(143)三つ巴の戦い
クライマックスー!!
王都冒険者協会本部では、機岩鉄討伐の日に観測所まで出向いていた冒険者達が帰ってくると、俄に王都冒険者の顔は誰かという論争が湧き起こっていた。
「ああ? そんなのはアブレオスの旦那に決まってるじゃねぇか。見りゃ分かるだろ?」
「いや、お前も見ただろうがよ。鉄巨人をぶっ飛ばした光線がディジーリアの一撃だぞ? 蹂躙って言葉が似合うあんなの見せられちゃあ……」
「その光線、『魔弾』らしいぜ?」
「ぅえ!? あれがか!? ……いや、だけどよ、俺はやっぱ旦那推しだな」
初めの内は、ディジーリア推しの言葉も大きかった。
それは当然機岩鉄討伐の直後で、横入りしたディジーリアの『魔弾』を見ていたのだから、そんな声が大きいのも当然かも知れない。
しかし、この時点で実は反応が大きく分かれている。
素直にディジーリアを凄いと称讃しているのは、既にディジーリアの正体に辿り着いた冒険者達だ。
主に斥候を任されている者など、情報の重要性を認識している者が多い。
因みに、上級に近くなる程その辺りは鋭くなる筈だが、此処王都に限ってはクアドリンジゥルの門が在る為に、上級でも情報を蔑ろにする物も多い。
但し、そんな上級のパーティなら斥候の指示に従う意味を知っている為に、内の斥候が言うのなら、といった論理でディジーリアは凄いのだろうと理解している者も多かった。
故に、ディジーリアを持ち上げる声に今一乗り切れない冒険者とは、中級で燻っているそんな冒険者達が多かったのである。
「――ったく、何が王都を代表するだか。見た目でしか選んでねぇじゃねぇか」
「だからこそまだ中級に留まってるのだろうさ」
上級に足を掛けている冒険者パーティの一つ“梟の石工”からも、傍観しながら呆れた様な言葉が零れてくるのは、そんな冒険者達の現状を示していた。
「それにしても、マッサージ屋のオババがディジーリアだった事は、不思議な程に話題に上がらんな?」
「まぁな。観測所まで見に行ったジャッサライは思う所も有るのだろうが、丘から見ていた俺達にはあの凄まじい光線しか頭に残らんぞ?
あれが『魔弾』だって? 馬鹿げた話だぜ」
実際、騒いでいる冒険者達の殆どは、観測所へ行けなかった中級以下だ。
ディジーリアがマッサージ屋のオババに扮装していたなんて話は、そもそも伝わっていないのかも知れなかった。
そんな盛り上がりも、クアドリンジゥルの門帰りの冒険者が加わって、更に勢いが増していく。
「おい、時々此処で見掛ける赤毛のチビ、あいつ一体何者だ?」
神妙な顔でそんな問い掛けをするのは、祭りに燃料を投下する様な物だ。
そもそも機岩鉄の時期に、機岩鉄などもう見飽きたと“門”へ行っている時点で、情報を軽視している冒険者だ。他の冒険者は機岩鉄もそうだが、特級の冒険者の技を見に行っているのである。
そんな普段からすかしている冒険者が、情報弱者に成り下がってやって来たというのが一つ。
そして噂のディジーリアが、がちむきの筋肉御用達の“門”でも大暴れしていたというのが一つ。
そしてその“門”での活躍が、マディラ・ナイトを魔術でお手玉しての撲殺だったというのが一つ。
しかもディジーリア自身は薬草採取に掛かり切りで、周囲を飛び交うマディラ・ナイトの残骸も、次々と残骸に加わりに来る新たなマディラ・ナイトも気に留める様子も無かったというのが一つ。
「ぎはははは! 何時も俺には関係ねぇって顔してる気取り屋が、どんな心変わりだ? 気にす・ん・な! お前には関係無い話だよ!」
ここぞとばかりにマウントを取る者も居れば、
「嘘だろぉ……入り口の辺りとは言っても、“門”は気軽にソロで薬草採取出来る場所じゃねぇぞ……」
と彼我の差に項垂れる者、
「馬鹿な! そんなのは認めねぇぞ! クアドリンジゥルの門は俺達の聖地だ! あんな餓鬼に荒らされて堪るかよ!!」
と、どうやっても認めようとしない者。
煽られた者は売られた喧嘩と声が大きくも成り、十日が過ぎても収まらない。
そんな状況が続くと、良識が有れば事態の収拾に動く冒険者も出るものである。
この時動いたのは“梟の石工”のサイバ。協会の職人からも、信用出来ると認められた冒険者パーティの一人である。
