」
「色々考える事があるみたいね?ケント君もそんな顔をしていたわよ」
アマルさんはそう言って部屋を出て行った。
僕は自分がどんな顔をしているか気になって鏡を探そうとするけど近くには見当たらない
「ってか、ここ僕の部屋じゃないか」
師匠の家に居候していた時に使っていた部屋が昔のまま残っていた。
「・・通りで懐かしい夢を見たはずだ・・・」
必要最低限の物しかない部屋。
師匠が殺風景だな!と言って無理やり持ってきた訳の分からない物もそのまま残っていた。
「・・・・何で資金作りに売った筈の道具類まであるんだ?」
旅の途中で貰った物やダンジョンでの宝物を資金作りの為に売った物まで何故か置いてあった。
「そいつらは、サヤ達鼻が利く子供達がお前の匂いがするって言って、二ヶ月前ぐらいから買い集めた物だぞ?お前のその反応をみるとどうやら当たってたらしいが・・・ある意味怖いな」
ノックもせずに入ってきたのは少し冷や汗を流している師匠だった。
師匠はそのまま僕にしがみついている二人に手を添えて
「・・・何で転移させたのですか」
「いや、ただ単に話の邪魔になるかな?と・・・大丈夫だ。向こうには話をしてある」
「・・・・・何やら騒ぎ声が聞こえますが?」
「ま、いつもの事だろ」
「それを師匠が言っちゃダメでしょ!」
「・・・・ダメか」
端々に聞こえてくる話し声に耳を傾けると、急に現れたヴォルトミンクを心配するリース達の声が聞こえてくる。
師匠は僕と二人きりで話したいことがあるのだ。
だから、ヴォル達を師匠の後に付いて来ただろうリース達の所に転移させて、足止めをしたのだ。
・・・・多分
「そんな事しなくても、二人共良い子ですから説明すれば素直に出て行きましたよ?」
「・・・その説明するのが恥ずかしいじゃないか・・・」
「子供ですか」
「子供の心を持った大人だ」
「・・・・・それで話は何ですか?」
師匠と言い合いをしていればずっと続きそうなので、話を進める事にした。
「ま、色々説明をな・・・・取り敢えず、まずは誤解を解かないといけない事に気づいた」
「誤解ですか?僕の事を他の人達に黙っていた事ですか?」
今こうするまでの間で、師匠との誤解というのがその事しか頭に浮かばなかったが
「いや、それは敢えて言ってない事だ。俺が言う誤解というのはもっと前の話・・・二年前の事だ」
「二年前ですか・・」
二年前の事は正直今思い出しても辛い記憶である。
「そう悲しい顔をするなって・・・そもそもそれが誤解なんだから」
師匠は僕の頭をくしゃくしゃと力強く撫でて話し始めた。
「まず、一つ目の誤解だ。ケントとの試合中にもお前が言ってた「お前は俺の弟子だと言っているが、俺も俺の家族も皆誰もそう思っていないんだぞ?」と言う言葉だが、確かにそう言ったが意味が違うんだよ」
「・・・意味・・・」
「そうだ。お前は弟子じゃなくて・・・・・その~なんだ・・・」
「大の大人がそんなにクヨクヨしないで下さい。娘として恥ずかしいです」
「木っ端恥ずかしいんだよ!コンチクショウ!ってかもう来たのか!?」
「何故か揺すっても起きない二人はお母様達が連れて行きましたから・・・・相当怒っていましたよ?小さな子供に何て事をって」
「・・・・・・汗)」
脂汗を流している師匠の後ろからリース達が部屋の中に入ってきた。
皆の中にはナナシさんも混じっていてすぐに僕の所まで近づいてくる
「アルトが寝ている間に大まかな事は聞いたっす。・・・・此れから頑張るっすよ?」
「・・・何で僕はいきなり励まされる必要があるんですか・・・嫌な気しかしないんですけど・・」
「大丈夫っす・・・多分。私達も一緒にいれるようになったっすから!」
「それは良かったですね!・・・それで小さく多分って言ったの聞こえてますからね!どういうことが説明してくださいよ!」
ナナシさんは僕の質問には答えずに未だに固まっている師匠の所に歩いて行った。
「とっとと話すっす!そして、怒られて来るっす!」
「怒られる事確定!?」
「当たり前です!」
皆から一斉に言われた師匠はがっくりと頭を下げてノアとジルの二人を呼んだ。
「・・・しっかりして下さい」
「一番大切な時なのですよ」
「・・・・分かってるよ」
ジルとノアはそれぞれ大きな鞄を持っていて、師匠はその中身をそれぞれ取り出した。
「これが答えだ・・・ジル、ノア広げて見せてやれ」
「はい」
ジルとノアが二人で広げて見せたのは一つのマントで、真ん中に大きくドラゴンの横顔とそれを囲むように木の枝が描かれていた。
「その紋章は・・・」
