(114)セルフ ブラック ディジーリア
今回、ちょっとごちゃごちゃとしていますけれど、仕様です。
最後の展開へと繋げたかったのですよ。
その日は朝からオルドさんとのお喋りから始まりました。
『お前の母親、あれなぁ、もうちょっと何とかならんか?』
行き成り母様への愚痴です。
『今、花畑へ行く奴は随分数を減らしているんだが、それでも只のお嬢さんが遊びに行く様な場所では無い。鼻唄交りにエプロン姿で水遣りなんてされては、成り立ての冒険者には目に毒だ。せめて防具を着けさせろ』
『母様の防具は十年放置されて駄目になってたみたいですよ? ちゃんと私が目を凝らしていますから大丈夫です』
『周りの見た目を考えろと言っているのだ。無い物は仕方が無いが、行っても花畑までだ。湖へ行く前にはちゃんと用意しておけよ?』
『そこは大丈夫ですよ。既に手を付けていますから、充分な黄蜂蜜が集まる頃には武具も防具も出来上がっている予定です』
『ん? お前が作るのか? ……なら構わん。
ところで必要な黄蜂蜜が集まったなら、こちらにも卸してはくれるのか?』
『……さぁ? それは母様次第ですね』
と、まぁそんなのんびりとした近況報告が終わった途端、今度はファルさんからの連絡です。
『それで、予定通り今日から何人か森へ連れて行って貰うんだけど、ディジーの方は問題無いよね?』
第三研究所では、既に職員含めて半数以上のメンバーが『魔力制御』に目覚めています。更にその半分近くが『魔力操作』も出来る様になっているのですから、『儀式魔法』の教本曰くのその二つの技能が高等技能との言い分は、実例で以て否定されました。
おまけにその内の何名かが、生身の腕と同じくらいの力を魔力の腕で発揮出来る様になっています。
これは、言ってみれば『魔力強化』の発露に外なりません。自分の腕に合わせて魔力の腕でも負担すれば、それだけで二倍の力が出るという事です。
走り兎を駆る女性冒険者のニフラさんと、ちょっと言動のおかしなキーランは、何とか水を入れた鍋を浮かせるぐらいは出来る感じです。リューイは「流れ」には強くても持ち上げる力はちょっと弱くて、クルリは満遍無く優秀だけれど力でちょっとキーランには及びません。面白い所では、じっと人間観察している様なジンクが、力は弱いながらも複数操るのに長けてます。職員の中では警備のリジルさんとメイドのリーシアさんが優秀ですけど、所員を優先してと言われています。
本当はこのまま同じ魔力の鍛錬を続けた方が、『根源魔術』に目覚めるのも早いとは思うのですけれど、それをすれば私の二の舞です。体も鍛えないと後々苦労すると分かっていて、その手を勧める事は出来ません。
となると、他に私が教えられるのは鍛冶師としてか冒険者としてですが、強くなるにはやっぱり冒険者として魔物や魔獣を相手にするのが早いのです。
『魔力強化』を知った上で、“気”の扱いも出来る様になって『身体強化』が出来る様になれば、実際の肉体と、『魔力強化』と『身体強化』で三倍の成長速度です。ひょっとしたら、私よりも優秀に育ってしまうかも知れませんよ?
今回の強化対象は、キーランとリューイとクルリです。ニフラさんには護衛をしながら特訓して貰いましょう。とは言っても、初めのレッスンはもう決まっていますけれどね。私と違って冒険者組から指導を受けてきた三人ですから、行き成りの森犬退治でも大丈夫に違い有りません。
では、頑張って全力疾走して貰いましょう♪
と、そんな研究所組の監督と、それに加えて母様の花畑巡りを見守りつつ、朝の講義も済ませた後には、今度は王様からの連絡です。
王様も、全然輝石が溜まらぬと、昼と夜とに魔力の輝石化を進めています。本当は、それよりも先に、王様の剣を素材に使っていいのかの判断を下して欲しいのですけどね?
