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(109)収穫祭に向けた一週間

 漸く投下!

 いやー、この所の謎のアクセス数増加(しかもブックマーク付き!)に早く次話上げないとと思いつつ、この人も唐突に出て来たフィニアさん視点で話を作っているところだったから、悪戦苦闘だったのですよ!

 なんか、先週からのアクセスが凄いんですよねぇ。投稿のタイミングとは違うから、何処かで宣伝して頂いたのかと思ったけれど見付からず。有名処の誰かがブックマークに入れたのを見ていらっしゃったのですかね?

 何と、ついこの前まで600ptから増えないなーと思っていたのが1000ポイント超えですよ!?

 何という快挙! 夜想曲のアルサリカを抜きました!(アルサリカはエロが書けずに更新断念中)


 因みに、作中の一週間は十日間です。多くは五日毎に休みが有ります。曜日では無く、一の位で一の日、二の日と呼んでますね。ただ、五日毎に休みが有る場合は、十日も五の日の休みと表現されていたり?

 なので、一週間と題名を付けたのは、秋の一月二十日から三十日の出来事を指しているのですけれど、フィニアさんのあれこれを含むから秋の一月二十日よりも前から始まっていて、厳密には一週間じゃ無いですね。つまり、何話か○○の一週間という題名の回が続くという事ですねw

 私はフィニア。フィニア=カルイネス。

 一足先に有名人の仲間入りをしたピリカ=ビルジウムと同じく、祖は西方の生まれになる。

 今は無き西方三国の血筋を引く名は簡潔で、王国とは違ってミドルネームも無い。だからと言って何かが有る訳では無いのだが、何も知らない幼かった頃には、他とは違う自身の名前に思い悩んだものだった。


 尤もそれも今では解消している。


 文化の発祥の地とされていた西方三国、即ちディミス王国、リンシア王国、レイバスク王国の三連合王国は、それ故にバラム戦帝国に狙われ滅ぼされた。

 そしてそのバラム戦帝国がラゼリア王国の巻き返しにより滅んだ後は、西方三国の跡地は周辺国による共同統轄地として、聖地に準じた扱いを受けている。

 しかし、住人達は戦争を逃れ、各地へ散って多くの者は戻らなかった。


 私の場合は祖父がレイバスク王国の貴族だったと聞いている。

 戦争末期に王国へと亡命し、各地を転々としながら庇護の代わりに叡智を授け、遂には王国西南のとある王領にて代官に任ぜられるまでになった。


 他とは違う私の名前は、そんな祖父を育てた誇るべき血筋の証なのだ。


 ――ならば私もレイバスク王国に(つら)なる者として、ここラゼリア王国で身を立てよう。

 祖父と、その祖父の語るレイバスク王国の思い出話に憧れを抱いていた私は、そんな想いから当然の如くラゼリア王国の学院を目指した。

 そこには気合いに満ちた決意だとかそんな物は何も無く、ただ素直な気持ちの行き着いた先として目指し、そうなる可くして学院の門を叩く事になったのだ。


 残念な事に、王領で受験した者は入学試験での順位の対象外となっている。それさえ無ければ、首席だって狙えたに違い無い。

 それくらいの自信は持っていた。

 何と言っても、それまで同世代で自分と並び立つ様な相手と出会った事は無かったのだから。学園を卒業してから文官として働き始めたその場でも、新人の枠を超えて頼りにされていたのだから。


 一路順風な人生だったが、これも祖父の教え有っての物だと私は理解している。

 ――事に当たっては冷静に、人に当たっては快活に、物に当たっては大胆に。

 その言葉に従って、これまで間違えた事は無い。

 だから、今回も追い風は吹いている物だと思っていた。


 だが、どうだろう。学院に入ってからは、戸惑うばかりだった。

 向かい風が吹いている訳では無いが、追い風を感じない。無風……でも無いのかも知れないが、自分に吹いている風は、他の皆にも吹いている。

 唯一人、風向きなんて関係無いなんて顔をしているのが、本来一番追い風を感じていても良さそうな首席の少女。


 これは、“事”として当たるべきなのか、“人”として当たるべきなのか……。

 悩みつつも私は一先ず冷静に、何か有れば朗らかに応じようと心掛けながらも、様子を窺う事にしたのだった。


 だってそうだろう? 軽く見せた魔術は言うに及ばず、少女が一つ動く度に予想を超えて何かが動く。

 そんな状況に翻弄されるのは、私から見ても優秀と感じる仲間達。

 少女が追い風を感じていないのも当然だ。何故ならば彼女自身が嵐の中心みたいなものだったのだから。

 私達の誰一人として、嵐に立ち向かう(すべ)など了解してはいなかったのだから。


 自分でも気が付かない内に、静観する側へと回ってしまっていた私は、或る日、自分の思い違いに気付かされた。


「ちょ、ちょっと待って下さいな!?」


 後に朝礼と呼ばれる事になる初めての朝の会合で、何処か焦った様子のその首席の少女ディジーリアを見るまで、収穫祭を盛り上げる事は、私の――いや、私達の仕事でも有るという事実が、頭の中から抜け落ちていた。