「アブレオスの旦那、ちょっといいか?」
何故だかすっかりと旦那呼びが染み付いてしまっているアブレオスは、この時もやはり待機所の酒場で一人酒を呷っていた。
「ああん?」
機嫌が悪いのは返事からも明らかだが、見掛けに依らずそこを押し通しても余程巫山戯た態度を取らない限りは穏便に済まされる事が、既に知れ渡っている。
「いや、旦那の手を煩わせるのもどうかとは思ったんだがな、ちょっと彼奴ら十日以上も妙な妄想で盛り上がって失礼だ。流石にこれ以上続けさせるのもどうかって所だが、馬鹿な妄想に訂正を入れられるのも旦那しか居ない。悪いとは思うが、彼奴らの目を覚まさせてやってはくれないか?」
話題に出ているのは、アブレオスもそうだが多くはディジーリアだ。しかしディジーリアは中々教会に姿を見せないと有って、サイバもアブレオス以外に選択肢が無かったのだが、それで声を掛けられたアブレオスは深々と溜め息を吐いたのである。
「はぁ~~……十日を過ぎても俺に直接訊いてきたのは、外様のお前らだけかよ。まぁその理由も分かっちゃいるが、ここに当事者が居るんだがなぁ」
「面目無くて済まんな。だが、理由が分かっているとは?」
「あー、あれだ。ランクが三つ違えば大人と赤児の差が有るって言われてるらしいが、赤児が同じ様にあしらうなら産まれ立ての仔鼠かそこらで、まぁ中には気持ち悪く纏わり付いて好き勝手ぎゃあぎゃあ喚く仔鼠も居るが、そこの仔鼠共は多少は分を弁えた仔鼠なんじゃねぇか? 知らんけどよ。
でだ、俺としてはそんな仔鼠共に好き勝手に喚かれている訳だが、どうにも虚しいと言うか程度が低くて、相手をする気にもならねぇんだわ」
そう言われてみれば、アブレオスは機嫌が悪いと言うよりも、げんなりしている様にも見えた。
そして、椅子を引っ張ってきてアブレオスへと向かい座っていたサイバの、思いも寄らぬ場所から思いも寄らぬ声が後に続く。
「言い得て妙ですねぇ。いえ、私ももっと主張しないと、冒険者として尊重して貰えないのではと思いまして今日は来てみたのですけれど、何だか何を言っても届かない様な気がしたのですよ」
「差し詰め“門”で魔物をあしらったのも、箒で仔鼠を追い散らした程度だよな?」
「ですねぇ。昔はそうでも無かった筈ですけれど、今となってはそんな感じです。しかもお掃除が本題では有りませんでしたから、適当に掃いて回ってただけの事を元にして、何方が上だとか言われても……」
「虚しいんだよなぁ~」「虚しいですよねぇ」
妙に意気投合している二人だったが、それを見るサイバに取っては心中穏やかでは無い。
「あ、あんた! 来ていたのか!?」
全く気が付かないながらもカウンターに座っていたディジーリアに、思わず叫び声を上げていた。
喧噪の直中な待機所に在っても、そんな異質な叫びは耳に付くのだろう。ふと視線を向けた冒険者から声は止まり、次第に待機所の中を静寂が支配していく。
そんな事は知らぬ気に、アブレオスとディジーリアの会話は続けられていく。
「さっきからずーっと居たぞ?」
「まぁ、私は自分でも『隠蔽』が切れませんから特殊ですけどね。見せようとしていないと、見付けても貰えません。街を歩いていても、ぶつかりに来られてしまうのですよ」
「それはそれで難儀だな。魔物の相手は楽そうだが」
「ええ、鬼族みたいな鈍い魔物は、ぬぼーっと立っているだけですねぇ。蟲系の魔物は眼が沢山有るからか見付かってしまいますし、マディラ・ナイトにも何故か見付かりますが」
暢気にそんな事を言いながら、手元のグラスの中身を一口呷るディジーリア。
アブレオスも同じくグラスの酒を傾けている。
「ならどっちにしろ相手にならねぇんじゃねぇか。
そもそも機岩鉄を吹っ飛ばしたあの光弾にしても、今にして思えばお遊びの一撃だよな? 俺がねたとして見せたアーシン道よりは真面だが、仕留めに行く技じゃねぇ」
「いえ、遠距離から牽制に放つ一撃としては、そこそこしっかり撃ちましたよ? でも確かに斃すつもりなら、近付いて斬ったと思いますけどね」
「……予想外に実は剣士か?」
「得物は刀ですけどね。鍛冶師でも有るので自分の得物は自分で打ちますし、棒振り剣術でしたけれど最近は学院で真面な指導も受けてますよ?