まぁ、私としては母様の装備も作らないといけなくなりましたから、収穫祭の後でと言われた方が都合がいいのには変わりませんが。
収穫祭の目玉商品も作らないといけませんから、中々忙しいところなのですよ。
『――ところで、王城にまた遊びに来る気は無いか? 今度は黒狼隊の採点を頼みたい』
『それ、断られる事を考えていない依頼では無いですかね?』
『別に断ってくれても構わんぞ? だが、黒狼隊は白嶺隊の惨敗振りを聞いて張り切って鍛錬していたからな。お主が来ないとなると残念がるだろう』
『断らせる気が有りませんよ!? ――まぁ、私も手加減の練習だとかをする必要が有りまして、それでいいなら明日の午後に遊びに行きますよ?』
『む、午前には出来ぬか?』
『頑張って、昼の鐘直ぐに、門を通らず直接演習場ですかね』
『うむ……それならば良いか。その後は昼食を共にするので良いな』
『いえ、『武術』の講義から直接向かうので、ちょっとそれはご遠慮致します』
『何、遠慮は無用だ。風呂ならば用意させよう。お主をみすみす逃したとなれば、我が妻に顔が立たぬわ』
『蒸し風呂なんて嫌ですよ』
『何? では、湯殿に湯を入れさせよう。王城の湯殿は気持ちが良いぞ?』
『ぅぐ!? ……仕方が有りませんねぇ。そこまで言われてはお呼ばれする外有りません』
『ははは、では妻にもそう伝えておこう』
で、そんな王様からは、面倒なのか有り難いのか、良く分からない依頼を頂きました。
多分、王様からそんな依頼を貰えるというのは有り難い事なのでしょうけれど、私にとっては面倒事です。でも、昨日ちょっと思う所が有って、手加減の必要性を感じていた私にとっては、丁度良い実験相手を提供して貰えるという事で、そういう意味ではやっぱり有り難い事だったりします。
まぁ、それも黒狼隊がどういう人達かにも依りますし、何より王城のお風呂に興味を抱かない筈が有りません。
王様は中々の策士なのですよ。
そしてまた場所は変わってオリハル領で毛皮敷の製造をお願いしている職人達へのお肉の支給も済ませてしまい、そんな感じでお昼の時間が終わりました。湖の周りではくたくたになった第三研究所の仲間達が午後の鍛錬に向かおうとしている所です。う~ん、ちょっとこれでは効率が悪いかも知れません。体力が無くなってしまっては、“気”を振り絞ろうとしても無理でしょう。
ここは特製ドリンクをと言いたい所ですが、生憎黄蜂蜜は母様待ちで有りません。それに、狂戦士と化してしまう特製ドリンクを、魔の領域の中で使うのは怖いです。
なのでここは「通常空間倉庫」の中で美味しいお肉を切り分けて、所長ディジー人形に持たせて差し入れに行く事にしましょうか。
母様の様子を見てみれば、流石の黄蜂蜜採取の名人です。最初は警戒されていた筈なのに、今では体に止まった黄蜂達に手を引かれて、あっちへこっちへと楽しそうにお花畑の水遣りです。これは期待が出来るのですよ。
そして私は午後の講義。『王国総合』は今日から収穫祭迄一齣だけになるみたいです。
「まぁ、催し物の際にはよく『王国総合』の時間が使われる。上手く活用する様に」
クロ先生がそう言って、自分の受け持ちの時間を終わらせました。
今日から一緒の講義に復帰したウプル、ハキアミス、クラファーラの三人が、矢鱈と目を潤ませてクロ先生を見ているのが印象的でした。
収穫祭の検討をするなら、今や私達の部屋が一番です。さっさと引き上げてしまって、多目的室に集まります。
去年迄がどうだったのかは知りませんが、私達にとっては白板も自習室も荷物置き場も揃った私達の部屋以外で、収穫祭の検討をする事はもう考えられません。
「机や椅子も、もう決めないといけないんだよなぁ」
「お店の形も決めないといけませんわ」
そう言いながらも手は止めない人達が、次々と模型を量産していきます。ちゃんと『鑑定』すれば“小竜隊”製と出て来ます。
そんな模型がもう数百組。造りの甘いのや、木組みが少し飛び出しているのは検品している私が最後に手直ししていますから、全て充分売り物に出来る品質です。
出来上がった模型は、そのまま商品としてお出し出来る様に、藁布で包んでその種類毎に別の箱へと仕舞っています。箱の底の一段全て埋まったら、棚板を被せて更に一段、そしてまた次へとどんどん商品が作り上げられていきました。
御蔭で自習室の上階には、模型の入った木箱が山積みです。もう、数は充分なのでは無いでしょうかね?
そんな事を考えていると、ピリカとジオさんとシャックさん、それからもう一人の商人組のラックさんが、見本で置いていた各種テーブルセットを丸机へと持って来て、幾つかの組に分けて見せました。
「こっちが普通のテーブルセット、こっちがもふもふテーブルセット、それが清らかなテーブルセット、そっちが魔王のテーブルセット」
「四日有るんだから、四日ともテーマを変えて、その日の最後に売りに出すって言うのはどうだ?」
「もふもふセットがちょっと少ないから種類を増やして、飾り付けも工夫したいよね」
「最終日だけ売りに出そうとしても気付かれ無い可能性が有る。前の日から売りに出されていれば、その心配も無くなるぞ」
ラックさんは暗かった表情も明るくなって、随分と笑顔を見せる様になりました。
まぁ、質の悪いのの担当になってしまっていたのですよ。シュライビスには困ったものです。
ピリカに糾弾されてちょっとは大人しくなったシュライビスですが、その時に“付け”でラックさんを使い走らせていた事が明らかにされました。にこやかに笑うレイクさんがシュライビスの借金を引き受けて、その結果としてラックさんはシュライビスから解放されたのです。
『おや? 借金は売り買い出来るのですよ? ご存知有りませんでしたか?』
目を白黒させるシュライビスに、にこやかな笑顔で告げるレイクさんですが、恐らく相当に性格が悪いと見ましたよ?