「計画書もそろそろ作らないといけないのですよ」


 そうした日程の事すら考えていなかったのである。


「全部全部検討しましょうとは言いましたけれど、どうにも検討が進まない物は、そろそろおまけと割り切る時期なのかも知れませんね」


 ディジーリアが後ろ向きな言葉を口にするのを初めて聞いて、素晴らしい方法で順調に進んでいると思っていた収穫祭の準備にも、綻びが出始めているのかもと、漸く気を向けたのだった。


 そして、纏める側に立って白板を見て、頭を抱えた。

 ――ほぼ纏まりつつ有ったのに議論を蒸し返して行き詰まっている案件。

 ――発散し過ぎて既に落ち着く場所が見えなくなっている案件。

 ――重要な懸案が処理されないまま走るだけ走ってしまっている案件。

 所々に舵を取ろうとしたらしきディジーリアの手が残っているが、矢雨にそよ風というか、業火の前の小盾というか、何にしろさしものディジーリアも、纏め人としてのランクは凡庸だったという事なのだろう。


 こんな状態では、先行きに不安を感じるのも当然だ。

 私はディジーリアと一度会話しようと考えたが、その日はどうにも話し掛ける機会が無く、それならばとその次の日にいつもよりも一時間ばかり早く寮を出て、私達の部屋へと向かう事にしたのである。

 そして私が部屋に入った時には、案の定既にディジーリアは部屋に居て、白板の前で佇んでいたのだった。


「おや? お早うございます。……妙なところを見られてしまいましたね」


 なんて事を言うディジーリア。

 私には何が妙なのかも分からなかったが、妙だと言うからには何か有ると思い返してみれば、ディジーリアが何をするでも無く佇んでいるというのが既に妙な事だった。


「お早う。ディジーが来ていてくれて助かったよ。収穫祭の準備について、ディジーと話が必要だと思っていたんだ」


 そして、出来るだけ穏やかに話し掛けたつもりだったが、ディジーリアの様子がおかしかった。


「…………やっぱり、上手に出来てませんでしたか? これでも色々と頑張ったのですよ……」


 普段から薄い表情を益々消して、そんな言葉を呟いた。

 それで分かった。ディジーリアは佇んでいたのでは無く、途方に暮れていたのだと。

 私は小さく溜め息を吐く。


「……もう。そんなに思い悩む前に相談してくれれば良いのに。平気な顔をしているから、焦っている事にも気が付かなかったよ」

「み、皆さんの前で苦しい顔なんて出来ません」

「ははは、それは私の家の教えと同じだね。『事に当たっては冷静に、人に当たっては快活に、物に当たっては大胆に』と、小さい頃から言われ続けて育ってきたよ。ディジーの場合、人に当たって快活にする事も、物に当たって大胆にする事も充分に出来ているみたいだけれど、事に当たって冷静では無かったみたいだね」


 そう分かって見てみれば、強張らせた顔で見上げて来るディジーリアは、儘ならないもどかしさを抱えつつ、何とか期待に応えようと気を張っている十二歳の少女にしか見えなかった。

 仮令(たとえ)凄まじい魔術を繰り出せたとしても、経験が物を言う纏め人なんて分野では、十二歳の少女はやはりただの十二歳の少女なのだ。


「れ、冷静ですよ? でも、何をどうすればいいのか、もう分からないのですよ……」

「それが冷静で無いと言っているんだよ。ほら、ディジーの作った白板を見てご覧? 皆で色々と提案や懸案を書いているけれど、その中にディジーの悩みは書かれてないね。ディジーも書けば良かったのさ」

「で、でも、纏め人は私が任されたお仕事ですよ!? 期待を裏切る事は出来ません」

「ほら、冷静になれて無い。纏め人だからと言って、ディジー自身が収穫祭の計画まで纏める必要なんて無いよ。白板でそれが得意な人に自発的に割り振っているのと同じ事さ。あれは凄い物なんだよ? あの白板一枚一枚が纏め人みたいな物だからね。

 ならどうすれば良かったかとなると、白板に『収穫祭の計画の纏め』と書けば良かったのさ。するとほら、直ぐに懸案から解決策まで埋められていくのが想像出来ないかい?」

「……でも、頼りにされたのが嬉しくて、私が纏めたかったのです」


 その気持ちは、私にも憶えが有る。

 祖父から初めて頼まれ事をされた時は、どれだけ誇らしく、また私だけでやり遂げたいと思った事だろうか。

 破綻が見え始めてきても、今のディジーリアと同じ様に依怙地になってしまったが、それが求められている事から少しずれているのだと、気が付くまでどれだけの時間が掛かった事だろう。