魔刃だとかは普通に使いますし、格下相手なら魔術だって使いますけど、どちらかと言えば魔術は移動に使ってますかね。
王都で上演されていた舞台は出鱈目な所も有りましたけれど、ちゃんと魔術なんて使わないで剣だけだったと思いますよ?」
そう言ってまたディジーリアはグラスを呷る。
何を飲んでいるんだとアブレオスが覗き込む。
ディジーリアが飲んでいたグラスをアブレオスへと押し遣った所で、サイバと一緒に近くに来ていたジャッサライが声を上げた。
「いや、ちょっと待ってくれ! 剣を遣うと言っても、その小さい手でどうやって剣を振るんだ!?」
その問いに答えたのは、ディジーリアでは無く呆れた顔を隠さないアブレオスだった。
「そんな物は魔力強化に決まってるだろうが。俺は“気”と魔力を鍛えろって前にも言ったぜ? 確かにこんな細腕で“気”の『身体強化』は高が知れているから、『魔力強化』の他に何が有るんだ? ――何だこりゃ? 酒じゃねぇな。おい、マスター、新しいグラスをくれ」
「まぁそうですね。でも最近は“気”での強化もそれなりに出来る様になってきたのですよ? 遠隔で石を砕くことくらいは出来――って、何ですかね? お酒なんて飲みませんよ?」
「まぁいいから試してみろって。酒場は酒を飲む場所だぜ」
「も~……――ん~、そんなにいい物では有りませんねぇ」
「とか言いながら何を入れた?」
「クリウの粉ですよ? ――おお! ちょっと飲み易くなりました」
「…………」
「む、いいですけど、一摘みですよ? 余り入れても美味しくは成りません」
「おう、一摘みだな? ――これは……くっくっくっ、ふははははは!」
そして何故か気安い仲の友人同士かの様に、互いに酒を酌み交わし始めた。
見守る冒険者達は、何が起きているのか理解出来ずに呆然と眺めている。
因みに、ラゼリア王国では飲酒に関する規制は無い。酒を飲まずにいると体調を崩す一族なども居る為だ。
それで無くても、水で薄めたワインなどは、普通に食卓にも出されている。
更に言うなら長命種の多くが酒好きの為に、下手に規制を入れて彼らの不興を買うのは得策では無いというのも有るのだろう。
尤も、長命種の血が入っていて特級とも成れば、殆ど酒に酔う事も無い。
今のディジーリアにとって殆どの酒は、ジュースと何も変わらない代物だった。
「おい……あの酒を飲んで平然としてやがるぞ」
「……餓鬼が、調子に乗りやがって!」
悪態を吐く冒険者達を白けた様子で見遣りつつ、頭のおかしくなる酒を平然と飲み干すディジーリア。
クリウの粉が余っているなら貰えるかと問うアブレオスに、小瓶一つを渡すと、また出直すと言って冒険者協会から引き上げたのだった。
打って変わって機嫌を良くしたアブレオスが緑色の粉を振りつつ酒を愉しんでいると、革めてサイバが問い掛けた。
「つまり、ディジーリアは『魔力強化』で腕力を上げて戦う剣士という事なのか?」
「あ? 知らねーよ。何冒険者の手の内暴こうとしてんだ?