シュライビスの自業自得では有りますけれど、早い内に気が付いて欲しいものですね。
「成る程……全種類一脚ずつ造るというのも有りだな」
「数を揃えたら、次は飾りとメイドさん人形?」
「待って! お菓子の飾り付けもテーマに合わせたいわ!」
「甘いタルトは清らかな日で、焼き菓子はワイルドにもふもふの日?」
「苦みの入った大人の味は魔王の日か」
「店舗自体も売る最終日は普通のテーブルの日で、売るのも各種売れ残りを取り混ぜた感じですかね?」
「どれをいつ売るのか、順番含めて決めちゃおうよ」
収穫祭の話もどんどん具体化してきて、これなら一ヶ月後の開店だって大丈夫そうです。
学院が終わればこっそりデリラに飛んで、母様から黄蜂蜜を受け取ります。
大瓶になみなみと入った黄蜂蜜。流石名人の母様です。
その場でちゃちゃっとマール草の回復薬と特別製の回復薬を作って母様に渡しました。何かが有ったらと思うと、渡していなかった事に冷や汗ものなのです。
「それにしても、水遣りをするだけでこんなに蜂蜜を貰えてしまうものなんですねぇ」
「蜂さんに水遣りは出来無いのよ」
「肥料や栄養薬を施したら、もっと蜂蜜を貰えたりするのでしょうか?」
「試してみる?」
何だかとても楽しそうな母様を見上げて、果たして黄蜂達が肥料の意味を理解出来るのでしょうかと、ちょっと首を傾げたのでした。
そんな母様から魔力を輝石にして回収して、第三研究所の仲間達が撤収するのを見守って、王様の魔力も輝石に変えて、余った時間で足りない模型を作ります。
ふぅ、と一息吐いてから、歯を磨いた後は寝支度を調えてベッドへと。何だか最近徹夜が出来ません。
布団に潜り込むと、直ぐに夢の中へと入っていってしまうのでした。
「何処から入って来た?」
次の日、午前の『武術』が終わったその足で、ぴょんと城壁を飛び越えて騎士団の演習場へと飛び込んだ私は、以前と同じく演習場を見下ろしていた王様にそんな事を問われてしまいました。
「何処からって、上からですよ?」
「……王城には、護りの結界が張られている筈なのだがな」
「それはこう、ささっと擦り抜ける感じで?」
まぁ、確かに何か膜の様に張られた魔力が有りましたけれど、丁寧に掻き分ければ何とも有りませんし、膜の向こうへ魔力を通す事が出来れば「通常空間倉庫」経由で潜り込む事だって出来てしまいます。
そんな物に頼っていては不覚を取ってしまうと思うのですけれど、それはそれとして王様は随分と苦い顔をしているのでした。
「警備体制を見直すか? ――いや、此奴が相手なら何をしても同じか」
「因みに、魔力を通す事さえ出来れば、入り口の無い箱の様な部屋にだって、潜り込む事は出来ますよ?」
「…………気にするだけ無駄だな。良し、始めるぞ。印判は要るか?」
「いえ、前と同じ事をするつもりは有りませんから」
そう私が答えると、ずっと整列して待っていた騎士へと向かって、王様が言いました。
「待たせたな。喜べ、予想していた者も居るだろうが、心待ちにしていた余興の時間だ。我も何をするつもりか聞いてはおらぬが、白嶺隊にしたのとは違う事を考えているらしい。何れにしても得難い体験となる筈だ。騎士とは違う在り方というのを存分に感じるが良い」
余興らしいですけれど、私にとっても実験ですから、人の事は言えません。
「ご紹介に与りましたディジーリアです。と言っても、ねたの割れた芸を披露するつもりは有りません。前回の白嶺隊の皆さんへは行き成り無茶振りをされた成り行きでしたけれど、今回は私にも思惑が有って皆様に協力頂きたいと思っているものです。
やる事は簡単です。私がこれから皆さんを『威圧』しますから、耐えて下さい。“気”での『威圧』では無く、魔力での『威圧』です。闇族を相手にする事を考えると、得難い体験では無いかと思います。
十秒『威圧』して、十秒休みという感じで、強くしながら十段階まで掛けていきます。倒れた人には『威圧』しませんから、最後まで立っていた人が合格ですね。
これはですねぇ、先日私の家のお風呂に友人を招いていたのですけれど、そこに招いてもいないのに乱入してきて暴力を振るおうとした全裸強盗が居ましてですね、お仕置きに『威圧』を掛けて放置していたのですけれど、丸一日経って解放した時にはちょっとおかしくなっていたのですよ。強盗相手ですから自業自得というか極めて優しく対応したと思うのですけれど、手加減を覚える必要が出て来てしまったのです。
まぁ、余興ですので気楽に付き合って貰えればと思います。
では、一段階目行きますよぉ?」
そして十秒が過ぎました。
油断していたらしい二割の騎士様が、ぱたりとその場に倒れました。
「魔力の『威圧』ですから、対抗するのは魔力を高めるのがいいですよ? “気”と魔力は干渉させにくいですからね。では、二段階目です――」
一段階目とは違って、引き攣った表情で構えを取る騎士様達。
十秒後に倒れた人は、一割にも届きません。
「おお! そうですよ。いい感じですね。『威圧』に対抗するには、そうやって“気”や魔力を高めるのがいいらしいです。では、三段階目――」
三段階目と言い終わる前から、「ガーー!!」とか「うおーー!!」とか叫ぶ人が出て来ました。
でも、十秒後には一気に三割、つまり合計で半分程の騎士様が倒れてしまっています。
……全裸強盗に掛けた威圧にはまだ全然届いていないのですけれど、ちょっとやり過ぎていたのでしょうかね?
「もうちょっと頑張りましょう。まだ半分にも届いていませんよ? 高めるのは“気”より魔力です。そろそろ次に行きますよ? では、四段階目――」
四段階目と言うまでの間に、王様も騎士様達の居る前方へと走って行ってしまいました。
死力を尽くして叫んだ感じの騎士様達が頑張って、残りは何とか四割程です。
でも、次でかなりの数が脱落しそうですよ?
