↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/27

第12話 ドッペルゲンガー

「言っておくけど、あれは私じゃないわよ」


 蓮さんが開口一番で告げた。


「まだ、何も聞いていない」


 私が言った。


「ひいらぎのライブ映像見て来たんでしょ?


ジンさんも連れて来るなんて、


いったい、何を警戒しているわけ? 」


 蓮さんが足を組むと言った。


「ひとりでは心ともなかったもので‥‥ 」


 私は言い訳した。


「こっちです! 」


 その時、蓮さんが立ち上がって手を上げた。


「誰? 」


 ふり返ると、カフェの入り口付近に長身の男子が


立っているのが見えた。


「この人がひいらぎよ」


 蓮さんが告げた。


「彰彦!? 」


その直後、ジンさんがつぶやいた。


「お待たせしました」


 蓮さんに呼ばれて席に着いた男子が


ストンと私の前に座った。


私は思わず、ジンさんの方を向いた。


「おまえ、彰彦だろ? 


いったい、今までどこにいたんだ? 」


 ジンさんが身を乗り出すと言った。


「見ての通り、元気でやっています。ご心配なく」


 彰彦さんがぶっきらぼうに言った。


「あの。つまり、ジンさんの息子さんが、


ひいらぎを演じたということですか? 」


 私が念を押すと、ジンさんがうつむいた。


(ひいらぎを演じたアーチストが男子で、


しかも、ジンさんの息子さん?


複雑すぎて、頭が追いつかない! )


「アンさん、ジンさんと親子だったんだ」


 蓮さんがさらっと言った。


「アンさん?! 」


 私は思わず、飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。


(アンって、女みたいな名前じゃん! )


たしかに、彰彦さんは男にしては、なよっとしているし、


まつげが長くてなで肩。声も高めだけど‥‥ 。


性転換手術はしていなさそうだし、


女装をしているわけでもない。


黙っていれば、中性的なハンサム男子に見える。


「蓮。その名で呼ばないでって言ったでしょ」


 突然、彰彦さんが女言葉を使った。


私はとっさに目をそらした。


「その言葉遣いはなんなんだ? 」


 ジンさんが咳払いすると言った。


(父親からしたら、ひさしぶりに再会した息子が、


女みたいな言葉遣いで話したらショックだよね)


「はじめまして。HIRAGIと申します。


蓮さんと同じ芸能事務所に所属しています」


 彰彦さんが、私の前に名刺を置くと自己紹介した。


(芸能事務所? アーチストだってこと? )


「私は木平あかりです。ところで、アンさん。


 あなたはいったい、何者なんですか?


どうして、ひいらぎとしてTVに出演したのですか? 」


 私は名を名乗ると、矢継ぎ早に質問した。


「おっと。ずいぶんと、押しが強いお嬢さんだこと。


HIRAGIとして今後、活動していくことになったんで、


お披露目がてら、音楽祭に参加しました。


これで良い? 」


 彰彦さんが質問に答えた後、蓮さんに念を押した。


「これでわかったでしょ?


アンさんは、ひいらぎの生みの親である松田さんの


お墨つきをいただいて、正式に、HIRAGIとして


デビューが決まったというわけ」


 蓮さんが自分のことのように自慢した。


「ちょっと、待って! アンさんが


 HIRAGIとしてデビューするということは、


元祖ひいらぎの方はどうなるの? 」


 私は勢い余って席を立つと訊ねた。


「自然消滅するんじゃない? 」


 蓮さんが斜め目線で告げた。


「彰彦。いい加減、目を覚まさないか?


いつまで、バーチャル世界に逃げているつもりだ。


もう一度、勉強し直しても今なら間に合う」


 ジンさんが訴えた。


「神田川彰彦は死んだと思ってください。


これからは、アンとして生きていきます。


僕はこのへんで」


 彰彦さんはそう言い残すと席を立った。


「ジンさん! 」


 私がさけんだ。ジンさんは、私に目配せすると、


カフェを飛び出した彰彦さんのあとを追いかけて行った。


「おかしな展開になったけれど、私の誤解が解けたし満足」


 蓮さんが告げた。


「同じ芸能事務所と言っていたけれど、


芸能界やめたのではなかった? 」


 私が訊ねた。


「なんで、芸能界やめたこと知っているの? 」


 蓮さんが訊き返して来た。


「まなから聞いた。昔、子役やっていたんでしょ?


 あんたが中学生の時、なりすましていたのは、


まなだということもとっくにわかっているわ」


 私がどうだとばかり言った。


「バレたか‥‥ 。


そうよ、あんたのはずかしい写真を


SNSにあげたのは、この私よ。


それもこれも、まなにひっついている虫を退治する


ために仕方なしにやったわけ」


 蓮さんが開き直った様子で言った。


気がつくと、とっくみあいのケンカになっていた。


「ケンカをするなら、外でどうぞ」


 しまいに、私たちはカフェから追い出された。


「近くにいた客が動画撮っていたわ。


もし、あれが拡散されたら、デジタルタトゥになるかも」


 蓮さんがそう言うとうなだれた。


「カフェでJKがケンカした動画なんて、話題にならないわ」


 私はそう言い捨てるとビルを出た。


 その時、救急車のサイレンが聞こえた。


どうやら、近くで、急病人が出たらしい。


「きゃああ! ジンさん! 」


 蓮さんがさけんだ。


「何? 」


 私は、蓮さんの視線の先を追った。


すると、黒山の人だかりの向こうに、


救急隊員たちにより、


担架で運ばれて行くジンさんの姿をとらえた。


私たちはどちらからともなく、


ジンさんのそばに少しでも近づこうとした。


「いったい、何があったのですか? 」


 蓮さんが、彰彦さんを捉《つか》まえると問いつめた。


「ビルを出た時、暗闇から、誰かが現れて、僕に襲いかかって来た。


あの人は、僕をかばってその人にナイフで刺されたんだ。


一瞬の出来事だったから、とにかく、気が動転して


救急車を呼ぶのが精一杯だった」


 彰彦さんが青白い顔で話した。


「乗って行かれますか? 」


 救急隊員が、私たちに向かって訊ねた。


彰彦さんを見ると、彰彦さんが首を横に振った。


「私がつきそう」


 私が名乗りを上げた。


 救急車に乗り込んだ直後、


彰彦さんが、駆けつけたパトカーに乗せられるのが見えた。


「ジンさん。しっかり! 」


 私は、酸素マスクをはめて苦しそうにしているジンさんに呼びかけた。


「ご家族の方ですか? 傷が深く出血も多い。


 このまま、意識が戻らなければ危険な状態です」


 救急隊員が神妙な面持ちで告げた。


「なんとか、助けてください! 」


 私は頭を下げると言った。


 救急車が病院に到着した。


 その後、私は、手術室の前で不安な時を過ごすことになった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。