「ふふふ、そうだね。でも、纏めると言っても色々な遣り方が有るんだよ。自分がその物事に詳しくて、采配を振る自信が有るのなら、自分で纏めてしまう事も有る。でも、殆どの場合は任せられる部下に仕事を回して、纏め人は最後に確認するだけだね。自分で判断する自信も無いなら、その専門家を雇って対処するのもまた纏め方さ。それで纏め人として不適とは誰も言わないな。

 目的は何か、良く考えてみればいいよ。一番大事なのは、収穫祭を成功させる事だね。でも、今のディジーは少し違う方向を向いていないかな? 皆で頑張って収穫祭を成功させるのでは無くて、ディジーが頑張って収穫祭を成功させる事に、拘り過ぎていないかな?」


 話すだけ話して暫く待っていると、それまで表情を強張らせていたディジーリアは、ふっと疲れたかの様に力を抜いた。


「拘り過ぎていましたかね?」

「例えばディジーが何とか纏め切れたとして、その時にはこんな事を言われると思うんだよ。『凄いね、良く纏め上げた。しかし君の仲間にはもっと上手く纏める事が出来る者も居た筈なのに、どうして彼らを上手く使わなかったんだい』ってね。それは悔しいと思わないかい?」

「そ、それは嫌ですよっ!?」

「だよね? 自分に力が足りないなら、力を借りるのも一つの手段さ。何も恥じる事なんて無い。寧ろ最善を尽くさないといけない場面で、虚栄心を満たす為に足掻く事は、失望を招きかねないよ? ――気持ちはどう有れ、そう見られるという事だね」


 ディジーリアは、じっと私を見上げて続きの言葉を待っていた。

 私が同じく自分の力だけで事を為そうとして失敗した時には、祖父からは特に慰めるでも無く淡々と事実を述べて諭された。

 それでも納得する事は出来ず、暫くは悔しさに苛まされる様になったのだが、果たしてディジーリアはどうだろうか。


「さて、それでは此処に王領の代官の孫として育ち、幾多の案件を文官として手掛けて、こういう計画を纏めるのに自信の有る人材が居るんだが、ディジーならどう使うかい?」

「……頼りにしても良いのでしょうか?」

「ああ、勿論さ! 頼りにされて嬉しいのは、私だって同じなのだから」


 ディジーリアはあの時の私よりも遥かに年若く、それでいて特級の冒険者というプライドも有るだろう。どう判断するのかが読めなくて心配したが、どうやら私よりも少し柔軟な思考の持ち主だった様だ。

 私のそんな言葉を聞いて、ディジーリアは何処かほっとした様子を見せたのだから。


 ディジーリアはソロの冒険者だと話には聞いている。単独での動き方しか知らなかったから、人を纏めるとなってどうすれば良いのかが分からなくなってしまったのだろう。

 祖父という偉大な先人を除けば、私は他を率いる事しか知らなかったから、率いる人が他に現れた時に、どう率いられれば良いのかが分からなくなり、ただ付いて行ってしまったのだ。

 結局、お互いにまだまだ未熟だという事だ。しかし、それでこそ学院に来た甲斐が有るというものだった。


 そしてこの日の朝礼から、収穫祭へ向けた準備もまた次の段階へと進む事となった。


「あら、そうですのね? それでこれからは貴方が取り纏めるのね?」

「ああ、時間も無いから一応私が指揮を執らせて貰う事にした。と言っても私の主な役目は調整だな。寧ろここは文官志望の諸君に発奮して貰いたいのだが、我こそはと思う者は集まってくれ。今この時から始めよう」


