第11話 颯爽登場! その名は――シエルちゃん
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「なんだあれ」
シエルとのたわいのない雑談を繰り返し、暗い洞窟を歩き続けて、しばらく経った頃のことだった。
《どうしたのですかナギ》
「いや、なにかいる感じがする」
暗闇に慣れた目に薄らと確認できる謎の物体。慣れたとはいえ、さすがに明確に正体を認識できるほどの明度ではない。
俺の足取りは自然と止まった。
「なにかいる」
《……人ですか》
「分からない。けれど、警戒するに越したことないだろ?」
それは確かに、とシエルの声が放送機器から流れる。
恐怖からでは無く、単純な警戒心から起こる回避行動。なってからではなく、なる前に危険を避ける行為だ。
変に思ったらまず逃げろ、爺ちゃんが言っていたしな。
「避けて通るか……近くに行けば正体も分かるし、進まない選択肢はないしな」
《もちろんです。ここで立ち止まっていたら合流することもできません》
「え、シエルは今俺の方に向かってるのか?」
《私をなんだと思っているのですか。とっくにおおよその位置を特定済みです》
マジか、まさかそこまで有能だったとは、というかそれなら早くここへ来てくれれば良いものを……。
《ナギが大量の雪で圧死しても良いなら最短距離で迎えに行きますよ。いかがですか》
「安全な方でお願いします」
シエルが合流するために動いているなら、俺がここで止まるわけにはいかないな。
「じゃあ……行くぞ」
決意を新たに、生唾を飲み込み一歩、また一歩と足を進める。
徐々に近づく気配に緊張感が走り、謎の存在との距離が二メートルくらいになった時、その正体に気付く。
「レゾナント?」
なにがいるのかと、慎重に進んでいた場所にはこの旅で見慣れた存在”レゾナント”が暗闇の世界にいた。
「なんだ……レゾナントか……」
認識した瞬間、安堵で静かに深呼吸をしてゆっくり空気を口から漏らす。
レゾナントは壁の方を向き、小さくしゃがみ丸くなっている。
なぜこんなところにレゾナントが? そう考えた時だった。
《ナギどうだったんですか。なにがいたのか教えてください》
「おま! 馬鹿!」
レゾナントの超至近距離にいる状態で、鳴り響くシエルの通信。
ただでさえ静かな空間、そして存在を気付かせないために黙っていたのに、いきなり音がしたら――
「っ!?」
俺の予想は正しかった。
通信の直後に大人しかったレゾナントはゆっくり身体を起こし、背の高い黒いモヤのような者の実態が顕になる。
「アァ……ァ……」
レゾナントが声を発した瞬間、そいつの手からなにか紙のような物が落ちた。拾い上げてみるとそこには”二匹の犬を抱き締める笑顔の男性”の写真。
そして、幸せそうな写真の裏には――――
「やべぇ!!!!」
俺は全力で走った。
今までの雑談をしながらの徒歩ではなく、本気の全力疾走である。
重たい装備、動きづらい暖かな格好、さまざまな要素はあるが、どこで体力が切れるか分からないけれど、走れるだけ走り始めた。
《どうしたんですかナギ、なにがありましたか》
「どうしたもクソもない! さっき暗闇にいたレゾナントが落とした写真があったんだ!!」
その写真の裏に書かれた”助けて”の血文字。
《――それは》
「そしてあのレゾナントの足元には!!」
――――人間と犬らしき骨と”ナイフ”が落ちていた。
「あのレゾナントは絶対に友好的じゃないと!! 確信を持って言える!!」
そして、
「アァアアァアァ――――ッ!!!!!」
断末魔にも近い絶叫が洞窟内に響き、あまりの爆音で鼓膜が揺れて頭痛が起こる。
それでも足を止めてはならない。止めたら、
「死ぬ!!」
なにかが迫ってくる気配と、叫びを聞きながら、俺は死ぬ物狂いで足を動かす。
背後で何かが破壊される音が聞こえる。おそらく洞窟内の壁やらなにやらを破壊しながら追いかけているのだろう。
恐る恐る走りながら後ろに目を向けてみると、
「ガァァァァ――――ッ!!!」
四つん這いで、まるで虫のように手足を使って――
「うわぁぁぁ!! キモいぃーー!!」
背が高くて、手足が長いやつが虫のように動いていたら、別の意味でも怖く感じる。
主に鳥肌と嫌悪感が現れるが、そんなことよりも今は足を動かさないと!
カサカサカサカサ――――
「いやぁぁーーーー!!?」
キモいキモいキモいキモい!
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虫のように手足を動かして迫ってくるレゾナントから逃げることしばらく、細い通路を抜けてとんでもなく大きな広場へとたどり着いた。
そこは、ライトなどの光源がないはずなのに、暗闇で慣れた目が眩むほどに明るい場所で。
「さむ!!?」
通路を抜けた喜びよりも先に、極寒過ぎる環境に突然やって来た結果、一瞬で身体が震えだす。
そんなとんでもない場所なのだが、さらに驚くことが一つ。
「こんなところにあったのか! シエルが乗ってたやつ!!」
なんとそこには広場の壁に突き刺さるように、シエルが乗っていた飛行体が墜落していた。
これが墜落したのが原因で、壁が破られ外の冷気が入ってきてしまったようだ。
だが、気になること多過ぎるけれど、自分を襲ってくる恐怖から逃げることの方が、俺からしたら最優先事項だった。
「ギガァァァァ――――ッ!!!」
カサカサカサカサ――――
「あぁーーーー!! クソッ! いつまで会って来るんだよーー!!」
我ながら頑張った方だ。
かなりの時間全力で走り続け、もう体力も残ってない。シエルの目的地に来たというのに、悔しさのあまり涙が込み上げてくる。
あーーもう!!
「シエルーーーー!!! 助けてくれぇーーーー!!」
「全く、ナギはシエルちゃんがいないと駄目なんですから。えぇ、駄目駄目です。全く可愛いですねナギは」
破られた壁から飛び出して来た相棒は、いつもの無表情で告げ、
「シエルーーーーー!!!!!」
「離れていてくださいナギ。敵を殲滅します”高圧縮レーザー砲”――――発射」
シエルの放ったレーザーがレゾナントを貫いた。