ま、本人がそう言ってんだからそうなんだろうさ。俺よりもその舞台だとかを知ってるお前らの方が詳しいだろうが」
「……確かにオババに扮してのマッサージには、誰も抵抗すら出来ていなかったな」
そんな言葉がサイバの口から漏れると、マッサージ屋のオババの正体がディジーリアだったという事実と共に、再び待機場所の中は騒然とし始めるのだった。
「お、俺は認めねぇぞ! あんな奴を認めるもんかよ!」
「ああ! 冒険者の代表ってもんには格式って奴が必要なんだよ!」
「そうだ! あんななよなよした餓鬼が俺達の顔になれる訳が無い!」
「すかした喋り方をしやがって!」
「考えてみれば旦那も彼奴も生粋の王都冒険者じゃねぇ!」
余りの言い種にアブレオスにしても失笑していたが、サイバ達“梟の石工”は肩身が狭そうに縮こまっていた。
「済まん。仕様もない冒険者ばかりで、本当に済まない」
「気にするな。仔鼠が騒いでいるだけだぜ? しかし何だってああも嫌うのかねぇ? 誰が頭だとか言う前に、自分が成り上がろうって奴は居ないのかね」
“梟の石工”達はその言葉に答えられない。何故なら彼らは言われる迄も無く、兀々実力を磨いている冒険者だから。
それをせずに批評ばかりしている冒険者が何を考えているかなんていうのは、彼らに取っても埒外だった。
尤も、こういう場合往々にして騒いでいるのは、声の大きい一部の者だけだったりする。
或いは自分ではどうでもいいと思っていても、回りに合わせて騒いでいる者も多いだろう。
王都冒険者全体の傾向と見るのは、暴論に違い無い。
それから数日が過ぎた後、何故か危機感を抱いている冒険者達の頼みの綱であり、長らくクアドリンジゥルの門へと出向いていた破門衆達が、胸元も顕わに示しながら威風堂々と帰って来た。
冒険者達を熱狂させる獣車列を後ろに従えて。
その荷台から食み出る巨大な鎧の手や足を見ては、パレードの様に歓声が上がる。
正しく凱旋その物だった。
態々西門から大通りに出て、大回りをして協会本部をぐるっと回ってから、裏手の倉庫へと戦利品が持ち込まれる。
「マディオラ・カリブスですか。これを貴方達が?」
鑑定するまでも無いが、副長のサンダライト自身が出向いて確かめる。
「おう! 頭のヘルムだけは持って行く。皆にも話をしてやらないとな!」
威勢良く答えたガイスロンド達が、それ一つで彼らの背の高さと殆ど同じ巨大なヘルムを担ぎ上げ、ぎりぎりそれが通る扉を潜り抜けて冒険者協会の待機場所へと向かう。
暫くして、待機場所から大歓声が上がった。
しかし、それを見送るサンダライトは、訝し気に眉を寄せて呟いた。
「“否”。……はて、どういう事でしょうかな?」
――と。
「――そうだな、俺のボインとの縁が切れ、雄っぱいとの絆が結ばれてしまったのは知られている通りだが、唯一縁が切れていなかったボインに会いに行ったら、俺が愛していたのはそいつの尻穴だったと分かってしまった。最後に信じたボインも、ボインでは無く雄っぱいだったんだ。
情け無い事に失意の俺は、逃げて破門衆の仲間とも連絡を取らずに引き籠もってしまった。その時、夢枕に雄っぱいの神が現れたのだ。俺の為すべき事を為せとな。
その時雄っぱいの神から下されたのが、この赤い乳首石だ。これが無ければ俺も夢と思っていたかも知れないがな」
ハードボイルドに格好を付けているが、ガイスロンドの言っている事は大概にしておかしい。
感心した様に聞いている様子の聴衆も、破門衆の胸元からは微妙に目が逸らされている。
ピンクや黄色のハートや星で入れ墨された胸元は、直視するには厳しい。
しかし目を逸らしているのは、本当に彼らの胸元からだけなのだろうか?