「違うのですよねぇ。“気”なら気合を入れるので正解でしょうけれど、魔力は精神統一して集中する感じです。力むのとは違うのですよという事で、五段階目――」
あ、四段階目で頑張っていた人達が、五段階目が始まって直ぐに意識を手放してしまいました。
不味いですねぇと思ったそのままに、十秒が過ぎて立っていたのは一割程、十人少ししか残っていません。
「ああ、そうそう、学院で教えている様な『儀式魔法』の遣り方では駄目ですよ? あれは魔力の制御を手放す方法なので逆効果です。では六段階目――」
十秒過ぎて、残っているのは王様除いて四人――いえ、違いますね、団長さんが立ち往生していますから、膝の裏を突いて倒せば三人です。
「ここまで残っている騎士様は、やっぱり魔力がそこそこ使える人だけみたいですね。それを鍛えていけばいい武器になりますよ? という事で七段階目――」
――と、この七段階目で終了ですね。立っているのは王様しか残っていません。
「……王様、終わりましたけれど、どうしましょう?」
まだ構えていた王様は、背後へと目を向けてから、構えを解きました。
暫し考えてから、私へと問い掛けてきます。
「この結果をお主はどう見る?」
白嶺隊を相手にした時には、この馬鹿共がー、と怒っていたのに、今回はそんな感じが有りません。
「有り勝ちですけれど、“気”にばかり傾倒していて魔力の扱いが下手ですね。私も実際には闇族に出会った事は有りませんが、魔力の扱いが上手い敵と出会った時が心配です」
「我もそう思うが、この結果の判別が付かん。これはどの程度の相手を想定したものだ?」
「私もそれが分からないので、騎士様相手に確かめたのですよ。調子に乗った全裸強盗の学院生相手に五段階目で丸一日というのは、素直に討伐されるよりも悲惨な罰だったのかも知れませんね」
「……よく其奴が生きていたものだ」
まぁ、私もちょっと反省しているのですよ。
私が『威圧』――と言うよりも、『魂縛』のつもりで一時的に固めていたのは、この前の全裸強盗には限りません。全裸強盗相手とは違って、一段階目か二段階目で時間も短く終わらせていましたけれど、騎士団の精鋭が気を失う程の物とは思ってもいませんでした。
今迄良く無事だったものですよ。
そんな反省も有って、次からは意識を奪うのでは無く、手足を動かなくする程度に留めておきましょうと考えていましたら、漸く気を取り戻したのか倒れていた騎士様達からちらほら立ち上がる人達が見え始めました。
「良し! 起きた者は寝ている者を起こしてさっさと整列しろ! ハマオー、お前もとっとと起きろ!」
初めはのろのろと身を起こしていた騎士様や、カハッと息を吐いて気を取り戻した騎士様も、状況を理解すると小走りで駆け寄ってきます。
「では、改めて紹介するぞ。ランクBの冒険者であるディジーリアだ。デリリア領で発生した氾濫を収め、ライセン領では町の直ぐ近くに出来ていた界異点を寄った序でに潰して来た英雄だ。初めの言葉通り、得難い経験になっただろう。我としても幾つもの課題が見えた。此奴には度々遊びに来て貰うから、そのつもりでいるが良い」
何だか、向けられる視線がこそばゆいです。
促されて、私も一歩前に出ました。
「実は特級の冒険者のディジーリアです。でも、いいですか? それは内緒にして下さいね? 私の目標は、初見で凄い冒険者だと戦かれる様な、そんな尊重される冒険者なので、余計な先入観を与える様な事はやめて欲しいのです」
「いや、それは無理だな」
「ちょっと王様、何でそういう事を言うんですかね?」
「強者は強者にしか分からんからだ。それも系統の違う強者には通じんぞ? 我も体付きは細身だからな。昔は侮られて不愉快な思いもしたものだ。今は名も売れて肩書きの効果も有るが、それでも態と覇気を漏らさねば侮る奴らは後を絶たんぞ? 気配を抑えてお忍びで歩けば、今でも絡んでくる奴らは居るだろうよ」
「…………そ、それはとても興味深い話ですけれど、私はまだ希望を持っているのですよ! だから、内緒ですからね!」
ちょっと王様に引っ掻き回されてしまいましたけれど、一息に言い切って寸評へと移ります。
「まぁ、私の『威圧』に耐えられなかったのは、魔力への対処に慣れていなかっただけですね。“気”と魔力は別系統の力ですから、擦り抜けてしまって干渉させるのも一苦労なのですよ。私が皆さんに“気”で『威圧』されたなら、こんな貧弱な筋肉から生まれる小さな“気”では、きっと同じ様に耐える事は出来ないでしょう。
でも、その中でも七段階目まで残った三名は中々優秀です。今は軽い魔力の手応えを感じる程度かも知れませんけど、その感覚を大事にしていれば、何れ魔力の腕で物を掴んだりといった事が出来る様になるでしょう。それを肉体に重ねれば、『魔力強化』になりますね。一気に序列を引っ繰り返す事になるかも知れませんよ?
私としても、僅かばかりの心得の有無がこれだけ結果に影響すると分かって、良い収穫を得られました」
そんな言葉で終わろうとしてみれば、当の最後まで残った人の一人が手を挙げています。
「はい、何でしょう?」
「私は…………魔術の才能は無いと言われてました。実際に魔術を使う事は出来ません」
ちょっと鼻白んでしまいました。
そのまま王様を見上げますが、見下ろしてくるばかりです。
……解説しないといけないんでしょうねぇ。最近は、何処へ行っても同じ様な話ばかりしていますよ?
