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第13話 ここから始まる――終末放送局


「記憶を取り戻したシエルちゃんはこれで最強です。もう何も怖いものはありません」


 酷いイタズラを受けたが、いつも通りのシエルの態度に安心して思わず笑みが溢れる。

 本気で傷ついたし、それはフラグというやつだぞ?


「あれ? でもファイって言っていたじゃないか。それは良いのか? 本当の名前なんだろ?」

「シエルを気に入ってます。ナギが私の為に考えた名前なんですから」

「お、おう……そ、そうか」


 ……照れるじゃないか、やばいまた泣きそう。


「って言ったらナギが喜ぶと想像できたので」


 本当に一回殴って良いか? 上げて落とす天才か?

 

「私は別の星で暮らす機械種族です。遥か昔にどこかの人類が生きる星のコンピュータが進化したことで生まれてきました」

「機械種族……」

「何千年も昔から人類と共に生きる為に、この船に乗って宇宙を探索しておりました」

「別の星……そ、それもそうか……」


 なんとなく分かっていたが、この墜落した物体は宇宙船だったらしい。

 たしかに、シエルみたいな精密なアンドロイドはこの星にはいないし、やはり異星人だったのか。


「この星で少ないですが、人類の反応を感知したので訪れたわけです」

「っ!?」


 今シエルは言った。

 ”少ない人類の反応”と、俺だけを示すなら”少ない”なんて言葉は使わない。名指しで”ナギの反応”と言うはずだ。


「やっぱりまだ人は残っているんだ……」


 終わりへと着実に進んでいる世界で、僅かでも旅をすることの希望が生まれたことが嬉しかった。

 どこかで人に巡り会えるかも知れないしな、


「そしてシエルは俺の近くに偶々来たわけだな……あれ? じゃあなんでわざわざ落ちてきたんだ?」


 普通に着陸して降りてくれば良いものを、なぜ記憶まで失うような落ち方をしたのか。

 それを聞くと、シエルはジト目で語る。


「この船には探索用小型船があるのですが」

「おう」

「それの入り口だと思って扉を開けたら」

「おう」

「緊急脱出の排出口だったようで」

「……お、おう」

「そのまま宇宙船から追い出されてしまい、偶然ナギのところに落ちてしまいました」

「お前は馬鹿か?」

「カッチーーン」


 普通間違えるか? コンピュータが進化した種族って言ってなかった?

 そんなポンコツな機械があるわけ――――あっ……シエルって元からポンコツじゃん。


「なら仕方ないか」

「なに一人で勝手に解決しているのですか。屈辱です。ナギに馬鹿だと思われました。ナギに」


 おいなんでそこで俺の名前を強調する。もしかして俺のこと馬鹿だって言ってる?