「俺も色々と考えたのさ。信じていたボインに裏切られる恐ろしさを考えるなら、まだ雄っぱいの方が信じられるってな。何より俺は雄っぱいに憎しみを抱いていた訳じゃねぇ。そう考えられる様になって、漸く目が覚めた。
そうなると不義理をしていた破門衆の様子が気になってな、聞けばギラード達はゴロヌ荒野へ向かったと聞いて、今更何をと言われそうだがその後を追ったのさ。
ゴロヌ荒野では、誰かが見ているだけでも少しは力に成る筈だ。何も起こらなければ、全てをギラードに託して、俺は姿を消すつもりだった。
実際見付けた破門衆は俺が居なくても上手く回っていたからな。だが、丁度引き上げようとした時に、一瞬俺を含めた全員が警戒を緩めてしまった。
油断だ。全方位に向けていた視界が、その瞬間外れてしまったんだ。すると現れたのさ。あの四つ腕の巨大な魔物が」
話に乗りたいながらも、微妙に乗れないその語り口とその姿。
直ぐ近くに来ていた受付嬢のチェルミンクが押し殺した笑い声を上げているから尚更だ。
「直ぐに視線を戻したつもりだったが、その時には既に巨人の魔物は大岩を振り被っていた。俺はギラードに魔物が出現した事を叫びながら、彼らに向かって突進したが、間に合わないと見て全力で剣を投げた。それで何とか大岩を砕く事は出来たが、その破片ですらリアンに大怪我をさせる事になった。
直ぐに二投目が放たれた。俺は剣だけを手に軽装で向かっていたから打つ手が無い。ギラード達も重傷のリアンのフォローで咄嗟には動けない。
――絶体絶命の危機だな。だが俺には確信が有った。あの程度の大岩など、雄っぱいの力の前では如何程でも無いと」
そして時折差し込まれるおっぱい話。
前列に雁首を並べて後が無い冒険者達は、難しい顔付きで「ふぅ~む!」と唸っている。
彼らもそれなりに必死に表情を取り繕っていたのだろう。彼らから見ると、真面目な顔でおっぱい話をぶちまけるガイスロンドの後ろの方に、お腹を押さえて痙攣するチェルミンクが見えてしまうのだから。
いや、譬え色物に成り下がってしまったと雖も、実力は本物。そう己を納得させ、この恥ずかしいガイスロンドで王都の冒険者を今一度守り立てていく、その心意気を示していたのかも知れない。
「俺は雄っぱいの神に力を願いながら駆け抜け、飛んで来る大岩へと跳躍した! そして奇跡は起きた。
この俺の胸元から二つの丸い光の波動が広がり、飛来した大岩をボイィィンと優しく受け止めたのだ!
俺はこの時漸くにして思い至った。これこそが俺の使命! おっぱいの戦士として生きる事こそが、俺の為すべき事なのだとな!!」
しみじみと自分の言葉に浸っているガイスロンドの両脇には、ポーズを決めながらガイスロンドの言葉に深く頷いている破門衆の男達。
はだけた胸元に、ピンクや紫と様々な色をしたハート入れ墨が入っている。
「それが分かってしまえば、何方にしてももう破門衆として一緒にやっていく事は出来無いだろうと……そう思っていたんだがな。ギラード達に教えられたよ。
俺がおっぱいの戦士に生まれ変わってしまった事を告げても、戸惑った様子で前と何が変わったんだって言われてしまったのさ。
目が開かれた気分だったぜ。そう、俺はずっと昔から、おっぱいの戦士だったのだとな!
それを自覚した瞬間に、俺の中でまた雄っぱいの力が弾けた。俺の乳首から二条の熱線が走り、巨大な魔物の首を刎ね飛ばしたのはその次の瞬間だ。
ふ、この凡ゆる攻撃を受け止めるオッパイバリアーと、迸るチクビームを手に、再び俺達は破門衆として“門”の攻略に打って出たのだ」
見守る冒険者達の顔面は、既に奇妙に歪んでいて真面目に熱心な聴衆を続けようとしても既に綻びが見えている。
「……圧倒的だったぜ。門の入り口は言うに及ばず、どれだけ奥へ進んでも丸で手応えを感じねぇ。それでも安全を第一に何度も行き来しながら攻略を進めて行ったが、恐らく最奥に待ち構えていたのがこの鉄鎧の巨人だ。
最後は本当に激しい戦いだった。何と言っても雄っぱいの力を真面に扱えるのが俺一人だったからな。
しかし、マディラ・ナイトの上位種が無数に入り乱れる乱戦の中で、最後には全員漢を見せてくれたぜ。全員が散り散りにばらけてしまった中で、偶然にも鎧巨人を取り囲む配置になった。
その瞬間にやってくれたのさ。四方から押し込む様にオッパイバリアで動きを止めた所を、全方位からのチクビームによる止めだ。差し詰めオッパイヘルズアタックとでも言ったところかな。