「そうだ、俺が英雄として貰った家門の紋章だ」
因みに、師匠がドラゴン、ノゾムおじさんが獣人、ルックさんが妖精、騎士様が大剣と盾、聖女様が女神をモチーフにした紋章を授けられている。
この国の人達であれば勲章の意味を持つが、師匠やノゾムおじさんはこの世界の住人ではない。
そこで、その紋章をそのまま家門にすることにしたのだ。
「・・・これはお前の為に作った物だ。だから・・・そういう事だ」
「何でそこではっきり言わないのですか!」
師匠の態度にリースが怒っているが、僕は師匠に言われた言葉とジルとノアがそっと渡してくる師匠の家門入りのマントに釘付けとなってしまう。
家門入のマントを渡す意味は、貴族の世界ではその家に迎え入れる事を指す。
と、いう事は
「・・・・僕が師匠の家族?」
という意味になる。
「そうだ。お前は俺の弟子だけじゃなくて家族だ。そう言いたかったんだよ」
「・・・はは」
いくらあの時酔っていたからって、なんて言葉足りずなんだろう・・・
いや、僕が自信がなくて師匠の弟子という言葉だけに気を付けていた事も原因だろう
「でも、なんで旅を?その時にちゃんと説明してくれたら僕だって・・・」
「それが二つ目の誤解だ。弟子になる最終試験と言ったのはそれは嘘だ。俺は俺が言った言葉をお前が理解して上で「弟子以外の何者でもありません」と言ったと思っていた。だから、一旦俺達から離れて、考える時間を与えて、俺達がお前を迎え入れればその事を自覚できるんじゃないかと思った訳だ。ま、色々タイミングがズレておかしな事になってしまったが・・・」
「・・・・分かる訳がないじゃないですか・・あの時本当に捨てられたと思ったのですから」
「それは本当にすまない事をした・・」
師匠はそう言って頭を下げた。
「頭を上げて下さい・・・師匠に頭を下げられたら僕はどうしたら良いか分からなくなります」
「・・・・許してくれるか?」
「許すも、許さないもないですよ・・・あれは本当に最終試験だったのです。それがあったから、ナナシさん達と出会う事ができました。色々な事を体験する事ができました。そして、自分の覚悟を・・・師匠の弟子である覚悟を固めることができました。だから・・・・それで良いんですよ」
「・・・・そうか・・」
あの試験があったらか、ナナシさん達と出会い、旅をして、色々な経験をしたのだ。それを唯の間違いで済ませたくなかった。
皆もホッとした表情になり、柔らかい雰囲気になった。
「・・・いい雰囲気になったのに心苦しいんだが・・・まだこれは預けられないんだ」
「・・え?」
そこで終われば良いのだが、それで終わらないのが師匠なのだ。
師匠は僕の身体の上にあるマントに手を置いてどこかに転移させてしまった。
皆もその師匠の言葉は始めて聞いたのか驚いた表情をしていた。
「お父様!何してるんですか!」
「まぁ、待て。ちゃんと説明するから」
リースが激怒して師匠に詰め寄るが師匠は真剣な表情で僕を見てくる。
「さっきの試合でお前の覚悟は分かった。だけど、お前にあの家門を背負わせるには負担が大き過ぎる」
「・・・それは実力が足りないっという事ですか?」
「それもある。また誤解されたくないからちゃんと説明するから勘違いするなよ?お前は旅をしてこの大陸に来てどれくらい経ったのか知らないけど、隣の国が異世界人を召喚した事は知っているか?」
「・・いえ、知りません」
「私はちょっこと話に聞いた事があるっす。何でも男と女の二人で相当強いという話っすけど・・・」
ナナシさんは知っていたようだが、所詮隣の国の事で自分達には関係ないことだと思って伝えていなかったらしい。
「そうだな、その二人が今この王都の学園に通っているんだよ。それがまた厄介でな?前の戦いで英雄を出したこの国は良くも悪くも他の国から注目を浴びていた訳だ。隣の国は前の戦いであまり活躍できなくてな、その事に不満を持っていたんだよ。それが、何かの運命なのか異世界人の召喚に成功してしまった。それで、年老いた前の英雄よりも新しく召喚した勇者の方が凄いと言って送り込んで来たんだよ。失礼だよな?まだ俺そんなに年食ってないのに」
「マコト様の年の話はいいっス」
「・・・君にマコト様って言われるの何か嫌なんだけど」
「じゃぁ何て呼べば良いっすか?」
「普通にマコトさんじゃ・・・」
「アルトのお師匠様だからおしょうさんで」
「誰が和尚さんだ!」
「・・・二人共仲が悪いんですか?」
「いや、全然」
「・・・・・」
そこだけ、息があった二人に何も言えなかった。
「・・師匠、話の続きを・・」
