第3話 バーチャルライブ
VR対応オンラインゲームにくわしくない私は
必然的に、棚橋を頼ることになった。
「今回、ひいらぎが出演する
バーチャルライブイベントについて説明しますね」
翌日の昼休み。自然な流れで、
ひいらぎが出演するバーチャルライブイベントの話題になった際、
棚橋がレクチャーを買って出た。
今回、バーチャルライブイベントが
開催されるVR対応オンラインゲーム
「モスピグレット」は、全世界に
プレイヤーが1憶5千万人以上いるとされる
現実世界そっくりなバーチャル世界上をいつでも自由に移動しながら、
その土地の文化や風習を体験したり、名所や遺跡を観光したり
同意が得られれば、世界各国にいるプレイヤーたちとも
交流することが出来る超人気のシュミレーションゲームという
ゲームの本流の他、全世界からアーチストたちを招いた
ライブイベントをゲーム内に設置されたステージで開催しています。
ゲーム機器、スマートフォン、PCなど、どの端末でも
ゲームをインストロールするだけで、
誰でも、完全無料でライブイベントに参加することが出来ます。
「参加するためには、本体の他、VRゴーグル、専用カメラ、
専用リモコン、専用ソフトなどが必要です」
棚橋が言い加えた。
(え~、そんなに必要なの?
ゴーグルって、あの泳ぐ時につけるもの? )
「あの。VRゴーグルっていうのは何? 」
私の質問に対して、棚橋が上から目線で答えた。
「VRゴーグルとは、別名ヘッドマウントディスプレイと言いまして、
頭部に装着して使用するVRを体験出来る機器のことです。
スマートフォン用やPC用などそれぞれのデバイスの専用があり、
価格も幅広いため、吟味して買うべきところです」
「何か、聞いただけで、頭痛くなってきた!
お小遣い足りるかなあ? 」
私が頭を抱えると言った。
「買い間違えると大変ですよ。
ひいらぎのライブイベントが、今週の日曜日に開催されます。
もし、良ければ、一緒に参加しませんか?
その際、うちにある一式を試すことも出来ますよ。
開始時間は、午後3時ですので、おそくとも、15分前には来てください」
棚橋がスケジュール帳を開くと告げた。
「わかった」
私も、棚橋をまねてスケジュール帳に日曜日の予定を書き込んだ。
気づかれないようにそっと、棚橋のスケジュール帳をのぞき見ると、
ミミズみたいな字がびっしりと書き込まれてあった。
黒色のボールペン一色なせいか、デスノートにも見えなくなかった。
日曜日の午後3時。私は、棚橋家のリビングにいた。
リビングのTVの方が画面が大きいからと説明を受けたが、
棚橋はどうも、他人を自分の部屋に入れたくないように見えた。
家族は外出していて留守だった。
「差し入れ持って来た」
私は、駅前のコンビニエンスストアで買って来たお菓子を
テーブルの上に並べた。
「ありがとうございます」
棚橋がお礼を言った。
その直後、突然、プレイ画面が強制的に終了となって、
バーチャルステージの画面に切り替わった。
着物みたいな衣装を身にまとったバーチャルシンガーが
スポットライトの下に姿を現した。
「VRゴーグルつけてください、早く! 」
棚橋が、私にVRゴーグルを手渡すとせかした。
私が慣れない手つきでVRゴーグルを頭部に装着している間に、
ステージの周りに、
参加者たちが事前に登録したキャラクターたちが続々と
出現してゲーム内は、大いににぎわった。。
VRゴーグルを装着した途端、
すぐ目の前に、ステージが浮かび上がって来て、
まるで、すぐ近くで観ているような錯覚に陥った。
つかのまのひととき、その空間を共有している顔も名前も知らない
世界各国にいる見ず知らずのプレイヤー同士が
互いに協力し合い、パフォーマンスや
アクションを起こすことが出来るのは、
オンラインゲームの醍醐味でもあると思った。
ひいらぎは、見方によって男にも女にも見える。
人間にそっくりだけれど、人間離れした雰囲気も醸し出している。
中性的、ジェンダーレス、無国籍、無次元‥‥ 。
ひいらぎについて、何かひとつの言葉で表現することはむずかしい。
心に訴えかけて来るようなメッセージ性の強い歌詞。
アンダーグランド的な要素の中に、ノスタルジックさもあり、
なおかつ、新しいサウンドを彷彿させる。
「どうでしたか? 」
ライブ終了後、棚橋が上目遣いで訊ねた。
「良かった。すごいね」
私が答えた。
「途中、口ずさんでいましたものね」
棚橋が微笑んだ。
「耳に残るメロディーだから、一緒に歌いたくなるんだよね」
私が素直な感想を告げた。
「それはどうも」
なぜか、棚橋が頭を下げた。
「え? 何? 」
私が訊ねた。
「ひいらぎのファンとしてお礼を言います」
棚橋が答えた。
ひいらぎのファンと先に名乗られたせいで、
私が、ひいらぎのライブに参加した
真の目的を明らかにすることが出来なくなった。
ファンを前にして、ひいらぎの正体を疑うことは出来ない。
そんなこんなで、1年前の私はズルズルと
バーチャルシンガーの沼にはまって行ったのだった。