その結果は分かるだろう? お前達が今見ている通りだぜ」
確かに見れば一目瞭然だ。
破門衆の戦果も。
破門衆の変態具合も。
「ああ! やってくれたぜ! 流石破門衆だ!!」
「そいつは凄ぇ技だな!!」
「おお! 『技能識別』して貰えよ! とんでもねえ技能が付いてるかも知れんぜ!!」
「しかし“門”を攻略したなら、破門衆も解散だな!!」
破れかぶれの称讃だったが、最後の人間は少しばかり本音が出ていた。
「ははは! 破門衆もこれからは門を破りし衆としてやっていくさ。
そうだな、『技能識別』は必要だ。おい、誰か――おお! 副長様直々に『技能識別』してくれると言うのか!」
マディオラ・カリブスの『鑑定』など一瞬で終わらせて戻って来ていた副長のサンダライトは、訝しげな表情のままに破門衆達へと足を向けていた。
疑念が有るのに人任せに出来る性格では無かった。
一度破門衆全員を見渡してから、自ら確かめた結果を無慈悲に告げる。
「……何方にもそれらしき技能は付いてませんが、代わりに前には無かった筈の『道化』とやらが有りますな」
呆ける破門衆達。
騒めく聴衆からは、『変態』じゃ無いのかとか、『オッパイ狂い』なら有りそうだったがとか、そんな言葉が零れている。
「ば……馬鹿な!! それは間違いだ! そんな筈は無い!!」
「加えますと、貴方達でマディオラ・カリブスを斃したというのにも疑問が有りますな。恐らく『判別』の魔導具ならば淡く光る程度でしょう。
さて、何か心当たりは有りますかな?」
「ば……いや、そうか! そこは雄っぱいの神が助力してくれに違い無い!」
「雄っぱいの神は“否”、助力は淡い“是”。……ふむ、寧ろ貴方達が雄っぱいの神と思っている何者かが、助力では無く全て対応したと考えた方が納得出来ますな。――“是”」
「な!? ま、まさか!?」
サンダライトの言葉をそこまで聞いて、ガイスロンドは震える手で首に掛けていた乳首石のネックレスを持ち上げた。
「お……雄っぱいの神よ! 雄っぱいの神よ!! 俺の問いに答えてくれ!!」
その場の全員が見守る前で、妖しく光る深紅の乳首石が、赤い蒸気を放ちながら宙に溶ける。
謎の蒸気は更に光となって待機場所を満たし、紫に、そして青へと色を変えた。
青い謎の光で満たされた待機所の中、天井を貫いたその向こうに、怪しい巨漢の影が見える。
「あ、何か落ちが見えたかも」
チェルミンクの呟きが静寂が支配する待機場所に響いたが、呆然と巨漢の影を見上げる冒険者達はそれどころでは無かった。
『我は雄っぱいの断罪者……赦しを請い願う者は悔い改めるが良い……』
響き渡った雄っぱいの神もとい雄っぱいの断罪者の声に、ガイスロンドは驚愕の表情を浮かべる。
妙なコーラスで隠されていた、巨漢の真実が明らかになる時が来たのだ。
『これは苦情であり復讐でありお仕置きを告げる声である。
我にどれだけの迷惑を掛けたのか、我の言葉で思い知るが良い』
頭の中に響くかの様なその言葉には、確かな威厳と神性を帯びて、それでいて憤激を感じさせる激しさを秘めていた。
『初めは慈悲であった。おっぱいに見放されたと嘆く若者が落ちぶれようとしていると聞き、為すべき事が有るだろうと檄を飛ばしただけであった。
その時様子を窺える様に我の魔力を固めた石を渡しておいたが、まさか裸一貫でオッパイバリアと叫びながら巨岩に突撃する現場を見る事になるとは思わなんだ。
まさか見捨てる訳にも行かぬ。これも言うなれば慈悲である。
その直後にチクビームなどと巫山戯た叫びを上げたのに対応してしまったのは、我の失敗であろう。未だ危地の直中に在る此奴らの安全を取ってしまったが、その後厚かましくも頻繁にそれを要求されると気付かなんだのは、我に思慮が足りてなかったと言われても仕方が無い。
しかしその後の要請に応えずにいたならば、祈りが足りないだとか、神は苦難を求めているのだとか、全てを雄っぱいに捧げなければなどと言い出して、本来急所である胸元に一歳の防具を着けず開けたままに、一撃を食らえば死も免れ得ない難関にばかり挑むのはどうした事であろうか。
己の命を人質にした厚顔無恥なゆすりたかりに抱く思いは怒りである。
そして最早鍛錬をも忘れ、普段からも胸を曝け出し、剰え入れ墨まで施す様になって、到頭我も理解した。
此奴らを早く何とかするには、早々に此奴らを満足させて、全てを白日に曝け出す機会を待つのが一番早いとな!