「あぁ・・それでその二人の内男の方がちょくちょく俺達にちょっかいを掛けてくるんだよ。男の方は性格はなんだが、実力はケント以上でな・・・そいつがお前にちょっかいを掛けないようにする為なんだよ。今度はちゃんと理解できたか?」
「・・・理解できました。要するに、僕をその異世界の男の方から守る為なんですよね?」
「大変よく出来ました」
師匠が笑顔で頷いているが、何故か師匠の後ろに花丸が沢山咲いていた。
地味に細かい所に力を使っていた。
・・・なんの演出が分からないけど・・
「じゃぁ、あまり師匠達と近づかない方が良いですか?」
「!!!!!」
そう言った瞬間、僕の部屋の空気が凍った。
「いや、待て!早まるな!・・・良いか?・・落ち着けよ?これもちゃんと説明するからな?・・・・そうした方が確実なのは確かだが、それをさせると俺が色々大変な目に遭うのでそれは無しだ。それに、そろそろあの事も解決しないといけないからな・・・アルトならできるだろ・・・なので、俺の弟子で家族であることは内緒にしてもらうが、付き合いは普通にして良いぞ・・・その代わり別な厄介事が増えるがな」
「なに、途中と最後に小さく呟いているんですか・・・じゃぁ、一緒にギルドの依頼をしたりこの家に来てもいいのですか?」
「家に来るも何も、お前は今日からまた此処に住むんだぞ?それに、リース達と一緒に学園にも通って貰う」
そう言って、師匠はもう一つの鞄から出した制服を渡してきた。
「僕が学園に通う?」
「そうだ、この二年間で色々な経験をしてきた事は分かる。けど、色々常識的な部分が抜けている。それを学んで来い」
「・・・常識外れの人に育てられたならそうなるっす」
「何か?」
「何でもないっすよ」
「因みに、その学園は俺が作った。教師はしてないけど」
「・・・もうなんでもありっすねこの人は・・・」
何故かナナシさんが師匠と張り合っていたけど、師匠の常識外れの行動にとうとう肩を落とした。
「ギルドの制約があるんですけど?」
ギルドに所属すると特別な理由がない限りはある一定期間の感覚で依頼を受けないと、資格を剥奪される。
「それは大丈夫だ。学園は早めに終わるし、ある程度ならギルドの依頼で休むことも可能だ。それに、ほれ」
「・・・・なんですかこれは」
師匠がぽいっと投げてきた物を広げると、それはギルドの依頼書だった。
内容は・・・
「・・・・なんですかこれは?」
二度同じことを言ってしまった。
なぜなら
「指定依頼、依頼内容は学園に通い人助けをしろ。依頼期間、卒業するまで。依頼報酬、美少女二人。もしかしたら一人プラスってなんすか?」
「・・・なんでしょう?」
「そのまんまだがな・・・俺がお前に指定依頼を出したんだよ。これでこの期間は無理してギルドの依頼を受ける必要がなくなるってわけだ」
「訳が分かりませんよ!それになんですかこの報酬の美少女二人って!」
「う~ん・・・アルトなら勝手に増えるかな?っと思って」
「増えませんよ!まだ誰とも付き合った事ないんですから!」
師匠に拾われるまでは生きる事に必死だったし、拾われてからは皆に追いつくことに必死で、この二年間は此処に辿り着く為に必死だったのだ。
そういう暇なんかある訳もなかった。
「ま、いつものおふざけさ!依頼書は本物だけど・・・まぁこれで何も心配せずに学園生活を送れるだろ?」
「それは・・そうですが・・・って依頼書が本物だったら、ちゃんと報酬払わないといけないんですよ!?」
「それは大丈夫だろ・・・お前に貰いたがっているやつなnぶしっ!」
「あら~おじ様どうかしたのですか?」
「ちょっとお父様は疲れたみたいですね」
「・・・少し寝かしてくる」
「あ、サヤ姉さま私も手伝います」
「ミヤ、私が反対側持つわ」
・・・・・バタン
急に倒れた師匠をリース達が連れて行ってしまった。
残されたのは、僕とナナシさんとジルとノアの四人だった。
「・・・・・なんだったんだ?」
「世の中には他の人が言ってはいけないことがあるっす」
ナナシさんの言葉に深く頷いている二人の姿が印象的だった。
おまけ
「もう!どうしてお父様はいつもいつも!」
「おじ様のいつもの事なんだから、少しは落ち着きなさいよ」
「落ち着ける訳がないじゃないですか!」
「・・・・あの依頼書の内容は多分」
「あのお二人の事でしょうか?」
「そうでしょうね・・・プラス一人が分からないけど・・・」
「そ・れ・で?説明して貰えるんでしょうか?お父様」
「あ、気がついていたのね?途中から持ち上げるのを諦めて引き摺り始めたから、流石にお父さん泣きそうになったのよ」