 そんな私の呼び掛けに、十人近い男女が立ち上がって集まってくる。


「……やっぱり私はお役に立てていなかったのですか?」


 事ここに到って不安気な様子を隠せないでいるディジーリアがそう溢すと、その綺麗に透き通った赤い髪に幾本もの腕が伸ばされるのだった。


「そうじゃない。私達に、漸く役に立てる仕事が回って来たという事だよ」

「今迄殆どディジーに任せきりだったからな。収穫祭も部屋の事もディジーの力に頼り切っていた。これくらいは任せてくれ」

「ええ、そうね。女性にだって文官は務まるって、実績を作らせて貰うわよ」


 今ディジーリアの頭を撫でている者達には、ディジーリアに嫉妬して腐り掛けていた者がかなりの割合で含まれている。

 だが、今の彼らにそんな蟠りは感じない。ディジーリアに「よろしくお願いします」と頭を下げられて、振り向いた彼らの目の輝きがもう違っていた。

 私達の収穫祭は成功する。既にその手応えを私は感じていたのだった。


 運が良い事に、その日の午前中は空きの時間が有る者が多く、私達は昼になるまでに現在の状況で実現出来るだけの草案を作る事が出来ていた。

 それを昼休みに披露したのだが、思わず零れてしまった仲間の言葉に、ディジーリアが目を丸くしているのが印象的だった。


「首席は凄いと気圧されていたが、思ったよりも適当だった」


 だが、ショックは受けていても既に悲愴さは無い。作り上げた草案に目を通して感心した様に頷いている様子からは、既に計画書の作成から自分の手が離れてしまった事にも、納得している事が窺えた。


 午後は殆どの者が講義に出たが、放課後になるとまた集まって案を練る。


「……まぁ、適当なのも当然なのかも知れないね。特級が対処出来る範囲が私達と同じ訳が無いのだから、細かく計画を練るなんて必要はきっと無かったんだよ」

「そうか? 俺はどちらかと言えば、他人との関わり方が分からない所為でちぐはぐになっている様に感じたが」

「諦めるのに慣れている様な感じだった。雑貨屋、開けられればいいのに」

「あれは私との会話で納得してくれたからだと思うけれど、言いたい事には同意する。だが、囚われずに最善を尽くそう」


 寄り集まって編纂を進めていると、どうしてもディジーリアの話題が出る。

 そしてどうにもディジーリアの希望は叶えてやれそうに無いと思っていたからこそ、その日の放課後に提案された、雑貨屋の商品としての模型(ミニチュア)の量産は渡りに船だった。

 尤も、その後で気の抜けた様子のディジーリアからされた提案は、気を悩ませていた私達を、考え過ぎだと押し遣る様な物だったのだが。


「ところで、私の作品も置いていいのですかね?」


 そんな言葉から始まった受け答えに、丸で気負いという物が感じられなくて、結局休みの日を跨いでの二十一日の朝に、仲間の一人がディジーリアに聞いたのだ。


「え? 物を売りたいだけなら私も商人ギルドに登録していますし、適当な場所に露店でも出しますよ?」


 聞いてみれば納得の答えだった。


「飛び切り怪しい扮装をして、怪しい商品を、怪しく売りたいですねぇ~。

 学院に来る途中でライセン領の界異点を一つちょちょいと潰して来たのですけれど、要らない魔物の死骸に適当な感じで張りぼての剣を突き刺して来たらですね、早々に『鑑定』されてしまったみたいで余り面白くはならなかったのですよ。

 面白いのがいいですよねぇ~」


 しかも、物騒且つお騒がせだった。

 これはもう、その辺りは本当に気にしていないのだと全員納得したのである。


 その日の朝礼ではディジーリアから毛皮敷が無事作業に入った旨の報告を聞き、私達も収穫祭の計画書の状況を報告する。

 昼休みには壁の大白板を使って計画書の草案の読み合わせをして、数々の意見を元に更に計画書を練り上げていく。

 勿論、此の期に及んで懸案が処理されても居ないのに、声ばかり大きな意見は封殺だ。


「君の提案は受け入れられない。私達を納得させられないで、どうして高位貴族を説得出来るんだい? 検討するのも本来費用が掛かるものだよ。今現在の活動資金が何処から出ていると思っているのかな」

「ほうほう……私も議論にもならない感じでどうすればいいのか困っていたのですけれど、突っ撥ねてしまえば良かったのですね。勉強になります」

「この件で言うと、交渉相手は迷惑を被る領主達だね。でも、私達に大義も無ければ立場も弱い。勝負にすらならないし、交渉自体が出過ぎた真似をする愚か者の振る舞いさ」

「ふふふ、提案したそこの貴方もそんなに気にする事は有りませんわよ。貴方が学院で学ばなければいけないのは、我が儘を言ってごねれば何とかなるというその幼稚な考えと分かったのですから、直していけばいいのです」

