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第14話 犯人逮捕されたが‥‥

翌日。私はふつうに高校へ登校した。


昼休み。スマートフォンを確認すると、鹿さんからラインが届いていた。


「棚橋。鹿さんからライン来た」


 私は、離れた場所にいた棚橋を手招きするとベランダに出た。


「なんか進展があったのでしょうか? 」


 棚橋が横から、スマートフォンの画面をのぞくと言った。


鹿:説明するより、こちらを見る方が早いだろう


私は、メッセージに添付された動画をクリックした。


添付された動画は、今朝のニュース映像だった。


HIRAGIを襲おうとして、ジンさんをケガさせた真犯人が、


警察官たちに取り囲まれるようにして


連行されていく姿が画面に映し出されていた。


犯人は一見、どこにでもいそうな青年に見える。


ナイフで誰かを襲うような人間には思えなかった。


ニュースによると、逮捕された会社員の橋元祥太郎は、


新人アーティストのHIRAGIが、


大好きなバーチャルシンガーひいらぎを演じて


TVの収録番組に参加したことを快く思わず、


表に出てパフォーマンス出来ないようにしてやろうと決心して、


インターネットでナイフを購入した。


犯行当日。HIRAGIのファンのツィッターにより、


HIRAGIが渋谷にいることを知ると、


HIRAGIの所属事務所のあるビル前で待ち伏せした。


出て来たHIRAGIの前に立ちはだかり、


ちょっと、おどす目的で、ナイフを見せただけだったが、


連れの男性(ジンさん)から大声で怒鳴られたことに気が動転して、


気がついたら、連れの男性(ジンさん)の脇腹を


ナイフで刺していたと供述した。


犯行目的や共犯者などについては、今後の取り調べにより、


明らかになることだろう。


 私はライン画面を閉じると腕時計を見た。


昼休み終了まであと、10分ある。


ふと、鹿さんに電話することを思いついた。


HIRAGIを襲おうとした橋元という人物が


どんな人なのか興味がわいたからだ。


鹿さんのことだから、とっくに、調べていると思った。


「もしもし、鹿さん。動画観ました。ありがとうございます」


 私が開口一番でお礼を言った。


「お礼なんていいのに。わざわざ、休み時間を使って


僕に電話してこなくても、メッセージを送れば数秒で済むのにさ」


 鹿さんが言った。


「あと、8分しかないから手短に話しますね。


 HIRAGIを襲おうとした真犯人はどんな人なんですか? 」


 私はあせりながらも訊ねた。


「ひいらぎのファンで、ひいらぎを演じたHIRAGIを逆うらみ


 したと報道されている。その通りじゃないのかな? 」


 鹿さんから意外な答えが返って来た。


「本当にそれだけなんですか? 」


 私は、何か隠しているのではないかと疑った。


「もしかして、僕が、犯人を調べているとでも思ったかい?


いくら、犯罪者でも、個人情報は保護されている。


ふつうの方法では限界がある。そうかと言って、


会社の専用ソフトを使用したら、何かあった場合、迷惑かけるどころか


僕はクビになっただけでは済まされない。


したがって、調べるのは簡単じゃないわけさ」


 鹿さんがそう言うとため息をついた。


「勝手に期待したみたいでごめんなさい。


 なんか、気になったから聞いてみただけです。


じゃあ、もう、授業はじまるので‥‥ 」


 私は一方的に電話を切ると、教室に戻った。


その日の放課後。私は、棚橋を誘って渋谷へ寄り道した。


犯人が逮捕されたのに、彰彦さんが、ラインにも電話にも出ない。


たんに、仕事中ならば良いのだけれど、


ひとりで悩んでいるのであれば、力になりたいと思った。


「ジンさん。退院したのですか? 」


 HIRAGIが所属する芸能事務所があるビルの前で、


偶然、ジンさんとばったり会った。


「外出許可をもらった。向こうに、タクシーを待たせてある。


あいつのスマートフォンに何度かけても出ないから、


もしかしたら、事務所にいるんじゃないかと思ってさ」


 ジンさんが決まり悪そうに言った。


「あの。変なこと聞きますけれど、ごめんなさい。


若年性認知症って、どんな病気なんですか?


認知症って、忘れっぽくなると聞きました」


 私が前から気になっていたことを訊ねた。


「病気のこと、鹿君から聞いたの?


認知症の主な症状として、昔のことは覚えているが、


新しいことが覚えられなくなるというのがある。だから、


君たちのこともこうして、忘れないようにしているんだ」


 ジンさんが、スマートフォンのメモ画面を見せてくれた。


メモには、会った人の特徴や会話の内容などが詳細に記されていた。


「髪が茶色だとか、スカート丈が短いとか、


化粧をしているとかだと、よくいる女子高生だから、


ほくろやくせなんかを書くようにしている」


 ジンさんが淡々と言った。


「彰彦さんのことを忘れていないで良かったですね。


もし、忘れていたら、再会したと気づかなかったですよ」


 私が言った。


「薬で進行をおくらせているから、無理さえしなければ長生き出来た。


だがもう、長生きすることが生きがいとも言えなくなった。


それもこれも、彰彦と再会したせいだ」


 ジンさんが忌々し気に言った。


「ジンさん、急に、どうしちゃったんですか? 」


 私は、ジンさんは、彰彦さんとの再会を喜んでいるとばかり


思っていたのに、再会を後悔しているような豹変ぶりに驚きを隠せなかった。


「すまない。時々、変なことにカッとくるんだ。


親としては、どんな息子だろうとかわいいし、見捨てることは出来ない。


事務所に行ってみたが、いなかった。もう、行かなくては‥‥ 」


 ジンさんはそう言うと、タクシーに戻った。


「空振りでしたね。これから、どうしますか? 」


 タクシーを見送った後、棚橋が聞いて来た。


「私たちも動こう。今夜20:00ジャスト、


モスピグレットの渋谷ハチ公前集合」


 私が言った。


「もしかして、ゲーム内で、情報収集するつもりですか? 」


 棚橋が不服そうに言った。


「プレイヤーたちの中に、何か知っている人が


いるかもしれないじゃない? コミュニケーション取るぐらいなら、


警察も見過ごしてくれるはずよ」


 私がそう言うと、棚橋が「わかりました」と納得してくれた。


犯人が逮捕されて、襲われる心配はなくなったのに、


彰彦さんは行方をくらました。


私はなぜか、嫌な予感がしてならなかった。








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