面倒なので簡単に端折って言ってしまいます。
「『儀式魔法』の才能は無いかも知れませんが、逆に言えば『根源魔術』の才能に溢れているという事です。『儀式魔法』では自らの魔力の制御を手放す事しかしていませんから、魔力の干渉には対抗する術を持ちません。『根源魔術』は『魔力制御』と『魔力操作』がその実体となる物ですから、自身の魔力を鎧とも盾ともする事が出来るので騎士向けです。『儀式魔法』使いの戯れ言なんて気にする必要は無いのですよ。
それに、『根源魔術』でも鍛えれば『儀式魔法』は使える様になりますからね。面倒なので説明は割愛しますけれど」
何だか、疲れている時に細かい説明は苛々してきてしまうのですよ。
でも、本当に騎士の間に『根源魔術』遣いは居ないのでしょうか? そんな筈は無いと思うのですけれど。
そこで最後にちょっとだけ『根源魔術』の例を見せる事にしたのです。
「因みに、私にとっては『瞬動』は『根源魔術』の一つです」
言った次には、騎士達の周りをぎゅるぎゅるぎゅんぎゅんと、「加速」を使って動き回ります。
最後に元の場所に戻りますけれど、やっぱりちょっと風が吹き荒れてしまいますね。
「――こんな風に、魔力の扱いに長けていれば、『瞬動』と同じ仕組みで、軌道も自由に動き回る事が出来ます。案外、武技だと思っている技の中にも、魔術的な技が多かったりするのかも知れませんね」
上手く纏めたと思ったのですけれど、王様には呆れた様に言われてしまいました。
「それでは分かる者しか分からん」
「武技などの祝福技能や『儀式魔法』といった、過保護のお節介焼きに全てを委ねる様な人は、最初から相手になんてしていません」
おっと、やっぱりちょっと苛々しているみたいです。
でも、技を神々からの授かり物と思うのか、研鑽と試行錯誤の結果と思うのか、そこを隔てる壁はきっと殴れば穴が開く程度の物と思うのに、分かろうとしない人達とはやっぱり分かり合えない様に思うのですよ。
私の道を阻んできたのが、大体がそういった決め付けをする人達でしたからね。
それでも私のちょっと突き放した物言いに思う所も有ったのか、騎士達は姿勢を正して、ピシッとした敬礼を示しました。
なので私も、ピシッと敬礼を返したのです。
王城は、上から見れば南北に伸びた幅広の建物と、その北端を中心に北半分を四角く囲う枠、南半分に並ぶ様に東西に一本ずつ線を引いた様な形をしています。
南東の棟が官署台。要するに文官達が勤めるお役所です。御用口が有るのもこの棟です。
南西の棟が財務台。魔法薬を納めに来た場所ですね。資材だとかの諸々の管理をしているそうです。
真ん中の建物には大広間だとか謁見の間だとかが在るのですけれど、奥の枠に囲まれた中まで行くと王族の居所になります。枠の部分が騎士や官吏の場所になっていて、中庭で区切られている形ですね。
私がお風呂を借りるとしたら、その枠の部分を少し南に外れたお客様用の区画だと思っていました。
でも、案内されたのはどう見ても王族達の区画です。
「はい、目を瞑りましょうね~」
考える事を放棄した私は、綺麗なメイドさんの言い成りです。
さっきまでわしゃわしゃと、気持ち良く髪を洗い上げていた指先が、滑る様に顔を洗い、洗い布で私の体を擦り上げていきます。
右手を上げて、左手を上げて、右足を上げて、左足を上げて、立ち上がって、はい終わり。
また、ざばーっと頭からお湯を掛けられたら湯船の中へ。
至福です。
「……眠るのはいけませんよ~」
そう言って、頭を支える掌が気持ち良過ぎます。ちょっとすりすりしておきましょう。
しかし、あれですね。王様もこんな事をしているのでしょうか。
……それはけしからんですよ? それをしてはエロ親父なのです。
お風呂を上がると、ふわふわの布で水気を拭き取られて、ちょっと固めのベッドの上へ。
顎の下に置いた枕を腕で抱え込む様にさせられて、背中に温かい香油を垂らされました。
気持ちいい手で撫でられて、首の辺りをきゅっと押さえられるのは何だかとても気持ちがいいです。
でもですねぇ――
「ひゃ!? うひゃう!? ひぃ!」
脇腹を触るのはやめて欲しいのですよ。
ちょっと面白いとか思ってませんかねぇ?
引っ繰り返されて、両手を上げて、ぐいぐい押されて、ぎゅむぎゅむ握られて。
体を拭かれて終わった頃には、何だかぽかぽかとしてきたのです。
「随分と掛かったな。しかし大分すっきりし――……おい、目を開けろ」
良く分からない言葉に首を傾げて、ふと確かめてみれば瞼が下りていました。
目を閉じていても分かりますし見えますけれど、流石に目を閉じている事に気が付かないなんて事は有りません。
メイドさんの手の余りの気持ち良さに、頭が蕩けきってしまっているみたいです。
瞼をくいっと上に引っ張って目を開けても、とろーんと閉じてしまうのですよ。
「メイドさんの素晴らしいマッサージの為せる技ですね」
「馬鹿を言うな! メイドにマッサージされたぐらいで寝てしまうなど、どれだけ疲れていると言うのだ。休む時には休まねばならんぞ」
「寝てませんよ? 目が開かないだけで、ちゃんと見えていますから問題有りません。そうで無ければ目の見えないお嬢さんなお客さんだと思って頂ければ」
「無茶苦茶を言うな、此奴は」
呆れた王様の声の後に、軽やかな笑い声が響きました。
「ははは、本当に御父上にも物怖じしない子だね。構わないじゃ無いか、目を瞑ったままどれだけ動けるのか興味深いね」
「いや、此奴が見えると言うのなら見えているのだろうよ。だが、目が開かないのはそれだけ疲れが溜まっているのは確かだろうに」
「ええ、今日の午前は『武術』の講義で、力を振り絞って来ましたから、体は確かに疲れているのですよ。でも、ご飯が足りないのも理由ですから、ご飯を食べれば目も開くと思いますよ? それに、休むとしてもこのままでは休めません。結局何かお腹に入れる事になるのですよ」
そうです。王様に黒狼隊の相手を依頼されなければ、今頃大猪鹿の分厚いステーキを食べていた頃なのです。
後でご飯が待っていると分かっていても、お風呂に入る前にお腹に何も入れておかなかったのは、ちょっと失敗だと思っていたのです。
無作法かも知れませんが、ここでご飯を抜きにされてしまうくらいなら、催促だってしてしまうのは当然ですよ?