「ははは、私も実家に居た頃は、同年代で私に並ぶ者など居ないと自惚れていたよ。全く、愚か者ではいられないな。学院に来て本当に良かったと感じているよ」


 革める事が出来無ければ愚か者だと告げたつもりだが、果たして何処まで通じているだろうか。

 ともあれ、同じくして他の行き詰まりも解消されて、収穫祭へ向けてどんどん動き易くなっていくのだった。


 昼休みも、丸机で計画書を詰めていく。


「それじゃ、基本は商人組で確認して、冒険者的な内容ならスノワリンにお願い出来るかな」


 ディジーリア曰くの商人組や冒険者組、それから冒険者協会で働いているスノワリンを呼んで各種費用を検めていると、きゃいきゃいと女子が騒ぐ声が聞こえてきた。


「あ、可愛い。素敵なメイドさんね」

「縫い包みじゃ無いんだ。石の人形に服を着せているの?」


 敷物の周りで、どうやらディジーリアの周りに女達が集まっていた。


「木でも良いかと思ったのですけれど、石の方が色を塗らなくてもそれなりに見えますので。人形が大切なお友達なら、お世話するメイドさんも必要かと思ったのですよ」

「いいわ、いいわ! 凄くいいわよ!」

「でも、ちょっと問題が有ってですね。ここ迄のにすると流石に組み立てにするのは難しくて、完全に私の作品になってしまうのですよね。服を布で作ってみましたけれど、着せるだけでも細か過ぎる作業です。なので、高級品の数量限定になってしまいますかね」

「それでもいいわ! 絶対欲しくなるし、これを見たら欲しい人は自分で注文するに決まってるわ!」

「ん~、何を騒いでいるかと思ったらメイド人形か? ふむふむ――ぺらり……うむ、ずるり……」

「こ、こ、こらー!!!! 何をやっとるか、男子!!!!」

「いや、やるだろ!? 男なら! つーか、リアルに作り過ぎだ!!」

「あ、僕も妹へのお土産に一つ貰ってもいいかな?」

「ルイルもこのむっつり!!!!」

「妹へのお土産だって!」

「そんな真っ赤な顔で説得力無い事言うなー!!!!」


 突然巻き起こった騒動に、ディジーリアが目を丸くしてそれでも楽しそうにしているのが見えた。

 どこか張り詰められていた物が、いい具合に緩んでいる様に見えて微笑ましい。

 全くあの時に声を掛けたのは僥倖だった。そうでなければこんなディジーリアを見る事は出来なかったに違い無い。


 そして私はそんなディジーリアを手招きする。


「騒ぎ過ぎましたか?」

「いや、それは構わないのだが、あれも商品に加えるのかな? 前にも聞いてはいるけれど、一応ディジーの考えている事を確認しておきたいと思ってね」

「えっと、そうですねぇ。前にも言った様な気がしますけれど、現時点ではっきりしないのはおまけにして、検討中の案はこれだけですよっていうのと、ぎりぎりまで検討は進めますよっていうので費用を出して、実際に出して貰えるかは相手次第と考えてましたね。出してくれるにしてもくれないにしても、そのお金にお礼も含めて二割増しして返せれば、悪い印象なんて付きませんよ」

「……豪快だな」

「でも、好みが分かれそう」

「確かに。私達は堅実に行く事としようか」

「でも、高位貴族が上級とか特級の冒険者と同じ様な感じでしたら、豪快な方が好まれそうな気がしますよ? 縮こまっているのは良く有りません」

「……豪快に行く場合の試算もしておくか」


 少し冒険し過ぎにも思える大胆な提案だが、ほぼ出来上がっている試算では、それを加えたとしても大した金額になりそうに無い。物に当たっては大胆にと教えられた言葉を、こんな所に適用しても良いものかと悩みつつ、しかし縮こまっては印象が悪いというのも納得出来る意見である。

 なまじ時間に余裕が有るだけに、何処までも悩んでしまうが、そう思うくらいならばもう計画は締めて後は実現へ向けて邁進する時期なのかも知れない。


 そんな事を考えていた午後の『王国総合』の時間。クロール先生が抜き打ちに、収穫祭へ向けた準備の状況を聞いて来たのだった。


「――という事で、既に準備は進めているとは思うが、進捗はどうかね?」


 だが、一応声を掛けたという(てい)で、特に心配している感じには見えない。


「え? ええ、軽食屋を中心として雑貨も扱う事にしましたけれど、メニューも出揃って商品も数が準備出来つつ有りますから心配要りませんよ? 計画書はフィニアさんに纏めて貰っていますけれど、殆ど出来ているのですよね?」

「ああ、既に何度も読み合わせをして試算も済んでいるから、後は清書するだけの状態だね。とは言え、計画書の部数や、転回広場の場所代等、細かな部分を詰めたかったから話を振ってくれたのは有り難く」

「やはり流石だな。例年ではこの時期に指摘されて、漸く計画書に取り掛かる年も多い。そのフォローの為に『王国総合』の時間に余裕を設けている。だが、君達には必要無い様だな。

 計画書は『複写』持ちが必要部数を準備するから一部有れば大丈夫だ。転回広場は王城からの入学祝いの一つだな。有り難く頂いておけば良い。

 寄付を募る前に、一応私が計画書を確認する事となっている。既に草案が出来ているなら清書で無くても構わない。持って来ているのなら、今ここで確認しよう」


 そんなクロール先生に、ほぼ最終段階に入っている計画書の草案を渡すと、読み進める途中からどんどんと口角が上がってきた。


「くくく……素晴らしい! 嘗てこれだけ濃密な計画書が提出された事は無いぞ。一つだけ付け加えるとすれば、最終的な立案内容と検討過程の部分はもう少し明確に分けた方が良かろう。ご苦労だった、完成次第私へ提出する様に。この分なら予定通り三十日が説明会となる筈だ。