そして今こそその時は来たれり!
見よ! おっぱいに狂いし者の末路を! 己が性癖を神の所為にして世に謳歌してしまった者の有様を!』
神ならぬ断罪者の声ならぬ声が響く。
しかしその断罪者の影はしっかりとポーズを取っていて、チェルミンクは到頭床に転がって痙攣する羽目になっていた。
破門衆達は固まって動けない。
顔を掌で覆ったサンダライトが問う。
「成る程、事情は分かりましたが、貴方の失敗も有ったと言うなら、人前での公表は遣り過ぎでは?」
話を聞けば聞く程に、この謎の存在を責める事も出来無いと考えたサンダライトだったが、それでも王都の冒険者全体に影響が有りそうな晒し上げをするよりも、もっと穏便な方法は無かったのかとの問いだった。
しかし、断罪者はそんな言葉に含み笑いで応えた。
『ふふははははは! 我は始めにこれが苦情であり復讐でありお仕置きであると言わなかったかな?
苦情としては告げた通り。しかし我には元よりお仕置きをする正当な理由が有るのだ』
その言葉の直後から、巨漢の影がぐにゃぐにゃと歪み、響く声も次第に高く変化をし始める。
『ふふふふふふ、はははははは、ふはははははは』
笑い声と共に影は小さな少女の姿へ、声も可愛らしい高い声へ。
『あれは夏の三月の終わり頃です。そこの二人! 私に一両銀を渡してそれでおっぱいを一つ頼むとか、そんな馬鹿な流れで私をおっぱい冒険者扱いしましたね!! ここまで引っ張るつもりもこんな事になるとも思ってませんでしたけれど、これは復讐です! お仕置きなのですよ!
おっぱいに見放され、否定していた雄っぱいを受け入れた後に、その全てが夢幻と知らされた気分は如何でしょうかね?
これにてお仕置きは完了です!
もうオッパイバリアだとか何だとか無茶振りしてきても一切応えませんからね! 大体女の子に当然の如くして何を要求しているのですか! ええ、もう知りません! 知りませんよ!! もう絶対に無茶振りには応えないのですよ!!』
そして青い光の満ちた空間も、そこに映し出されていた影も、全てが消え去った。
状況が飲み込めてくると、破門衆達の顔が少しずつ引き攣り始めた。
そしてその引き攣った表情で、自身の胸元へと視線を下ろす。
そして全てを理解する。
少女の様に両腕で胸を隠し、或いはマントやカーテンといった手近な布で体を隠して、「見るな!」「見ないでくれ!!」と羞恥に叫びを上げる。
最前列に陣取っていた冒険者達は、頼みの綱の破門衆が、既に一番認めたくない冒険者にこの上無く敗北を喫していたのを知って、やはり頭を掻き毟って叫んでいる。
「不憫な……」
「何方が?」
「……さて、何方でしょうかな」
思わず零れた言葉がチェルミンクに突っ込まれ、サンダライトは苦笑いで言葉を濁すのだった。
現在の戦績。
まずはディジーリアが破門衆を下して一歩リード。
くらいまっくす??
これをクライマックスに持って来るのはどうなの? と自分でも思いながらも、クライマは兎も角クスッくらいはして貰えますかね?
そんな今作も次が最終回。
え!? 本当に?? と自分でも思っていますが。
と言っても、一度締めるならここってだけで、追加シナリオが十本くらい頭の中には有りますので、これからも数年は終わる事無く続くんじゃ無いかなぁ? 山程伏線張ったままですしね。
GW終わるから次は時間が空きそうですが、また次回もお楽しみに~♪
ではでは~♪