「それは自業自得です」
「・・・娘が酷い」
「・・・早く説明する」
「前言撤回・・・・娘達が酷い・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・はぁ~・・って言っても、お前達も分かっていたじゃないか」
「何となくは分かりましたけど・・・なんでアルト君なんですか?」
「そうだな・・・・あいつだけ同じ立場じゃないからかな?」
「それはどういう事なんですか?」
「俺たちやお前達ではダメだった。ケントの奴もダメだった。それならもう、アルトに賭けるしかない。・・・・小さ頃お前達の問題事を解決したアルトにな・・」
「私達の時とは事情が違います」
「確かに・・・だが、案外簡単に解決できるかも知れないぞ?なんたって俺の弟子なんだからな」
「・・・つまり、アルにあのマントを渡さないで・・・弟子も名乗る事を禁じたのは・・・」
「こっちが本命だな。色々な肩書きがない方が動きやすいし、相手も警戒しない」
「じゃぁ、あの人達の事は・・・」
「お前達がどうせ守るだろ?それとも守らないのか?」
「アル兄様は私が守ります!」
「ミヤだけじゃねぇ~私も兄さんを守りますよ」
「・・アル守る・・」
「多分、アル君は私達と同じ学年になると思うから年下さん達には務まらないわよ?」
「当たり前です!お父様が何て言おうと私・・・私達が守ります!」
「・・・・・・・」
「・・・なんでお父様は顔を背けるのですか?」
「・・・ほら?俺は学園は作ったが、運営にはノータッチだろ?」
「理事長先生達が嘆いていましたよ?」
「それは良いんだが」
「・・・良いんだ」
「良いんだよ。元々あいつらがしたがっていたんだから・・・・」
「もう、いいです。それで?」
「ま、俺が考えていた学園に近づいているとは言え、まだ俺らの思想が全員に受け入れられている訳じゃない。具体的に言えば、階級の差別やクラス分けだが・・」
「それはつまり?」
「肩書きも何もない状態のアルトのままで入学手続きしたから、お前達とも離れたクラスに・・・」
「何をしているのですか!お父様は!これじゃ、アルトに何かあった時にすぐに駆けつけられないじゃないですか!?」
「どこまで過保護なんだよお前らは・・・見ただろ?あいつの実力・・・あれだけ出来るようになったんだ、少しは信じてやれよ?」
「それは・・・そうですが・・・そうだ!あの人達がアルトに気づいたら・・」
「お前達とクラスを分けた方が、そのリスクも減るだろうが・・・・まぁ、さっきも言ったが俺の弟子であることや家族の事がバレなければ会ってもいい訳だから、そこまで心配ならお前達の方から会いに行けば良いだろ?」
「そこが分からないですよ。私達がアルト君の傍にいれば目立ちますよ?そういうのを防ぎたいのであれば制限すべきでは?」
「制限して良いならするが、我慢出来るのか?」
「無理です!」
「・・・声を揃えて言うなら最初から言うなよ・・・それに」
「それに?」
「美少女に囲まれて学校生活を送るのは男の浪漫ってね!嫉妬の数が己の幸せのパラメーター!」
「・・・・・最低・・・」
「コラ、サヤ。小さな声でそんな事言うなよ・・・おじさん泣くぞ?・・・まぁ後は・・・そこまですると気付くだろ、さすがのアルトも」
「何にですか?」
「流石にそれは俺からは言えないな・・・・だから忠告を一つ言うぞ?」
「忠告ですか?」
「そうだ。今回の件は俺の言葉足らずで起きたが、お前らと学園に通うようになればあいつは必ず壁にぶち当たる。その時に、お前らがどう動くかがとても大事になる・・・成功すれば今まで以上に・・・失敗すれば・・・下手をすればまたあいつは俺らの前からいなくなるぞ?」
「どうしてですか!?」
「答えを言うと、あいつは劣等感の塊だからな・・・後は自分で考えろ?」
「・・・・成功したら今まで以上に・・・なに?」
「そこを今聞くか~・・・・ま、今サヤが妄想していることもあるかもな~」
「~~~~!」
「じゃぁ俺は・・・」
「何処に行くのですかあなた?」
「・・・いつの間に・・・勿論・・・あの少年達を起こしに・・・だよ?」
「そうですか・・・では一緒に行きましょう。皆さん待っていますから」
「・・・おう・・・皆さん?」
「小さい子供に悪戯して何もない訳ないじゃないですか?」
「・・・自分の嫁さんぐらい抑えろよ・・・」
「何か?」
「いえ・・何もありません」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・母は強し」
「同感です」