 一応次の二十六日も収穫祭の準備の為の時間としているが、参ったな、この分ではその必要も無さそうだ」


 クロール先生が上機嫌に言うのを聞いて、フラウニスが手を挙げた。


「いいえ、その時間はやはり(わたくし)達に頂きたいですわ。こちらの教室を離れてから、仲間全員で集まる機会が無くて困っておりましたのよ?」

「ははは、それならば好きに使い給え」


 クロール先生の快諾により、早速机を動かして計画書を仕上げていく。

 白板の前ではディジーリアが出店の形を決める為に、必要な条件の聞き取りを進めていた。

 さぁ、ここからが正念場だ。



 結局その後は何事も無く、二日後の二十三日には計画書を提出し、三十日の説明会を迎える事となった。

 場所は王城、紫雲の間。外交にも使われると聞く豪勢な部屋には、丸く机が並べられ、既に私達が提出した計画書が『複写』されて机の上に並べられていた。

 説明に来たメンバーは、私の他にはフラウニスと商人組のジオバール、そして念の為に来て貰った実務担当のルイルキースとミルリアンナ。

 ディジーリアは来ていない。御披露目の場に居ても仕方が無いと、私にこの場を任されてしまった。


 フラウニスと最後の確認をしていると、紫雲の間の扉がノックされる。

 私達は顔を上げ、椅子から立ち上がってその横に控える。

 軽く頭を下げた直ぐ後に、部屋の扉が開かれる。

 そして幾人もの人物が、その扉から入って来た。

 そのまま席へと着くのかと思っていたら、中程に居た一人がおかしな動きを見せた。

 周りを見渡し机の下を覗き込む。どうやら何かを探しているらしい。

 暫くしてから控えていた私達へと声を掛けた。


「楽にせよ。――ディジーリアは来ていないのか?」


 その声に頭を上げる。

 その御方の姿を見て、呆然とする。


(なぁ、何でディジーを探すのに机の下を覗き込むんだ?)

(しっ! 陛下の御前よ!)

(げっ!?)


 ジオバールがミルリアンナと囁き声で遣り取りするのを聞きながら、私はどうしても体が硬直するのを抑えられなかった。

 再び、更に深く頭を下げながら、国王陛下に直答する。


「はっ、ディジーリアは御披露目の場に自分が居ても仕方が無いと、本日は私達に任されております」


 思わず取り繕う事無しに答えてしまった。

 しかし、机の下を探されてしまう様な間柄では、これで正解だったらしい。


「ふん、それは逃げたと言うのだ。彼奴(あやつ)め……。まぁ良い、我は楽にせよと言ったぞ? 説明を始めるが良い」


 私の学院最初の晴れ舞台は、こうして冷や汗と共に始まったのだった。


「まずは学院への入学より日も浅き私達に、この様な機会を設けて頂き誠に有り難うございます。

 特に王城からは入学祝いとして、最も良い祭りの一角を使わせて頂けると伺っております。新入生一同、格別のご配慮に篤く御礼申し上げます。

 また、ご列席の方々におかれましては、私達が計画する収穫祭の催し、その説明の為に貴重なお時間を割いて頂き、誠に有り難うございます」


 本来ならば、列席する方々が誰なのかが分かれば良かったのだが、生憎それを知る事は出来無かった。

 しかし、その名を掴む事が出来無かったのが、能力不足と評価される事では無く、嘗て無茶な企画を通そうとして根回しした者が居た故だと知れれば、少しは安心出来た。


 説明するに当たって、今年の新入生の構成とその特徴を伝え、私達の自己紹介とした。

 即ち、上位の貴族を出身とする者は少なく、また騎士の割合が多い事、首席が冒険者で冒険者としての方法論を取り入れた事から、誰が率いるという訳でも無く、誰しもが率先して動く文化が出来上がっている事、そして恐らく他の年よりも団結して仲も良いだろう事などを述べた。


 その上で、私達が目指す収穫祭の催しの在り方として、私達全員が何らかの形で出来るだけ参加し、私達自身が大いに楽しみ、また王都の住人達にも楽しんで貰えるものとして検討した事を述べた。


「その結果として選定したのが、計画書に示しました、軽食屋と雑貨屋を合わせた店でございます。家政婦や侍女を目指す者が調理し、物作りを好む者が雑貨を作り、商人の卵が会計を担い、騎士達が警備する、全てがそれに当て嵌る訳ではございませんが、その様な店となりました。