しかしそんな言葉に笑いながらお后様が配膳を促して、その間も会話は続いていくのです。
「お主が学院の講義程度でどうこうなるものでも有るまいに」
「講義を受ける前に魔力を枯渇させて、素の筋力と“気”の強化だけで講義を受けるのですよ。それで全力で鍛錬に打ち込めば、“気”の扱いも少しは分かる様になるでしょう」
「…………」
「いえいえ、そんな顔をしないで下さいな。私にとっては必要な鍛錬なのですよ?
今もこうやって普通に動いていますけれど、随分昔から魔力で体を動かす癖が付いてしまっていて、筋肉を全然使ってこなかった弊害が出て来てしまっているのですよ。“気”を使う為にも筋肉を鍛える必要が有りますし、少しでも魔力が残っていると魔力で体を動かしてしまいますから、そういう鍛錬しか無いのです。
学院で安全に魔力枯渇状態での鍛錬が出来るのは、とても助かっているのですよ」
「ふん、魔力に偏っていれば確かにそういう事も…………有り得るのか??」
「くっふふふふ、御父上、今の言葉は現状で魔力が無ければ起き上がる事も出来無いと言っているのだよ」
「何!? そういう事なのか!?」
「え? どうなんでしょう?? ――あ! 魔力を枯渇させてみれば分かりますよ!」
「ええい、するな! おい、食事はまだなのか!? 何でも良いから早く此奴に喰わせてしまえ!」
ちょっとどたばたも有りましたけれど、それから直ぐにお昼ご飯は、皆の前へと配膳されたのでした。
その場に居た人達は、前にも御一緒した方々です。
まずはお后様。王様より年上の壮麗のご婦人に見えますが、実は王様よりも歳下だそうです。寧ろ王様が若々しいのですよね。きっと特級まで鍛え上げれば、老化も遅くなるに違い有りません。
そして、王様とは兄弟にしか見えない息子さんが一人と、娘さんや息子さんのお嫁さん達です。
前よりも人が少ないのは、お風呂に入ってマッサージをしてと、かなり待たせてしまった遅いお昼だからでしょうけれど、待っていてくれている女の人が多いのは、私が来ると聞いていたからでしょうか。
王様の親兄弟らしき人を見掛けた事が無いのは、……まぁお察しという事なのでしょうね。
人の家の事は言えませんが、世の中幸せな家族ばかりでは有りません。王様は粛清の王と呼ばれているのですよ。
さて、そんな食事の間の話題と言えば、お后様が中心となって何故かお洒落だとかの話です。他の女の人達も楽しそうですし、お洒落は女性の嗜みなのかも知れませんね。
「ほら、ここ、きらきら光って綺麗でしょう?」
お后様が、身に纏っているドレスの裾から脇にかけてのラインを示して言いました。
「ええ! 分かりますよ! 私の愛刀も初めは端っこしか研げなくて、鑢板の様な物でしたけれど、表面を割り剥がして刃を作る事を覚えてからは艶めかしく輝いて綺麗なのですよ。――いえ、失礼。つい大切な相棒の事を自慢してしまいました。服の話でしたね。それなら鎧下に着ている鉄布の胴衣でしょうかね。鉄線を編んで作った鉄布の胴衣は艶消ししていてもきらきら光って、一見煌びやかなワンピースドレスにも見えるのですよ。これも私お手製の自慢の装備なのですよ?」
「へ、へぇ? でも、やっぱりきらきらしたドレスには憧れが有るのね?」
娘さんが少し目を泳がせながらそう言います。
「憧れ? ……とは、ちょっと違うかも知れませんね。お姫様な感じで振る舞う時にはドレスが普段着になるというだけで、母様やお婆様に作って貰った服より特別なんて事は有りませんよ? とは言っても、ドレスはデリラで作った一着と、この前頂いた孫姫様からの一着とで、合わせて二着しか有りませんけれど。まぁそれだけあれば充分ですね。
何故と言えば私の生きる場所はお姫様としての場所には無くて、魔の領域こそが私の舞台、ドレスでは無く革の鎧が私の衣装なのですから。それに、採取生産探索系の冒険者な私には、光り物は厳禁なのです。髪の毛だって帽子の中ですから、何か身に付けるとしても全部革鎧の下ですね」
「で、でも、ほら! この靴、こういう可愛い靴も履いてみたいとは思わないの?」
息子さんのお嫁さんが、足元をちょっと手繰って靴を見せながらそう言いました。
「おお! それはいい靴ですねえ! 踵が穂先の様に尖っていて、それを敵の脳天に叩き付けるのですね!