「さて、それでは本題に戻りましょう」


 おい話題を変えるな、と反論をしようとしたがシエルはそのまま続ける。


「ナギとの旅をしてこの星の調査も終わりました。報告する為にも私は自分の星に帰ります」

「え、あ、そ、そうだよな。そうか帰るのか……」


 シエルから告げられた言葉を聞き、分かっていたことだが、少し戸惑ってしまった。

 そうだ、ここで俺の気持ちを言うのは違う。決めるのはシエルだし、


 シエルを待っている星の仲間たちもいるのだから。


「なにか言いたそうですねナギ」

「ようやく静かな一人旅になるから気楽になって良い、とな」

「……ふーん。そうですか」

「なんだよシエル」


 別に、とそっぽを向くシエル。

 お互いにその後の言葉が出ず、黙っていると宇宙船のエンジン音が内部に響き渡る。


「……そろそろ私は行きますね」

「え……も、もういくのかよ」

「私がいない方が気楽なのでは?」


 う……それは言葉のあやというか……。

 恥ずかしさのせい……いや、自分の心の弱さのせいでシエルに本当の気持ちを言えずにいると、シエルが静かに口を開く。


「私は……ナギと旅をするのが、大好きでしたよ」

「ッ!! 俺も!! シエルさえ良ければずっと――――」


 一緒にいたい、そう告げようとした時、船内にけたたましい音が鳴り響いた。

 何事か辺りを見渡す俺たちの目前にモニターが映し出され、


「何者かがこちらに近づいているみたいです」

「何者かって、人か?」

「いえ、人にしては早過ぎます。二足歩行の生き物が出せる速度ではありません」

「違うのか」


 俺が通っていた狭い通路を物凄い早さで何かが船に向かっていた。

 やがて、その迫っていた者の正体が判明する。


「二匹の獣型のレゾナントがこちらに来ているみたいです」

「あ……」


 なるほど、俺は素早く理解した。

 俺を追ってきたレゾナントは人型、写真には一人の男性と、二匹の犬が写っていた。


 しゃがんで道にいた人型レゾナントと共に、写真のように二匹の獣型のレゾナントがいたならば――――


「シエル」

「はい、なんでしょうか。ナギ」

「俺が囮になるから、お前は早く出発しろ!」


 そうシエルに告げて俺は船内を駆け出し、入ってきた扉から出て、通路の前に立つ。

 シエルは船の中でいない。だからこそ俺は自分の気持ちを高らかに声を上げる。


「シエルと旅ができて最高に楽しかった!! 短い期間でもお前と共に過ごせた日々は俺にとっての最高の宝物だ!!」


 宇宙船のエンジン音が大きくなり、ゆっくり機体が宙に浮き始める。

 別れの時が迫り、もうここで終わりなのだと、改めてちゃんと理解した。


 だから告げる。


 もしまた会うことができたなら、




「一緒にこの星だけじゃなくて!! 色々な場所を旅しよう!!!」




 宇宙船が高く上がり、大きな音を鳴らし空へと去ってゆく。


「さよなら……シエル……大好きだぞ」


 既に見えなくなった船……いや、シエルに届かない言葉を溢し、通路を睨みつけ現実に向き合う。


「悪かったな起こしちまって」


 いつの間にやら通路を抜け、この大広間に着いていた二頭のレゾナントは涎を垂らし、鋭利な牙を剥き出しにして唸り声を上げていた。


「「グルルル……」」

「さっきのレゾナントの叫びで駆けつけたみたいだけど、ごめんな。もうアイツはいないんだ」

 

 伝わりはしない、もとより相手はレゾナントだ。意思疎通が取れているのかも怪しい。

 けれど、この旅で知ったんだ。


 コイツらを起こしたのは俺たちで、大人しく寄り添っていたコイツらに伝わらないとしても謝らないといけない。


「それが同じ星で暮らす者としての礼儀だ」


 襲いかかってくるレゾナントも見たが、とうもろこし畑で平和に暮らすレゾナントと出会うことができた。

 この旅で色々なことを知れたんだ。シエルのおかげで、


「アイツはもうこの星から離れたかな……」


 獣型のレゾナントが俺目掛けて飛びかかる時、見えなくなった宇宙船が去っていった空を眺め、もう既に寂しさに心が満ちている。


 思えばこうして、初めて会った日も空から落ちてくるアイツを見つけたな。

 初めは、1人でやっていた放送も、いつの間にか、あいつがいることが当たり前になっていたようだ。


 荷物の中で、定期放送を知らせることが鳴り響いた。












 

「今回は落下せずに済みました」




 突然聞こえた声と共に、レゾナントが光に包まれ消滅する。

 え……、なにが起こったのか分からず呆けていると、


「見てくださいナギ。飛行ユニットがあったので宇宙船から持ってきてしまいました」

「シエル……?」

「はい、シエルちゃんです」


 背中から機械仕掛けの翼を生やし、シエルが俺の元へとゆっくり降りてくる。

 別れたと思っていた相方と再会し、嬉しさがこみ上げてくるが、涙を我慢し問いかける。


「宇宙船はどうしたんだ? 自分の星に帰るんだろう?」

「そのことなのですが、宇宙船にこの星のデータを残して自動運転で帰らせたので大丈夫です」


 なんで戻ってきたんだ? そう聞き返そうとした時、シエルは俺に抱きつき告げた。


「私はもっとナギと旅がしたいです」

「っ!?」

「ついて行っては駄目ですか」


 相変わらず無表情だが、首をかしげながら聞いてくるシエルは、おそらく自分の可愛さを理解しているのだろう。

 なんて愛くるしいやつだ。


「いいや。俺もシエルとずっと旅をしていたい」

「初めて気が合いますね」

「だな。……なあシエル」

「なんですかナギ」

「その翼似合ってるな、まるで天使みたいだ」

「では今日より、ラブリー”エンジェル”シエルちゃんにパワーアップしましょう」

「なんだそれ」


 お互いに抱きしめ合い笑みを溢す。

 もう一度会えた喜びと、僅かにでも別れた悲しさ、そしてこれから始まる二人の終わりのない旅への期待感で溢れている。


「ナギ」

「なんだ?」

「定期放送を始めましょう」







 ここは過去に多くの人が暮らしていた世界。

 今ではごく僅かに残った人間が生き、旅をする。そんな終わりに向かった世界。

 善にも悪にも染まるレゾナントという未知の存在と共存する中で、二人は今日も旅をする。




「じゃあシエル、放送を始めようか」

「待ってくださいナギ。一つ提案があります」

「なんだ?」

「その放送の名前を考えました。名称がある方が何かと便利だと判断します」


 それもそうか、とナギは納得し、シエルが答えた。


「この滅びを待つ世界で、私たちの終わりのない旅の記録を残す放送――――”終末放送局”にしましょう」


 シエルの案にナギが了承し、いよいよ定期放送が始まる……いや、終末放送の最初の放送を――




《――これより終末放送局の第一回放送を始めます》



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