 また、王都民が気軽に手を出せる価格とする為、自分達で手掛けられる部分は出来る限り自分達で対応して費用を抑える事としています。

 例えば店のテーブルセット、或いは食材の調達といった事柄です。

 幸い仲間にかなりの腕の職人が居る事から、仲間達の力を合わせて収穫祭までにはこれらも全て間に合う見込みです。

 設備の賃料代わりにこれらの労務分も含めて原価を計算し、収穫祭間際まで他にも検討を進めるものとして算出した費用が約二百両銀。

 ご列席の皆様方にとっては取るに足りない僅々の額かも知れませんが、何とぞご支援賜りたく、よろしくお願い申し上げます」


 ざっと要旨を述べてから、計画書に添って内容を説明する。

 悩ましいのは眉を顰められもした必要額の少なさだ。労務分は六掛けでなんて話も無しにして、膨らませるだけ膨らませて何とか二百両銀というところ。

 ディジーリアは高位貴族にとって千両銀も端金だと言っていたが、余りに少ない額の寄付を募るのにお呼び立てするのも失礼だろう。

 貴族出身の他の者がこの場に居ないのも、そこで腰が引けた結果も有ったのだ。


 そして、白板を使っての検討などに感心はされても、やはりそこへ話は戻るのだ。


「……支援など本当に必要なのか?」


 端的に言えば、支援は無くても問題無い。

 計画書を纏めている時にその事に気が付いてからは、これは高位貴族との顔繋ぎの場と割り切る事にした。

 まさか国王陛下が現れるとは思っていなかったが、それも含めて幾ら金を積んだとしても、こんな場を通常得られる機会は無いだろう。


「それには、収穫祭への出店を御披露目の場だと看破した仲間の言葉で答えさせて頂きます。その者が言うには、高位貴族が支援して新人に計画させる催しなんていうのは、新人の御披露目以外には有り得ないと。高位貴族にとって千両銀も二千両銀も端金なのだから、期待の分だけ出して貰って、どんと二割増しにでもして返せば誰もが納得するだろうと。そう言ってのけたのです。

 その言葉に仲間達も皆大いに納得し、この度は私達の自信の程を見て頂く場と捉えて、本日の説明に臨む事と致しました。

 私達には支援が必要です。但しそれは金銀による物では有りません。私達の願い出に理有りとお認め頂く事や、そこで全額を出してやればそれを増やして返して来たという評判であり、或いは私達の店を実際に見た上での今年入った学院生は中々やるとのお褒めの言葉でございます。それこそが本当の意味で私達を支援する物となるでしょう。

 心にも無い言葉を述べて頂こうという訳ではございません。心からのお褒めの言葉を頂ける様に、これからも残る一月の間、研鑽を積んで行く所存でございます。

 まずはそのお約束としての費用をお預かり致したく、よろしくお願い申し上げます」


 私が文官の仕事をしてきたと言っても、交渉事の多くはまだまだ私の手に余る物が多かった。相手が居るのだから当然だ。様々な思惑が絡む交渉が、机の上で計画を練る様に行く筈が無い。先輩達に付いて、勉強の日々だった。

 そんな中で、交渉には或る程度のはったりが有効な場面が多いと学んだ。

 勿論、何の裏付けも無い事を言ってしまっては、後で自分が死ぬ程苦しむ事になるだけだが、仲間達の同意を得ていない支援の意味合いを、あたかも同意を得ているかの様に自信を持って言う分には、何の痛手を受ける事も無いだろう。

 それでいて、交渉相手の高位貴族に対しては、彼らにとって失敗しても痛手とならない僅かな金額を一時期預かるのと引き替えに、催し物が成功した際にはそれに見合った評価を頂きたいという至極当然の訴えのみである。いや、高位貴族の評判とお褒め頂いた事実こそが支援になるというのは、寧ろ彼らの自尊心を(くすぐ)る言葉に違い無い。

 これを交渉と言うのも烏滸がましいとは思っていたが、それでも何が起こるか分からないのが交渉事というものだったのである。


「ふはははは、成る程確かに千両銀など我らにとっては端金だ。二百両などとしみたれた事を言う必要も無い。千両銀出そうでは無いか」


 私はこの時、咄嗟に言葉を返す事が出来無かった。気分の良くなった高位貴族が、まさかそんな返しをして来るとは思って無かったのだ。

 見過ごしていたらどんな妙な事になったか分からないが、間髪入れずにフラウニスが返した言葉により事無きを得る。


「あら、それは困ってしまいますわ。何故って、それでは(わたくし)達の試算ではとても(わたくし)達の計画を実現出来無いと言われている様なものですもの。それがもっと金を掛けるべきという意味合いでしても、(わたくし)達の検討した結果を否定されてしまうのはとても悲しい事ですわ……」


