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侯爵家令嬢は花(恋)より団子(剣)に夢中  作者: 浦賀やまみち
第三章 騎士志望

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第27話 お祖父様と孫の逆襲




「しかぁ~~し! これで騎士になれると思ったら、大間違いだ!」

「えっ!?」



 お祖父様に駆け寄ろうとした足は、三歩も踏まないうちに止まった。

 頭の中が真っ白になったのか、それとも言葉が届かないのか。お祖父様の言っていることが、さっぱり分からない。



「まだだ! お前はまだ、私を満足させるだけのものを見せていない!」

「えっ!?」



 茫然としながらも理解しようと、思わず視線をお祖父様の隣に向けた。

 すると、長くお祖父様に仕えている顔見知りの副官さんは、視線を逸らすどころか、顔を背けていた。


 それでいて、バツが悪そうに横顔で私の様子をしきりに窺っている。


 この瞬間、すべてを理解した。

 これはまさしく、ジャンケンで負けた者が往生際の悪さで言い出す『最初から三回勝負のつもりだった』理論だ。


 実を言うと、女性騎士と戦う前から、心の片隅で引っかかっていた疑問があった。

 ウォースパイト侯爵家の屋敷の広さに負けず劣らず、お祖父様のグンダー侯爵家の屋敷もまた広大だ。

 軍人家系のため、裏庭には鍛錬場が設けられ、馬上訓練ができる馬場まで備わっている。個人の所有としては、あまりにも立派すぎる設備である。


 腕試しをするなら、そこで十分に事足りる。

 わざわざ馬車に乗り、この闘技場まで来る必要はなかった。


 もちろん、対戦相手となる女性騎士には足を運んでもらわなければならないが、それを許せるだけの地位と権威をお祖父様は持っている。


 ところが、お祖父様はこの闘技場を腕試しの場に選んだ。

 私たちが訪れる前まで汗を流していた十数人の騎士たちから、鍛錬の場を奪ってまで。


 だから、休憩を兼ねて一般観覧席に移った彼らは、腕試しの立会人なのだろうと私は思っていた。

 それに、お祖父様の屋敷の裏庭で行うより公共の場で行った方が公平性は高い。


 私の騎士科入学がコネによるものだと後ろ指をさされないようにする。お祖父様なりの工夫であり、優しさだと、私は考えていた。



「だが、今日はお前も疲れているだろう!

 だから、明日にしよう! 明日、別の者と改めて戦って貰う!」

「えっ!?」

「しかし、しかぁ~~し! 

 今はお前の勝利が素直に嬉しい! お前の祖父として、本当に誇らしい! 今夜はご馳走だ!」



 だが、違った。

 この場に来てみて、ようやくそれが分かった。


 一般観覧席に移った騎士たちは、ただの観客に過ぎない。

 真の立会人は、この部屋そのものであり、貴賓席の中心に座る、皇帝陛下の豪華な椅子なのだ。


 そうでなければ、普段は覆われているはずの赤い厚手の布が、椅子から取り外されている理由がない。


 腐っても鯛、破れても小袖、沈丁花は枯れても芳し。水戸黄門の印籠のように。

 ただの椅子であっても、本人が座っていなくても、その権威は揺るがない。


 わざわざ到達するのも一苦労なこの部屋を観覧の場に選んだのも、今となっては納得できる。


 つまり、お祖父様は、私が勝つとは最初から考えていなかった。

 皇帝陛下の前で敗れたなら、騎士になるのは諦めろと諭すつもりだったはずだ。


 どう考えても、あまりにも酷く、悔しすぎる。

 今年の春から西の戦地へ出兵しており、一ヶ月ほど前に帝都へ帰ってきたため、私の実力を直接把握する暇がなかったとはいえ、私は今日までにお祖父様の元を三度も訪れている。


 ヒルダの助言に従い、冒険者としての活動は隠していたが、体力が大幅に向上したことや剣の鍛錬を始めたことは伝えていた。

 それなのに、お祖父様はそれを話半分以下にしか聞いていなかったのだ。


 さらに付け加えるなら、この茶番はお祖父様の発案ではない。

 副官さんが考案し、助言したものに違いない。それは態度からも察せられる。


 第一に、お祖父様は『猛牛』の二つ名を持ち、『罠があるなら噛み破れば良い』を座右の銘とする猛将タイプの指揮官だ。

 こんな茶番らしさは、どう考えてもお祖父様らしくない。


「お祖父様?」

「うむ、何が食べたい? 何でもご馳走するぞ!

 もちろん、デザートはメアリスの大好物のモンブランだ! 特盛でな!」

「嘘つき……。」

「うっ!? ……ち、違うっ!?」



 独り言のように小さな声でボソリと呟けば、効果は覿面だった。

 お祖父様は、茶番に最初からやましさを感じていたのだろう。身体がビクッと震える。


 しかし、お祖父様は歴戦のツワモノ。どれだけ大声で怒鳴ったところで無駄だ。

 こうなったら、怒鳴るよりもはるかに効果的な、お祖父様限定の必殺技、私『メアリス』がお祖父様を困らせる時に使っていた奥の手を放つしかない。


「嫌い、嫌い! お祖父様なんて、大っ嫌い! イーーッだ!」



 目をギュッと瞑り、口の両端を人差し指で引っ張りながら歯を剥き出す威嚇。



「メ、メアリぃぃ~~~スっ!?」



 だが、その幼い仕草にやはり照れを隠せず、顔を真っ赤に染めてしまう。

 慌てて猛ダッシュで踵を返し、隠すように走り去った。




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