私のブーツは踵は動き易く普通ですけれど、爪先には尖った鉄片を仕込んでいるのですよ。ここがお洒落ポイントですね! ゴブリンだっていちころですよ♪」
私も『亜空間倉庫』から取り出したブーツを見せながらそう言うと、女性陣は頭を抱えて、男性陣は到頭堪らず吹き出しました。
「「「手強いわ……」」」
「くっくっくっ、息子達を呼んで置いた方が良かったか」
「「「それはずるいわ!」」」
何故か打ち拉がれているお后様達に首を傾げながらの、和やかなお昼ご飯だったのです。
まぁ、私も少々惚けはしましたけどね。今更お姫様な“前の”私を起こされても困るのです。
そしてご飯の終わった今は王様の部屋で二人きりです。
「今回はご苦労だったな。王城の食事は楽しめたか?」
「ふぅ~……え? ええ、とっても美味しいご飯でした」
「何だ? やはり随分と疲れているでは無いか。全くどんな鍛錬をしているのだか」
そんな事を言いながら、王様が私の渡した黒い箱へと手を突っ込もうとしています。でも、私がここに居るのですよ。
「箱に手を入れる必要は有りませんよ?」
「ん? 良いのか? ならばこの箱は何の為の物だ?」
「何って、言いませんでしたかね? 目隠しですよ。その箱は魔力を通さない鬼族の角で作っていますから、その中で作業をする分には私も余計な物は見えません。でも、今は私がここに居ますから箱で覆う意味が有りませんね」
「確かに……だが、この奥の輝石を通せば見えてしまう物なのか?」
「輝石越しでも魔力で出来る事なら大抵出来ますね。実は見るより聞く方が大変なのですよ。見る方なら、初めは魔力を薄く広げた手探りで感じ取る事から初めて、次第に相手からの魔力の放射を感じる様に努めれば、その内見る様に捉える事が出来る様になりますし、『魔力視』が出来る様になれば、視る事に苦労はしません。でも、聞く方は魔力で音を鳴らす事から初めて、自在に音を操る事が出来る様になっても、声真似が出来る様になるまでは大変ですし、況してや空気の震えや揺らぎの感じだけでどんな音なのか判別しろなんて……。実は無駄に高度な技術なのですよ」
「成る程、聞いているだけでも全く分からん」
「でも、それが出来る様になれば、王様も輝石越しに辺りの様子を探ったり、遣り取りする事だって出来ますよ?
私も『武術』の講義の間は魔力を枯渇させるので勘弁して貰っていますけれど、今も私の研究所での指導に、母様の護衛に、毛皮敷作業の立ち会いに、おまけに学院に造った拠点の監視と、やる事が多くて大変なのです。最近は疲れもちょっと抜け切らなくて、少々お疲れ気味ですかねぇ?」
私に向かって魔力の放出を始めていた王様が首を傾げました。
私は首を傾げる王様へと同じく首を傾げながら、王様の魔力を輝石へと纏め上げていきます。
やっぱり広い空間が有る方が、輝石にもし易いですね。それに、王様の魔力はぎらぎらとした金色ですけれど、輝石になっていく様子はとても綺麗なのですよ。
ふと思い立って、王様に聞いてみました。
「そう言えば、王様を表す図案とかって有るんですかね?」
「行き成りどうした? ラゼリア王国としてなら宝石で出来た花だな。それくらいは王国民として知っておけ。だが、我自身をとなると、今は多くの場合白剣オセッロが象徴として用いられる。……済まんな、オセッロを素材にとの許可は出せそうに無い」
「…………まぁ、それでも造れと言うなら造りますけどね。オセッロにしてみれば面白く無い話でしょう。堕ちてしまっても知りませんよ?」
「堕ちる……だと?」
「参考に私の愛刀の話でもしましょうか?
当時“毛虫殺し”と呼んでいた私の愛刀は、早い時期から妖刀になっていましたから、最初は何と無く感じる程度でしたけれど、ちゃんと私へ感情を伝えて来たのです。鬼族特化に鍛えましたからね、鬼族は自分の獲物だと他へ任す事を拒絶しましたし、鬼族以外を相手にする事には強烈な忌避を示しました」
「それは、気の所為では無くか?」
「ええ。実際に鬼族以外用にもう一振り刀を打った後には暴走しましたから。私の言う事も聞かずにその形も醜く変えての狂乱でしたから、愛刀であっても主人に従えないならばと、処分も頭に厳しく折檻してみればですね、新しい刀に嫉妬して何とか役に立ちたいからと力を求めた結果だったのですよ。可愛い物では有りませんか。
鬼族とそれ以外と、領分がはっきりしていても嫉妬でおかしくなるのが命を預けた武具という物です。況して王様の剣は外界の事を何も知らない間に気が付けば見捨てられている様なものですからね、私が王様なら知らない事は知らないままに、ずっと『倉庫』の中で眠らせて置くしか有りませんかね。でも、そんな事をして一体何の意味が有るのでしょうと思うのですよ」
「…………」
「これはオセッロにもロンドにも聞いてみなければ分からない事では有りますが、恃みにしてきた剣というのは、やっぱり頼られたいものなのです。その為には形や在り方なんて二の次です。私の刀も何度も打ち直していますが、期待や畏れを抱きはしても、嫌がった事は有りません。一度なんて素材にまで戻して、しかも鍛冶場のランクが足りていなかった為にその状態で二ヶ月以上待たせてしまったのにも拘わらず、打ち直される事には喜びしか感じていませんでしたよ。
魔剣に成り掛けている二つの剣を一つに合わせたりなんてした事は有りませんが、そこは出来ると感じていますから問題無いでしょう。
事これに関しては、私は王様よりもオセッロやロンドの味方です。鍛冶師ですからね。オセッロを使わずにロンドだけを使うというのも有り得ません。それで出来上がるのは王様がオセッロを捨てたという象徴でしか有りませんから。面白くも無い仕事ですよ。やっぱりオセッロを使わないのならこの仕事は無しですかね。