 芝居っ気たっぷりにそんな事を言われて、千両銀を言いだした高位貴族も前言を翻す。


「いや、そういうつもりでは無かったのだよ。寧ろ君達への祝儀のつもりだったのだが」

「まぁ! お気持ちはとても有り難く。ですけれど、些か気が早いですわ。お褒めの言葉は是非とも収穫祭の後に、仲間の皆へもお願い致しますわ」


 するとそこで、透かさず国王陛下が声を発した。


「そう、そこだ。お主らは何れもそれが自分の成果だと主張もしなければ、褒美は皆へと口にする。そこで聞きたいが、この計画は一体誰が纏めたのだ?」

「誰がと問われれば、皆で、ですわね」

「この計画書の後半に付けたのが、実際に収穫祭の催し物について検討した白板の写しです。この白板自体は冒険者でもある私達の首席が、冒険者協会でも使われている方法だと示した物です。実際には冒険者協会でもこの様な白板は用いられていませんでしたので、首席の発案による物かとは思いますが、私達の部屋にはこの白板が十枚近く並べられていて、提案が有る者は好きに書き込み、また書き込まれた提案に懸案を示しと、そうして皆で練り上げたのがこの収穫祭の計画です。

 ある程度は首席が方向修正もしていましたが、殆どは白板の書き込みから始まる自発的な活動によるものであり、誰が纏めたという物でも有りません。

 私にしても、ソロの冒険者で大勢を纏める事を苦手としていた首席から、全てが出揃った最後の最後に計画書を仕上げる事を依頼されただけですので、僅か数日の事で纏め人を名乗る気にはなれません。

 それでも敢えて誰か一人を挙げるならば、纏め人は首席のディジーリア。しかし計画を作り上げたのは、計画書の最後に示した私達の仲間全員でございます」


 それを聞いて、国王陛下は機嫌良さ気に口角を上げた。


「ふむ、成る程な。では、参考に一つ聞くが、お主らの首席がもしもこの場に居たとしたら、どの様に説明していたか分かるか?」


 私は思わずフラウニスへと目を向けた。

 私と目が合ったフラウニスは、国王陛下へと目を向ける。


「本人ではございませんから想像になりますわ」

「それで構わん」

「それでは失礼致しまして――」


 国王陛下の答えに、少し椅子から腰を浮かしたフラウニスが、ぴしっと計画書を指差して、少し食い気味に声を上げる。


「こ、これは凄いですよ! 王都に居ながらにして各地のお菓子を食べれるだなんて、これだけで王国の中を旅行している様なものですよ! いいですねぇ~、きっと地方からの友人とも話が弾むのでしょうねぇ~。あ、でも、ご寄付が頂けなければ食べられなくなるかも知れないのです。それはとても残念ですねぇ~。おや? 食べたいのですか? おお! それはつまりご寄付頂けるという事ですね! 素晴らしい! それはもう美味しいお菓子で大満足間違い無しですよ!

 ――お耳汚し失礼致しました」


 フラウニスは糞度胸の持ち主だった。

 私の背筋は凍りそうだが、机に突っ伏して喉を鳴らしている陛下のお姿が救いだ。


「くくっ、くっくっくっ……全くだ、適材適所というものは、確かに有るものだな!」


 そんな国王陛下が最後は締めて、私達は全額ご支援頂けるという、確かな成果を手に入れたのだった。



 退出する国王陛下や高位貴族達を礼で以て見送って、私達自身も王城を出る。

 寄付金自体は王城から学院を経由して私達の手元に届くらしい。


「び、吃驚したぁ……」


 最初から最後まで結局何も喋らなかったルイルキースが、王城の門を出た先でそんな言葉を溢したが、全面的に同意する。

 しかし、何はともあれ、任せられた仕事は完遂した。

 後は本番へ向かって駆け抜けるばかりだ。

 登場人物多過ぎ問題。

 クラスメートが五十人だからまだまだ増える。喋る人を絞らないと……。

 モブに喋らせちゃ駄目なんですけどね。

 新版 シナリオの基礎技術 新井一 著 ダヴィッド社 ――は、いい本ですよ。まぁ、この通りに書けるかというと難しいですけれど、頭に置いておくのかそうでないのかで多分結構変わるのではと。

 お薦めです。


 次は「城下町の一週間」かなぁ。

 次も楽しみにして頂ければ。

 ではでは~♪

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― 新着の感想 ―
[良い点] フラウニスのクソ度胸! [一言] 見直し完了まで待つつもりがつい最後まで再読してしまいました。例の件についての布石伏線が判り易くなり看破できる人が増えそうで嬉しいやら寂しいやら。 学院祭…
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