まぁ、輝石が一杯になるのにもまだまだ時間が必要でしょうから、しっかり考えて下さいな」
私は「むぅぅ……」と唸り始めた王様に呆れながらも、ささっと手早く手の中の品物を仕上げてしまいます。
金の鎖に繋がるのは、金で縁取りされ弧を描いた銀のプレート。プレートにはラゼリアの宝石の花に見立てた模様を王様の輝石で象眼しています。プレートの先にも二本の鎖は続いて、その先に留められているのは同じくラゼリアの花が象眼された丸いプレート。
まぁ、丸いプレートの輝石をもう一つのプレートの輝石に軽く当てれば、王様用のノッカーとして使える訳ですよ。
「そんなに悩むのなら、使う事が出来無いオセッロは『倉庫』の中で休ませているという事にして、念の為に良く似せた剣でも入れておけばいいのですよ。どうせ躊躇っているのは王様自身の言葉では無いのでしょう? 形ばかりが大事な人には、形だけ取り繕っておけばいいのです。
そんな事より、はい、これですよ」
「全く、簡単に言いおって……。ふむ、これは何だ?」
「王様の輝石で作ったノッカーです。丸いプレートの輝石をもう一つのにコツンと当てれば王様に届きますね。ちょっとお洒落に作りましたから、誰かに渡すにしても渡し易いのでは無いでしょうかね」
「……何を作っているのかと思えば。我は魔力で物を見るなぞ出来んぞ?」
「ノックの回数でどういう意味かを予め決めておけば、一方通行ですけれど何かの合図に使えますよ。それに、『隠蔽』していても私を見失わない王様が、魔力で視る事が出来無いというのにも違和感が有ります。『根源魔術』を魔術という名前だけで敬遠しているかも知れませんけれど、術と言っても技術です。偉い学者が小難しい理屈を振り翳す様な物では無くて、剣術と同じく感覚を鍛えて身に付ける業ですから、魔術だと思っていない人の方が使い熟している様に最近は思うのですよ。王様は多分直ぐに視れないまでも感じる事は出来るんじゃ無いですかね?」
「……そうか。ならば貰っておこう」
「元は王様の魔力です。それに私としても、私しか使えないよりも他にも使える人が居た方が、何か有った時にその人にお願い出来ますから助かるのですよ」
「我は、王を都合良く使いたいと、こうまで堂々と言われた事は無かったな」
「でも、人には奪われない様にして下さいね? ノックの衝撃は心臓を叩かれる様で結構な隙になりそうですから、敵に奪われれば一大事です。輝石越しに魔術を発動出来る様になれば、その心配も減るでしょうけれどね」
「……どのくらいの距離までこれのノックは届くのだ?」
言われてちょっと考えました。
象眼したとは言いましたが、実は輝石のプレートを銀で覆って一部に窓を開けた物ですから、輝石自身のサイズは大きめです。
でも、ノックを感じ取るには王様自身の感度も問題になるでしょうから――
「私なら獣車で十日程度の距離までなら。……ラトル領に届くくらいですかねぇ。他の人の事は分かりません」
「……ラトル領か。全く、お主は面倒な案件をこれでもかと持ち込んで来るな」
「ふふふ、輝石を使い熟せばもっと忙しくなりますよ? 何と言ってもいつでも呼び出されてしまいますし、何処からでも様子を見る事が出来てしまいますから」
「戦略が変わるな……いや、ちょっと待て。お主が先程言った研究所というのは、領都デリラに在るのでは無いのか?」
「ええ、そうですよ? ――あ、デリラには抱えきれない程の大きさの、特大輝石を置いているのですよ」
「それで今日も連絡を取り合っていた訳か。……いつだ?」
「いつって、今もずっとですよ? 研究所では所員の指導をしていますし、母様がお婆様と輝石越しに会話しているのも仲介しています。――おや、魔力が止まってますよ?」
王様が魔力の放出を止めたので、不思議に思って見上げてみれば、何とも言えない歪んだ表情で私を見た後、ベルの魔道具へ手を伸ばして、それから頭を抱えてしまいました。
暫くすると、ベルの魔道具で呼ばれたメイドさんがやって来ます。
「何の御用でしょうか?」
「ああ、この馬鹿者を今直ぐベッドへ放り込んで休ませておけ」
「へ!? え、な、何でですかね!?」
「お主は働き過ぎだ。良いから休め!」
「な、何を言っているのか分かりませんよ!? まだまだやる事が一杯山積みになっているのです!?」
「それは全部お主がやらなくてはならぬ事なのか? 任せられる事は任せてしまうものだ」
「それで母様や研究所の仲間が怪我をしては、後悔し切れませんよ!?」
「怪我など回復薬が有ればどうとでもなる! 良いから休め! 誰もそれでお主を責めたりなぞせぬわ!」
「それは聞けません! 聞けませんよ!! 万が一っていう事が有るでは無いですか!」
「成る程……お主は、過保護でお節介なのだな」
思わず目を瞠りました。
「今……何を言いましたか? 何を言いましたかね!? 何て事を……何て事を……!!」
私は、意外と力強いメイドさんに担ぎ上げられ運ばれながら、信じられない思いで遠離っていく王様を見送るしか無かったのでした。
そして、ちょっとしょんぼりとした気持ちを抱えたままで、収穫祭への日々は過ぎていったのです。
という事で、自らブラックに嵌まるディジーのマルチタスクに作者が付いていけなくなったので、シングルタスクと言わないまでもそれに近い状態へと戻す為の今回のお話ですかね。ブラック振りを強調するのに、ごちゃごちゃと詰め込んでしまっています。
あと、収穫祭へのスキップも兼ねてますか。二三話入れたら、もう収穫祭の本番の予定です。
こんな時間に投稿しても、読者は増えないのでしょうねぇと、勢いの戻ったカウンターを見ながら思いつつ。
ではでは、また次回で♪




